男の娘だよ! あきつ丸!   作:店頭価格

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深夜のテンション!(某空耳風に)( ゚∀゚)o彡゜

他の作品から影響受けまくりだよ! 艦娘たちの口調が解からないよ!



1・あきつ丸、着任であります

 東京都心に建築された、とある陸軍の駐屯地。

 四方を高いフェンスに囲まれた敷地内には重厚な建築物が立ち並び、数々と戦車や装甲車、戦闘機などの様々な兵器が鎮座してその役目が始まる事を待ち続けている。

 一昔前までは、想像すらしなかったほどの厳戒態勢。それが今の現実だった。

 深海棲艦――その生物と兵器を混ぜ合わせたかのような存在たちは突如として全世界の海へと出没し、瞬く間に周囲を侵略してその支配圏を広げていったのだ。

 膨大な数と、頑強な肉体――そして近代兵器を模した強力な攻撃手段。

 出現した海域は望遠からのあらゆる索敵を阻む黒い霧のような現象が発生し、長距離ミサイルなどの手段は無力と化した。

 戦術兵器の使用もあったそうだが、それすらも焼け石に水。人類は多大な被害を生みながら早々に海から追い出される結果となった。

 そんな絶望の最中にあっても、人々の生活は変わらない。

 建物の中を歩くのは、灰色の制服を着たかなりの細身ながらに弱さを感じさせない凛とした正しい姿勢の青年。彫りも薄く、ややもすれば女性と見間違えそうな中世的な面持ちだ。

 「談話室」と書かれたプラカートが刺さる扉の前で立ち止まった青年は、軽くノックをして中に居る者から入室の是非を問う。

 

「どうぞー」

「失礼します!」

 

 気楽で間延びした返事を聞き、お腹から声を出した青年が談話室へと入った。

 

「●●三等陸尉であります! ご命令により、出頭致しました!」

「ん。まぁ、そっちに座って楽にしてよ」

「はっ」

 

 敬礼する青年へと、アクリル製の長机を挟んだソファーの一方に座り対面を指差すのは、同じく制服姿をした少々痩せ気味の感を受ける中年だった。

 後退を始めた頭髪をオールバックにしたこの男は、一ヶ月ほど前に急な人事異動によって青年の上司となった者だ。その両目と態度には、やる気も覇気も見当たらない。

 しかし、騙されてはいけない。彼はその筋(・・・)ではそれなりに有名な、「切れない剃刀」の異名を持つ男なのだから。

 

「さて。ようやく準備も整ったから、君を私の直属に異動させた理由を話そう――極秘任務だよ」

「極秘任務、ですか」

「これ、資料ね」

 

 中腰で脇に置いた茶封筒に入ったA4紙十枚程度を手渡し、男は再び弾力のあるソファーへと戻る。

 

宿毛湾(すくもわん)泊地――」

 

 資料に書かれているのは、海から生まれる脅威に対応する組織として新設された独立部隊、通称「鎮守府」の一つについての簡略的な内部情報だ。

 はっきり言ってしまって、海軍と陸軍の仲は悪い。しかも、深海棲艦に唯一対抗出来る戦力がこの組織に一極集中しているとなれば、その亀裂に修復の余地はない。

 

「自分に、鎮守府への間諜を行えと?」

 

 青年には、潜入工作員としての経験があった。内容は、国外におけるとある政府組織からの情報収集。

 その経験と技量を買われ、こういった任務を任されるのであれば合点がいく。

 陸軍とて、手柄は喉から手が出るほど欲しいのだ。多少強引な手段であっても、その情報を欲するのは当然だった。

 

「うーん……スパイはスパイなんだけどさぁ、調べて欲しいのは「海」じゃなくて「陸」の連中なんだよねぇ」

「は?」

 

 しかし、続く男からの曖昧な物言いに首を捻り、次の言葉を待ちながら資料を斜め読みしていた青年の目にあり得ない一文が飛び込んで来る。

 

「……っ。艦娘(・・)として、着任?」

「うん、そゆこと」

 

