気が付くと、俺は朝の日差しの中で机に突っ伏していた。
いつの間にか寝落ちしていたらしい。
どうやら俺の健康的な肉体は、エナジードリンクによる妨害があっても関係なく睡眠に落ちることが出来るらしい。
「ぐおぉ……」
しかしそれにしても体が痛い。
机で寝るのは授業中にもちょくちょくやっていたが、しかし数時間もぶっ続けで寝ればこうも体がガッチガチになるものなのか、と。
そんなことを思いながら体を伸ばし、立ち上がれば、既に起きてベッドに腰かけていた希月さんと目が合った。
「……おはよう、希月さん。良く寝れた?」
「おはよう岩井君。おかげさまでぐっすり眠れたよ。悪いね、ベッド占領しちゃって」
「いや、大丈夫。そっちはそっちで、親とかは……まぁ、大丈夫か」
「まぁね」
むしろ帰って来なくて良かったとすら思ってるだろ。
いや、帰って来なかったことを認識してるかどうかすら怪しい。
「どうする? 家に帰るか?」
「ンー……どうしようね? 正直、守ってくれる誰かが近くに居てくれるとありがたいんだが」
「だよなぁ……」
彼女も彼女で何がどうなって命を狙われるのか分からない身の上だし、こちらで保護した方が色々と都合が良いのは確かなんだが。
とはいえ流石に帰らなさすぎると監督責任とか色々ある。
子供が何をしようと知ったこっちゃないが、こちらに迷惑はかけるな、と言うのが連中のスタンスだ。だから流石にどこかのタイミングでアクションが……
あるかなぁ……正直どこで野垂れ死んでも知らん、みたいな顔しそうなんだよなぁ、俺の元親を基準に考えると。
……しかしまぁ、うん。どこかのタイミングで帰った方が良いのは間違いない。
流石に置手紙何なり、残しておく必要はあるだろう。
「取り敢えず、ウチの保護者達に色々説明するから、一緒に来て」
「ん」
と、そうして俺と希月さんは居間に移動すると、大人たちは既に起きていて、二人してニュースを眺めていた。
「おはよう」
「おー、おはよー」
「ああ。……結局、泊めたのか」
俺の後ろについて来る希月さんを見て、父が言う。
「二人がさっさと寝ちゃうからでしょうが。あの時間に帰して補導されても嫌だったし」
「……まぁ、そうだな」
「すみません、ユウジさん。勝手に泊まってしまって」
「……親に、連絡はしたか。あまり心配させないように」
「あぁ、そこは大丈夫です。あれらは私の心配なんて微塵もしませんので」
「彼女の親はネグレクトを敢行中とのことだ」
「……」
父が親らしいことを言ったと思ったら、まさかの事実を突きつけられて押し黙ってしまった。
しかしまぁこれは流石に仕方ない。
父が語ったのは極めて常識的な一般論であり、流石に初見で彼女がそれの適用されない特殊な環境下にいる、という事を見抜けと言うのは無理な話だ。
「……あ、結構キレてる」
「そういうの許せないタイプだもんな、父さん」
「そーなんだよなー。で、リツト君。今日の朝飯は?」
「カレーとサバを選べる」
「じゃあカレー大盛」
「……俺も、カレーで頼む」
「あ、ちゃんと返事はするんだね」
気分が悪いからって周囲の空気が悪くなるようなことはしないからね、マイファーザー。
キレてるってのも、俺達が勝手に雰囲気から読み取ってるだけだし。
「希月さんはどうする?」
「あ、私もご相伴に与っていいのかい? それじゃあサバで」
「んじゃ俺もサバにするかね」
と、そうして朝食を用意して、四人で食卓に着き、黙々と飯を食べ終わる。
話し合いフェーズはそれからだ。
「先ずは紹介する。俺と同じく前世持ちをやっている、希月チエさんだ」
「ご紹介に与った希月チエ、前世持ちです、宜しくお願いします」
「おおう、サラッとすごい情報が」
「もう驚かん」
どうやらここ最近で二人にも耐性がついて来たらしい。
前世持ちがもう一人増えた程度では、もうそこまで驚くことも無いようだ。
いい兆候である。
「いやーしかし、リツト君と同じかぁ……そりゃあ波長も合うわけだ……っと、すまんすまん、俺は黒橋タクマな、よろしく」
「岩井ユウジだ。宜しく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
と、互いに頭を下げる。
流石は希月さん、礼儀もバッチリである。
「じゃあ自己紹介も終わったわけだけど……まず最初は希月さんの今後について話そうか」
「……まさかと思うが、彼女も仲間に……?」
「うん。正直彼女を取り巻く環境が結構特殊でね、出来ればこっちで保護したい」
「ネグレクトの話か?」
「いや、それだけじゃない。えーと、希月さん、説明を頼む」
「あぁ」
と、希月さんに話を振れば、彼女がここ数日で体験した事について語り始める。
教会に赴いた事から、前世の希月さん達が殺される夢を体感形式で見た事、そのことを俺に相談しようと思ったが学校に居なかったので、家まで来た事。
それら全てを細かに説明した。
勿論、メーティス云々の話は省いてある。
「……成程なぁ、そりゃあ確かに、厄介な感じがするなァ。特に毎回毎回刺客に殺されてるってのが怖ぇ。多分アレだろ? 何かこう、こう言う事を調べろ、みたいな内容が刷り込まれてたりするんだろ?」
