新世紀エヴァンゲリオン 碇ミレイ   作:最高司祭アドミニストレータ

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約5年使うiPhone13、高級スマホフィルムがご臨終してしまうという大事件が発生してしまいました。

次も高級フィルムを…と言いたいところでしたが、100円スマホフィルムにしました。バッテリー交換した8月に高級フィルム、次の9月に高級フィルム合計3000円はちょっと心に来るものがあったので。バッテリー交換する前が100円フィルムだったの思い出してよかったァ。

100円とは思えないほど惚れ惚れしてしまいまいました。おっふ! ですね。


少女の初陣と最高司令官

 用意された専用のロッカールーム。

 

 そこで渡された「プラグスーツ」と呼ばれる専用装備と対峙した碇ミレイは、頭の中が真っ白になるほどの衝撃を受けていた。

 

 ハンガーに掛けられた白と青の布地は見た目からして異様に薄く、そして伸縮性に特化しすぎている。

 

 傍らに置かれた着用マニュアル、あるいは先ほどの赤木リツコからの説明を頭の中で反芻し、ミレイは思わず誰もいない更衣室で声を漏らした。

 

 

「…嘘でしょ? これを着ろって言うの? 下着もつけないで素肌に着るの?」

 

 

 彼女にとって、衣服とは体温調節と外部環境からの物理的保護を担う必須ツールだ。

 

 下着を完全に排除し、この極薄の特殊素材を直接素肌に密着させるなんて、摩擦や汗の吸湿性といった衛生面を考慮すれば、明らかにQOLを著しく下げる愚行である。

 

 さらなる問題は、その見た目だ。

 

 下着による補正や隠蔽が一切ない状態でこのスーツを着用すれば、未成熟ながらも確かな丸みを帯び始めた胸元の起伏や、下半身のシビアなラインが──文字通り「布一枚」を隔てただけの状態で、完全に外部へ晒されることになる。

 

 

「防御力が皆無じゃない。物理的にも、社会的にも!」

 

 

 思わずこめかみを押さえるミレイ。

 

 とはいえ、拒否権はないのだろう。これを着なければエヴァに乗れず、エヴァに乗らなければ『今日の豪華な夕食』と『空調の効いた快適なベッド』という最優先タスクの報酬が没収されてしまう。

 

 

「背に腹は代えられない、かな」

 

 

 ミレイは深い溜息とともに制服のブラウスのボタンに手をかけ、滑らかな白磁のような素肌を晒した。頬を真っ赤に染めながら、素肌をひんやりとしたスーツに滑り込ませる。

 

 手首のスイッチを入れると、スーツは『シュゥゥッ』と音を立てて収縮し、全身のラインに真空パックのようにぴったり吸い付いた。

 

 

「やっぱり息がしづらい…後で絶対に技術部にクレームを入れてやるんだから」

 

 

 恥ずかしさと不快感を何とか抑え込みながら、ミレイは覚悟を決めてロッカールームを後にしたのだった。

 

 

 ──そして現在。

 

 エヴァ初号機のコックピット──インテリア内。専用のプラグスーツに着替えた少女は斜めに傾いた大型の座席に身を沈め、両手でインダクションレバーを握ったまま搭乗姿勢で待機していた。

 

 周囲を取り囲む円筒形の空間。スピーカーから、オペレーターたちの緊迫した声が響く。

 

 

『ケイジ内、すべてドッキング位置』

『停止信号プラグ排出終了』

『了解。エントリープラグ、挿入開始します』

 

 

 ふと、ミレイは先ほどの更衣室での鬱憤も相まって、どうしても言いたいことが抑えきれなくなった。

 

 身体の起伏から骨格のラインまでをミリ単位でなぞる極薄の特殊素材。通気性も悪く、お世辞にも快適とは言えない。

 

 

「赤木博士。一つ聞きたいのだけれど」

 

 

 ミレイは通信越しに疑問を投げかけた。

 

 

「このスーツ、明らかに構造上の問題があると思うんだけど。胸元からお腹にかけての締め付けが強すぎるわ。どうしてここまで無駄にぴっちりさせる必要があるのかな?」

 

 

 通信回線の向こう側で、赤木リツコが涼しい顔で答える。

 

 

『パイロットの生命維持と、エヴァとの神経接続の効率を極限まで高めるためよ。一切の無駄を省いた、科学の結晶だわ』

「そういうものなの?」

『そういうものよ』

 

