ツイてない…今日は朝からとことんツイてない…。
こんなにもツイてないのは、今から三年ほど前にあった、買ったばかりの最新スマホを通りすがりのカラスに奪われ、唐突に道路工事現場のど真ん中に落とされた挙句、作業員のおじさんたちによってグッチャグチャにされて、トドメに何台もの大型トラックに踏み潰されて原型すらも無くなったしまった時か…。
あの時は本気で絶望したけど、何故かすぐに会長が新しいスマホを買ってくれたんだよね…全額公安負担で。
「はぁ…なんで私ばかりがこんな目に……ん?」
トボトボと雄英高校の校門前まで来たら、なんかすんごい人だかりが出来てるんだけど…。
あの感じ、まさかあいつらは…。
「ん? そこにいるのは…騎呂か?」
「相澤先生?」
どうやら、あの連中を教師陣で抑えようとしているみたい。
実力行使が出来ないからか、かなりイライラしているみたいだけど。
「お…お前…その恰好…どうした…?」
「どうしたも何もないですよ…」
あぁ…やっと今の私について聞いてくれる人がいた…。
道行く人たちは全員、遠目で見ているだけだったからな…。
積極的にヒーローしてなくて良かったって思う瞬間の一つだね。
「まずは…ここに来る途中、朝っぱらからどこぞのアホな
「それに巻き込まれたのか?」
「はい。敵自体は無事に制圧されたんですけど、そいつが最後の悪あがきに暴れた結果、近くにあった消火栓を破壊して、そこから凄い勢いで水がブシャーって私の方に…」
「だから、全身がびしょ濡れになってるのか…」
「しかも、敵が暴れた衝撃のせいなのか、いきなり上からペンキが私に落ちてきて…」
「さ…災難だったな…」
「全くですよ…。でも、スマホや財布と言った貴重品には被害は無くて、下着も辛うじて無事なのが不幸中の幸いでした…」
無駄に騒がしいアホ丸だしなマスコミ連中は、どいつもこいつもが馬鹿の一つ覚えみたいに『オールマイトを出せ』の一点張り。
他にもやることは一杯あるだろうに…何を考えてんのやら。
「ところでこれ…完全にオールマイト目的のマスコミですよね?」
「そうだ。ったく…今日は非番だって何度も言ってんのに誰も聞きやしない…」
「それがマスコミですから。まともに相手しない方が良いですよ」
「俺もそれが一番だと思ってる。だが、そう簡単にいかないのが教師なんでな」
「ご愁傷さまです…」
「お互いにな」
「ハハハ…」
私は肉体的に、相澤さんは精神的に不幸ってか。
なんなんだ今日は…厄日か?
「まだ早朝で生徒達も碌に登校してきてないだろう時間帯にご苦労なこって…」
「同感だ。ここは俺が何とかするから、お前は急いで教員用の通用口から中に入れ。そして、シャワーでも借りてサッパリして来い。まだ始業時間には時間あるだろ」
「そうさせて貰います。でも、着替え…」
「そこは適当な誰かに相談してくれ。流石に俺じゃどうにもならん」
「ですよね…」
仕方がない…同性の先生とかに相談してみますか…。
また変なフラグが立った気がするけど…。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「「可愛い!!」」
「ソーデスカ」
どうやら、まだ私の不幸は続いているみたいだ…。
校舎の中に入って、そのまま真っ直ぐに職員室に行ってみると、そこにはミッドナイトさんと13号さんがいた。
同性の職員がいたのは今の私にとって、これ以上無い程の僥倖。
そう思ってすぐさま相談をした。
主に着替えの事を。
すると、二人は『自分たちが用意しておくから、気にせずシャワーを浴びてきて』と言ってくれたので、遠慮なく職員用のシャワー室を借りてサッパリすることに。
ペンキは水性だったので、なんとか落とすことが出来た。
油性だったらマジでヤバかったな…。
で、借りたバスタオルで頭と体を拭いている最中に、置いてある籠の中にあった着替えを確認してみたら…。
「まさか、雄英の制服を着た騎呂ちゃんが、こんなにも可愛かっただなんて! なんで私、騎呂ちゃんが在学している時に先生やってなかったのかしら…」
「知りませんよ…」
と言うわけです。
まさか、用意されてた着替えってのが雄英高校の女子制服だったとは…!
完全にしてやられた…。
でも、今の私にはこれを着ないと言う選択肢は無いわけで…。
半ば強制的に制服姿にされた直後、こうして職員室に強制連行されたのです。
私が一体何をした…?
「サイズがぴったりで本当に良かったですよ。あ、騎呂さんのスーツはちゃんと洗濯機で洗って、乾燥機で乾かすまでしますから大丈夫ですよ。帰る頃までには、何とかなってると思います」
「ありがとうございます、13号先生」
なんて真面目なことを言ってる風だけど、その手にはちゃんとカメラを起動したスマホが握られてるんですよねぇ…。
13号さん…一体何を撮影してるんですか?
「全ク…今日ハ朝カラ、ドコモカシコモ騒ガシイナ…ン?」
「「「あ」」」
こ…このタイミングでエクトプラズム先生が職員室に入って来た…!?
