「……成程ねぇ」
タクマさんが俺に語った、『冒険者組合』が『錬金』の本来の在り方に気が付いているかも知れない、という話は、確固たる根拠に欠けてこそいたが、可能性としては決して否定できるようなものでは無かった。
むしろ俺にしてみれば納得の出来る部分があるからこそ、信憑性は高いとすら思える。
特に、売却周りの話は、目から鱗が落ちるような気分だった。
同じ素材を幾ら売っても、同じ価格で買い取ってくれて、殆ど価格変動もしないというのは、ゲーム的な観点から見ればそういう仕様なのかとスルーすることも出来たが、ここは現実世界。
普通に考えて、そんなことは起こり得ない。
しかし、モンスター由来の素材に関して『組合』が完全に独占状態を保ち、需要が外側ではなく『組合』の内側に、それも無尽蔵にあるのだとすれば、納得も出来る。
『組合』が『錬金』に気付いているという話は、8:2の割合くらいで事実と考えてよさそうだ。
無論、気付いている方が8割で。
だが、そうなって来ると、次に問題となって来るのが───
「…………目的は、どれだ?」
「あー、やっぱリツト君もそこで行き詰まるか」
「流石に、情報が足りなすぎるな」
「いやまぁ、『錬金』の最終到達地点も知ってる身としては、幾らかヤバいのは想像つくんだが……」
それらを含めて、択が多すぎる。
とてもではないが、何も確定していない状態で絞り込めるものではない。
「ヤバいところだけで言うなら、『神器』か、『禁忌』かってとこだが。……俺らと同じく『聖剣』を作ろうとしてるかも知れんし……はたまた、それらが作られる可能性を徹底的に排除しようとしているかも知れんし……別の目的があって、単純に『錬金』の独占維持を狙ってるのか……」
『錬金』の技術を独占するメリットなんて、こういったことにド素人の俺ですら幾らでも想像できる。そういった方面に頭の回る人が考えれば、もっとえげつないことだってできるだろう。
単純に『錬金』を広めないようにしているだけだとしても、その理由は察するに余りある。
……ゲームだから許されてたが、こうなると厄介過ぎるな、『錬金』とかいうシステム。
「……『神器』ねぇ? また新しい単語が出て来たな」
「『神器』もそうだが。いい加減、『禁忌』について説明が欲しい」
……『禁忌』についての説明、か。
確かに、目的を考える上で、知っておくことは必要かもしれんが……
「……ンー……いや、止めておこう。マジのガチの厄ネタだ。知ってる人間が多ければ多いほど、リスクが増す」
「そんなにヤベェのか」
「知ること自体が禁じられているから『禁忌』だからなぁ。仮に知らなかったことが不利益につながりそうな場面であっても、知るべきではない……って類」
「……マジっぽいな」
原作の時点から徹底的過ぎるレベルで知識の隠匿が為されていた、ゲームの世界観において間違いなく『一番知られちゃいけない情報』だ。
話したところで実行できるようなものでもないが……
だとしても、出来れば誰に知られること無く、墓場まで持ってかなきゃいけない。
「よしOK、分かった。『禁忌』については今後、こっちからは触れないようにしておこう」
「それでお願いしたいかな」
いや本当に。
「それじゃ、話を変えるけど……『神器』については、『錬金』の最終到達地点みたいなものかな。死ぬほど強力な武器だよ」
「ほー。そりゃあまた、スゲー量の素材が必要になるんだろうなァ?」
「一つ作るのに『魔晶石』十万個とか要るよ。超高難度素材の類も沢山必要だし」
「うげぁー」
エンドコンテンツだからな、『神器』は。
一つ作るのに何十時間かかるとかザラだ。
だからこそ、作れた時の達成感と使ってみた時の全能感は凄まじいものがあるのだが……
この世界でだと、何十時間って騒ぎじゃないよな、多分。
何年とか何十年とか、余裕でかかるだろう。
「でもまぁ……本当に全国の冒険者から素材を集めてるなら、作れても不思議じゃないよ。『レシピ』を知ってればの話だけど」
「……『レシピ』か」
「その『レシピ』が分かんなくて、ずっと試行錯誤してるって可能性もあるよな」
「まぁ、その線もあるかもね」
あんな超長いレシピ、攻略本でも見なきゃやってられんレベルだ。
まぁ俺はそれを全部頭に叩き込んであるんだけども……こっちの世界だと、どうなっているのだろうか。
『叡智の神』がどうなっているかで、大分話は変わって来るんだよな。
……あっちはまだ戦力が足りてないし、今は保留か。
「まぁ何にせよ、流石に『禁忌』は無理だとして、あり得る線はそれ以外と仮定した時、『錬金』に対するスタンスがどっちか、ってところが俺達にとって重要になって来るだろうね」
『錬金』を広めない理由とか、その辺りについても考慮しなければならない。
『錬金』について否定的なら身を隠す必要があるし……否定的と一口で言うにしても、自分たちの身内以外が『錬金』を使う事に否定的である可能性も、『錬金』自体を完璧に否定している可能性もある。
それによって、敵対するか、味方するか、判断は変わる。
「そりゃあ、そうだろうなぁ。で、どうする?」
「ンー……とりあえず俺達はしばらく『組合』にばれないように行動。父さんかタクマさんには、なるべく足が付かないように『組合』内部に探りを入れられる仲間を探して欲しいんだけど……出来る?」
「当たってみない事には、分からん」
