迷宮編ifルート   作:宵ノ旅人

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届かなかった言葉 #7

帰る場所へ

 

エリスは剣を握らなかった。

朝。

いつもなら誰よりも早く修行場にいる。

剣を振る。

走る。

倒れるまで戦う。

それがエリスだった。

だが今日は違った。

 

「……」

 

エリスは一人の男の前に立っていた。

剣神 ガル・ファリオン

 

「なんだ」

 

ガルが言った。

 

「修行はどうした」

 

「行くわ」

 

エリスは答えた。

 

「どこにだ」

 

「シャリーア」

 

即答だった。

ガルはエリスを見る。

 

「……あの魔術師か」

 

エリスの眉が動いた。

 

「ルーデウスよ」

 

「ああ」

 

「ルーデウス・グレイラット」

 

「知ってる」

 

ガルは面倒そうに頭を掻いた。

 

「死んだんだってな」

 

エリスの拳が強く握られた。

 

「……そうみたい。信じたくないけど確かめに行かなきゃ」

 

「そうか」

 

それだけだった。

エリスがガルを睨む。

 

「何よ」

 

「何がだ」

 

「それだけ?」

 

「あ?」

 

「ルーデウスが死んだのよ!」

 

ガルは黙ってエリスを見る。

 

「俺はそいつを知らねえ」

 

「……」

 

「お前から聞いただけだ」

 

「……」

 

エリスが歯を食いしばる。

 

「だが」

 

ガルが続ける。

 

「お前がここまで剣を振った理由は知ってる」

 

「……」

 

「そいつのためだろ」

 

「そうよ」

 

「なら行け」

 

エリスが目を見開いた。

 

「いいの?」

 

「止めてほしいのか?」

 

「違うわ!」

 

「じゃあ聞くな」

 

ガルは鼻で笑った。

 

「お前は剣王だ」

 

「……」

 

「俺が一日二日見張らなきゃ死ぬようなガキじゃねえ」

 

エリスは何も言わない。

 

「それに」

 

ガルが言った。

 

「今のお前に剣を振らせても意味がねえ」

 

「……何ですって?」

 

「斬りたい相手もわからねえ奴の剣なんざ、見ててもつまらん」

 

エリスの手が剣へ伸びる。

 

「やる?」

 

「ほらな」

 

ガルが笑った。

 

「いつものお前だ」

 

「……」

 

エリスは剣から手を離した。

 

「行ってくるわ」

 

「ああ」

 

「戻るかはわからない」

 

「好きにしろ」

 

エリスが背を向ける。

 

「エリス」

 

呼び止められた。

振り返る。

ガルはエリスを見ていなかった。

 

「剣王になったからって」

 

「……」

 

「全部守れると思うな」

 

エリスの顔が歪んだ。

 

「知ってるわよ」

 

小さな声だった。

 

「もう」

 

「……」

 

「知ってる」

 

エリスは歩き出した。

ガルはそれ以上何も言わなかった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

「私も行く」

 

剣の聖地を出ようとしたところでギレーヌが言った。

 

「当然よ」

 

エリスは答えた。

 

「……当然なのか」

 

「当然よ」

 

「そうか」

 

ギレーヌは少しだけ笑った。

 

「なら行こう」

 

二人が歩き出そうとした時。

 

「待ちなさい!」

 

声がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ニナだった荷物を背負っている。

 

「……何よ」

 

「私も行くわ」

 

「なんで?」

 

「なんでって……」

 

ニナが言葉に詰まる。

 

「私はルーデウスとちょっと見ただけだけど」

 

「……」

 

「あなたが毎日毎日毎日毎日!」

 

エリスを指差す。

 

「ルーデウス! ルーデウス! ルーデウスって!」

 

「そんなに言ってないわ!」

 

「言ってたわよ!」

 

「言ってない!」

 

「言ってた!」

 

ギレーヌが二人を見る。

 

「行くのか?」

 

「行くわ!」

 

ニナが叫んだ。

 

「そうか」

 

「ちょっとギレーヌ!」

 

「三人だな」

 

「……」

 

エリスはニナを見る。

 

「勝手にしなさい」

 

「そうするわよ」

 

三人は剣の聖地を発った。

目的地 魔法都市シャリーア

ルーデウス・グレイラットの家

そのはずだった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

「エリス」

 

ギレーヌが呼ぶ。

返事はない。

 

「エリス」

 

「……何よ」

 

