昼
ルーデウスの家
重い空気が部屋を包んでいた。
ルーデウスを失った悲しみは誰の胸にもまだ残っている。
ルイジェルドも静かに席へ座っていた。
パウロが深く息を吐く。
「……」
その時...
ぐぅぅ……
静かな部屋に小さな音が響く。
「……」
皆の視線が一人へ集まる。
「う……」
ノルンだった。
耳まで真っ赤になる。
「ご、ごめんなさい……」
俯くノルン。
張り詰めていた空気がほんの少しだけ。
緩んだ。
パウロが苦笑する。
「はは……」
「辛い時だからこそ」
「ちゃんと飯は食わねぇとな」
リーリャが一礼する。
「すぐに用意いたします」
シルフィも立ち上がる。
「私も手伝います」
ギレーヌも、無言で立ち上がった。
「……私も行く」
短い言葉だったが、そこには迷いがなかった。
ニナも慌てて立つ。
「わ、私も! 手伝います!」
エリスは腕を組んだまま、ふんと鼻を鳴らす。
「料理はできないけど、皿くらいは運べるわよ」
やがて食卓には料理が並んだ。
湯気の立つスープ 焼かれた肉 パン
それに、簡素なサラダと保存の効く果実の皿。
質素ではないが、豪華でもない。
それでも今の彼らには十分だった。
皆が席へ着く。
「いただきます」
静かな食事。
無理に笑う者はいない。
それでも温かな料理が少しだけ皆の心をほぐしていた。
しばらくは、食器の音だけが響いていた。
スプーンが器に触れる音 パンをちぎる音 咀嚼の音
それだけが、妙に現実的だった。
だがその沈黙も、完全な重さではなかった。
ギレーヌがふと呟く。
「……悪くない味だ」
リーリャが少し驚く。
「ありがとうございます」
ニナは嬉しそうに頷く。
「ほんとだ……ちゃんと味がする」
エリスは肉を噛みちぎりながら言う。
「当たり前でしょ。戦いの後でも飯はうまくないとやってられないわ」
シルフィはスープを両手で包むように持ち、少しだけ息を吹きかけてから口に運ぶ。
「……あったかいですね」
その一言に、誰も否定しなかった。
シルフィは静かにスプーンを置き、少しだけ目を伏せる。
「こういう食事は……久しぶりです」
その言葉は、どこか遠い記憶を含んでいた。
その言葉に、誰も否定しなかった。
「そういえばルイジェルド
みんなとは昔から知り合いだったの?」
「ああ」
ルイジェルドは頷く。
「パウロに頼まれ」
「一度この家に着くまで護衛した」
「そうでしたね。」
ノルンも懐かしそうに笑う。
「覚えてます」
「私、ルイジェルドさんの後ろばかり歩いてました」
ルイジェルドも僅かに口元を緩める。
「ああ」
「アイシャが魔物の話をするたびに俺の後ろへ隠れていた」
ノルンが照れ笑いを浮かべる。
「今思うと恥ずかしいです」
ギレーヌが低く言う。
「悪いことではない。生き延びる判断だ。
しかも、戦ったことなどないのだ」
ニナも頷く。
「うん……怖いのに前に出る方が無茶だよ」
エリスは腕を組んだまま鼻を鳴らす。
「でも今は違うんでしょ?」
ノルンは小さく頷いた。
「……はい」
その一言に、少しだけ成長が滲んでいた。
皆も少しだけ笑った。
その笑顔の中でノルンだけはふとルーデウスの席を見る。
もう誰も座ることのない席。
その視線に気付いたのはルイジェルドだけだった。
食事を終え。
リーリャが言う。
「ルイジェルド様、エリス様、ニナ様、ギレーヌ様」
「空いている部屋がございます」
「どうぞお使いください」
「……世話になる」 「ありがとう!」
ルイジェルドは静かに頭を下げた。
そして続ける。
「夜が明ければ」
「俺は旅立つ」
シルフィが寂しそうに微笑む。
「もう行ってしまうんですか……」
「ああ」
