理論上、『聖剣』は錬金で作れる 作:POTROT
「ねぇ、お父さん。錬金釜買って」
それは、岩井ユウジが今年で13歳になる息子からされた、初めての『おねだり』で。
彼は、それに快く応えてしまった。
錬金釜の使い方は非常に簡単だ。
蓋を開けたら適当な材料を5つ投入し、蓋を閉めて、魔力を込める。
本当に、たったそれだけなのだ。
たったそれだけで、釜の中で新たな物質が形成される。
特別なことをするわけでは無い。
錬金釜自体は特殊性の塊のような代物だが、やる事自体は至極単純で、それゆえに子供でも何度だってできてしまう。
だから、子供に渡すと色々な事故が起きる。
故に普通は、子供に錬金釜を与えることはダメだとされていた。
気が付いたら、家の鍵とか印鑑が材料にされていた、だとか。
調子に乗った子供が魔力欠乏で倒れたりだとか。
そう言う事が、容易に起こりかねないからだ。
それでも、ユウジは息子に錬金釜を買い与えた。
息子からされた初めての『おねだり』だったから、というのもあるだろう。
だがそれ以上に、彼の根底にあった、息子に対するある種の諦観のようなものがその判断を後押しした。
彼の息子は神童だった。
夜泣きとかをすることも特に無く、ミルクとオムツ交換の時にはそれぞれ独特な泣き方をしたので、非常に分かり易かった。
他の赤子よりも圧倒的に早くハイハイで動き出したし、二本の脚で立った。
文字や言葉も、一瞬で覚えた。なぜなぜ期は一瞬で終わった。
特にわがままを言う事も駄々をこねることも無く、食べ物の好き嫌いも無く、シングルファザーたる自分を全く困らせることがないことが、逆にユウジを困らせた。
そんなユウジだったから、つい思ってしまったのだ。
俺の息子なら、この年でも大丈夫だろう、と。
その判断は、ある意味で正解だったし、不正解でもあった。
「……なぁ、お前、それ……何を、作った?」
「え? あー……鉄の剣?」
ある日。
買い物から帰った彼が目にしたのは、釜の中から刃渡り1m近くの鉄の剣を取り出している息子の姿だった。
■
『聖剣』を作ります。
誰が何と言おうと『聖剣』を作ります。
何ならそれ以上のものも全部作ります。
っていうか作らないと多分世界が滅びます。
いや割とマジで。
…………極めて面倒な話だが。
俺は現在、第二の生を歩んでいる真っ最中だった。
それも、俺が第一の生を生きた時と比べ、かなりファンタジーしてる世界を、だ。
元の世界では、俺はこの世界と酷似した世界の物語をゲームとして体験していた。
だからここがどんな世界であるかは、大体理解しているつもりだ。
勿論、この後に起こるであろうことも含めて。
その上で、多分だが、俺が行動しないと世界は滅ぶ。
なぜそう言えるかって?
在るべきものが無いからだ。
「クソ、何で折れてやがるんだ『聖剣』めェ……!」
少なくとも、ゲームのメインストーリーにおいて『聖剣』は、遥か古代に作成された、この世に一本しかない不朽の剣で、あらゆる魔を割くことが出来るとされていた。
『聖剣』の能力を用いることで、ようやくラスボスを倒すための活路を開くことが出来るのだ。
だがそれは逆に言えば、『聖剣』が無ければラスボスは倒せない、ということで。
それが折れているままで記念館なんかに飾られていていいわけが無いのである。
そして非常に残念なことに、新しい『聖剣』が作られているような痕跡も無い。
このままラスボスが出現しようものなら即詰みである。
流石に2度目の世界でまで悲惨な死に方をしたくない。
だから俺が新しい『聖剣』を作る必要があるんですね。
無理なことのように聞こえるだろう。
だが決して不可能ではない。俺はそう判断している。
この世界では『錬金』が実装されていて、俺は『聖剣』のレシピを覚えている。
であるなら、多分、作れる。
気の遠くなるような作業量が必要になるし、相応の戦闘力も必要になるが。
作れない事はない。
だから先ず、俺は錬金釜を用意してもらった。
勿論、今世における麗しのマイファザーに頼んだのだ。
流石に一つウン十万とかウン百万とかする代物を子供の財力では用意できん。
だが、用意さえして貰えばあとはこっちのモンだ。
錬金釜さえあれば、金なんていくらでも稼げる。
これはそういう代物だ。
今の世界だとゴミ処理用とか壊れた家電やアクセサリーやら何やらを突っ込んでリサイクルしたりとか、そういう事に使っているらしいが。
そんな便利アイテムみたいなもんではない。
これはこの世界の根幹にも関わる、トンデモチートアイテムなのだ。
正しく使えば世界を救うことだってできるし、悪用すれば世界も滅ぼせる。
人類の英知が生んでしまった、最高で最悪の道具。
それが錬金釜なのだ。
「行けるところまでは、一人でとことん行かせてもらおう」
ダンジョンへは、まだ潜らない。
先ずは公園で、実験を兼ねて鉄の剣を作るところからだ。