「道が違う」

 

エリスが止まった。

周囲を見る。

知らない通り。

 

「……そう」

 

それだけだった。

また歩き出す。

ニナがギレーヌを見る。

 

「……大丈夫なの?」

 

「わからん」

 

「わからんって……」

 

ギレーヌはエリスの背中を見る。

 

「私も、こんなエリスは知らない」

 

ニナが黙った。

エリスは怒らなかった。

道を間違えたと言われても。

怒鳴らない。

ニナが話しかけても喧嘩を売らない。

剣にも触れない。

ただ歩いている。

ギレーヌはそれが怖かった。

エリスは怒る。

叫ぶ。

剣を振る。

フィットア領が消えた時も。

魔大陸でも。

ルーデウスと別れた時も。

エリスは剣を振った。

強くなる。

そう言って。

前へ進んだ。

だが、今は何もない。

 

「エリス」

 

「何よ」

 

「休むか?」

 

「疲れてないわ」

 

「そうか」

 

また。

 

歩く。

 

ギレーヌはエリスの手を見る。

震えていた。段々と不安になってきたのだろう。

何も言わなかった。

日が少しずつ傾いていく。

 

「エリス」

 

今度はニナだった。

 

「何」

 

「シャリーアに行くんでしょ?」

 

「……」

 

エリスが止まる。

 

「そうよ」

 

「だったら」

 

ニナが道を指差す。

 

「こっちじゃないわ」

 

「……そう」

 

またそれだけ。

ニナの顔が歪んだ。

 

「ちょっと」

 

「何よ」

 

「何なのよ」

 

「……」

 

「怒りなさいよ」

 

ギレーヌがニナを見る。

 

「ニナ」

 

「だって!」

 

ニナがエリスを見る。

 

「いつもなら、私が道を指図したらうるさいって言うじゃない!」

 

「……」

 

「勝負する? とか!」

 

「……」

 

「私の方が強いとか!」

 

「……」

 

エリスはニナを見る。

 

「今は」

 

小さな声。

 

「どうでもいい」

 

ニナが止まった。

エリスはまた歩き出した。

ニナはすぐには追いかけなかった。

 

「……ギレーヌ」

 

「ああ」

 

「怖い」

 

「私もだ」

 

ギレーヌはエリスの背中から目を離さなかった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

街。

人。

声。

笑い声。

その中をエリスは歩く。

泥沼のルーデウス。

転移迷宮にて死亡。

死亡者一名。

ルーデウス・グレイラット。

 

「……嘘よ」

 

エリスが呟いた。

エリスは段々と緊張していった。

 

「嘘」

 

また。

 

「ルーデウスが死ぬわけない」

 

「……」

 

「だって」

 

歩く。

 

「強いもの」

 

「……」

 

「私より」

 

歩く。

 

「ずっと」

 

「……」

 

「強い」

 

ギレーヌが拳を握った。

違う記事だけではない。

剣の聖地を訪れた

冒険者 商人 旅人

何人にも聞いた。

全員同じことを言った。

旅に出て、どこもかしこもその話ばかり

エリスの心はすり減っていった。

転移迷宮。

父親を庇った。

死亡者一名。

だがギレーヌは言えなかった。

もう一度エリスにその言葉を突きつけることができなかった。

エリスが足を止めた。

古びた酒場

 

「休みましょう」

 

扉を開けた。

ニナが追いかける。

ギレーヌも続いた。

 

    ◇ ◇ ◇

 

酒の匂い。

笑い声。

怒鳴り声。

 

「いらっしゃい!」

 

店主が三人を見る。

 

「三人か?」

 

エリスは答えなかった。

店の中を見る。

冒険者 商人 傭兵

皆飲んでいる。

笑っている。

 

「……なんで」

 

「エリス?」

 

「なんで笑ってるの」

 

ニナが息を呑む。

 

「ルーデウスが」

 

エリスは周囲を見る。

 

「死んだのに」

 

誰も答えない。

当然だった。

彼らは本当のルーデウスを知らない。

エリスは奥へ歩いた。

その時だった。

 

「……ルディ」

 

足が止まった。

ギレーヌの耳も僅かに動いた。

 

「ルディ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

酒場の一番奥。

薄暗い席

男が一人座っていた。

机の上

床

何本もの空になった酒瓶。

金色の髪、伸びた無精髭、汚れた服。

聞いたことのある声。

ギレーヌが目を見開いた。

 