 艦娘――深海棲艦と同じく突如として出現した、人間側の鬼札。

 日本では、旧日本軍が建造、所有していた軍艦の名を名乗りながら現れた彼女達は、艤装と呼ばれる兵器を身にまとい海の怪物たちと互角の戦いを繰り広げる事が出来る。

 

「……正気ですか?」

 

 青年の問いも無理はない。艦「娘」と名付けられているように、彼女たちは全員が女性なのだ。

 しかも、年若く美しい者ばかり。この青年の顔は確かに中性的だが、流石に性別を反転させる事は出来ない。

 

海側(むこう)にあって陸側(うち)にないものって、なんだと思う?」

「艦娘ですね。より正確には、彼女たちにしか扱う事の出来ない艤装です」

「うん、その通り」

 

 研究により艤装を単体で開発する事が可能となった今でも、その装備を十全に使いこなし深海棲艦への致命の一撃と出来るのは艦娘しか居ない。

 他の者が装備しても、通常の戦艦やその他の船舶に乗せても、艤装はただの兵器に成り下がってしまう。

 

「船の艤装は、「艦」である彼女たちしか使えない。浮かべる水辺のない「陸」には、割と絶望的な注文だよ。陸海合同の研究所なんてのも作られたけど――まぁ、現状が全てを物語ってるよねぇ」

 

 この駐屯地も、そんな合同の庁舎であるはずだ。内陸ではあるが、たまに新装備の演習などで何人かの艦娘たちが訪れたりもする。

 確かに陸軍に身を置く者としては、そんな彼女たちになんの加勢もしてやれず肩身が狭いのは確かだ。

 

鎮守府(あちら)さんね、定期的に艦娘の艤装を解除する「解体」をしているらしいのよ」

「話には聞き及んでいます。その理由も」

「私も一応聞いたけど、おじさんにはちんぷんかんぷんだったよ。私やその上の世代じゃあ、ちょっと全部を受け入れるのは難しいだろうねぇ」

 

 正にお手上げと言わんばかりに、両手を上へと上げる上司。青年の方も、僅かに同情的な視線で頷いている。

 出自がオカルト染みている者たちは、その存在の説明もまたオカルト混じりだ。

 研究者が話すには、深海棲艦と艦娘たちは表裏一体の間柄にあるらしい。負に傾けば人を襲う悪魔に――畏れをまとった鬼となり、正に傾けば邪気を調伏する神と――人に使役される式神になるというのだ。

 どちらも根源は、この世界にたゆたう「海」そのもの。

 どちらかに傾き過ぎれば、影と光のバランスが崩れる。徐々に反抗を可能とし始めた今、そのバランスを大きく崩す事は戦局を崩す事と同義。

 故に、艦娘たちの艤装を解体、浄化する事でその正の「気」を海へと帰し、一定の安定を保とうというのだ。

 しかし、いきなりこんな説明をされても現代社会では一笑とされてしまうのが当然だろう。例えそれが、確かな研究と実験の果てで手に入れた事実であったとしてもだ。

 世間一般には一切報道されず、未だに情報が秘匿されているのもその為である。

 ただでさえ、無限の如く沸き続ける敵に戦力がまるで足りていないというのに、折角作った「兵器」を他所に渡すでもなく解体してしまう「鎮守府」のやり方に、不満や疑念を抱く者も少なくはない。

 特に陸軍の上役たちからは、信憑性の薄さから組織の私物化を糾弾する声が後を断たない状態だ。

 理解し難い説明を繰り返す「海」と、頭から信じようとしない「陸」。溝は深まるばかりだった。

 

「そういう柔軟性のある思考も、君に「適性」がある理由になるのかなぁ?」

「適性――ま、まさか……開発に成功したのですかっ?」

「その通り」

 

 緊張した面持ちで尋ねる青年へと、男は頬の片方だけを持ち上げてニヒルに笑って見せる。

 男性である少尉を艦()と偽って潜入させるのだから、それが可能となる方法は一つしかない。それは即ち、男性専用、または男女兼用で使用の出来る艤装が完成したという事。

 

