迷宮編ifルート   作:宵ノ旅人

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結構センシティブです。こうなるだろうなぁっていう感じで書きました。


届かなかった言葉 #17

【バッドエンド√――届かなかった言葉】

 

もしあの日の夜。

シルフィがルーデウスの部屋の扉を開けていなかったら。

もし、あの日記が見つかっていたら。

誰も、ルーデウスが何を考えていたのかを知ることはなかった。

誰も。

彼が何を怖がっていたのか。

何を後悔していたのか。

誰に何を伝えたかったのか。

知ることはなかった。

原作の世界では地下室を開けることが、すべてを変えるきっかけになった。

地下室を開けた先にあったものが、未来を壊した。

けれどこの世界では逆だった。

開けなかったルーデウスの部屋を。

だから未来は、少しずつ壊れていった。

誰も気づかないまま。

一人ずつゆっくりと。

 

【シルフィ】

 

ルーデウスがいなくなってからシルフィは、変わった。

最初の頃は、まだ家族と話していた。

ルーシーの世話もした。

食事も作った。

必要なことは、ちゃんとやった。

パウロやリーリャ。

ゼニス。

アイシャ。

ノルン。

周囲の人間も、できる限りシルフィを支えた。

けれど時間が経つにつれて。

シルフィの口数は、少しずつ減っていった。

 

「シルフィ、今日は少し休んだら?」

 

「……うん」

 

「ルーシーは私たちが見てるから」

 

「……ありがとう」

 

それだけ笑うことも減った。

外へ出ることも減った。

そしてルーデウスの話をすることも、なくなった。

ただ一人ルーシーだけを見ていた。

 

「ルーシー」

 

「……」

 

「大丈夫だよ」

 

何が大丈夫なのか。

誰にも分からない。

ルーシーが成長しても。

シルフィはずっと、ルーシーのそばにいた。

その愛情は、次第に歪んでいった。

 

「外に行かなくてもいいよ」

 

「危ないから」

 

「お母さんがいるからね」

 

ルーシーが友達と出かけようとしても。

シルフィは不安そうな顔をする。

 

「……帰ってきてね」

 

「もちろんだよ」

 

「絶対?」

 

「絶対」

 

それでもシルフィは安心できなかった。

ルーデウスを失ったことで生まれた穴を。

ルーシーで埋めようとしていた。

けれどルーシーはルーデウスではない。

シルフィも、それは分かっていた。

分かっているのに。

離れることが怖かった。

そしてルーシーが成人した日。

シルフィは静かに笑った。

 

「……これで」

 

「お母さん?」

 

「ううん」

 

シルフィは首を振る。

 

「なんでもないよ」

 

それからルーシーが家を出て。

一人で生きていけるようになった頃。

シルフィは、ようやく自分の中に残っていた最後の役割がなくなったことに気づいた。

ルーシーを守る。

それだけをずっと生きる理由にしていた。

その理由がなくなった。

シルフィは長い間閉じていたルーデウスの部屋を見つめる。

 

「……ルディ」

 

数人しかいない家で小さく呟く。

 

「やっと……」

 

その先の言葉を誰にも聞かれることはなかった。

そしてある日、リーリャがシルフィの部屋を開けると....

 

シルフィエット・グレイラット 自殺

 

【エリス】

 

エリスは旅を続けた。

剣を振る。

魔物と戦う。

依頼をこなす。

新しい場所へ行く。

強くなる。

それでも何かが足りなかった。

 

「……ルディなら」

 

危険な場所に立つたび。

そう思った。

 

「あの人なら、どうする?」

 

 

そう呟いた。

エリスは、いつ何時ルーデウスのことを忘れなかった。

忘れられなかった。

だから旅を続けた。

いつかどこかで。

もう一度、ルーデウスのように笑える日が来ると思っていた。

けれどその日は来なかった。

 

エリスは後ろの敵に気づかなかった、

背中を刺される走馬灯にルーデウスのことを思い出す。

「ルーデウス...私あなたに追いつけたかしら...」

 

剣王 狂剣エリス 死亡

 

【ロキシー】

 

みんなと別れた後、フィットア領転移事件の手伝いをしていたが、ある人に「とても古い迷宮があり、宝物がいっぱいあるよ」と言われてロキシーは一人で迷宮へ向かった。

ルーデウスがいなくなった世界で。

自分にできることを探していた。

誰にも大きく語られることのない旅だった。

ロキシーは消息を絶った。

捜索は行われた。

けれど彼女が戻ってくることはなかった。

師匠として。

魔術師として。

そして一人の人間として最後まで戦い続けた。

 

そう迷宮に行くことをそそのかした人はヒトガミの使徒だった。グレイラット家との運命力を恐れ、ロキシーを始末したのであった。

 

ロキシー・ミグルディア 消息不明

 

【パウロ】

 

パウロは再びフィットア領転移事件の行方不明者の

捜索に戻った。

 