「……パウロ?」

 

男がゆっくり顔を上げた。

虚ろな目。

焦点が合っていない。

 

「……あ?」

 

ギレーヌを見る。

しばらく見つめる。

 

「……ギレーヌ?」

 

「パウロ」

 

「ああ……」

 

パウロが笑った。

 

「久しぶりだな」

 

ギレーヌは何も言えなかった。

知っている。

パウロ・グレイラット。

女好き。

軽薄。

馬鹿。

だが強い。

仲間を守る 家族を愛する男

たが、目の前にいる男は誰だ。

 

「……パウロ」

 

ギレーヌが一歩近づく。

 

「何をしている」

 

「待ってる」

 

即答だった。

 

「誰を」

 

パウロが笑った。

 

「決まってんだろ」

 

扉を見る。

 

「息子だよ」

 

エリスの肩が震えた。

 

「遅えんだ」

 

パウロが言う。

 

「昔から」

 

酒を飲む。

 

「妙なところで寄り道しやがる」

 

「パウロ」

 

ギレーヌの声が低くなる。

 

「ルーデウスは」

 

「知ってる」

 

パウロが遮った。

 

「知ってるよ」

 

笑う。

 

「記事だろ?」

 

酒瓶を持つ。

 

「あれは間違いだ」

 

「パウロ」

 

「ルディが死ぬわけねえ」

 

酒を飲む。

 

「俺の息子だぞ?」

 

「……」

 

「魔大陸から帰ってきた」

 

エリスの指が動いた。

 

「龍神と戦っても生きてた」

 

「……そうよ」

 

ギレーヌがエリスを見る。

 

「エリス」

 

「そうよ」

 

エリスがパウロへ近づく。

 

「ルーデウスは強いわ」

 

「ああ」

 

「私より」

 

「ああ」

 

「ずっと」

 

「ああ」

 

パウロが笑った。

 

「お前」

 

エリスを見る。

 

「わかってんな」

 

「当然よ」

 

ギレーヌがエリスの肩を掴んだ。

 

「エリス」

 

「離して」

 

「……」

 

エリスが振り返る。

 

「ルーデウスは死んでない、死んでないのよ」

 

「……」

 

「そうでしょ?」

 

「エリス」

 

「そうでしょ」

 

ギレーヌはエリスを見る。

言わなければならない。

違うルーデウスは死んだ。

だが言えなかった。

 

「ほら」

 

エリスが小さく笑った。

 

「ギレーヌも否定しない」

 

エリスはパウロの向かいに座った。

 

「やっぱり、嘘だったのよ」

 

「エリス……」

 

ニナが呟く。

パウロが扉を見る。

 

「ここにいれば」

 

虚ろな目。

 

「息子が帰ってくるんだ……」

 

ギレーヌの顔が歪んだ。

 

「昔もそうだった」

 

パウロが笑う。

 

「待ってりゃ」

 

酒を飲む。

 

「帰ってきた」

 

「魔大陸からも」

 

エリスが頷く。

 

「そうよ」

 

「だろ?」

 

「ええ」

 

「だから」

 

パウロが扉を見る。

 

「今回も帰ってくる」

 

エリスも同じ扉を見る。

 

「……ええ」

 

ギレーヌは二人を見ていた。

父親。

そしてエリス。

二人とも同じ目をしていた。

 

「……ニナ」

 

ギレーヌが小さく呼ぶ。

 

「何……?」

 

「エリスから目を離すな」

 

「……」

 

「絶対にだ」

 

ニナが頷いた。

ギレーヌはパウロを見る。

 

「パウロ」

 

「なんだ」

 

「ゼニスは」

 

パウロの笑顔が消えた。

 

「リーリャは」

 

「……」

 

「ノルンは」

 

「……」

 

「アイシャは」

 

「……」

 

「どこにいる」

 

パウロが酒瓶を握った。

 

「……家だ」

 

「なら帰れ」

 

「嫌だ」

 

「パウロ」

 

「嫌だ!」

 

酒瓶を机に叩きつけた。

 

「帰ったら!」

 

叫ぶ。

 

「ルディが死んでる!」

 

酒場が静まり返った。

パウロ自身も止まっていた。

自分が何を言ったのか。

理解したようだった。

 

「……違う」

 

小さな声。

 

「違う……」

 

頭を抱える。

 

「死んでねえ」

 

「ルディは」

 

震える。

 

「死んでねえよ……」

 