 

 科学的な根拠を提示されては、反論のしようもない。ミレイは喉まで出かかった文句を一旦飲み込み、現実を受け入れることにした。

 

 

(ま、まあ…いかにも未来の戦闘装備って感じは出ているし。悪くはない、かな)

 

 

 機能美という観点から見れば、決して嫌いなデザインではない。ミレイの心の中で、スーツの評価が「恥ずかしいだけの服」から「実用的なビジュアルスーツ」へと上方修正された。

 

 と、一人で納得しかけたその時である。

 

 

「分かるか、ミレイ。プラグスーツは最高だろう」

 

 

 深い、深〜いため息を吐き出したくなった。なぜ最高司令官であるはずの実の父親が、この狭いコックピットに平然と同乗しているのだろうか。

 

 

「お父様? あなたは最高司令官でしょ。本来なら、指令所でどっしり構えて指示を出すのがお仕事じゃないの?」

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 オレンジ色のサングラスを光らせ、ゲンドウは堂々と即答した。

 

 問題大ありである。組織のトップが非常事態の最中に持ち場を離れ、コックピットに引きこもるなんて前代未聞の職務放棄だ。

 

 案の定、通信回線がパニックに陥った。

 

 

『大変です! 碇司令がエントリープラグの中に!?』

『戻ってきてください司令! あなたがいないと作戦の承認が下りません!』

 

 

 オペレーターたちの悲鳴が木霊する。

 ほら見なさい。問題しかないじゃない。この組織の労働環境はどうなっているのだろう。

 

 

「ふっ、断る」

 

 

 その暴走を目の当たりにした老人は、司令に対し激しい殺意を向けながら指示を下した。

 無駄に良い声で、親バカの権化が職務を完全拒否した。娘の初めてのプラグスーツ姿を特等席で見届けたいという、大人気ない欲望の暴走は万死に値する。

 

 

『致し方あるまい。碇の保護監督は後回しだ。LCLの注水を開始したまえ』

「What!?」

(えるし…何だって!?)

 

 

 ミレイが驚いた直後、円筒形の空間の足元から淡いオレンジ色の液体が猛烈な勢いで注ぎ込まれてきた。

 

 

 血のような、錆びた鉄のような匂いが鼻腔を突く。

 

 

(うわ、気持ち悪いっ! オレンジジュースの失敗作みたいな液体が…息が、できない!)

 

 

 瞬く間に水位が上昇し、ミレイの全身を完全に飲み込んだ。肺の中まで液体が侵入してくる、強烈な不快感。

 

 

(…あれ? 呼吸が、できてる?)

 

 

 液体の中で、直接血液に酸素が取り込まれていく。

 

 なるほど。これなら溺れ死ぬ心配はないらしい。驚くほど効率的な生命維持システムだ。ミレイは持ち前の順応性で即座に状況を飲み込み、呼吸を整えた。

 

 しかし、想定外の事態に完全に溺れかけている大人が約一名。

 

 

「ごぼっ!? ぐぇっ、ふごごごっ! ミ、ミレイ…! くるし…ッ」

『我慢してください! 肺が液体で満たされれば直接酸素を取り込めます! 娘さんの初陣なんですから、少しは威厳を保ってください!』

 

 

 今にも窒息しそうな最高司令官の無様な姿。それを呆れ顔で見つめながら、ミレイは心底深いため息をついた。

 

 

(…先が思いやられるよ、本当に)

『初期コンタクト、問題ありません。A10神経接続、すべて正常な数値をマークしています。各種バイタルサインも安定。この数値は驚異的です』

 

 

 肺を淡いオレンジ色の液体であるLCLで満たしたミレイの身体は、プラグスーツの薄い生地を通して、巨大な人造人間の神経ネットワークとダイレクトに結びついていた。

 

 注水直後の息苦しさと、鉄のような匂いに対する生理的な不快感はすっかり消え去っている。肺に満ちた液体は直接血液に酸素を供給し、今やLCLの存在は空気のように透明化して、視界も呼吸もまったく気にならなくなっていた。

 

 

『嘘でしょ。初回で、しかもテストなしでシンクロ率41.3パーセント!?』

『異常や暴走の兆候も一切なし。ハーモニクスも全て正常値の範囲内。いけるわ!』

 

 

 ミサトとリツコが、予想外の好成績に色めき立つ声がスピーカーから響く。

 

