理論上、『聖剣』は錬金で作れる 作:POTROT
翌日。
クソ退屈なことこの上ない中学生活を終えて放課を迎え、帰り道にイイ感じの石を鞄に詰め込みながら帰宅し、木の剣と一緒に放り込んで石の剣をさっさと製作した。
正直木の剣よりも脆くて折れそうだったので、緩衝材代わりのタオルで包んで安全な場所に安置しておく。
一応ゲーム的には木の剣よりは強いのだが……とてもそうは見えなかった。
まぁ何はともあれ。
石の剣が作れたのなら、今度はいよいよ第一目標たる鉄の剣である。
鉄は木や石のそれと比べ、明確で確実な殺傷力と圧倒的な耐久性を持ち、尚且つ加工性と生産性に優れるため、海外でも日本でも好んで作成された。
特に日本では古代から近世にかけて、主に『たたら製鉄』という手法で大量生産されていた。
色々と細かいところはあるが、要するに砂鉄を使って鉄を作る方法である。
そして、それによって作られた鉄が、刀に使われたりしたわけだ。
つまり、砂鉄から剣を作るのは古代日本から続く伝統的な作法なのである。
だから砂鉄を集めようとする俺は何も間違ってはいない。
まるで犬でも散歩させるが如く磁石を紐で引っ張る俺は、何も間違っていない。
何よりこれは最終的に世界を救う事にもつながる、名誉ある行為である。
そのはずなのだが。
「ママー、あれなにしてるのー?」
「砂鉄集めかしら。何か実験とかするのかしらねぇ」
どうしてこんなに周囲の視線が気になってしまうのだろうか。
何故だろう。中学生なのに小学生の自由研究みたいなことしてるからだろうか。
「クソ、さっさと目標量を集めきって、こんなことさっさと終わりにしてやる……!」
と、そう意気込んで公園内を駆けずり回る俺。
だがしかし。
「存外に集まらねぇ……」
小さな磁石とビニール袋では、どうにも効率が悪いらしい。
或いは、この公園の砂鉄が既に取り尽くされているのか。
放課後の時間をフルに使って公園を練り歩いて、漸く百均で勝ったガラス瓶が一つ埋まる程度。
だが、これだけ集めても、これが一個の『鉄』判定されるかどうかは甚だ疑問である。
ゲームにおける『鉄』という素材アイテムは、店で購入するか、ダンジョンを探査ることで手に入るものだった。
鉄原石っぽい感じの、ごろっとした石のような形だ。
しかし、今の段階の俺でそんなものが手に入るわけも無し。
だからこうして砂鉄集めに興じているわけだが……
さて、こういう場合における『一個』の判断基準は、どうなるのだろうか?
砂鉄という素材は無かったが、粉や液体状の素材自体は、ゲーム内では登場した。
ただ、それは勿論データで管理されていて、瓶詰にされた状態や升に盛られた状態で、一塊のアイテムとして扱われていた。
翻って、現実世界ではどうだろうか。
粉は混ぜても分けても粉だし、液体でもそれは同様だ。
明確にこれだけの量があったら『一個』とカウントしますよ、という基準がない。
粉の一粒や一滴の雫が『一個』であるわけがないのは感覚でわかる通りだが、それがどれだけ集まったら『一個』であるとカウントしてくれるのか、そこがどうしてもわからない。
木の枝での検証で分かった通り、ある程度は釜の方が融通を聞かせてくれそうだが……
「……まぁいい。まずはやってみるところからだな」
と、そう意気込んで、俺は砂鉄集めに励むのだった。
ちなみに結果から述べると、目標にしていた量が集まるまでに、一週間近くかかった。
普通に苦行だった。
家の近くの公園だけではダメなのではと色々な公園を練り歩いて砂鉄を集めたが、もうこの辺りにある公園の砂鉄は全部俺が回収してしまったのではなかろうか。
三日目くらいから段々増えて来た砂鉄の入れ物に、父からは懐疑の視線で見られたし。
公園の常連さんみたいなお爺さんお婆さん達には『この公園にもいるよアイツ……』みたいな顔をされたし。
っていうか子供に『あのお兄ちゃんまたいるー!』って実際に言われたが。
そんな精神的苦痛にも負けず、最終的には体積にして約4L分の砂鉄を集めることが出来た。
これだけあれば、流石に足りるだろう。
「さて、それじゃあ早速」
錬金釜の蓋を開け、砂鉄と石の剣をブチ込み、閉めて魔力を込める。
光を放ち、音を立てて錬金釜は作動し始め──────完了を知らせる音が鳴った。
「完成してるか? どうだ?」
若干の不安を抱えながら、蓋を開ける。
これでダメだったら、今後粉系の素材を使う時のために再トライしなきゃいけないとか、そんなことを考えながら、中身を覗く。
……いやマジで嫌だ。
もう二度とあんな苦行したくない。
これ以上やるくらいならホームセンターとかで鉄製の物品買って入れる。
マジで成功してくれ頼むからマジで本当に頼む頼む頼む……!
「……ッしゃごらァ! 成功ォ!」
釜の中には、立派な鉄製の両手剣が一本、収まっていた。
思わずガッツポーズが出てしまう。
本当に良かった。もう二度とやりたくなかったから。
「……しかし、デケェな……鉄の量が多すぎたからこうなったのか? それとも一定値を超えたら鉄の量関係なく『鉄の剣』に該当するものが出来上がるのか?」
当然ながら、鉄の剣は非常に重たい。
まだ未熟な中学生ボディでは、釜の中から取り出すのも一苦労だ。
ひーこらひーこら言いながら、てこの原理とかを用いて何とか鉄の剣を取り出す。
その時だった。
ドチャリ。
何かが落ちる音がして、音のした方を見れば、そこに居たのは買い物袋を取り落とした父。
…………そういえば。今日は帰りが早いとか言っていたか。
先に家に帰って、買い物にでも行っていたのだろう。
「……なぁ、お前、それ……何を、作った?」
「え? あー……鉄の剣?」
……何ともまぁ、タイミングが悪い。
そんなことを思いながら、珍しく焦ったような表情を見せて動く父を眺めるのだった。