「ただ、かなりのじゃじゃ馬らしくてね。適性は、一万人に一人とかそれぐらいの確率らしいの」

 

 現在、艤装の装備出来る艦娘を生み出す手段は主に三つ。

 一つは、鋼材や弾薬などの資材を消費し各鎮守府に隣設された工廠施設によって作る「建造」。

 敵である深海棲艦、もしくはそれらの潜む「海域」そのものを調伏し陰陽を逆転させる事で新たな艦娘を発生させる「ドロップ」。

 ――そして、志願制による徴兵で集まった少女たちに適性検査を行い、前二つの手段で手に入れた中で適合する艦娘の記憶(データ)を一部移植する事で艤装の装着を可能とする「募兵」。

 どの方法にも利点と欠点があり、少尉がこれから行うのは三番目の手段となる。しかも、本来前例を必要とする手段でまったく新しい艦を生み出そうというのだ。

 博打どころか自棄も良いところなのだが、少尉にとっては不幸な事に生憎準備は整ってしまっている。

 

「――定期健診……っ」

「うんうん。君、凄いね。話半分だと思ってたけど、話以上だわ」

 

 少尉の頬が引きつる。昨日行われた基地内全隊員が対象の健康診断で、新たに加えられた項目が幾つかあった事を思い出したからだ。

 あれらで確認されたのは、隊員たちの健康などではなく新たに開発された恐らく試験運用段階にある艤装の適性があるか否か。

 彼が選ばれたのは、適性のあった女性隊員よりも今回の任務に適しているから。

 潜入工作という特殊な任務の経験を持ち、艤装への適性を示しそれを装備出来る人材――ついでに言えば、例え男性であっても女装時に違和感のない中性的な顔立ち。

 全ての条件を全てクリア出来る少尉に、もう逃げ場はなかった。

 

「で、ですが、何故わざわざ艦娘として派遣などという博打を?」

 

 機械工や憲兵など、「鎮守府」にも男性職員の需要は十分にある。むしろ、そちらの役職で潜入した方が違和感はないはずだ。

 

「理由はねぇ、君の任務はそっちの方が都合が良いからなのよ」

 

 必死に任務内容の変更を訴える少尉に対し、男は右手の人差し指で宙を引っ掻くような動作を取り資料の先を読むよう促す。

 

「さっきも言ったけどさ、各々の鎮守府には必ず解体の任務が発生してるの。強制じゃあないらしいけど、艦娘の所有数に厳格な上限が決められてる関係で任務じゃなくても一定の解体は避けられないわけだ」

 

 心にも思ってはいないのだろう。「酷い話だよねぇ」などと言いながら、男はヘラヘラと適当な笑みを浮かべている。

 先程も説明した通り、重要なのはバランスだ。ただ集め、ただ強くするばかりでは駄目なのだ。

 薄氷の上を綱渡りし続けるには、常に氷を補充し続けなければならない。理解を得られなくとも、そうしなければ人類が滅ぶから。

 

「特に「建造」か「ドロップ」で生まれた娘たちがね、自分たちの将来ってやつに困るらしいんだよ。消えずに陸で暮らしてみたい、だけど、海で生きる以外の将来が思い浮かべられないっていう感じかなぁ。いやはや、羨ましいくらいの青春だよねぇ」

 

 解体によって艤装を失い、海に帰る事を望んだ艦娘たちは解体と同時にその肉体を消滅させるらしい。

 そして、消滅を望まない者たちはそのまま存在を保ち人間とほぼ変わらない肉体となって、人の社会に溶け込むのだそうだ。

 

「でさ、そういう娘たちはとりあえず常識とか教える為にお勉強の施設に送られるわけだけども――やっぱり若いからかなぁ、決められたレールの上を走るのを嫌がる娘も居るわけさ」

 

 ここで、ようやく男が何を語ろうとしているのかを察した青年が、座ったままで両の拳を力一杯握り締めて震え始める。

 同じ人間として、反吐が出ると感じるほど悪辣に満ちた諸行。「鎮守府」の功績を妬み、勝手に追い込まれた気になっている者たちが選んだ最低の手段。

 

