時刻は深夜0時。
普段なら健康優良児たる俺もすっかり就寝している時間帯だ。
だが、今日に限っては寝る暇も惜しい。
普段は滅多に飲まないエナドリを胃に流し込み、椅子に座って、ひたすらに希月さんから貰った情報を噛み締めていた。
肉体的に疲れ果てた大人二人と、精神的に疲れ果てていた希月さんは既に就寝済み。
今この家で起きているのは、俺だけだ。
「…………さて、最初に想定していた数千倍はマズい事になったよなァ……」
明確にヤベェ情報が出て来た。
メーティスは殺された。
つまり、メーティスを、『叡智の神』を、殺した連中が居る。
アレは単に生かされた神だ。辿り着くことさえできれば、そこまで殺すことは難しい事じゃない……が、逆に言えば辿り着くだけの実力と、そのための知識を持ち合わせていたって事だよなァ……
「うん、マズいどころの騒ぎじゃねェ」
何がマズいって実力もそうだが知識の方もマズい。
『叡智の神』が殺された時点で『禁忌』について知っていないわけがない。
アレは知られているって時点でアウトな代物だ。
一歩間違えれば、第二第三の『災厄』が生まれてしまう。
「けど、実行する気は無い……で、確定で良いだろうな」
数十年前には既に『賢者』とやらが存在していたのは確定で、そのタイミングで『組合』に接触したとして、その時にはもうメーティスが殺されていたのなら、『禁忌』を完遂するにしては不可解な行動が多い。
特に素材関連なんかがそうだ。莫大な素材が必要になる『神器』を作るのなら、『神器』の存在だけ教えてリソースの取り合いをさせるより、テキトーに流通でもさせつつ素材を回収するのが一番都合がいい。
メーティスだって、殺す理由は皆無に等しい。ってか皆無だ。
アレはゲーム的に言えば便利NPC的な立ち位置だったが、設定を考えるとどちらかと言えば、『禁忌』を完遂した後に必要になる存在だ。
だからこそ、他の神々が殺されても生かされたわけだからな。
で、じゃあ『禁忌』の完遂が目的でも無いのに何故『聖剣』を折り、メーティスを殺したのか、って話になる。
そこから可能性を潰していけば、残るのは……
「多分、『災厄』の到来と世界の崩壊、だよなぁ……」
俺に言わせてもらえば、イカれているとしか思えないが。
解釈によっては……ってか、『災厄』のモチーフを考えると、多分、到来を望む人間が複数出てもおかしくはない。
そうなると、世界を滅ぼそうとしている連中も自ずと見えて来る。
いやはや迷惑極まりない。
ああ本当に迷惑極まりない。
「壮大な自殺に世界を巻き込むんじゃねーよマジで……」
仮に俺がこの言葉を、俺の頭の中に思い描いている連中に言ったとして、運命だのあらかじめ決まっていたことだの、そんな下らない事を言ってくるのだろう。
だが、お前らが待ってるソレはそんなんじゃねーから。
人の手で作り出された、ただの『失敗作』だから。
それに殺されたところで、『その先』なんて望めるわけもないから。
そんなものに殺されて終わるとか、絶対に御免被る。
何が何でも、絶対に『聖剣』は作らねばならない。
「……けど、場合によっちゃあ『聖剣』以外にも色々作る必要がありそうだよなァ……」
俺が今思い描いている通りの連中が敵なら、『聖剣』作成の途中で絶対に感付かれる。
だから最低限、そいつらの妨害を乗り越えるための武力も必要になるだろう。
場合によっては、それこそ『神器』まで作る必要さえあるかも知れない。
「一応、時間はまだあるんだよな、多分」
不幸中の幸い、とでも言うべきか。
連中は現在、時間稼ぎのための籠城戦の段階に入っていると思われる。
何せ連中からすれば、後はその時を待つだけ……というか、待つしかできないのだから、変な動きをする必要も無く、ただじっとしていればいい。
たまに動くとすれば、目論みが台無しにならないようにだけ注意を払い、一番重要な情報だけ一線を引き、その線を越えた連中を片っ端から殺し尽くす程度。
希月さんの前世たちは、そうして連中の引いた線を越えてしまったから殺されたのだろう。
しかし逆に言えば。
それはその一線さえ越えなければ問題ない、という事でもある。
そしてここに居る俺は、連中が引いた一線の先で後生大事に守っているであろう情報以上のものを、幾つも抱えているわけだ。
なら、ある程度は好きに動ける。
流石にヤバいと思われたら一線を越えずとも刺客が俺達にも放たれるんだろうが……
そこに関しては俺がコントロールするしかあるまい。
「さぁて、ヤバい事になって来たぞ。派手にやって目立ち過ぎたら終わり、地味にやりすぎてタイムリミットが先に来ても終わり。要は世界の命運を賭けたチキンレースってわけだ」
そして、その舵取りをしなくてはならないのが、俺、と。
いやはや、責任が重いことこの上ない。
元々俺の責任は重かったはずだが、それが更に上乗せされたような気分だ。
こうなったらもう中学校とか行ってる場合じゃないな。
これだけデカい問題に比べれば、テストとかマジでどうでもいい些事にしかならない。
俺は、俺にやらねばならない事に注力しなくては。
「必須なものを取りに行った後は、暫く『神薙派』の方に専念すべきか。早急に『組合』ごと取り込んでしまおう。俺の見立てが正しけりゃ、国単位で動く必要もありそうだし」
こうなるなら、ケイコさんとリコさんがウチに攻め込んできてくれたことはむしろ幸運でさえあった。
あの二人が、特にケイコさんが居てくれるだけで、出来そうなことの範囲がドカンと広がる。
「それじゃあ、やるか」
世界を救う前に、邪魔な連中をぶっ飛ばしてやろう。