さて、大人二人に素材収集を頼んでいる中。
俺が何をしているのかと言えば───中学生である。
そこら辺に居るごく一般的な中学生として、公立の中学校に通っていた。
とはいえ前世では大学も出た身であるので、正直座学に関して学ぶことは皆無に等しい。
だが、それでも俺が中学校に通っているのは、この世界の『魔法』について理解を深めるためだった。
こちらの世界に生まれて13年余りで理解した事だが、ゲームの知識としての『魔法』と、実際にその世界に暮らす中で触れる『魔法』は随分異なっているらしく、学習が必要だと判断したのだ。
そんな『魔法』の学習がどうして中学校で出来るのかと言えば、それは政府の判断で中学校で『魔法』学習が必修化されているからである。
必修化した理由は、『魔法』が家電含め様々なものに組み込まれているという関係上、『魔法』に対する理解力が今後の生活で問われることになるので、『魔法』のアルゴリズムを学び、『魔法的思考力』を身に着けるための学習が必須である……と。
まぁ要するに、前世におけるプログラミング学習が『魔法』学習に置き換わっている感じだ。
で。実際、学んでみて分かったことだが、プログラミングと『魔法』はよく似ている。
特にアルゴリズムを組めばその通りに動く、という点でそっくりだ。
まぁ流石に中学校の段階では基礎も基礎みたいなところしかできず、やる事と言えば滅茶苦茶初歩的な魔法的記号を紙に書いて魔力を通し、ちょっと物が動かす程度であるが、色々とやりようはあるので面白かったりする。
うまく使えばマジで色々なことが出来そうなので、本格的に学びたいところだ。
……と、そんなことを考える俺が、精神年齢の一致しないクラスメイトの輪から逸脱し、暇さえあれば『魔法』に関する書籍を教室や図書室で読み漁るのはある意味当然の帰結であった。
それゆえに俺こと岩井リツトは中学校において、ぼっちとしての地位をすぐに確立した……と、いうわけでも無く。
実に意外なことに、そんな俺にも友人と呼べる人間が二人ほどこの学校に居た。
「岩井クン。昨日の課題のプリント、写さしてもらっていいスか?」
「んあぁ、いいぞ」
一人は
何故か知らないが同級生なのに後輩的な口調で喋る彼は、中学生とは思えないマッシブな肉体を誇る。冒険者の両親を持ち、彼自身も冒険者を目指しているらしく、俺も似たような境遇で同じく冒険者を目指しているという事を伝えたら、割と一瞬で仲良くなったのだ。
何なら俺達が中学校を卒業したら一緒に冒険者になろうぜ、と約束もした。
え? 高校進学?
他にしなきゃならない事があるのにする必要あるか?
まぁ必要なら高等学校卒業程度認定試験を受けてどうにかするつもりだけど。
ちなみに、もう少ししたら彼も『こちら側』に引き込ませてもらうつもりだ。
彼にも色々とやってもらいたいことがあるのである。
具体的には俺の地上での活動に同伴して欲しい。
……の、だが。
「ところでケンタ君」
「はい?」
「そろそろテストだが、勉強は?」
「ダメっス!」
「勉強しろ」
「はい……」
ケンタ君は勉強がとにかく苦手である。
物覚えは良い方であるのだが、机に向き合うのが嫌いなのだ。
彼曰く、高校受験をするわけでも無いのにどうして勉強しなくちゃならないのか、と。
そういう事であるらしい。
だが。冒険者になるから勉強は要らないなんてことはない。
冒険者になるのならむしろ大量の勉強が必要になる。
ダンジョンの特性やらモンスターの種類やら対処法やら……覚えなければならないことが多すぎるのだ。
それらを覚えなければ、『組合』とやらが発行している『冒険者資格』を取ることは出来ない。
まぁ、好きこそものの上手なれというし、冒険者になるための勉強ならば彼も大喜びでやるかも知れないが。
それにしても国語やら数学やら、学んでおいて悪い事なんて一つも無いのである。
そして何より彼の長期休みが補習で潰れることになるのは我慢ならない。