ルイジェルドは静かに答える。
「戦士は」
「一つの場所へ留まり続けるものではない」
「守るべき者がいる限り」
「歩みを止めるわけにはいかん」
静かな言葉だった。
エリスが立ち上がる。
「だったら!」
「私たちも途中まで一緒に行く!」
皆がエリスを見る。
「ルーデウスにもちゃんと報告したし、確認できたし」
「あなた一人を見送るだけなんて嫌よ」
ルイジェルドは少しだけ笑う。
「好きにしろ」
「決まりね!」
エリスが笑う。
少しだけ家の空気が和らいだ。
やがて皆はそれぞれの部屋へ戻っていった。
――
夜。
家の中は静かだった。
「……」
ルイジェルドは眠れず。
リビングへ来ていた。
テーブル。
その上にアクアハーティア。
そして。
小さな箱 ルーデウス
「……」
箱を見つめる。
まだ実感がない。
魔大陸。
あの頃。
小さかった。
まだ子供だった。
魔物を見るたび怯えて。
効率重視で。
それでも仲間をエリスを守ろうとしていた。
「……変わらんな」
最後まで父親を守ったルーデウスらしい。
「……馬鹿者」
その時足音がした。
ルイジェルドが振り向く。
「……」
ノルンだった。
「あ……」
少し驚いた表情。
「眠れないのか」
「あ……はい」
ノルンは静かに頷く。
「水を飲みに来たんです」
「ああ」
少しの沈黙。
昼間。
ノルンが兄の席を見つめていた姿をルイジェルドは思い出していた。
「ノルン」
「はい」
「昼」
「ルーデウスの席を見ていたな」
ノルンの肩が震えた。
「……見られてたんですね」
「ああ」
ノルンは小さく息を吐く。
そして静かに話し始める。
「私」
「私」
「兄さんに」
「行けって言ったんです」
「……」
「ベガリット大陸に」
「……」
「お父さんと」
「お母さんを」
「助けに行ってって」
ノルンの手が震える。
「兄さんは」
「最初」
「行かないって言ってました」
「……」
「シルフィさんに」
「子供が生まれるから」
「そばにいたいって」
ルイジェルドは黙って聞いている。
「なのに」
ノルンが拳を握る。
「私が言ったんです」
「家族じゃないのって」
「……」
「お父さんたちを」
「見捨てるのって」
声が震える。
「私が」
「お兄さんを」
「行かせた」
静かだった。
ノルンは俯いている。
「だから」
「……」
「お兄さんが死んだのは」
「私の――」
「違う」
低い声ノルンが止まった。
ルイジェルドはノルンを見ていた。
「違わないです」
「違う」
「私が言わなかったら!」
ノルンが顔を上げる。
「お兄さんは行かなかった!」
「そうかもしれない」
「だったら!」
「だが」
ルイジェルドが言葉を遮る。
「決めたのはルーデウスだ」
「……」
「お前ではない」
「でも」
「ルーデウスだ」
強い声だった。
ノルンが黙る。
「俺は」
ルイジェルドが言う。
「ルーデウスと旅をした」
「……」
「長い旅だった」
魔大陸 ミグルド族の村 リカリス ウェンポート 中央大陸
「何度も」
「俺はあいつの判断を見た」
「……」
「間違えることもあった」
「失敗もした」
「逃げることもあった」
「……」
「だが」
ルイジェルドは箱を見る。
「最後に決めるのは」
「いつもルーデウスだった」
「……」
ノルンが涙を拭く。
「お前が何を言ったのか」
「俺は知らない」
「……」
「どれほど強く言ったのかも」
「知らない」
「……」
「だが」
ルイジェルドがノルンを見る。
「ルーデウスは」
「子供ではない」
ノルンの目が揺れた。
「自分で決めた」
「自分で向かった」
「そして」
ルイジェルドの拳が僅かに握られる。
「自分で」
