翌朝。
体を休めておけって言っていたにも関わらず夜通し酒盛りしたらしく、フローリングで大いびきかいて爆睡中のタクマさんと机に突っ伏したままの父親を放って学校へ。
テストを1週間後に控え、部活動も停止し、いよいよ本格的にテストムードとなった学校は、どこかピリピリとした空気を纏っていた。
が、俺にとってはそこまで関係のない話である。
唯一の懸念点と言えばケンタ君の点数であるが、そこはここ最近の勉強で解決しつつある。
勿論、課題も並行してしっかりと片付けさせている。
更にここから1週間もあるのだから、よっぽどの事故でもない限り補習は無いだろう、と。
そんなことを思いながら昼休みを迎え、今日も今日とて勉強会だと二人の下へ。
「やぁやぁ、今日もみんな揃ったようで何よりだ」
「こんにちはっス、希月サン、岩井クン」
「ああ。課題はちゃんとやって来た?」
「はい。ちゃんと言われた分やって来ました」
と、自慢げにケンタ君がノートを取り出すので、俺はそれを検分する。
……うん、問題は無さそうだ。
「やっぱりやろうと思えばできるんだから、普段から勉強すればいいと思うんだけどなァ」
「そーいうわけにもいかねっス! 鍛錬サボったら親にぶっ殺されるんで!」
「難儀だねぇ」
ケラケラと希月さんが笑う。
が、正直なところ笑い事ではない。
詳しいことは知らないが、熊代家の御両親はどうやら相当にスパルタであるらしい。
彼の体に生傷が絶えないのはそういう事だ。
ぶっ殺される、というのも、あながち嘘では無いのだろう。
児童相談所に行けば普通に保護してもらえると思う。
割とガチで。
「あぁ、そうそう。親で思い出したんだけれど。いつぞやの、遠出に熊代君を連れて行くって話あっただろ?」
「そう言えばそんな話もしたね」
「君は親の許可を取れと言っていたが……取れたよ」
「え、マジ?」
まさか取れるとは。
っていうか、翌日になって何も言われなかったから、てっきり却下されたものかと思っていた。
しかし、娘を男二人と危ない場所に放り出す許可を出すとか、正気か?
「どうして許可を取れたか、不思議かい?」
「え? あぁ、まぁ、何かしたのか?」
「いいや? 特別なことは何もしていないとも。いや、したと言えばしたとも言えるが」
「どういうことだよ」
「いやぁ、両親となど話さないものでね。時間がかかってしまったんだ。何枚も何枚も手紙を書いて、漸く許可を貰えたよ」
何枚も何枚も手紙を書いて。
何枚も、何枚も。
「───ぁあ」
…………あぁ、そうか。
成程、そう言う事か。
うん。分かる。分かるぞ、それ。
そうだよな。そりゃあ時間かかるよな。
分かる、分かるよ、本当に、良く分かる。
「え? ご両親と離れて暮らしてたりするんですか?」
「いや、そういうわけじゃないが……まぁ、離れていると言えば離れているのか……?」
「……いや、もういい。事情は分かった」
面倒臭くなった。
だから許可してやった。
それだけの話。
子供が居るから一緒にいるだけ。
子供に興味がない。
子供が邪魔。
そういう連中だ。
何も見ない。何も聞かない。
印鑑が必要なら印鑑を投げ渡す。
親のサインが必要ならペン立てを指差す。
与えられたのは勉強道具一式と、ゲーム本体にカセットが一つ。
クソが。
気分が悪い。
ああ気分が悪い。
「…………岩井クン?」
恐る恐る、と言った具合に、ケンタ君が俺に声をかける。
「……どうした?」
「いや、何か、怖かったっス」
「そうか? そうでも無いと思うけど……まぁ何にせよ、許可が貰えたなら良かった。冬休みには希月さんにも遠出に付き合って貰おうかな」
「是非ともよろしく頼むよ」
「……はい、よろしくお願いしゃっス」
彼女の加入は想定外だったが。
まぁ、やる事は変わらない。
……しかし、あぁ。思ったよりも気分が悪いな。
マジでもう、二度と思い出したくもない。
■
「あの子、何者なんですかねえ?」
忍者風の衣装に身を包んだ糸目の女───
岩井ユウジ並びに黒橋タクマがほぼ確定で黒である、という事は素材をそのまま家に持ち帰った時点で確定していた。
そのままどこかに売り捌くか、或いは
どちらにせよ、彼らにはきちんと話を通す必要があるだろう。
現状、リコもケイコも、その他にしても。味方が喉から手が出るほど欲しいのだから。
そうして、その二人を引き込むための情報収集の一環として、ユウジの息子であるリツトを監視していたが───
「いやあ……あの子、多分、『錬金』について何か知ってますよねえ」
ユウジは息子のために冒険者に戻ったと言った。
そんな男が、冒険で手に入れた素材を換金せず、自宅に持ち帰った。
あの量の素材を、ただの遊びのためだけに持ち帰るとは思えない。
となれば───
「直接、話を聞いてみた方が早いですかね」