迫る冬休み、彼には俺と一緒にやってもらわねばならない事があるのだ。
「……はぁ、しゃあねぇ。俺が勉強を見てやる」
「マジお願いします……」
「ふむ、じゃあ私もご一緒しようかね」
「うぉう!?」
突然、俺の真後ろ至近距離から声がした。
反射的にその場から跳び退き、背後を見ると、そこに居たのはド派手な髪色の───この世界では極めて一般的な水色の髪色の少女。
「……急に背後から来るな、希月さん。心臓に悪い」
「以後気を付けよう」
「絶対気を付けないヤツだろそれ」
彼女は
俺の二人いる友人の片割れであった。
彼女と出会ったのは中学ではなく小学校の時で。
歴史やら『魔法』に関する造詣が非常に深く、色々と話を聞いているうちになんか懐かれ、それ以来はこうして彼女の方から寄って来るようになったのである。
何が彼女の琴線に触れたのかは甚だ謎だ。
「こんにちゃっス希月サン!」
「はいこんにちはケンタ君。またテストがヤバいんだって?」
「はい!」
「そう自信満々に言う事じゃないだろうがよ」
「スンマセン!」
「まぁまぁいいじゃないか。とりあえず私と岩井君で、平均は取れるようにしたげるから」
「あざっす!」
とまぁ、こんな具合に。
俺の中学校生活はこの二人との関係性でほぼ完結していた。
また二人も別に友達がいるわけでも無く、俺達との関りだけで中学校生活を送っており、一年次もあと残すところ数ヵ月という現在、俺達三人は『外れ値組』としてある種の特別な立ち位置を築いていたのだ。
「それで……岩井君」
「はいはい?」
「この前、君のお父様が冒険者らしき人物と戦っている所を見かけたのだが……冒険者に戻られたのかな?」
「え、マジすか!?」
「あー……」
恐らくそれは、父親がタクマさんに錆落としに付き合ってもらっていた時の事だろう。
希月さんの家は俺の家と割と近いので、見かけていても不思議ではない、か。
「……少し、入用でな。俺がお願いして、冒険者に戻ってもらった」
「はえー、入用って何すか?」
「『錬金』だよ、『錬金』」
「……へぇ、『錬金』?」
「そうだよ。作りたいものがあってね」
「錬金でっスか。だったら普通に買った方が早いんじゃ?」
中学校でもこういう反応が返って来るか。
やはりこの世界では、錬金=ガチャの認識が一般的らしい。
誰かが隠しているのか、それとも本当に『レシピ』が見つかっていないのかは分からないが……まぁ何にせよ、『聖剣』は完成させなければ。
「……ま、色々あるんだよ、こっちも。ケンタ君、君にも色々と協力してもらうからな」
「え、俺っスか!?」
「父さんに頼むまでもないんだけど、俺一人では難しいことが幾らかあってね。その手伝いだよ。頼める?」
「別に全然大丈夫っスよ! 俺に出来ることなら協力させてください!」
「それじゃあまずは補習回避からだな。ちょっと遠出するから、補習があったらやってられん」
「うぼぁー」
ケンタ君が項垂れる。
が、可哀そうだとは思わない。
今までサボっていた分、みっちりと勉強させてやる。
「……え、私には頼まないのかい?」
「だってお前冒険者志望じゃないじゃん」
「今から冒険者志望になるから仲間外れにしないでおくれよ」
「まずは親御さんの許可を取ってからにしろ」
冒険者は命を落としかねない危険な職業だ。
両親揃ってバーサーカーな熊代家はまだいいとして、希月家の娘さんにそこまで危険はないにせよいきなり危ない事をさせるわけにもいかん。
「むぅ、なら、許可を取って来るとしよう」
「そうしろ」
まぁ取れるとも思えないが、と。
そんな会話をして、幾らか授業を消化した後、ケンタ君の勉強を少し見てやってから、家に帰る。
「ただいま」
「……帰ったか」
「素材集めて来たぜ。それと、ちょっと、聞いてみたいことがあってな……」
するとそこには、疲れ切った顔の父と、神妙な面持ちのタクマさんがいた。
……さて、厄介事の香りがするぞ。