「……解体任務を装った、艦娘たちの拉致誘拐っ」

「やってる連中は、あくまで「任意協力」とか言い張るんだろうけどねぇ。もしくは、開き直って「鹵獲」かなぁ?」

 

 当然ながら、本人が望まない限り志願兵である「募兵」によって改造された少女たちは解体の対象外だ。「建造」か「ドロップ」で生まれた艦娘を解体すれば、二者択一でその身体は消滅する。

 つまり、それによって発生する還元資材さえ別口から補充してしまえば書類上の辻褄は合わせられるという事だ。

 スカウトと手引き役は、恐らく少尉の提案した機械工や憲兵として潜入している「陸」の間諜たち。

 

「まぁ、お持ち帰りされた娘たちがその後どうなるかは、君のその逞しい想像力に任せるとしてだ――」

 

 そこで一旦言葉を切り、男は背もたれに身体を預け腹の辺りで指を組んだ。そして、笑っているような、苦しんでいるような、左右非対称の表情で部下へと願う。

 

「君の任務はね、不甲斐無い我々に代わり矢面に立ってくれてるあの娘たちを守り、こっちの調べで判明してる内通犯(悪い虫)たちを見掛けた場合速やかに丸めた新聞紙を振り下ろす事なんだよ」

 

 どうか、愚かな自分たちの都合で不幸を押し付けられる彼女たちを助けてやってくれ、と。

 当然、任務の都合上艦娘たちとは出来るだけ多く触れ合う機会がなければならない。彼女たちの変化をいち早く察し、対応が後手に回らないよう関係を深める必要があるからだ。

 青年が向かう場所は戦場だ。戦友となるだろう多くの娘たちを欺きながら、一人孤独に行わねばならない贖罪としての薄暗い戦場。

 

「――特務、了解しました」

「お願いね」

 

 姿勢を正し、敬礼する青年へ男は表情を崩してヘラリと笑う。「切れない剃刀」の刃は、陸軍の膿たる者たちの首筋に掛けられた。

 

「あぁ――言い忘れてたけど、君が男だってバレたら多分銃殺刑(シッポ切り)だから」

「……はい」

 

 何度も語るが、海軍と陸軍の仲は悪い。

 もしも少尉の変装が発覚した場合、事の発端が陸軍側にあるという不利な材料を晒さない為に彼の口は確実に封じられる事となるだろう。

 

「女の子ばかりのハーレム生活なんだ。まぁ、楽しんで来なよ」

 

 どう考えても地獄の一丁目への出張なのだが、自分が潜入するわけではない上司は気楽なものだ。

 某年某月某日。晴れ。

 こうして、陸軍による初の艤装装備成功例――艦()の成功例となった彼は、海原を仰ぐ鎮守府へと着任を果たすのだった。

 

 

 

 

 

 

 宿毛湾泊地、司令室。

 

「遠路はるばるようこそ、我が宿毛湾泊地へ。司令官の藤村だ」

 

 執務机に両肘を置く鎮守府の司令官は、その仰々しい物言いが非常に似合う鋭い刃のような若い男だった。

 服の上からでも解かる引き絞られた肉体と、短めの頭髪に常に睨み付けるような三白眼。

 素面でこの威圧感なのだ。本気で怒れば、さぞや恐ろしい姿を見せてくれる事だろう。

 しかし、そんな視線だけで人を殺しそうな提督の恐ろしさは、ある一つの事実によって雲散霧消と化していた。

 

「くー、すぴー……」

 

 寝ているのだ。

 提督の膝の上に。

 少女が。

 可愛らしい、恐らく十歳程度だろう兎耳のリボンを着けた髪の長い美少女が。

 頭に砲塔のようなものを二本付けた、なんだか良く解からない金属の人形を抱いて。

 

「その、失礼ですが――「ソレ」は一体なんでありますか?」

 

 変声機と記憶(データ)の移植により、声質はおろか口調まで変わってしまった艦娘が司令官に問う。

 

