「はい、というわけでね! 『神薙派』結成という事を祝って、乾杯!」
「乾杯」
「あい乾杯」
「「……か、乾杯……?」」
場所は我が家の食卓。
普段は出さない椅子まで引っ張り出して、俺達5人は同じテーブルと料理を囲んでいた。
その理由は勿論、『神薙派』の結成を祝うためである。
が、大人達のノリは悪い。アレだろうか。酒が出ないからだろうか。
だがそれも仕方がない。これは祝賀会であるが、これからの『神薙派』の行動指針を決める、重要なミーテングの場でもあるのだから。
だから当然、アルコールの類も出ない。
思考のレベルが下がりに下がった大人たちに今後の事を話しても、覚えていない可能性が高いからだ。
ミーティングが終わったら出してもいいけど。
「で……その……すみません、早速お聞きしたいんですけど、色々、マジなんですかあ? 『神薙派』もそうですけど、『災厄』だとか、『聖剣』だとか……」
と、恐る恐る手を挙げて問うのは、先程解放された忍者のリコさん。
彼女には大分つらい実験に付き合って貰っていたが、『神薙派』を結成することを伝え、彼女にも協力して欲しいという旨を伝えると、二つ返事で了承してくれた。
有り難い事だ。
勿論、俺が現在開示している情報については、共有してある。
「マジだぞ。俺達が頑張らないと世界が滅びる」
「ッ、あ、そうですかあ……」
俺が答えると、リコさんはビクッと体を跳ねさせ、縮こまる。
「……ねぇリツト君、貴方本当に何をしたのよ。彼女は忍者なのよ? 何をどうしたらこんなに怯えるようになるのよ」
「いやぁちょっと、精神的状態異常に関する実験を」
「……彼女は忍者なのよ?」
訝し気にケイコさんがそう問うのは、『忍者』という職業に高い精神系状態異常への耐性が付属していることを知っているからこそだろう。
「色々と便利な道具があるんだよ。この『欲望の鐘』とか」
『金×3』に『ベル』と『魔晶石』で作ることが出来るこの『欲望の鐘』は、魔力を込めることで使用できるアイテムで、聞かせた対象の精神系異常への耐性を少し下げる。
一発だけならばとてもではないが忍者の耐性は突破できないが、重ね掛けすれば可能だった。
それで知ったが、この世界でこの効果を使うと思考力を奪うって事になるらしい。
「で、これを使って、状態異常攻撃じゃなくても『恐怖』とか『魅了』の状態に持っていけるか検証をしてた。成功した」
「大丈夫なのか、それ……?」
「『鎮静用ロープ』の効果で治したし、大丈夫じゃない?」
「大丈夫じゃないですね、はあい」
大丈夫じゃなかったらしい。
「さっきからずっと自分が意味分からないんですよお。いやぁ、この感情って何なんですかね? 畏怖? 崇拝?」
「知らん」
「えぇ……」
タクマさんにドン引きされるが、知らないものは知らないのだから仕方がない。
だって俺は心理学の専門家と言うわけでも無いし。
ただまぁ、多分『魅了』について試すときに何かやらかしたんだろうな。
あの後から明らかに様子が変わって、他の異常をかけたいのにいつの間にか『魅了』になってたりして大変だったからなァ……
「吊り橋効果、というヤツか?」
「おお、流石は父さん。それだ」
「……いや、どっちかって言うとDV彼氏のそれじゃないかしら……?」
「あの、そろそろこの話題やめませんかあ? 私が惨めになるのでえ……」
「事実じゃない?」
「はい……」
と、リコさんが体を震わせながらそう言うので、この話題はここで切り上げることになった。
まぁ他に話したいことも色々あったし、丁度いい。
「それで……はぁ、『神薙派』としてのこれからの動き、だったかしら?」
「うん、その通り。とは言ってもウチの父親とタクマさんの動きは変わらないから、そこの二人にやってもらいたいことになるんだけどね」
