なんか流れで校長先生と一緒に、オールマイトのいる仮眠室に行くことに。
なんで私がこんな目に…あぁ…また仕事が遅れる…。
今日も残業確定かな…後で校長に校舎に泊まっていいか確認しないと。
「私が…行く!!」
どこへ?
仮眠室の扉を開けた瞬間、なんかオールマイトが血を吐きながら意味不明なことを言ってた。
「待ちなよ!」
「ども」
「OH! 校長先生に…鋼野くんまで!? どうして校長と一緒に!?」
「それは、ついさっきまで校長室で話をしていたからさ!」
「ま…そう言うことです」
本当はもっと色々と話してたんだけど、その辺の事を言い出すと面倒くさいので省略することに。
その辺は校長も分かってくれてたようで、まるで私の意図を汲むかのように流してくれた。
「本日も大変、整った毛並でいらっしゃる!」
「この毛並の秘訣はズバリ、ケラチンさ! 人間にこの色つやは出せやしないのさ! ね、鋼野くん!」
「なんで、そこで私に振るんですか…」
校長の毛並とか知らないし。
と言うか、それはストレートヘアーと言う言葉とは無縁の、癖っ毛全開のボサボサロングヘア―な私に対する当てつけですか?
「私の毛並の話は後にして…まずはこれ!!」
「ムム!! それは!!」
なんか、どこからか校長がタブレットを取り出して記事を見せつけている。
えー…なになに?
『オールマイト、僅か一時間で三件の事件を解決!!』…?
これって…まさか…?
「君と言う『抑止力』が来たと言うにも拘らず、未だにこの近辺で犯罪を犯す連中も大概ではあるが、犯罪や事件と聞けば即座に反射的に体が動いてしまう君も君さ! 本当に、昔から何にも変わってないよね」
昔からこうだったんかい。
って言うか、校長はオールマイトの昔を知ってるんだ。
この人(?)は、いつから雄英で校長をやってるんだろう…。
深くツッコむのは野暮ってもんかな。
「オールマイト…私、朝会った時に言いましたよね? 『遅刻しないように気を付けて』って。それを悪い意味で有言実行って…」
「うぐぐ…それに関しては本当に申し訳ない! 鋼野君の善意を無下にしてしまった!」
「まぁ…これが『寝坊して遅刻した』とかなら、私もオールマイトが泣くまで説教をするつもりでしたけど…」
「泣くまで!?」
「今回のは完全に人助けした結果の遅刻しょう? それじゃあ、私も強くは言えませんよ。今の私は単なる雇われ事務員。期間限定の同僚としては『次からは気を付けてくださいね』としか言えません」
「は…鋼野くん…! 君の優しさが逆に胸に刺さる!! この詫びはいつの日か必ずすると約束しよう!!」
「はいはい。期待せずに待ってますよー」
私みたいな事務員兼無名のヒーローにそんなことを言うもんじゃないですって。
幾ら何でも重すぎますから。色んな意味で。
「うーん…意外だったな。鋼野君の事だから、もっとこう…オールマイトが土下座して謝るぐらいには彼を追い詰めると思っていたんだけど」
「校長先生の中の私は一体どんな鬼畜女なんですか」
流石の私も、ちゃんと反省している相手にそこまで酷いことはしませんから。
もし仮にするとすれば、それは全く反省せずに同じ過ちを繰り返す馬鹿ぐらいですよ。
「私からは以上なので、後は校長先生にみっちりと絞られてください」
「うぅ…今回の一件は完全に私の落ち度によるもの…校長からのお説教も甘んじて受けよう…!」
そこまで覚悟する程ですか。
どんだけ怖がってるんですか。天下のナンバー1ヒーローが。
「そもそも、これは怪我の後遺症によるヒーロー活動の限界。それに伴うであろうワン・フォー・オールの後継者の捜索と育成。『平和の象徴』と言う存在に深く固執する君が、両社ともに社会に悟られぬままでいられるのは
「あー…そう言えば、こっちに派遣されてくる直前にしましたね。そんなの。オールマイトの名前は伏せられてたので詳しくは知りませんでしたけど」
あの仕事がオールマイトに関連するものだと知ったのは、この人が雄英に赴任してきた時だった。
会長から電話越しに教えて貰った時は、思わずベッドの上から転げ落ちてしまった。
「は…鋼野君も私が雄英に来るのを手伝ってくれていたのか!?」
「そんな大袈裟なもんじゃないですよ。私がやったのはオールマイト赴任に関する各種書類の作成と提出。後は関係各所への説明…それぐらいの微々たるもんですよ」
「なんと言うことだ…! 今日のこと以外にも鋼野君に多大な借りがあったとは…増々不覚の至り!! 重ね重ね申し訳ない!!」