「ここなら」

 

パウロが扉を見る。

涙が落ちる。

 

「帰ってくるかもしれねえだろ……」

 

「扉が開いて」

 

笑う。

 

「父様」

 

「何してるんですか」

 

声が震える。

 

「そう言って……」

 

「帰ってくるかもしれねえだろ……」

    

 ◇ ◇ ◇

 

どれくらいそうしていたのかわからない。

扉が開く

エリスが顔を上げる。

知らない男。

閉じる

また開く。

 

パウロが顔を上げる。

知らない女。

閉じる

そのたびに二人は期待してそのたびに俯いた。

ギレーヌは見ていた。

そして、理解した。

このままでは二人ともここから動けなくなる。

 

「……エリス」

 

返事はない。

 

「パウロ」

 

「……なんだ」

 

「行くぞ」

 

パウロがギレーヌを見る。

 

「どこにだ」

 

「シャリーア」

 

エリスの肩が震えた。

 

「嫌」

 

即答だった。

 

「エリス」

 

「嫌よ」

 

「行くぞ」

 

「行かない」

 

「エリス」

 

「しつこい!」

 

ようやくエリスが怒鳴った。

ニナが僅かに目を見開く。

だがギレーヌは動かなかった。

 

「行くぞ」

 

「嫌だって言ってるでしょ!」

 

「聞いた」

 

「なら!」

 

「だが行く」

 

エリスがギレーヌを睨む。

 

「私と戦う気?」

 

「必要なら」

 

ギレーヌの手が剣へ伸びる。

 

「今の私に勝てると思ってるの?」

 

「思っていない」

 

「……」

 

「お前は剣王だ」

 

ギレーヌはエリスを見る。

 

「私より強い」

 

「だったら」

 

「だが」

 

ギレーヌが一歩前へ出る。

 

「お前を止める」

 

「勝てなくても」

 

また一歩。

 

「私は」

 

エリスの前に立つ。

 

「お前を連れていく」

 

エリスが歯を食いしばる。

 

「……なんでよ」

 

「約束した」

 

「誰と」

 

「フィリップと」

 

エリスの目が揺れた。

 

「ヒルダと」

 

「……」

 

「サウロス様と」

 

「……やめて」

 

「お前を守る」

 

「やめなさい」

 

「それが」

 

「やめて!」

 

エリスが机を叩いた。

 

「みんな死んだ!」

 

酒場が静かになる。

 

「お父様も!」

 

「お母様も!」

 

「お爺様も!」

 

声が震える。

 

「ルーデウスも!」

 

「みんな!」

 

エリスが叫ぶ。

 

「私を置いて死んだ!」

 

「守るって何よ!」

 

「誰もいないじゃない!」

 

涙が落ちる。

 

「私が強くなっても!」

 

「誰も!」

 

「守れなかった!」

 

エリスは俯いた。

 

「……遅かった」

 

小さな声。

 

「全部」

 

「私が遅かった」

 

ギレーヌはエリスを見る。

 

「違う」

 

「何がよ」

 

「お前は遅くない」

 

「遅いわよ!」

 

「違う」

 

「じゃあ!」

 

エリスが顔を上げる。

 

「なんでルーデウスは死んだの!」

 

ギレーヌは答えられなかった。

 

「ほら……」

 

エリスが笑った。

 

「答えられない」

 

「私が弱かったからよ」

 

「違う」

 

「弱かった!」

 

「違う!」

 

ギレーヌが声を荒らげた。

 

「お前は弱くない!」

 

エリスが止まる。

 

「私は知っている!」

 

ギレーヌがエリスの肩を掴む。

 

「お前がどれだけ剣を振ったか!」

 

「どれだけ倒れて!」

 

「何度立ったか!」

 

ギレーヌの手が震えていた。

 

「私は」

 

声が僅かに掠れる。

 

「全部見ていた」

 

「お前は弱くない」

 

「ただ」

 

言葉を選ぶ。

 

「間に合わなかった」

 

エリスの顔が歪んだ。

 

「……同じじゃない」

 

「違う」

 

「同じよ」

 

「違う」

 

「何が違うのよ!」

 

「お前のせいではない」

 

「ルーデウスが死んだのは」

 

ギレーヌが言った。

 

「お前のせいではない」

 

エリスはゆっくり。

椅子へ座った。

 

「じゃあ」

 

小さな声。

 

「誰のせいなの」

 

誰も答えなかった。

 

