迷宮編ifルート   作:宵ノ旅人

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pixivでも書いてましたが、ハーメルンでも書いてみようと思います。


届かなかった言葉 #1

※ルーデウス視点

 

――まずい。

そう思った時には、パウロが動いていた。

 

パウロが――死ぬ。

 

「……っ!」

 

考えるより先に体が動いた。

俺は地面を蹴った。

 

「ルディ!?」

 

パウロの声。

伸ばされた腕を掴む。

引く。

位置が入れ替わる。

ほんの一瞬だった。

 

「馬鹿野郎ッ!」

 

父親の声が聞こえた。

随分と久しぶりに聞いた気がした。

本気で俺を叱る声だった。

 

――ああ。

 

そういえば。

昔も、こんな声で怒られたっけ。

視界が暗くなる。

最後に見えたのは、パウロの顔だった。

泣きそうな顔。

そんな顔をするなよ。

 

親父。

 

俺は、ちゃんと――。

 

今度こそ。

 

家族を守れたんだから。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※パウロ視点

 

再生は――しない。

終わった。

すべての首を斬った。

すべて燃やした。

ヒュドラは、もう動かない。

 

「……終わった」

 

転移事件から約六年。

長かった。

振り返る。

ルディの姿がなかった。

 

「ルディ?」

 

パウロは立ち上がった。

みんな集まっていた。

誰も喋ってない。

全員が立ち尽くしている。

嫌な予感がした。

 

「おい、どうした...」

 

近づく。

足が重い。

ロキシーが俺を見る。

その顔を見た瞬間。

心臓が止まりそうになった。

俺は見た。そこにいたのは。

 

「ルディ....」

 

「....は?」

 

理解できなかった。

近づく。

ルディが、ゆっくりと俺の方に目を向けた。

 

「おい」

 

返事はない。

 

「ルディ....」

 

ルディの口が開いた。

 

「良かった....」

 

それだけだった。

そのまま。

ルディは動かなくなった。

 

「……は?」

 

ロキシーが駆け寄った。

 

「ルディ!」

 

回復魔術。

 

何度も。

 

何度も。

 

「いや……」

 

ロキシーの声が震えている。

 

「いやいやいや……」

 

回復魔術を使い続ける。

 

「ルディ、また家族と一緒に……暮らせるのですよ……」

 

涙が落ちる。

 

「ブエナ村で暮らしていた時のように……」

 

ロキシーは泣いていた。

 

「だから……」

 

魔術を使う。

 

「こんなところで……寝ていてはいけません……」

 

また。

 

「だから……」

 

また。

 

「だから……お願い……します……」

 

誰も止められなかった。

 

俺も。

何もできなかった。

現実を受け入れられない。

 

やっと。

 

やっとゼニスを助けられるのに。

 

どうして。

 

どうしてルディが死んでいる。

 

違う。

 

死ぬのは。

俺だったはずだ。

 

エリナリーゼは動かなかった。

タルハンドも。

ギースも。

 

「……ルディ」

 

パウロが膝をつく。

息子の肩に手を置く。

 

「起きろ」

 

返事はない。

 

「終わったぞ」

 

何も返ってこない。

 

「ゼニスを助けられるぞ」

 

パウロの声が震えた。

 

「お前が来てくれたからだ」

 

静かだった。

 

「なあ」

 

パウロは笑おうとした。

 

「帰るぞ」

 

笑えなかった。

 

「シルフィが待ってんだろ」

 

ロキシーが俯いた。

 

「妹たちもいる」

 

エリナリーゼが目を閉じる。

 

「だから……」

 

パウロは息子を抱き上げた。

 

「帰るぞ、ルディ」

 

誰も答えなかった。

その後。

俺たちは結晶からゼニスを解放した。

ゼニスは生きていた。

助けられた。

ずっと探していた妻だ。

六年だ。

六年間。

この瞬間を待っていた。

なのに。

何も感じなかった。

嬉しいはずだった。

抱き締めたかった。

泣きたかった。

だが。

俺の頭にあるのは。

最後に聞いた。

あの一言だけだった。

 

『よかった』

 

何がよかったんだ。

俺が生きていたことか。

ふざけるな。

俺なんかより。

お前が生きろよ。

ルディの亡骸を火葬し、

俺たちは帰路についた。

 

帰路で。

俺は何の役にも立たなかった。

ゼニスの世話。

周囲の警戒。

食事。

全部。

みんながやった。

俺は歩いていただけだ。

時々。

後ろを見る。

ルディがいるような気がした。

 

「父さん、どうしました?」

 

いつもの妙に丁寧な口調で。

そんなことを言う気がした。

だが。

いない。

何度振り返っても。

ルディはいなかった。

 

⸻

 

迷宮を脱出し。

俺たちはリーリャたちと合流した。

最初。

俺たちの姿を見たリーリャは。

本当に嬉しそうな顔をした。

 

「奥様……!」

 

リーリャがゼニスへ駆け寄る。

 

