「……酷い目に遭った」
「ありゃ、今回のダンジョンはそんなに大変だった?」
「お前のせいだこの野郎」
一日挟んで翌日の深夜。
丸一日以上ダンジョンに潜って来た二人に、作っておいた夕飯を振舞う。
本日のメニューは麻婆豆腐に卵のスープ(中華風)だ。
ちなみに二人が疲弊しているのは、俺の実験に付き合ってもらったからである。
これで、結構な高レベルであろう二人にもこのアイテムが有効であると証明されたわけだ。
……まぁ、そのせいでタクマさんがちょっと不機嫌になってしまったが。
「あ、美味ぇ。すげーなリツト君。店出せんじゃん」
と思ったら一瞬で機嫌が良くなった。
飯食ったら機嫌治るとかガキかな?
「まぁでも、店は無理だな。出来合いの調味料使ってるし」
「あー、スーパーで売ってるアレか。アレこんなに美味いんだ」
家でお手軽に中華を作ろうとすればほぼ必須である。
「……ところで、先程の、アレは、対人間用に見えたが」
「大正解。対人間用だよ。『組合』がヤバそうだから、作ってみた」
本来ならば味方に使うための道具であるが。
現実世界となった現在、敵と味方の間にそこまで明確な線引きはない。
レベルが高すぎたりすると
「あぁ、そうそう。今の話で思い出したが、今回の探索で、ユニオンフォースの人に会ったんだった」
「へぇ、ユニオンフォース」
優秀な冒険者を選りすぐって集めた、『組合』の暴力装置……だったか?
実力の方が如何程のものであるかはさておき、装備の質は随分と良いようだった。
錬金で作っているのか、手作業でやっているのか知らんが、しっかりと『魔化』もされていたようだし。
この世界基準で言えば、相当上澄みの人間なのだろう。
……しかし、Lv的にはどのくらいなのだろうか?
流石に100超えの『超越者』や200超えの『逸脱者』は居ないだろうが……いや、最終的なことを考えると居て欲しいのだが……うーむ……敵対する可能性もあると考えると、難しい話だ。
それにそもそも、この世界の住民のレベル感が分からないのよなぁ……
タクマさんと父親がそれぞれ40台と20後半~30前半と見積もっているが……さて、どうなのだろう。
「んでよぉ、聞いてくれよリツト君。そのユニオンフォースのねーちゃんがさぁ、コイツの元カノなんだと」
「え? マジ?」
あまりにも衝撃的な情報に、先程までの俺の思考が何処かへ吹き飛んだ。
「どんな偶然よそれ……ってかそれよりも居たんだ、元カノ。まずそこが驚きなんだけど」
「なー、びっくりよなー?」
父親の性格から考えるに、超一途というか。
再婚もせずにずっと一人で俺の面倒を見てたモンだから、最初から最後まで母親一筋だったと思っていたが。
いやまぁ、イケメンだし、居たとしてもおかしくはない人柄ではあるけども。
それにしても、という話だ。
「しかも旧武家だぜ旧武家ぇ」
「すげーな父さん……」
ついしみじみとした声が漏れてしまう。
つくづく衝撃的だ。
「……少しの間だけだ。向こうの実家に反対され、別れた」
「あー……そういう……」
「ドラマかよオイ……」
家柄に差があると、やっぱりそういう問題が発生したりするのかねぇ。
それで、理不尽な彼女との別れに傷心中の父へ母がやって来てそのままゴールイン。
父と母の間に俺が生まれ、元カノさんは傷ついた心を誤魔化すように冒険者として研鑽を重ね、気付けばユニオンフォースの一員に。
そうして業務に励んでいたところ、もうすっかり諦めていた父との突然の再会。
しかもパートナーを失い、フリーになった状態で、と。
……うん、ドラマかな?