「恐らくは。記憶を見る限り、大体の私は今の私と同じような性格を踏襲しているようですし、何かしらの暗示のようなものがかかっていると思われます」
「……だから、リツトだったわけか」
「多分ね」
彼女の知識欲は、それこそ越えちゃいけない一線を、殺されるだろうと分かっていながら何度も踏み越えてしまう程には強い。
普段であればその知識欲は、教会に関する調査などに向くのだろうが、今回はそれら全ての答えを知っていそうな俺が近くにいた。
だからこそ、彼女の知識欲は俺に向いたのだろう。
「だからまぁ、うん。色々なことを考えて、俺の近くにいた方が良い、って気はするんだよね」
「……お前がそう判断したのなら、俺は特に文句は無い」
「俺も異議なしかな」
「ん、じゃあそれで行こう。ってなわけで希月さんは今日から俺達の仲間って事で」
「いきなり仲間って言われても困るんだが……どういう仲間なんだい? これは?」
「あー、それじゃあ説明するよ」
と、現在開示可能な『聖剣』やら『災厄』やらの情報について、彼女に伝える。
すると、希月さんは中盤辺りから頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
「……大丈夫か?」
「ちょーっとだけ情報を整理する時間を貰っていいかい……?」
希月さんは突っ伏したまま、呻くようにそう呟いた。
しかし取り敢えず、俺の言った『仲間』という言葉の意味は痛感したらしい。
「えー……? あぁ、じゃあ昨日リツト君が言ってた世界を滅ぼす云々って……?」
「そういうこと。……あぁ、そうだ。二人にも共有しておかなきゃならない事があるんだった」
「ん?」
「何だ」
「俺達の明確な敵対組織が居る」
「「!」」
俄かに、二人の表情が険しくなる。
「……前にも『賢者』云々の時に似たような話があったな。確定で良いのか?」
「『賢者』が所属しているか否かは確定してないけど、多分ほぼ確実」
「規模は?」
「俺の予想が正しければ、超巨大。……まぁ、その構成員全員が『錬金』とか『聖剣』とかを把握しているわけじゃないとは思うけど」
ってかそうだったらもうほぼ詰みでしかない。
が、流石に情報統制の観点からそんなことはないと思われる。
教義的には『錬金』を悪しともしてるわけだし。
「んで……それが分かったから、どうなる?」
「二人がやる事は今までとはあんまり変わらない。ただ俺の考えることが増えた、ってくらいかな。『聖剣』を作るにあたって邪魔すぎるし」
絶対にどこかしらのタイミングではぶつかることになるから、その時に備えて戦力を増強しなきゃいけないし、下手すりゃ戦争みたいな事になるから頭数とか必要だし、国規模の相手だからこっちも国単位で動かなきゃヤバそうだしと。
まぁ、色々だ。
「んで、それを受けて、暫く俺は『神薙派』の方に注力したいんだよね。『派閥』がデカくなってくれた方が色々と出来るから」
「俺達はどうする?」
「やっぱり素材集め、だけど……死霊・アンデッド系とかって、ケイコさんたちが今集めてるんだよね?」
「あぁ、そうだ」
俺を襲撃したことの落とし前として、そんなことをやらせている、みたいなことを確か聞いた気がしたが、事実だったらしい。
ここに素材が運び込まれていない、ということは神薙家のどこかで保管されているのだろうが……とんでもない悪臭を放っていそうだ。
業務用冷蔵庫とかあれば話は別だろうが……まぁ、うん。
とりあえずマスクと鼻栓は用意しておこう。念のため。
「えーと、それじゃあ……そうだなァ……うん、今日休んだら、無理しない範囲で『
「ウッソだろお前!? またあの地獄やんの!?」
「『魔晶石』なんていくらでも必要なんだからそんなもの。あとついでに『銀』とその他レアな鉱石が欲しい。『ミスリル』とか」
「そりゃあ、まぁ、うーん……いやいい、分かった。集めて来るわ」
「お願いね。集まったら二人の防具とかも新しくするから」
「おっ、マジ? イイじゃんやる気出るわそういうの」
まぁ実際、装備を強くするって目的が無ければやる気で無いからね『
「で、希月さんは置手紙でも何でもとりあえず親に連絡をしてもらって……あ、そうだ、学校」
「あぁそうだ、そういや学校どうすんの?」
「休学で頼む。流石にこの状況下で暢気に学校は行ってらんない」
「……じゃ、私も休学でいいか。親に伝えておくよ」
「それで……まぁ、いいのか、人生二週目とn週目だし」
「親としては複雑だがな」
まぁうん、ごめんな父さん。
そりゃ行った方が良いってのは分かってるんだけど、流石にムリだ。
「んじゃ、とりあえず、今日は二人は父さんに俺の休学を学校に伝えてもらうって以外は休養で、希月さんは親に連絡ってことで」
「ん」
「わかったよ」
「それはいいが……お前はどうするんだ?」
「あぁ、俺?」
色々とやっておきたいこともあるけど、取り敢えず今日は……
「神薙家に行って来るよ。素材の回収と……あとはまぁ、色々かな」
ロープと鐘も、もしかしたら使う事になるかも知れない。