「誰を斬ればいいの?」

 

「ヒュドラ?」

 

「迷宮?」

 

パウロの手が止まった。

 

「……俺だ」

 

ギレーヌがパウロを見る。

 

「パウロ」

 

「俺のせいだ」

 

パウロが笑った。

 

「ルディは俺を庇ったんだ、俺が油断した」

 

酒瓶が震える。

 

「俺が死ねばよかった、俺が俺が」

 

「ルディじゃなくて」

 

「俺が――」

 

『ご自分が死ねばよかったとは、決して言わないでください』

 

アリエル王女の言葉を思い出す

 

「....」

 

『ルーデウス様が命を懸けて助けた人間が自分は死ぬべきだったなどと言うことはルーデウス様の最後の選択まで、否定する言葉になります』

 

「黙りなさい」

 

パウロが止まった。

エリスが立ち上がる。

パウロの前へ歩く。

 

「あなた」

 

「ルーデウスの父親でしょ」

 

「……ああ」

 

「だったら」

 

エリスがパウロの胸倉を掴んだ。

 

「ルーデウスが助けた命を!」

 

「勝手にいらないって言うんじゃないわよ!」

 

パウロの目が僅かに開いた。

 

「ルーデウスが!」

 

エリスの手が震える。

 

「あなたを助けたんでしょ!」

 

「だったら!」

 

涙が落ちる。

 

「生きなさいよ!」

 

「ルーデウスの代わりに死ねばよかったなんて!」

 

デジャヴ

 

「ルーデウスに言えるの!?」

 

パウロは答えられなかった。

 

「ねえ!」

 

「……言えねえ」

 

「だったら!」

 

「言えねえよ……」

 

パウロが俯いた。

 

「言えるわけ」

 

肩が震える。

 

「ねえだろ……」

 

エリスの手から力が抜けた。

 

「……私も」

 

エリスが呟く。

 

「同じだから」

 

パウロが顔を上げる。

 

「私も」

 

自分の手を見る。

 

「何のために生きればいいのか」

 

「わからない」

 

「でも」

 

エリスは扉を見る。

 

「ルーデウスなら」

 

小さく息を吐く。

 

「私に死んでほしいなんて」

 

「言わない」

 

パウロが目を閉じた。

 

「……ああ」

 

「絶対に」

 

「ああ」

 

「だから」

 

エリスはパウロを見る。

 

「やっぱり行くわ」

 

「……どこに」

 

エリスの顔が歪む。

 

「シャリーア」

 

パウロが止まる。

 

「ルーデウスの家に」

 

「私」

 

拳を握る。

 

「確認する」

 

「ルーデウスが」

 

声が震える。

 

「本当に」

 

「いないのか」

 

パウロが酒瓶を見る。

長い間見つめていた。

そして机に置いた。

 

「……俺も行く」

 

ギレーヌがパウロを見る。

 

「いいのか」

 

「よくねえ」

 

即答だった。

 

「行きたくねえ」

 

「怖えよ」

 

パウロが笑った。

酷い笑顔だった。

 

「また自分の家族に会うのが」

 

「怖くて仕方ねえ」

 

エリスがパウロを見る。

 

「私もよ」

 

「……そうか」

 

「ええ」

 

パウロが立ち上がる。

僅かにふらついた。

 

ギレーヌが腕を掴む。

 

「触んな」

 

「倒れる」

 

「倒れねえ」

 

言った直後。

パウロの膝が崩れた。

ギレーヌが支える。

 

「……」

 

ニナが二人を見る。

 

「説得力ないわね」

 

「うるせえ」

 

小さな声。

 

エリスが僅かに笑った。

本当に僅かだった。

ギレーヌはそれを見た。

何も言わなかった。

 

    ◇ ◇ ◇

 

酒場の扉が開く。

エリス。

ギレーヌ。

ニナ。

そしてパウロ。

四人が外へ出る。

エリスが一度だけ振り返った。

酒場

扉

 

「行こう」

 

ニナも頷いた。

四人は歩き出した。

目的地 魔法都市シャリーア

ルーデウス・グレイラットの家。

そこに何があるのか全員知っていた、、、それでも歩いた。

エリスは確かめるために。

パウロはルーデウスが残したものと向き合うために。

ギレーヌはエリスを守るために。

ニナは友を一人にしないために。

四人は北へ向かった。

もう帰ってこない男の帰る場所へ

 

「全速力で行くわよ!」

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