「いや…もういいですから…」
このままだと、本当に目の前で土下座とかしかねない。
流石にそれだけはマジで勘弁願います。
「だから、もう少しぐらい腰を落ち着かせてもいいんじゃあないかな? 頼りになるヒーローは沢山いるし、これからも沢山生まれてくる。君一人が全てを守る必要はどこにもないんだよ? 実際、君の目の前にもいるだろう? 陰ながら支えてくれていた頼れるヒーローが」
「そ…それは…そうですが…」
「現に、今日の授業はもう少しぐらいしか出られそうにないんだろう? 実際に薦めたのはこっちではあるけどさ、君の方も引き受けてくれた以上は教職優先で動いて欲しいと思うのさ。校長と言う立場としてはね。実際、鋼野君だって公安の仕事と並行して雄英に勤めて、ちゃんとこちらの期待以上の仕事をしてくれているんだよ?」
「そ…そうだったのか…! 流石は鋼野君…なんて偉い子なんだ…!」
私は普通に自分に課せられてる仕事を淡々とこなしているだけのつもりなんですけどね。
少なくとも、そこまで褒め称えられるようなことは微塵もしてないつもりなんだけどなぁ…。
「この街にだってヒーロー事務所は何十件と存在しているわけだし、もう少し彼らを信じてあげてもいいんじゃないかな?」
「ま…全く以て仰る通りです…。だからこそ…その…今からUSJに向かう準備をしようとしていた訳でして…」
確かに、今のオールマイトはちゃんと仕事用のスーツを着てはいるけど、いつの間にか細くなってる上に体を縮こませて体育座りしているから、完全に借りてきた猫みたいな状態になっている。
その上でネズミな校長が説経をしているのだから…何とも言えない。
「どうせ、今から行ってもすぐに戻る羽目になってしまうんだろう? それならばいっそのこと、ここで私の教育論でも聞いて今後の糧にでもするといいよ」
「は…はぁ…」
あ…校長がお茶を淹れ始めた。
これは長くなりそうな予感…。
と言うかですね、なんか私も一緒に話を聞く流れになってます?
もうそろそろ本当に戻って仕事をしたいんだけど…。
「まず、ヒーローと教師と言う関係と脆弱性について…」
「先生…本当にお変わりありませんね…」
「それには激しく共感しますよ…オールマイト」
はい…残業確定。
後で購買部に行って夜食を買ってこよーっと。
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
「…と言うわけで、つまりは…」
あれからどれぐらいの時間が経っただろう。
よくもまぁ、これだけの話題の引き出しがあるもんですよ。
流石は校長先生と言うべきか。
「…………」
んで、さっきからオールマイトは完全に黙ったまま視線をどこかに向けながらソワソワしている…と。
「どうしたんですか? どこか具合でも…」
「いや、そうじゃあないんだ。少し気になることがあってね…」
「「気になること?」」
あ、校長の話が中断された。
「実は、鋼野君と校長先生が来る少し前に、USJにいるであろう相澤君や13号君に何度も電話連絡を試みたのだが、一度も繋がらなくてね…」
「ん? 繋がらない? 出ない…じゃなくて?」
「あぁ。そうなんだ。何度掛けても『お掛けになった番号は』的なアナウンスが流れるばかりさ。もし向こうが忙しくて出られないのならば、普通は留守番電話になる筈だろう?」
「「確かに…」」
別にここらで電波障害が発生したなんて報告は来てないしな…。
実際、私の携帯は普通にアンテナが立っている。
「校長。そちらの携帯はどうですか?」
「私のも問題はないよ。言われてみれば確かに奇妙だ。『出ない』のではなく『繋がらない』…か。しかし、もし学園内に何かあれば、この間みたいに警報が鳴る筈なんだが…」
「ですよね…」
普通に考えれば、単純に相澤さん達の携帯の調子が悪かったってなるだろう。
でも…なんだろう。妙に何かが引っかかるような…。
「あ……」
「どうしたんだい? 鋼野くん」
「前に一回…似たようなことがあったのを思い出して」
「そうなのかい?」
「はい。確か、あの時はそう…電気を操る個性の
「思い出したのさ。突如として発生した謎の大規模電波障害事件。確かに、あの時も範囲内の電話などの通信機器の類は一切使用不能になって、その外に出れば普通に使えていたのさ…」
似てる…あの時と。
単なる偶然? それとも…まさか…?
