無能のさんぽ道   作:テムテムLvMAX

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おさんぽ〜(気さくな奇策)


1話 歩き始め

 西暦1999年、あり得ないと思われていたノストラダムスの大予言は的中した。

 

 世界を終わらせる恐怖の大王が来たわけではない。

 

 代わりに世界を祝福する〝神の福音〟が隕石として落ちてきた。

 

 旧世界は終わりを告げ、新たな世界が始まった。

 

 〝神の福音〟が人間に新たな力を与えた所から世界は大きく変わった。

 

 新しい力は、一番近しい概念である〝超能力〟と、そう名付けられた、非科学的だと誰もが言った。

 

 それから時を経て、西暦2050年代、超能力と科学は意外と仲良く暮らしていた。

 

 

 

 ◆     

 

 

 

 

 俺の名前は加地 克歩(かち かつほ)、フリーター、26、男性。

 

 俺は自他共に認める『世界から取り残された男』、今や世界全体が超能力主義を掲げ、強い能力、便利な能力、あらゆる時代にとって有意な能力を持て囃す、能力が優秀であればどんな人間も聖人君子と崇め奉られる、なんでも良いのだ、中身なぞ。

 そんな世界で取り残された男を名乗るのは、つまりそう言うことだ。

 

 超能力主義は俺にとって呪いだが、その恩恵は確かにある、文明が加速した、もっと先と思われた月への移住、火星のテラフォーミングがもう出来ている、超能力が科学を押し上げ、押し上げた科学が超能力を押し上げ……人類の発展速度は目に見えて速くなった。

 

 世界は今、超能力こそ未来を切り開くと信じている、だから、超能力が弱いやつ、下手くそなやつ、無駄なやつは要らない。

 

 まして、俺は〝唯一の無能力者〟何処にも居場所がない。

 

 1999年以降、人類に無能なしと言われている、赤ん坊は知らないが、子供から死にかけの老人まで超能力が使えるのに、俺は使えない。

 

 病院で何度も検査をした、あらゆる検査だ、もう体の隅から隅まで調べ尽くして、超能力の元、『超能力因子』はあるが、それが全く仕事をする気配がなく、今後も活動が起きることはないとさえ言われた。

 

 つまり一生無能。

 

 そんな話が10年前、今となっては別にもう、どうでも良いと思ってる、いややっぱ嘘でメタクソ気にしてる。

 だって無能だと仕事が限られる、今や電子化と人工知能によってセルフレジすら不要の現代、俺のような奴が生きていくのは大変だからな。

 

 その日その日を辛うじて生きていく、ホームレス一歩手前スレスレを行ったり来たりして、仕事を探して回る日々だ。

 こんな生活を高校卒業から続けている、無能無能と学校の奴に虐められて耐えられなくなった、子の責務として高卒まで気合いで乗り切った、だがその後も続くだろう関係をいっぺんに断ち切りたくて家出したからだ、誰にも知られないように。

 両親はもう何年も会ってない、探しているだろう、さっさと俺のことを忘れて優秀な弟に目一杯構ってやっていると、俺としては嬉しい、俺の唯一の可愛い弟だから、唯一俺を見て兄と呼んでくれるから。

 

 陰鬱な話ばかりだが、こんな俺にも趣味と呼ばるものが一つある。

 

 〝さんぽ〟だ。

 

 散歩と言うのは自由だ、歩いて行って、歩いて帰ってくる、それだけの行為。

 超能力のお陰で劇的に犯罪率が上昇して劇的に検挙率も上昇した現代で、何と不用心な事だろう、自分でもそう思うが今まで強盗一つ出会ったことがない、どうしてこんなことばかり運が良い、強盗に出会っても追い返せるのが理想だったのに。

 

 話を戻す。

 

 散歩はコースが大事だ、景色を楽しむことも、雰囲気を楽しむ事も大事だが、コースはもっと大事だ。

 毎日同じコースでは飽きてしまう、毎日違うコースは余計に疲れてしまう。

 金のない俺は唯一の趣味を最大限楽しむ工夫は、そんなちょっぴりの変化を付けること。

 

 しかしそれにも限度がある、住んでる場所が場所だけに行けない所もあるからだ。

 

 某県にある『鳴咲部(なきさけべ)市』、俺のいる市だ、ここは犯罪率が日本で一番高く、世界一治安が悪い、実に人口の四分の一が犯罪者と言われている。

 ここを選ぶ理由はひたすら物価が安いからだ、俺みたいなやつでも仕事が見つかる程度には。

 ここには見た目の良し悪しや人格だのどうのが出る幕はない、出来るかどうか、慣れれば意外に心地よい所だろう。

 

 治安が田舎の自動販売機のゴミ箱以下だが、そこへビジネスチャンスとばかりに飛び込んでくる『バウンティハンター』達もいる、だからこそまだ市の体裁を守っているんだろう。

 彼らバウンティハンターが存在する理由は、高すぎる犯罪率に政府が取った方策に『私人逮捕合法化』を設けたからだ、仕組みとしては警察と連携して犯罪者を捕まえた者を評価して褒賞を与える、となっている。

 更にバウンティハンターはその一部始終を配信することで、金銭を得ても良いとなっている、事ここに及び犯罪者個人のプライバシーは完全無視されている、犯罪者が減れば良いと言う横暴すぎる解決方法故に、冤罪だったらしれっと釈放されて終わりだ、社会的地位のウンタラカンタラはなにも保証されない。

 

 世も末だ、一度世紀末は訪れたが。

 

 こんな所で暮らしているとバウンティハンターの一人や二人拾うことがある、たまに治療して、野に返してやると恩返しが貰えたりするので、それを当てにして生活している節がある。

 

 俺の〝さんぽ〟は趣味と実益を兼ねる。

 

 市民を狙う犯罪者、犯罪者を狙うバウンティハンター、バウンティハンターを助ける俺、つまりそう言う生態系がここにはある。

 

 これが俺の生活、これが俺の世界。

 

 これが、無能な俺の一生だ。

 

 

 

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