「気にするな、何時もの事だ」

「クスクスッ――島風ちゃんは、提督の事が大好きなの。本当に何時もの事だから、気にしないで」

「はぁ……」

 

 秘書艦として紹介された扶桑と名乗る艦娘が、柔和な笑みを浮かべて提督の膝で眠る島風を見ている。

 どうやら、彼が――彼女(・・)が思い浮かべていた戦場よりは、随分と勝手が違うらしい。

 

「貴艦には、まずは艦娘としての錬度を高めて貰う。初の陸軍艦について、こちらも運用方法を手探りで行う事になるだろう。すまない」

「いえ……それはこちらも、ある程度は承知しているであります」

 

 適当な返事を返しながら、想像と現実のギャップに戸惑う元少尉。会話の内容は、ほとんど右から左の状態だ。

 しかし、初日からボロを出せばなんの為にあんな頭を掻き回される苦しみを味わったのか解らない。

 豊胸手術を全力で拒んだ嫌がらせなのか無駄に大きいパッドを付け、命の危険が増加するのを受け入れてでも最後の砦は是が非でも守りきった「男」が、陸軍の制服を着込み一隻の艦としてやけくそ気味な気合を込めて吠える。

 

「自分、あきつ丸であります! 艦隊にお世話になります!」

 

 敬礼は、腕を伸ばした陸軍式。これから長らく使う事のなくなるだろうその仕草にて、彼はこの鎮守府へと送り込まれた任務へと着手する事を誓う。

 鎮守府に――提督へと尻尾を振る艦娘()として。

 陸軍に――同胞へと牙を剥く兵隊()として。

 泣いて、笑って、戦って――

 陸軍特殊船丙型船。あきつ丸による激闘と苦難の日々は、ここから始まった――

 

 

 

 

 

 

「いいかお前らっ。遠征は、下っ端の任務なんかじゃねぇっ」

 

 遠征出発用に整備された防波堤で、海面を背に左目に眼帯を付けた少女が声を張り上げる。

 彼女の名は天龍。多くの鎮守府から遠征にその艦ありと謳われている、低燃費軽巡洋艦娘だ。

 

「前線で身体張ってる一航戦や戦艦の大食いどもは、オレたちが持って帰る物資がなけりゃあなんにも出来ねぇっ。この鎮守府の叩き出す戦果は、全部最初のオレたちに掛かってんだっ。オメェら、行くぞーっ!」

 

 拳を振り上げる旗艦からの鼓舞に、その僚艦となった者たちもそれぞれが反応を返す。

 

「はーい」

 

 にっこりと笑顔で、その片手を上げる吹雪。

 

「いえーいっ」

 

 元気に応え、付き合い良く腕を上げる漣。

 

「おーっ、なのですっ」

 

 何故か目を瞑り、力一杯両腕を上げる電。

 

「ふぁーい……」

 

 夜更かしでもしたのか、気だるそうな欠伸混じりで手すら上げない望月。

 

「ふんっ」

 

 鼻を鳴らしながら、それでもちゃっかり腕を上げる菊月。

 

「――おうおう、皆元気じゃなぁ」

 

 そんな遠征組の出立を、総合施設の三階にある娯楽室の窓から笑顔で眺ているのは、利根型重巡洋艦の一番艦、利根だ。

 現在は、二回に及ぶ改装を受け航空巡洋艦という新しい艦種としてその実力を発揮している。

 

「うむむぅ……であります」

 

 利根の座っている座布団の敷かれた指定椅子の前には、将棋板を挟んだ反対側に黒い軍服姿へと変わったあきつ丸がその盤面を見ながら長考に入っていた。

 

「第一線から身を引いて、遠征に従事しながらも提督に見捨てられたと長らく腐っておったが――お主、どういう手品を使ったんじゃ?」

「先程、天龍殿が言っていた事をそのまま言ったでありますよ――ここっ」

「はっはっはっ! まさか、丸々そのまんまか!? 酷い名言の盗作もあったものじゃのぅっ!」

「うーむ。真面目な話を後から言い触らされるのは、恥ずかしいので止めて欲しいのでありますが……」

 