いや…マイク先生よりはマシか…。
「ど…どうも…おはようございます…エクトプラズム先生…」
「オ前…ソノ恰好ハ一体…?」
「色々とあったんですよ…色々と…」
「ソ…ソウカ…オ前モ苦労シテルンダナ…」
「ハハハ…」
遂には同情されてしまった…。
なんかもう…すっごい惨め…。
「ニ…似合ッテイルト…思ウゾ? ソノ恰好ナラバ、生徒達ノ中ニ混ザッテモ違和感ガ無イダロウナ…」
「それだけは本当に勘弁してください」
もしそんなことをされたら、私は本気で泣く自信がある。
これ言うの二回目だけどさ…敢えて言わせて貰う。
私…何かした…?
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
結局、私は懐かしの雄英制服姿のまま事務仕事をすることに。
タイトスカートじゃないから、下半身にすっごい違和感が…。
高校時代、よくもまぁこんなスカートをずっと履き続けてたなぁ…。
出来るだけ生徒達に遭遇しないように注意しながら行動し、そのままお昼時間に。
今日は色々とあって何も持ってきてないので、食事をする為には絶対に部屋の外に出る必要があるわけで。
そして、今の私は制服姿。
こうなったらもうヤケクソだー…ってことで、もういっその事、この格好のままで大食堂まで行ってみることに。
(い…意外とバレないもんですね…)
そりゃそっか。
これだけ沢山の生徒がいれば、見慣れない生徒の一人や二人いても気が付かないか。
因みに、私が雄英の制服に着替えていることは既に全ての先生たちに知られてしまった。
マイク先生は大爆笑してたし、相澤さんはなんとも絶妙な表情をしながら肩に手を置いてた。
ここでもしオールマイトが非番じゃなかったら、確実にもっと変なことになってただろうなぁ…。
あの人が非番で本当に良かった…。
「ども」
「お。やっぱり来たね、騎呂ちゃん。一瞬だけ分からなかったよ」
「どう反応していいのか分からないので勘弁してください…」
ランチラッシュさんにまで言われたら、私マジでどうしたらいいんですか…。
気にせずに今日のお昼を注文。
本日のランチはきつねうどん。
体が冷えてしまったせいか、なんか暖かい食べ物が恋しい。
「はい、お待ちどうさま。そして、今日もご苦労様」
「ありがとうございます。それと、ご苦労様なのはお互い様ですよ」
さて…お昼は受け取った。
問題はどこで食べるかだが…。
(あ…空いてる席を発見)
偶然なのか、周囲には誰もいない。
よし、誰かに取られる前に急いで座ろう。
(ふぅ…なんとか無事に席に座れた…)
それでは、手を手を合わせて、全ての食材に感謝を込めて…。
「いただきます」
はぁ…美味しい~…。
体だけじゃなくて、心まで温まっていくみたいだ…。
まるで本当に学生時代に戻ったみたい…。
「あ…あの!」
「はい?」
急に話しかけられた?
一体どこの誰が?
「ここ…座ってもいいですか?」
「え? あ…どうぞ。お好きに」
「ありがとうございます! デクくん! 飯田君! いいって!」
「「ありがとうございます!」」
なんか反射的に返事してしまった。
この初々しい感じ…一年生かな?
ま…いいや。
この子達がどこの誰で、何年生でどこのクラスなのかなんてのは私には全く関係ない話だし。
こんな格好をしていても、私はあくまでただの事務員。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
「いざ委員長をやるとなると…」
「大丈夫さ。君のここぞという時の胆力や判断力は…」
「でも、飯田君も委員長を…」
なんか隣では委員長の話をしてるみたい。
懐かしいなぁ…私は何にもしてなかったけど。
強いて挙げれば、目立たない努力をしてたぐらいか。
上にも下にも行き過ぎない。
ちょうど中間ぐらいを常にキープし続ける。
なのに、なんでか公安委員会に目を付けられたんだよなぁ…なんで?
はぁ…お揚げが美味い…。
「あの…ちょっといいですか?」
「ふぇ?」
また話しかけられた?
さっきのフワフワしてるっぽい女の子から。
「もしかして…ですけど、2年生か3年生の先輩だったりしますか?」
「…どうして、そう思ったんですか?」
「いや…凄く堂々としてて、食堂を使い慣れてる感じがしたから…あはは…」
そりゃ…ここに三年間ずっと通ってましたし、6年振りに来ても簡単には癖は抜けないと言いますか…。
「まぁ…確かに先輩ではありますね」
「やっぱり! ちっちゃくて可愛いけど、どこか大人びた雰囲気が出てたような気がしてたんです!」
「そ…そうですか…」
ち…ちっちゃくて可愛い…。
その後の『大人びた雰囲気』は普通に嬉しかったけど、これに対して私はどう反応すれば…。
喜んでいいの? それとも悲しむべき?
「なんと! 先輩だったとは! そんな所に堂々と相席をしてしまうとは…」
「別に私は気にしてませんよ。なので、そちらも特に気にしなくても大丈夫です」
この眼鏡君は、見た目通りに気真面目一直線な子みたいだ。
でも、この顔…誰かに似ているような…。
さっき確か『飯田』って呼ばれてたよね…。
ん? 飯田? それって、まさか…。
「あの…もしかして、貴方は…」
どうしても気になったので、少しだけこの眼鏡君に話を聞いてみようとした…その時だった。
「「「え?」」」
「あら」
食堂内…いや、学校全体にいきなり警報が鳴り響いた。
続くんじゃよ。