「よかった……奥様……!」

 

泣いていた。

喜びながら。

泣いていた。

当然だ。

ずっと探していた。

俺たちは。

ゼニスを助けたんだ。

 

「リーリャ」

 

俺は呼んだ。

 

「……一つ、言わなければならないことがある」

 

「はい……?」

 

リーリャが涙を拭う。

 

「なんでしょうか」

 

そして。

周囲を見る。

 

「……そういえば」

 

やめろ。

 

「ルーデウス様はどちらに?」

 

聞くな。

 

「パウロ様?」

 

俺を見る。

 

リーリャの表情が変わった。

 

「ま、まさか……」

 

「……ルディが死んだ」

 

静かになった。

さっきまで。

ゼニスが帰ってきたと。

喜んでいた。

その空気が。

一瞬にして。

地獄に変わった。

 

「……え?」

 

リーリャが呟く。

 

「今……なんと……」

 

「ルディが死んだ」

 

もう一度言った。

言いたくなかった。

だが。

言わなければならなかった。

リーリャの顔が歪んだ。

 

「嘘……」

 

「……」

 

「嘘です」

 

俺は何も言えない。

 

「ルーデウス様が……?」

 

リーリャは泣き出した。

俺は。

見ていられなかった。

 

逃げた。

 

その場から。

すぐに部屋へ向かった。

扉を閉める。

一人になる。

 

「……ルディ」

 

壁にもたれる。

 

「なんで」

 

力が抜ける。

 

「なんでお前が死ぬんだよ……」

 

俺は。

何をやっている。

 

「死ぬのは俺だろ……」

 

ヒュドラに挑む前。

息子に言った言葉を思い出す。

 

『死んでも母さんを助けろ』

 

言った。

 

俺が。

ルディに。

 

俺が言った。

そして。

現実になった。

ルディは。

母親を助けた。

死んでも。

ゼニスを助けた。

 

「……違う」

 

こんなつもりじゃなかった。

 

「違うんだよ……ルディ」

 

俺は何をやっているんだ。

ようやく幸せになろうとしていた息子を呼び出した。

 

結婚した。

 

子供も生まれる。

 

これからだった。

これから。

幸せになるはずだった。

 

そんな息子を。

俺たちが呼んだ。

戦いに巻き込んだ。

そして。

 

死なせた。

 

しかも。

俺のせいだ。

俺が油断した。

俺がヒュドラから目を離した。

俺が。

ルディに庇われた。

 

「俺が……」

 

俺が死ねばよかった。

ルディじゃない。

俺だ。

 

「……ルディ」

 

返事はない。

当たり前だ。

もう。

二度と返事はない。

俺は。

どうしようもないことをしてしまった。

妻を助けるために。

息子を死なせた。

ゼニスは帰ってきた。

俺も生きている。

なのに。

ルディだけが。

帰ってこない。

 

「……どうやって」

 

シルフィに。

なんて言えばいい。

ノルンに。

アイシャに。

なんて言えばいい。

もうすぐ生まれる。

ルディの子供に。

なんて言えばいい。

 

『お前の父親は、俺を庇って死んだ』

 

そんなことを。

俺の口から。

言うのか。

 

「……無理だ」

 

帰りたくない。

帰れない。

だが。

帰らなければならない。

俺は。

ルディの父親だから。

息子を死なせた父親だから。

俺が。

伝えなければならない。

俺が。

全部。

背負わなければならない。

そう思っていた。

この時はまだ。

シャリーアに帰った先が。

ここよりもさらに地獄になるなんて。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

※ロキシー視点

 

ロキシーはベッドに座っていた。

ルーデウスの杖を抱えていた。

 

「……私が」

 

声が出た。

 

「私が迷宮で失敗しなければ」

 

エリナリーゼが顔を上げる。

 

「ロキシー」

 

「私が転移魔法陣を踏まなければ」

 

「やめなさい」

 

「ルーデウスは来なかった」

 

「やめなさい!」

 

珍しく、エリナリーゼが声を荒らげた。

ロキシーは黙った。

 

「それを言ったら……」

 

エリナリーゼの声が震える。

 

「私だって同じですわ」

 

クリフの顔が浮かぶ。

シャリーア。

大学。

あの家。

ルーデウスの家。

 

「私がルーデウスを連れてこなければよかった」

 

ロキシーが顔を上げた。

 

「エリナリーゼ……」

 

「私が一人で来ればよかった」

 

「それでは……」

 

「わかっていますわ!」

 

エリナリーゼは拳を握った。

 

「わかっています……」

 

勝てなかった。

 

ルーデウスがいなければ。

ロキシーを救えなかった。

ゼニスも救えなかった。

きっと全滅していた。

わかっている。

だからこそ。

 

「どうして……」

 

エリナリーゼは俯いた。

 

「どうして、あの子なのですの……」

 

ロキシーは答えなかった。

答えられなかった。

 

⸻

 

 

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