「俺も似たようなモンだ。だがまぁ、ユウジなら誰かいるだろ」
「だと、いいが」
そっちはそっちで、向こう次第、か。
まぁ、やってみない事には分からないしな。
「出来る限り慎重にお願いね。仲間増やしも並行して」
「善処する」
父が頷く。
「それじゃあ……話すことは、これぐらいでいいかな?」
「今のところはこんなモンだろ。あとは素材が全く集まらないってくらいだ」
「あー……」
視線を錬金釜の方に移す。
するとそこには、大人二人が頑張って搔き集めたのであろう素材の山が転がっていた。
「何がどれだけ取れたよ」
「『魔晶石』30とちょっと。金銀が沢山。宝石が一通り。あとはミスリルが一つに……モンスター素材が結構ってとこかな。銅と鉄は重かったから捨てた」
「ん。まぁこの段階なら一回の探索でそれだけ取れれば上々かな。それじゃ、早速『錬金』すっかぁ」
「よっ、待ってました!」
拍手して歓迎するタクマさんを他所に、俺は素材を分けてゆく。
……へぇ、『ケイブドレイク』の鱗も取れたんだ。30Lvくらいのモンスターだけど……まぁ、タクマさんがいるなら取れてても不思議じゃないかな。
「えーと、まずは……父さん、装備全部脱いで」
「え」
「この『魔晶石』全部使って、まずは装備全部を魔法武具にするから」
「マジか、いきなりそんなことできるのかよ」
「……少し待ってろ。着替えて来る」
「じゃあその剣だけ」
部屋に戻ろうとする父から、鉄の剣を受け取る。
「んじゃ、まずは『鉄の剣』と『魔晶石』×4で『魔剣』」
完成するのは、剣身が淡く発光する剣。
魔法的属性が付与され、これを使う事で死霊系のような実体を持たないモンスター相手にも攻撃が通るようになる剣だ。
ちなみにゲームではここまでは金で買えたが……
「おい、お前の息子、えげつねぇな。一瞬で数十万稼ぎやがった」
「今更だろ」
こっちの世界でも、一応は買えるらしい。
金額はアレだが。
「で……父さん、脱ぐのまだ?」
「無茶を言うな」
「んじゃあ脱げたところから渡してよ」
「お前の息子、えげつねぇな」
「……」
結局、父は全部着替え終わってから部屋から出て来た。
どうせ男しかいないんだし、特に気にすることも無いと思うんだけどなぁ。
「これでいいか」
父が俺に装備一式を手渡してくる。
革と金属で作られた、守るべきところをしっかりと守りつつ、機動力を損なわせない、軽剣士向けの装備と言った感じだ。
「んじゃあまずはこの『鉄のブーツ』から……クッサ」
釜に入れるために持ち上げた瞬間、ツンとした臭いが鼻を突いた。
流石に通気性最悪かつ丸一日履いて運動しまくったオッサンの靴は臭かった。
「………………」
「…………お前の息子、マジでえげつねぇな」
「いやごめんって。そんなに落ち込まないでよ。運動した後の靴なんて誰だって臭いんだから」
「それは、そうだが」
この前の悪臭騒動の時も父は臭かったが、その時は素材の方が悪臭を放っていた。
そのため臭いと言われても特に何も感じなかったようだが、しかし100%自らが原因で臭いと言われるのは来るものがあったらしい。
「まぁ、うん。先に『錬金』だけしちゃうか。『ブーツ』『レギンス』『チェスト』『グローブ』『ヘルム』にそれぞれ『魔晶石』×4で、『魔装』完成。次からはこれを装備してね」
「ああ」
「……一気にユウジがクソ強熟練冒険者みたいになるな」
「見栄えは違うだろうね」
見た目こそそこまで変わらないが、全身から醸し出される魔法的なオーラは、見る者にそこそこのインパクトは与えるだろう。
「ついでに採掘用具も強化しちゃおうか。ハンマーにも同じように『魔晶石』×4で『魔槌』」
「これで『魔晶石』の採掘が捗るって訳だな」
「そうなるね」
少なくとも、今回よりは多くの『魔晶石』が取れるとは思うかな。
「さて、それじゃあ後は作れるものだけ作っちゃうか。『銀』に『破邪の聖水』で『聖銀』で、これと『人骨』を組み合わせて『聖銀杭』」
「それは、どんな効果がある?」
「無属性中ダメージ、短時間の
火薬があればもっと強力な『銀弾』が作れたんだけど……まぁ現状火薬の入手法が無いしね。
ただまぁ瞬間的に火力を生みつつ隙を作れるという点では、強力な使い捨てアイテムだ。
作れるだけ作っておこう。
「あとは……『金』×2で『金の球体』」
「え、それもしかしてキン」
「言わせんぞ」
うん、まぁ、言いたいことは分かる。
製作サイドも絶対狙って作った。
が、割とこれもこれで重要アイテムだったりするんだよなぁ。
主に金策方面で。
けどまぁ、今回は武器として使わせてもらう。
「『金の球体』と『怨念玉』で、『スカラベ』」
「おお、虫になった」
「が、『怨念玉』を使ったという事は……」
「うん、呪詛系中ダメージ。呪い付与、自動追尾」
エジプト神話系の『神器』作成のために何千個と必要になるアイテムだが、消費アイテムとしても使える。
大人二人のレベル帯なら、有効な手札だろう。
「んで、宝石系は……保留かな。今回の『錬金』はここまで。二人には引き続き、『魔晶石』の採掘をお願いね。大変だけど、ちょっとずつ進めていくから」
「了解」
「分かった」
仲間の増員やら『組合』の調査やら、他にもいろいろ大変だけど……そこはマジで頑張ってもらう他ない。
「あぁ、そうだ。今更ながら、念のために言っておくけど……『鉱脈』採掘時の『襲撃』には、マジで気を付けてくれよ。二人に死なれちゃ、困るからな」