「まだ、見つかってない奴がいる」

 

それが理由だった。

けれど心は、もう限界に近かった。

息子を失った。

家族を守れなかった。

それでも捜索だけは続けた。

夜になると溺れるように酒を飲む。

朝になれば仕事へ行く。

また夜になる。

酒を飲む。

その繰り返しだった。

周囲は何度も心配した。

 

「パウロ、もう休め」

 

「大丈夫だ」

 

その言葉を何度も繰り返した。

だが大丈夫ではなかった。

年月が経ち。

身体にも無理が積み重なった。

病気が見つかった時にはもう長くはなかった。

治癒魔術でも歯が立たなかった。

 

「……ルディ」

 

最後までパウロの口から出る名前は息子の名前だった。

 

パウロ・グレイラット 病死

 

 

【リーリャ・ゼニス・アイシャ】

 

この三人だけは最後までルーシーのそばにいた。

ゼニスは言葉が少なくなっても。

リーリャは変わらず家を支え。

アイシャは仕事をしながら。

できる限りルーシーを見守った。

 

「ルーシー」

 

「はい」

 

「あなたのお父さんはね」

 

アイシャは何度も話そうとした。

でも途中で言葉が詰まる。

何を話していいのか。

分からなかった。

なぜなら。

彼女たちもルーデウスの本当の気持ちを知らなかったからだ。

 

 

【ノルン】

 

ノルンは一度、立ち直ったように見えた。

笑うようになった。

普通に話すようになった。

学校にも通った。

けれど心の奥にはずっと穴が残っていた。

私が言ったせいで、ルーデウスが死に、エリナリーゼが消息を断ち、アリエルもいなくなった。

そのせいでシルフィは...

 

「……」

 

食卓。

アイシャ。

向かい。

アイシャがノルンを睨む

 

「何?」

 

「別に」

 

視線。

ノルンは俯く。

アイシャ。

何も言わない。

だがわかる。

兄。

ルーデウス。

 

ベガリット大陸。

 

「私が」

 

行けそう言った。

父 酒

母 反応しない

シルフィ 笑わない

ルーシー。

父親を知らない。

 

「……」

 

ノルンが立つ。

 

「ごちそうさま」

 

「ほとんど食べてないよ」

 

「いらない」

 

「……そう」

 

その声。

冷たい。

そう。

聞こえた。

本当は違ったのかもしれない。

アイシャも疲れていた。

だがノルンにはもう確かめる力がなかった。

 

夜。

荷物が少し。

 

「ノルン?」

 

パウロ。

 

廊下。

 

「どこ行くんだ」

 

「……旅」

 

「は?」

 

「旅に出る」

 

「馬鹿言うな」

 

「……」

 

「今は」

 

パウロが言う。

 

「家族で」

 

ノルンが笑った。

 

「家族?」

 

パウロが止まる。

 

「お父さん」

 

「……」

 

「私を見ると」

 

「……」

 

「お兄さんを思い出すでしょ」

 

「違う」

 

「嘘」

 

「ノルン!」

 

「お母さんは」

 

「……」

 

「何も言わない」

 

「……」

 

「アイシャは」

 

声。

震える。

 

「私を」

 

「……」

 

「嫌ってる」

 

「違う!」

 

「シルフィお姉さんは」

 

「……」

 

「壊れた」

 

涙。

 

「全部」

 

「……」

 

「私が」

 

「ノルン!」

 

「私がお兄さんを行かせたから!」

 

叫ぶ。

静か。

 

「……」

 

ノルンが扉を開く。

 

「もう」

 

「……」

 

「ここに」

 

「……」

 

「いられない」

 

出る。

パウロは追わなかった。

追えなかった。

長い旅。

偶然。

 

スペルド族の村。

 

「……ノルン?」

 

声。

ノルンが振り返る。

 

「……」

 

緑の髪。

額。

宝石。

 

「ルイジェルド……さん?」

 

その瞬間。

ノルンは泣いた。

子供のように泣いた。

ルイジェルドは何も聞かなかった。

二人は家族になった。

娘が生まれた。

ノルンは初めて自分にも家族を作れる。

そう思った。

しかし。

 

疫病。

 

「ルイジェルドさん」

 

「……」

 

返事。

弱い。

 

「大丈夫」

 

ノルンが手を握る。

 

「今度は」

 

「……」

 

「私が」

 

「……」

 

「いるから」

 

ルイジェルドは静かに目を閉じた。

そして早くにこの世を去った。

その後、ノルンと娘もルイジェルドと同じ疫病に倒れた。

 

ルイジェルド・スペルディア 疫病にて死亡

ノルン・スペルディア    疫病にて死亡

娘             疫病にて死亡

 

 

【ザノバ】

 

ザノバは最後まで信じていた。

 

「師匠なら大丈夫でしょう」

 

その言葉を何度も口にした。

けれど師匠は帰ってこなかった。

 