 膝を叩いて大笑いする利根を見て、居心地悪そうにして顔を逸らすあきつ丸。

 艦娘として、また陸軍の内通者としてこの鎮守府で過ごすあきつ丸だったが、改装を受けるほど錬度を高める頃にはこうして他の娘たちの中でも違和感なく馴染む事が出来るようになっていた。

 

「くくっ、愛い奴よ――ほれっ」

「ぐぬぅっ、であります」

「はっはっ。盤上で、銀と龍が泣いておるぞ?」

「あぁもう、見てられんわっ。交代して、仇とったるからっ」

「りゅ、龍驤殿……」

 

 こてんぱんにやられるあきつ丸を見かね、二人より少し背の低いツインテールの少女が勝負に割り込んで来た。

 軽空母、龍驤。小柄でスレンダーな体型ながら気風の良さそうな雰囲気をまとうこの少女もまた、深海棲艦たちと命を懸けて戦う艦娘の一人だ。

 

「どうか、どうか、利根殿をぎゃふんと言わせて欲しいのでありますっ」

「任せんかいっ」

「龍驤か――良かろう。いつぞやの借り、返させて貰おうかっ」

「アホ抜かせ。今回も、ウチの勝ちやっ」

 

 あきつ丸と椅子を交代し、二人して駒を並べ直しながら好戦的な笑みを浮かべて火花を散らし合う。

 

「あきつ丸さん、そろそろ艤装とお身体の点検が始まる時間では?」

「――ギャーッ、またババ引いたぁっ!? この娘、表情変わらな過ぎなのよっ!」

「陽炎姉さん、どんまーい。巻雲は、そんな姉さんを応援してるぅ」

 

 自分の姉妹艦たちとトランプ遊戯に興じながら、駆逐艦である陽炎型の二番艦、不知火が壁に掛けられた丸い時計へと一度視線を向けて観戦を始めたあきつ丸に問う。

 

「おっと、ついつい熱中し過ぎて忘れていたであります。助かったであります、不知火殿」

「いえ」

「なんじゃ、つまらん。これからお主の代わりに、この小娘をボコボコにしてやろうというのに」

「良かったじゃない。これで負けても、やる気が削がれたって言い訳が出来るで」

「ふん、抜かせ」

 

 安い挑発の応酬を背後で聞きながら、あきつ丸は娯楽室を抜けて工廠のある別棟へと歩いて行く。背筋を伸ばし、顎を引き、昔となんら変わらぬ歩き方で。

 先程まで会話を行っていた中では、あきつ丸と龍驤、そして巻雲が「募兵」により肉体を艦娘へと改造した者たちだ。

 「建造」にしろ「ドロップ」にしろ、人間とは異なる物質や現象から発生しているにも関わらず、艦娘たちは人間と変わらぬ――むしろそれ以上に思えるほど活き活きとした生活を送っていた。

 人間の闇から生まれたと言っても過言ではないあきつ丸にとっては、皆が皆少々眩しいくらいの明るさだ。

 

「あきつ丸ちゃん、おつかれさまー」

「お疲れ様であります、愛宕殿」

「これから整備? 大変ね」

「大丈夫であります、高雄殿。お二人も、出撃お疲れ様であります」

 

 時折すれ違う者たちに挨拶していく中で、あきつ丸は互いに会釈しながら一人の整備兵とすれ違う。

 

「――今晩、黒です」

 

 すれ違いざまに、独り言のようにポツリとそれだけ。男はそのまま、正面を向いてすたすたと歩きあきつ丸の横を通り過ぎて行く。

 あきつ丸から、その兵士に問い返す事はしない。疑問に思う事も、首を傾げる事もない。

 「海」に所属する「陸」の船が繰り返して来た、単なるルーチンワークの一つなのだから。

 こちらも無言で歩くあきつ丸の左手には、先程まではなかったはずの折り畳まれた黒い封筒が握りこまれていた。

 

 

 

 

 

 