これが本当にドラマなら、十年を隔てた恋が云々と、重たいラブストーリーにでも発展しそうなものだが───
「困ったことがあれば頼れと、言ってもらった。もし俺とコイツが死んだら、彼女を頼れ。あとで、番号を教えて置く」
「ん」
俺に向けて大真面目にそう言っている父を見るに、そんなことに発展する気は微塵もしない。
現実はドラマのようにはいかなそうだ。
「んで……そうだ。そいつに会う前に、『襲撃』に遭ったんだ」
「あぁ、ユニオンフォースが来たんだもんね。そりゃあ『襲撃』も……」
と、そこまで言いかけて、俺はタクマさんの言葉に違和感を覚える。
『襲撃』に遭った、と言ったな。『襲撃』があった、ではなく。
「……まさかとは思うけど、戦った?」
「戦った。それで倒した。戦利品はそこにある」
「気を付けてって言った直後に遭遇するじゃんか……ってか何で逃げなかったのさ」
「袋小路に追い込まれてな」
「あっぶねぇな本当に! そんでもってよく生き残ったなぁ!」
無事でよかった本当に。
死なれてたら色々とマズい事になるところだったぞ。
「んで、一体何と戦ったんだ……?」
戦利品の並べられているブルーシートの上に視線を滑らせる。
すると、それはすぐに見つかった。
「よりによって『
『鉄竜の角』に『鉄竜の鱗』だ、間違いない。『竜の心臓』まである。
序盤から中盤の『
採掘用ハンマーでワンパン出来る終盤以降ならともかく、普通は爆破系魔法か大型鈍器、属性武器でも持っていないと厳しい相手なのだが。
「運が良いことに同業者が助けてくれた」
「ああ、実に運が良かったぜ」
「同業者って……ユニオンフォースさんではなく?」
「若い男女の冒険者だよ。大槌使いの男の子と『
「……あぁ、そうか、そういうのもあるのか……」
基本的に自パーティ以外はダンジョン内に存在しない原作ゲームとは違って、突発的なパーティ構築と共闘もあり得る、と。
良くも悪くも、色々と影響がありそうな話だ。
素材の取り分とかで揉めそうだし……
「ってか、一通り素材揃ってるっぽいけど、ちゃんと分けたの?」
「『トレイン』のお詫びって言って全部譲ってくれた」
「……あぁー……」
そりゃあ有り得るよなぁ、そう言う事も……
まぁ、双方納得しているのなら良かった。
「取り敢えず、心臓は今のうちに冷凍庫に入れておくね。現時点では錬金できないけど、後々になって使うから」
「頼む」
流石にあの悪臭騒ぎを繰り返すつもりは無い。
……っていうか、こうなると素材保管用の業務用冷蔵庫とか、用意した方が良さそうかな。
「ってか……『魔晶石』、めちゃくちゃ集まってるじゃん」
視線を少し横に逸らすと、そこには『魔晶石』の山があった。
数にして……おおよそ、100個近くだろうか。
虹色に輝く鉱石がうず高く積み上げられたその光景は、凄まじいの一言に尽きた。
「お、分かるか? いや、魔法のハンマーが思いの外快適でな。頑張ったら行けた」
「それでも、一日半かかったがな。……疲れた」
積まれていた『魔晶石』の山を分解し、数を確認してみると、数え間違いがなければ116個。
『魔槌』を使って一日半、つまり36時間使って116個かぁ……
遅いなぁ、滅茶苦茶。
だがまぁ、着実に進んではいる、か。
「……とりあえず、前回の分と合わせれば、当初の目的の150個には達したかな。一先ず、第一次『魔晶石』回収作戦はここで終わりって事でいいかな」
「そうか。それは良かった」
「と言うわけで次からお二人には特定のモンスターの素材を集めて貰うね。『聖剣』に至るまでに必要な9つの段階の内の1段目を作成するよ」
「お、遂にか」
タクマさんが居住まいを正す。
実際ここに至るまで2週間近くかかってるからな。
ゲームでやってれば、もうほぼ完成していてもおかしくない頃だが……そこはもう仕方ない。
「気になる必要素材は、こちら」
と、そう言いながら俺はメモにペンを走らせ、タクマさんに手渡す。
「えーと? ……見るからに天使だな」
「その通り」
必要素材は『魔剣』の他に『恩寵の聖水』『破り取られた聖書のページ』『天使の羽』『洗礼の雫』だ。見るからに天使系の素材である。
前者3つは一瞬で手に入るからいいとして、問題は後者の2つ。
『天使の羽』は『天使』を倒さねばならないし、『洗礼の雫』は『大天使』のドロップ品である『大天使の涙』に一工程錬金を挟まねばならない。
「ので、今から天使狩り用の武器を作ります」
とは言っても、そこまで難しいものは作らない。
父親の予備の『鉄の剣』を『魔剣』に変えた後、『怨念玉』×2と一緒に錬金して『禍々しい剣』だ。
見た目的には『魔剣』と似ているが、その刀身から放たれる禍々しい赤黒いオーラは、見る者に小さくない忌避感を抱かせる。
「うわ、スゲェのが出来た」
「呪詛系の武器。洞窟系ダンジョンに出てくるような物質系モンスターには効かないし、死霊・アンデッド系モンスターには回復されるけど、『天使』とかにはよく効くよ」
「ほう」
具体的には最終ダメージ×1.5くらい。
条件次第で×2以上にも増やせるけど……まぁ、現時点では素材も無いし、こんなもんで良いだろう。
「流石の天使サマも、呪いには勝てないってワケか」
「ちなみに教会の人たちの前では天使系モンスターは偽天使って呼ばなきゃぶっ殺されるらしいよ」
「え、知らなかったんだけどそれ。マジ?」
これは希月さんから教えてもらった本に書いてあった事だ。
何でも、「天使が地下から出てくるわけねぇだろ常識的に考えて。だからダンジョンから出て来る天使みたいなモンスターは偽物だ。天使と呼ぶことすら烏滸がましい」って事らしい。
宗教とは何とも面倒なものだ。
「まぁ、殺されるまではいかずとも、注意くらいはされるかもね」
「マジかぁ……気を付けよ」
「俺も、気を付けるとしよう」
まぁ……うん。
どういう意味で『本物』と定義するかはともかく。
『製法』という意味では、天使系モンスターは『本物』なんだけどね。
「……あ、そうだ。『魅了』とか『大天使』の『死の宣告』には気を付けてね。『分鬼のタリスマン』と『屍鬼の指輪』、『屍鬼の首飾り』で即死することはまず無いけど、食らったらヤバいから。ポーションの備えとかも増やしておいた方が良いかも」
「わかった」
「了解」
「それじゃ、俺はもう寝かせてもらうよ。明日も学校がある」
まぁ、日付的にはもう今日なのだが。
「おう、お休み」
「お休み」
「ん。そっちもゆっくり体を休めてね」
と、俺は自分の部屋に戻り、眠りに就くのだった。