「父親を助けた」
「……」
「それを」
低い声。
「お前が奪うな」
ノルンが息を呑んだ。
「……奪う?」
「ああ」
「ルーデウスが決めたことだ」
「……」
「ルーデウスが」
「守ると決めた」
「……」
「その責任まで」
ルイジェルドはノルンを見る。
「お前が背負うな」
ノルンの目から涙が溢れた。
「……でも」
「……」
「苦しいです」
「そうか」
「兄さんが」
「……」
「私のせいじゃないって思ったら」
ノルンが胸を押さえる。
「今度は」
「何を恨めばいいのか」
「わからないんです」
「……」
「迷宮を?」
「魔物を?」
「お父さんを?」
「……」
「自分を?」
涙が落ちる。
「誰かのせいにしないと」
「私……」
「……」
「耐えられない」
ルイジェルドは黙っていた。
そして。
「なら」
ノルンが顔を上げる。
「俺を恨め」
「……え?」
「俺は」
ルイジェルドが言う。
「ルーデウスの戦士としての師だ」
「……」
「危険を教えた」
「戦い方を教えた」
「人を守ることを教えた」
「……」
「だから」
「俺を恨めばいい」
「そんなの……」
「できないか」
「できません」
「そうか」
「……」
「なら」
ルイジェルドは箱を見る。
「今は」
「誰も恨むな」
「……」
「泣け」
ノルンが止まった。
「それだけでいい」
「……」
「お前は」
「ルーデウスの妹だ」
「……」
「兄が死んだ」
「なら」
ルイジェルドの声が少しだけ。
優しくなる。
「妹として泣け」
ノルンの顔が歪んだ。
「……兄さん」
「……」
「私」
「謝れてない」
「……」
「酷いこと」
「いっぱい言った」
「……」
「嫌いだって」
「言ったこともある」
ルイジェルドは黙って聞く。
「でも」
ノルンが箱を見る。
「本当は」
声が震える。
「嫌いじゃなかった」
「……」
「ずっと」
「どう話せばいいのか」
「わからなかっただけで」
「……」
「もっと」
「普通に」
「話したかった」
涙が止まらない。
「お兄ちゃんって」
「もっと」
「呼びたかった……」
ルイジェルドが僅かに目を見開く。
お兄ちゃん。
初めてノルンの口から聞いた。
「……そうか」
ルイジェルドが言う。
「はい……」
「なら」
「……」
「呼べ」
ノルンがルイジェルドを見る。
「今からでも」
「呼べばいい」
「……聞こえません」
「そうだな」
「返事も」
「ないです」
「ああ」
「……」
「だが」
ルイジェルドは小さな箱を見る。
「呼ばなければ」
「お前が後悔する」
「……」
ノルンはゆっくりと箱へ近づいた。
椅子に座る。
小さな箱。
その前。
「……」
手を伸ばす。
だが触れる直前。
止まる。
「兄……」
声が出ない。
ノルンが唇を噛む。
「……」
もう一度。
「お兄ちゃん」
静かだった。
返事はない。
「……ごめんなさい」
涙が箱に落ちる。
「お兄ちゃん……」
ノルンは箱に額を当てた。
「ごめんなさい……」
「私」
「本当は……」
「大好きだった……」
肩が震える。
「お兄ちゃん……」
ルイジェルドは何も言わなかった。
ただそこにいた。
しばらくしてノルンが泣き疲れた頃。
「……ルイジェルドさん」
「なんだ」
「お兄ちゃんは」
「……」
「魔大陸で」
「どんな人だったんですか」
ルイジェルドは目を閉じる。
ノルンが顔を上げる。
「……」
「よく悩んでいた」
「……」
「よく失敗した」
「……」
「そして」
ルイジェルドが僅かに笑う。
「よく喋る子供だった」
ノルンが少しだけ笑った。
「……お兄ちゃんらしいです」
「そうか」
「はい」
「……」
ルイジェルドは箱を見る。
「だが」