「あの時の犯人はちゃんと捕まって刑務所に入っていた…筈だけど」
「なんだい?」
「人的被害は皆無だったことから刑が軽くなって、余り懲役が長くなかったんですよ。確か…」
私の携帯には公安の関係者しか知ってはいけないような様々なデータが大量に入っている。
勿論、情報漏洩を防ぐ為の防壁はバッチリ装備。
ペンタゴンに匹敵するレベルのファイアーウォールを完備している。
「やっぱり…! さっき言った事件の犯人…去年、普通に出所してる…」
「なんだって!? では…まさか…!?」
でも、そいつが関わっているとは断定できない。
確かに強力な個性ではあるが、本人は完全な小悪党だった。
たった一人で雄英に喧嘩を売るほどの根性があるとは思えない。
「まさか…これって、この間のマスゴミ共襲来事件とも繋がってる…?」
「どういうことだい?」
「あくまで私の想像ですけど…どこぞの敵組織が、何らかの個性で雄英バリアーを破壊、それに乗じて敷地内に乗り込んできたマスゴミ共によって発生した混乱を利用する形で密かに雄英内に侵入、対応に追われてガラ空きになった職員室に忍び込んでから今回の授業の情報を盗んで、それで…」
「実際に今日、襲撃をしてきたと…?」
「自分でも突拍子の無い事を言ってると自覚してますけどね。でも、そう考えると色々と納得は出来るんですよ。さっき言った犯人の個性は、単独では大したことは無いけど、集団のサポートをすると言う意味では非常に強力ですから」
問題は、そんなことをする動機の部分だな。
今のこのご時世、ヒーローを恨んでいる連中はそれこそ山のようにいる。
そんな連中が徒党を組んで襲撃を仕掛けてきた?
どうして? 何のために? どうやって?
あ~…分からないことが多すぎる…!
「校長! 今すぐに私をUSJに向かわせてください!!」
「そうだね。鋼野君の今の推理…決して無視出来ないのさ」
「いや…今のは私の単なる想像と言うか、妄想にも近い推理でして…」
「君の推理ならば!」
「十分に信頼出来る根拠になるのさ!」
「なんなんですか。その私に対する無駄に大きな信頼感は」
別に私、雄英に来てから大した事とかしてませんよね?
ずっとパソコンの前に座って仕事をしてるだけの女ですよ?
「オールマイト。今すぐに君はUSJに向かって欲しいのさ。ただし、一つだけ条件がある」
「条件とは!?」
「そこにいる鋼野君を…騎乗ヒーロー『ライダー』を連れていくことさ」
「え? なんで私?」
いやいやいや…流石にそれは勘弁なんですけど。
敵がいるかもしれない場所に生身で飛び込んで行けと?
校長は私に死ねと仰るつもりで?
「大丈夫。流石の私も、君を生身では行かせるつもりはないのさ」
「その言い方…まさか…」
「その『まさか』さ。実は、こんなこともあろうと思ってね。公安の方に許可を貰って密かに雄英にあるサポート科専用格納庫の方に『タロス』を搬入してあるのさ!」
「マ…マジですか…」
それを言われたら、私は何も反論出来なくなっちゃうじゃないですかぁ…。
はぁ…ったく…やってくれますよ…本当に…。
「校長。その『タロス』とは一体…?」
「鋼野くんの頼れる半身にして、最強の
頼れる…ねぇ…。
まぁ…頼りにはなりますよ? 頼りには…。
「私は今すぐに他の動ける教師たちを集め、その後にUSJに向かうのさ! それまで頼んだよ! 二人とも!」
「はい! お任せください!!」
「はぁ…分かりましたよ。やりますよ。でもその代わり、ちゃんと今回のは別枠として計算してくださいね。後、今日は確実に残業になると思うので、校舎での寝泊まりの許可をください」
「それぐらいはお安い御用なのさ!」
許可は取れた…っと。
んじゃまずは…私は今すぐにサポート科専用格納庫に行きますか。
なんで、こんなことになっちゃうのかなぁ…。
雄英に来てから、碌なことが起きてないような気がする…。