 草木も眠る丑三つ時。

 あきつ丸は、防波堤の方向から艦娘たちの宿舎へと移動を始めていた。来た道の先にあるのは、主に一般職員たちのものとしてあてがわれた宿舎だ。

 静かに、素早く、跡を残さず。

 残りの片付けは、別の者が担当する。こういう仕事は、役割分担をした方が何かと都合が良い。

 自分の寝床である空母を中心とした第三艦娘寮に向けて歩く途中、あきつ丸は建物の壁に背を預ける寝巻き姿の少女の存在に気付いた。

 月と星の光を掻き消す哨戒灯の明りが、ぐるぐると断続的に二人を照らす。

 

「これは龍驤殿。鎮守府内とはいえ、こんな夜分遅くに年頃の少女が一人歩きをするのは感心しないでありますな」

「のし付けてそっくり返すわ、こんボケ。ウチはただ、花を摘みに起きて外に出て行くアンタを見掛けたから確認しに来ただけや」

 

 あきつ丸は、その事に気付いていた。その上でこの少女の追跡を撒き、戻って来た場所でこうして対峙しているのだから。

 

「「陸」スパイらしき行動は見せず、されども不穏な動きはあり――アンタ、一体なんなの?」

「さて、出来れば味方でありたいとは思っているのでありますが。これが中々……」

 

 二人とも、その手には格納庫から持ち出した艤装である召喚用の装備を握っていた。展開によっては、ここで一戦になり得るとどちらもが判断したからだ。

 「募兵」で集った艦娘たちは、総じて他二つで生まれた者たちよりも「汚れている」。それは、他人を疑うという当たり前の行為をより鋭敏に研ぎ澄ます。

 

「それを、信じろっちゅうわけか」

「信じる必要はないであります。ただ、疑うのであればそれなりの証拠を揃えて頂かなければ自分は罪を認められないでありますから」

 

 言外に認めておきながら、あきつ丸は白々しく肩をすくめて見せる。

 敵も多いが、味方もまた多いのだ。どこからでも切れる蜥蜴の尻尾は、この船へとその糾弾の刃を届かせる事を許さない。

 

「――」

「――」

 

 視線だけを合わせた無言の時間は、十秒程度といったところか。

 先に折れたのは、盛大に溜息を吐いて背を向けた龍驤だった。

 

「はぁっ……まぁえぇわ。今日の所は、これで勘弁してあげる」

「感謝するであります、龍驤殿」

「やめて。いずれは「敵」になるかもしれない相手から、お礼なんて聞きたくない」

「口調、戻っているでありますよ」

「っ!」

 

 艦娘の<ruby style="background-color: rgba(0, 0, 0, 0) !important;"><rb style="background-color: rgba(0, 0, 0, 0) !important;">記憶</rb><rp style="background-color: rgba(0, 0, 0, 0) !important;">(</rp><rt style="background-color: rgba(0, 0, 0, 0) !important;">データ</rt><rp style="background-color: rgba(0, 0, 0, 0) !important;">)</rp></ruby>を一部移植されたとはいえ、大本の人格は本人のままだ。油断や動揺の際には、こうして簡単にボロを出してしまう。

 

「う、うるさいわっ。帰るでっ」

「ぷっ……はい。お供するであります」

 

 真っ赤になって蟹股で歩き出す龍驤の後ろから、笑い声を噛み殺してあきつ丸が同伴する。

 明るく、楽しく、時に不穏な毎日――

 

「口止め料として、間宮さんのとこでストロングジャンボミックスパフェ奢ってよ」

「了解したであります。なんなら、お持ち帰りの最中も付けるでありますよ」

「やった、ゴチになりまーす」

「お腹の出っ張りには、注意でありますな」

「心配ないない。海のアホども相手に暴れ回るんが、ウチらの運動や」

 

 世界に蔓延する果てが見えないほどの戦争に挑む少女たちの後ろで、軍狼はただ静かにその役目を背負い続ける。

 こちらもまた、終わりなどありはしない薄暗い闘争の日々を繰り返しながら――

 世界は、光と影に分かれて回り続ける――

 




そして、何時も通り続かないよ!

なんていうか、マジごめん……orz
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