「……私は」

 

ザノバは人形を作った。

来る日も来る日も。

 

「師匠なら、どう評価するでしょう」

 

そう言いながら。

作り続けた。

けれどどれだけ完成度を上げても。

見せる相手がいない。

ある日ザノバは完成した人形を見つめる。

 

「……師匠」

 

返事はない。

その時パックスから召集がかかった。

戦争。

ザノバは迷った。

また自分の選択で誰かを失うかもしれない。

それでも今回は。

 

「もう、間違えたくない」

 

そう言った。

ジュリエットと。

ジンジャーと。

共に戦場へ向かった。

 

その後

 

ジュリエットが捕虜になった。

ザノバとジンジャーはジュリエットを助けるために敵の戦地に向かい、敵の攻撃を受けザノバとジンジャーは致命傷を負った。

 

「師匠、私はよくできたでしょうか...」

 

そういい敵の戦地にて死亡した。

ジュリエットは脱走を図り死亡

 

ザノバ・シーローン 戦死

ジンジャー・ヨーク 戦死

ジュリエット    死亡

 

【クリフ】

 

クリフはエリナリーゼとの破局から立ち直れなかった。

自分のプライドも尊厳も何もかも。

ズタズタになった。

帰国してからも思うようには出世できなかった。

 

「俺は……」

 

何度も自分に問いかけた。

 

「何を間違えたんだ」

 

答えは出なかった。

そしてクリフはその答えを見つけられないまま。

長い人生を終えた。

 

 

【ナナホシ】

 

ナナホシも帰る場所を失ったままだった。

ドライン病に罹った。

治療に必要なソーカス草は手に入らなかった。

 

「……帰りたい」

 

故郷を思いながら。

何度も何度もそう呟いた。

けれど帰る方法は最後まで見つからなかった。

徐々に衰退して死亡した。

 

ナナホシ・シズカ 病死

 

【リニア】

 

リニアは商人になった。

 

「私ならできるにゃ」

 

そう思っていた。

けれど現実は甘くなかった。

商売は思うようにいかない。

判断を誤る。

そして詐欺に遭った。

気づいた時には多額の借金を抱えていた。

返せない働いても働いても。

追いつかない。

そして逃げ道を失ったリニアは奴隷として売られることになった。

それから誰かに買われることもなく長い時間を過ごした。

 

ふと昔の記憶を思い出す。

あの頃は毎日が騒がしかった。

 

「ボス」

 

そう呼んで怒られて笑って。

くだらないことで騒いだ。

もう戻れない。

そのことだけが静かに胸へ沈んでいった。

 

リニア・デドルディア 餓死

 

 

【プルセナ】

 

プルセナは故郷へ戻った。

族長になる。

その道を歩もうとした。

けれど。

雨季。

食料が不足した。

空腹に耐えられず。

食料を盗み食いしてしまった。

それがきっかけとなった。

プルセナは投獄された。

 

「……私は」

 

牢の中で呟く。

 

「族長になるはずだったのに」

 

返事はない。

あの頃。

リニアと一緒に騒いでいた日々も。

ルーデウスに怒られていた日々も。

全部遠い昔になっていた。

 

 

【そして】

 

一人また一人。

ルーデウスの周りにいた人間たちはいなくなっていった。

死んだ者。

離れた者。

壊れた者。

生きていても心のどこかを失った者。

誰もルーデウスの日記を読んでいない。

だから誰も知らない。

ルーデウスが「怖い」と書いていたことも

「帰りたい」と思っていたことも

「家族に会いたい」と願っていたことも。

「子供が生まれるところを見たい」と思っていたことも。

誰も知らない。

伝わらなかった。

届かなかった言葉たち。

それらはルーデウスの部屋の中に閉じ込められたままだった。

 

 

原作では地下室を開けた。

そこから別の未来が始まった。

この世界では部屋を開けなかった。

だから始まらなかった。

誰もルーデウスの弱さを知らなかった。

 

誰も。

 

「泣き言くらい言っていい」と言えなかった。

 

そして誰も最後に残された言葉を聞かなかった。

 

 

もしあの日シルフィがルーデウスの部屋を開けていたら。

もしあの日記を見つけていたら。

もしみんなで読んでいたら。

 

「ルディは、そんな奴だったんだ」

 

「もっと頼って欲しかった」

 

「怖かったんだね」

 

「帰ってきたかったんだね」

 

そう言えたかもしれない。

 

けれど扉は開かなかった。

日記は見つからなかった。

言葉は届かなかった。

 

 

そしてこの世界の人々は最後まで知らない。

本当のルーデウス・グレイラットが

どれだけ家族を愛していたのか。

どれだけ帰りたかったのか。

どれだけ怖かったのか。

どれだけ。

 

「ただいま」

 

と言いたかったのか。

 

 

【BAD END】

 

届かなかった言葉は届かないまま。

誰の心にも残らなかった。

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