「私たちに、ですかあ……?」
「そう。二人にはまず、時間稼ぎをしてもらいたい」
「時間稼ぎ……何から?」
「そりゃ『倉本派』から」
「……まぁ、時間は確かに欲しいわよね」
現在の『神薙派』はただのハリボテでしかない。
或いは中身のないバルーンだ。
今は見た目だけでも構わないが、時間が経つごとにその威力も薄れる。
だから見せる時期を遅らせて、その間に中身を作りたいのだ。
「というわけで、これをお二人には渡しておきましょう」
「……ナニコレ?」
「『聖銀杭』と『ネスト・トラップ』の残骸」
『聖銀杭』は父に渡したそれを、再び量産したものだ。
ちなみに今回で銀は使い切った。また補充しなくてはならない。
そして『ネスト・トラップ』は『網』と『ロープ』と『鉄』×3で作れる設置罠だ。
それをわざと作動させたのち、鋭い刃物で切り裂いた、そんな形を演出している。
「コレを使って、俺に逃げられたって事にして。んで、調査は自分たちが引き続き行う、的なことにしてくれると助かる」
「それはいいんだけど……そう上手く行く……行きそうね。人手不足が深刻過ぎるし、何より他派閥に感付かれるわけにもいかないもの」
「そういうこと」
多少証拠が荒かろうが、報告が不自然だろうが、関係ない。
向こうは彼女たちに信じて任せるしかない。
怪しかろうが何であろうが……少なくとも、疑惑が確信に変わるまでは、他の人間は動かせないだろう。
派閥争いをしているのなら、猶更だ。
戦場で一番恐ろしいのは敵よりも無能な味方と言われているが、無能な味方よりも意図して全力で足を引っ張りに来る味方という名の敵の方がもっと恐ろしい。
「んで、その時間稼ぎ中に、二人にも仲間に出来そうな人物に目星をつけておいて欲しい。できれば政治に強い人」
「……仲間、ねぇ?」
「そう。その人達を足掛かりにして、いずれ『組合』ごと呑み込むつもりだから」
「できるのか」
「分からない。けど、こっちには俺の情報があるし、政治に強い人が居れば、やりようはあると思う」
正直なところ、俺は政治に関しては素人もいいところだ。
コネの作り方だとか手の回し方だとか、そういった立ち回り方は全く知らない。
俺のこの知識を正しく使う方法を、俺はまだ知らない。
そしてそれは、父やタクマさんも似たようなものだろう。
それに、そこのユニオンフォース二人も、あくまで実働部員。
本職の政治屋ではない。
だからこそ、政治的に強い人が味方に欲しい。
懸念点も無くは無いが、そこを差し引いてもだ。
「……まぁ、それもそーなんだけどなぁ」
タクマさんが頬杖を突きながら嘯く。
「でもよぉリツト君。そうなって来ると、そろそろ護衛とかが必要になって来るんじゃないか?」
「護衛って……俺のか? ……まぁ、そうかも」
「……」
「いやあの、すみませんでした」
男三人衆が女二人にじぬろとした視線を送る。
こういった連中の襲撃も考えられるのだから、護衛が欲しい、というタクマさんの意見は、極めて正しいと言えるだろう。
「ンー、まぁ、そっちのほうは俺に心当たりがあるからこっちで対応するとして、だ。何にせよ、ケイコさんとリコさんには仲間になりそうな人を探して欲しい」
「それは良いのだけれど……居るのかしら? そんな人?」
「『倉本派』と『獅童派』の消極的賛成の人が狙い目だと思うね」
「……あー、まぁ、そうねぇ……」
『神器』とは強力無比な装備である。
フレーバーテキスト通りの効果が発揮されるなら、とんでもない事だ。
間違いなく、『最初の一つ目』を作った所が、今後の世界の覇権を獲る事になる。
……まぁ、レシピも知らない状態で作れるわけも無いんだけど。
しかしその前提知識が無いと仮定すると、他の国が『神器』を完成させる前に、こっちが『神器』を完成させないと日本が危ない、だからこの『派閥』に属している、みたいな人間が、『派閥』の中にいるはずだ。