「……」
「強かった」
「魔術が?」
「違う」
即答だった。
「……」
「人を守ろうとする心がだ」
ノルンは箱を見る。
「……そうですか」
「ああ」
「最後まで?」
ルイジェルドはパウロから聞いた。
最期父親を突き飛ばした。
「……ああ」
ルイジェルドが答える。
「最後までだ」
ノルンはまた泣いた。今度は声を上げず。
静かにルイジェルドは窓の外を見る。
夜 満天の星
「……ルーデウス」
小さく呟く。
お前は妹まで残していった。
妻 子供 家族 仲間
「……馬鹿者」
返事はない。
ルイジェルドは目を閉じた。
魔大陸を旅した。
あの子供はもうどこにもいない。
だがあの子供が守った者たちはここにいる。
なら。
「……」
ルイジェルドは槍を見る。
まだ自分にはできることがある。
戦士として ルーデウスの友として
ルイジェルドは静かにノルンの隣に座った。
夜が明けるまでそこを動かなかった。
朝。
窓から柔らかな光が差し込む。
静かな朝だった。
昨夜。
誰もがそれぞれの想いを抱えたまま夜を越えた。
ルイジェルドは誰よりも早く。
目を覚ましていた。
槍を背負う。
旅支度はすでに終わっている。
リビング。
アクアハーティア。
そして小さな箱。
ルーデウス。
「……」
ルイジェルドは静かに近づく。
箱へそっと手を添えた。
「行くぞ」
小さく呟く。
返事はない。
それでも。
ルイジェルドは一度だけ頷いた。
玄関へ向かう。
そこにはエリス ギレーヌ ニナ
三人が待っていた。
「遅いわよ」
エリスが腕を組む。
「待たせたか」
「少しね」
エリスは笑う。
無理をして笑っていた。
ルイジェルドにはわかった。
昨夜眠れていない顔だった。
やがて物音を聞きつけ。
シルフィ リーリャ アイシャ ノルン パウロが
玄関へ集まる。
ゼニスだけはリビング。
ルーデウスの遺灰の前で静かに座っていた。
「シルフィ」
エリスが呼ぶ。
「何?」
シルフィが微笑む。
エリスはその腹を見る。
少しだけ大きくなった腹。
ルーデウスの子供。
「元気な子を産みなさい」
シルフィが目を見開く。
「……うん」
「絶対よ」
「うん」
「ルーデウスの子なんだから」
「……うん」
シルフィは笑おうとした。
けれど涙が先に溢れた。
「エリス」
「何?」
「……ありがとう」
「何が?」
「来てくれて」
「ルディに」
「会いに来てくれて」
エリスは少しだけ眉を寄せる。
「当然よ」
即答だった。
「ルーデウスだもの」
シルフィは涙を拭く。
「……うん」
エリスは家の中を見る。
アクアハーティア。
ルーデウスの杖。
「ねえ」
「何?」
「アクアハーティア」
「……」
「大切にしなさい」
シルフィは静かに頷く。
「うん」
「私が」
エリスは少しだけ照れくさそうに笑う。
「あれ」
「十歳の誕生日に」
「プレゼントしたの」
シルフィが驚く。
「そうだったんだ」
「ええ」
「すごく喜んでたわ」
シルフィは杖を見る。
「……知らなかった」
「ずっと」
「大切に使ってたんだね」
「あいつ」
「物持ちだけは良かったから」
エリスが少し笑う。
その笑顔にシルフィも少しだけ笑った。
「大切にする」
「絶対よ」
「うん」
少しだけ空気が和らぐ。
やがてエリスは背を向けた。
「行くわ」
「エリス!」
シルフィが呼び止める。
エリスが振り返る。
「また会いに来て?」
「……」
「ルディの話」
「もっと聞きたいから」
エリスは少しだけ。
考える。
「次に来る時は」
シルフィの腹を見る。
「その子」
「生まれてるわね」
「多分ね」
「だったら」
エリスは静かに言う。
「魔大陸の話を」
