歩く、止まる、景色を見る、歩く、止まる、自販機で飲み物を買う。
サイレンが何処からでも聞こえてくる、追うための声、追われる側の声、罵声や怒声や金切り声や、人生1回でも聞けばお腹いっぱいな音のデパート、この都市の特徴だな。
鳴咲部市に安全地帯はない、そう言われて久しく、確かにないのを実感する。
俺の住むボロアパートも1時間外出するだけで隣の部屋まで漁られてめちゃくちゃになっている、同時にバウンティハンターが証拠探しに現れてめちゃくちゃにしていく。
慣れればこんなもんだと思える、ここの生活は。
ここで生きていく心得があるとするならまず貴重品を持たない、それだけで狙われる、次に礼儀正しさを捨てる、そのへんのクズ野郎を気取っていれば犯罪者の仲間だと思われて手を出されない。
そもそも俺は出会ったことがないので実践したことはない、知り合いのホームレスの受け売りだ。
俺は運が良いんだろう、運が良すぎるのかもしれない、確率操作の能力なんてのは聞いたことがないが、探せばあるかも、俺はそもそも無能なので、やはり運だけか。
そんな俺のささやかな趣味である散歩へいざ行かん。
いつもの道、『旧国道』へと来ていた。
『旧国道』は都市整備計画の一環で高速道路に役目を取って代わられた道だ、住宅街を蛇行する変な道で、変な奴をよく見かける。
気分はバードウォッチング、奇抜な人間を見つけて遠くからニヤニヤしていれば気も紛れる。
薄暮時ともなれば犯罪者を恐れた変人がいなくなるが、それもまた静まり返った街の良さがある、と思うのだが。
今日は静かに散歩するつもりで、わざわざ薄暮時を狙ってきていた。
道なりに並ぶ同じデザインの家、その背景には団地、空き家は窓ガラスが割れ尽くし、家主がいる家は二重三重の施錠が当たり前、地雷トラップのある家もあるとか、物騒なのは市民側も同じだったか。
こんな所をぶーらぶーら、ふーらふーらとしていれば、パトロールのお巡りさんに出会うこともあったりする、しかしお巡りさんだって命が惜しいので、さっさと帰って行く。
『旧国道』で散歩する時はゴールを決めている、長い一本道だから辿っていくと戻れないから。
1、2時間程度を歩くとそのゴールが見えてくる、『鳴咲部市立病院跡』だ。
犯罪者が増えすぎたせいでこの病院がある種の犯罪幇助をしていると判定されて、建物を残して設備丸々新たな病院へと移された。
今では夜な夜なオバケが出るとか、マフィアの密輸取引の場所に使われているとか、噂が絶えない。
建物は立派な大病院、敷地も広く、病床数も多かったと聞く、今はその見る影もない、過去起きた抗争によって半壊しているためだ。
その前を通り過ぎると「ぅ……」などと聞き慣れた声がする、大方怪我でもしてここに逃げ込んだ犯罪者か、バウンティハンターだろう。
声を辿っていく病院の敷地へ足を踏み入れた、手には応急措置用の一式を持っている、運がよいので俺は犯罪者を治療したことがないが、それでも警戒心を持ちつつ、声の主を探す。
見つけるのは簡単だった、病院の門の裏に血だらけで倒れていたからだ。
真っ赤に染まる女だった、ハンドガンを握りしめ、今にも死にそうな顔で震えていた。
生きて返せば恩返しが期待できる、下心を隠さず近づくとその銃口が俺を捉えた。
「…………ぐぅ、だ、だれっ!」
「善意の協力者、君の応急措置をしようかとおもっている、ほらこのキットが証拠だ。バウンティハンターだろあんた、助けてやるよ」
「……ふ、私が……あぐ……っ!」
銃口を突きつけられて脅されるなんて何度も体験してきた、相手はここに追われてきている、警戒はご尤も、こうして応急措置キットを見せているが、この女性は中々銃口を俺から外さない、意外と元気だったのかな。
しばらく睨み合いが続くと、女性が痛みに顔を歪め銃口を下ろした、俺はそれと同時に女性へ近寄り、ガーゼ、水、包帯を取り出しておく。
「これで応急措置しよう、血を流せばそれだけ死が近くなる」
「う…………す、まな……い……」
「意識ははっきりしてるな、服を切って傷口を洗う、そして包帯でとめる、そしたら俺の家へ一旦連れて行くぞ、こんな所に救急車は来れないからな、あとセクハラの苦情もナシで頼む」
「そ、それで、いい…………たの……む……」
超能力者はしぶとい、鉛玉で死にきらない程度には。
彼女の服をハサミで切り取り、水を掛け洗い、清潔な布で拭き取り、ガーゼを当て、包帯を巻く、流血が酷いし腹に穴も空いている、今はこれくらいしかできない。
措置を終えたら背中に背負って俺の家へと帰る、バウンティハンター1名様ご案内、かなり軽い、これで犯罪者と戦うのは無茶な気がする。
帰る道で、意識を確かめるべく何度か声かけをしているとこんな事を言い出した。
「私は……ァ……う……恩は、わす……れな……い……」
「はは、いい心掛けだ」
「治ったら…………必ずくる……必ず…………」
そここら先は寝てしまって聞けなかった。
家に辿り着くて、この環境で最大限清潔にしたベッドに寝かせる、替えの服を着せて、近場の医療機関へ連絡、移動系超能力者がすぐに来てくれた。
何度も同じことをしているので、彼とは顔見知りになっていた。
「いつもどうやって拾ってくるんだ、バウンティハンターなんて」
「さてね、散歩してたら拾うもんだから仕方ない」
「この街でそれが出来るのはアンタくらいなもんだよ」
「じゃ、いつも通りに加地克歩の名前を彼女にお伝え下さい、お礼は何でも構いません、ともね」
「はいはい」
彼女を担いで空を蹴り、瞬く間に流れ星になって消えた。
空中散歩、羨ましい。