そこになら付け入る隙があると、俺は考える。
「ま、ベストなのは『倉本派』を吸収していくことなんだけど……心当たりある?」
「……一応、ね。どう転ぶか分からないけど、探ってみるわね」
「そうしてくれ。あと並行して素材集めもお願い」
「素材、ですかあ? 一体どんなものを?」
「一番欲しいのは『魔晶石』……ああ、『虹魔石』とか言うんだっけ? と、天使系と死霊・アンデッド系。その他にも素材があったら持って来て」
「よりにもよってその辺ですかあ……」
俺の挙げた素材に、リコがげんなりとした声を上げる。
……成程成程、俺の指示に不満あり、と。
「あっ、はい、持っていきます。すみません」
「ちなみに最終的に『虹魔石』とかは数千個単位で必要になるから、頼むぞ」
「はい、やらせていただきます……」
「本当にどうしちゃったのよ、リコぉ……」
「……リツト、彼女以外の人にはこんなことするなよ」
「指摘するのは本当にそこでいいのかユウジ?」
心配されなくてもこんな人間を量産するつもりは無い。
っていうか、これに関してはどっちかって言うと俺ってよりソイツの方が悪いだろうに。
「んで、父さんとタクマさんは……あ、やべ」
「ん? どうした?」
「いや、『聖水』を貰いに行くの忘れてたな、と」
「あぁ……」
今回作る予定だった『聖剣』に至るための一段目を作るには『恩寵の聖水』が必要で、今日の内にそれを『教会』に取りに行くつもりだったのだが。
しかし、襲撃を受けていたのでスッカリと忘れていた。
仕方ない、明日辺りに取りに行くとしよう。
「まぁいいや。父さんとタクマさんは、いつも通り素材を集めて貰うね。次回は死霊・アンデッド系ダンジョンに行ってもらうよ」
「……あぁ、そうだ、そういえば、言い忘れてたんだけど、ユウジが『身代わり人形』を使っちまったんだった。どこでどうやったら補充できる?」
「マジかぁ。だったらそれも纏めてやっちゃうから今回は低レベル帯の所にしとくかぁ……ってなると、いい加減収納系も作った方が良いよなぁ……」
以前のような激臭事件は、何としても防がなければならない。
そのためには、より多くの素材を持ち運べるようになる収納系アイテムを開放すべきなのだろうが……それを取りに行くのは冬休みの予定だったんだよなぁ……
「どうすっかな」
「いやいやいやいや!?」
「『身代わり人形』の、補充……? そんなことができるのですかあ?」
「そりゃあ出来るよ」
「出来るらしいぞ。ちなみにマジでサクッと作れるらしい。ヤバいだろ? お前、この情報がどういう意味を持つか分かってるよな?」
「……え、えぇ……」
あぁ、成程。この世界だと『身代わり人形』は稀少なのか。
俺の場合、中間素材の『身代わり人形』程度、量産して当たり前の代物だと思っていたが……
……ってか、そろそろ量産したいな。いい加減『屍鬼の指輪』も強化したいし。
骸骨集めでもさせるか?
「……ねぇユウジ」
「何だ?」
「お酒ある?」
「タクマ」
「あるぞー、大量に買っておいた。日本酒もビールもある。ワインは無い」
「呑みましょう」
「私も、呑ませてもらっていいですかあ?」
「いいぜ。酒盛りしようぜ酒盛り。ヘイ、リツト君、悪いけど大人達は今から酒飲みまくって人間としてのレベルを著しく落とすから、後は頼んだぜぃ」
「え? あぁ、うん、分かった」
と、俺が思案していると、何やら大人たちが酒をカパカパ呑み始めていた。
……ま、いっか。大人たちの仲が良くなるならそれに越したことはないでしょ。
しゃーない、何か摘めるものでも作ってやるか。
「リツト君のワクワク楽しい精神状態異常実験」は没案としてFANBOX送りとなりました。
流石に絵面が拷問過ぎてダメだった。