「いっぱい聞かせてあげる」
シルフィの目が少しだけ輝いた。
「約束?」
「ええ」
「約束よ」
シルフィは強く頷いた。
「待ってる」
エリスはもう振り返らなかった。
玄関を出る。
朝日が四人を照らす。
エリス ニナ ギレーヌ
それぞれ歩き始める。
ルイジェルドは振り返る。
ノルンと目が合った。
ノルンは一歩前へ出る。
「……ルイジェルドさん」
「ああ」
「行っちゃうんですか」
「ああ」
短い返事。
だが昨日より少しだけ柔らかかった。
ノルンは俯く。
昨夜二人で話した。
兄のこと 自分のこと。
もう涙は流さない。
そう決めた。
「昨日は」
静かに言う。
「ありがとうございました」
ルイジェルドは首を横に振る。
「礼を言われることではない」
「でも」
「俺は」
ルイジェルドはノルンを見る。
「言うべきことを言っただけだ」
「……はい」
「ノルン」
「はい」
「顔を上げろ」
ノルンはゆっくり顔を上げる。
その瞳はまだ赤い。
それでも昨夜より強かった。
「お前は」
「ルーデウスの妹だ」
「……はい」
「それを」
「忘れるな」
ノルンは強く頷く。
「はい!」
その返事は昨夜よりもずっと力強かった。
ルイジェルドは小さく頷く。
「それでいい」
ノルンは少しだけ笑う。
「……ルイジェルドさん」
「なんだ」
「また」
「会えますか」
ルイジェルドは少しだけ考える。
そして家を見る。
ルーデウスの家
シルフィ これから生まれる子 パウロ ノルン
アイシャ リーリャ。
皆がそこにいた。
「ああ」
「また来る」
ノルンの目が少しだけ大きくなる。
「本当ですか」
「約束はできん」
「旅だからな」
「だが」
ルイジェルドは静かに続ける。
「会うべき者がいる」
「だから」
「また来る」
ノルンは嬉しそうに笑った。
「待ってます」
「ああ」
シルフィが前へ出る。
「ルイジェルドさん」
「なんだ」
シルフィは自分の腹へ手を添える。
「次に来る頃には」
「この子も」
「生まれていると思います」
ルイジェルドは腹を見る。
ルーデウスの忘れ形見。
「ああ」
シルフィは微笑む。
「抱いてやってください」
少し迷ってから続ける。
「あの……」
「ルディの話を」
「聞かせてください」
「私の知らない」
「魔大陸でのルディを」
ルイジェルドは黙る。
魔大陸 雨 焚き火 夜番。
思い出は数え切れない。
「……わかった」
「ありがとうございます」
シルフィは深く頭を下げた。
アイシャも前へ出る。
「ルイジェルドさん!」
「なんだ」
「今度来る時は!」
「もっと強くなってます!」
「お兄ちゃんに」
「胸を張れるように!」
ルイジェルドは僅かに目を細めた。
「ああ」
「励め」
「はい!」
パウロが腕を組む。
「世話になったな」
「こちらこそだ」
「また酒でも飲もうぜ」
ルイジェルドは少しだけ笑う。
「ああ」
リーリャも静かに頭を下げた。
「どうか」
「お身体にお気をつけください」
「ああ」
短く答える。
それで十分だった。
ルイジェルドは背を向ける。
歩き出す。
その時エリスが振り返らずに言った。
「ルイジェルド」
「なんだ」
「途中までは」
「一緒よ」
「ああ」
ニナもギレーヌも歩き始める。
四人は朝日に照らされながらゆっくりとルーデウスの家を後にした。
家の前ではシルフィたちが姿が見えなくなるまでずっと手を振り続けていた。
そしてその背中が見えなくなった時。
ノルンが小さく呟く。
「……お兄ちゃん」
空を見上げる。
「みんな」
「ちゃんと前に進むから」
「だから」
「見ていてね」
風が優しく吹いた。
まるで誰かが背中を押してくれたようだった。