 ミレイにとって、それは驚くようなことではなかった。事前に渡されていた分厚いマニュアルの記述を完全に頭へ叩き込み、機体制御の仕組みと同調の手順を冷静に組み立てただけに過ぎない。

 

 無駄な感情や根性論なんていらないのだ。必要なのは、正しい知識と落ち着いた操作だけ。

 

 

「流石は私の娘だ。初めての搭乗でこれほど見事に適応するとはな。素晴らしいぞ、ミレイ」

 

 

 すぐ背後から、上機嫌で無駄に良い声が降ってきた。特務機関NERV最高司令官は、さっきの溺れっぷりが嘘のようにすっかり呼吸に慣れ、当然のように直立していた。

 

 それどころか彼は、狭いシートの隙間から不器用に大きな手を伸ばし、ミレイの華奢な肩や黒髪の頭をぽんぽんと嬉しそうに撫で回してくるのだ。

 

 さらには極薄のスーツのフィット感を確かめるように、背中のラインや肩口の布地をペタペタと触り始めた。

 

 

「スーツの着心地はどうだ? 苦しくないか? どこか痛むところがあればすぐに言うんだぞ」

「っ…!」

 

 

 ミレイの思考が、不意のスキンシップと怒涛の褒め言葉によって一気に真っ赤に焼き切れた。

 

 

(近い! なんなの、この怒涛のベタ褒めとスキンシップは…っ!?)

 

 

 普段なら、背後の男は任務の邪魔でしかない存在だ。肩を撫でる手つきも、背中に触れる仕草も、パーソナルスペースにずかずか踏み込んでくる鬱陶しい行為のはずだった。

 

 けれど──大好きな父親からのダイレクトな愛情表現と、優しく頭を撫でられる感触に、ミレイの顔は隠しきれないほど真っ赤に染まっていく。

 

 

 胸の奥で、『はわわ…♡』と悶絶しかける自分がいる。

 

 

「ふ、ふん! 別にこれくらい、私にとっては簡単なことだよ。大げさに褒めないで」

 

 

 ツンとそっぽを向きながらそっけなく返すものの、その表情は完全に緩みきって『満更でもない顔』になっていた。にやけそうになる頬を、必死の自制心で何とか引き締める。

 

 

「それに…お父様、ちょっと触りすぎじゃない? 気が散るからやめてほしいな。これは遊びじゃないんだから」

「む、すまない。だが、お前がこれほど優秀に育ってくれて、私は誇らしいのだ…」

(もう、そういうところだよ…! そんな顔で見つめられたら、調子が狂っちゃうじゃない!)

 

 

 内心で激しく照れまくるミレイをよそに、通信からミサトの張り詰めた声が響いた。

 

 

『発進準備完了! ロックボルト外して!』

『第一、第二拘束具、除去! 一番から十五番までの安全装置を順次解除!』

 

 

 重厚な機械音が連続して鳴り響き、初号機を拘束していた巨大なパーツが次々と外されていく。

 

 

『外部電源、接続完了。初号機、射出口へ移動します』

 

 

 ミレイの座るシートが、機体の動きに合わせて微かに揺れた。

 

 

『発進準備完了! 構いませんね、司令!』

 

 

 ミサトの最終確認。本来ならば遠く離れた指揮所から下されるべき承認が、ミレイのすぐ背後から発せられた。

 

 

「もちろんだ。使徒を倒さぬ限り、我々に未来は無い」

 

 

 その格好いい台詞も、娘の肩に手を置いたままでは全く威厳が足りていなかった。

 

 

『エヴァンゲリオン初号機、発進!』

 

 

 ドゴォォォンッ! 

 

 凄まじい重力が、ミレイの全身を大型のシートへと押し付けた。

 

 射出カタパルトが唸りを上げ、紫色の巨人が一直線に地上へと打ち上げられる。安全ベルトが胸元とお腹を強く締め付け、極薄のプラグスーツ越しに強烈な圧迫感が伝わってくる。

 

 視界のメインモニターが眩い光に包まれ、夕暮れに染まった第3新東京市のビル群が鮮やかに映し出された。

 

 

『最終安全装置、解除。エヴァンゲリオン、機体制御をパイロットへ移行します』

 

 

 目の前には、白と黒の歪な体表を持つ巨大な怪物──第4の使徒が、不気味な明滅を繰り返しながら立ち塞がっている。圧倒的な体格差と威圧感。けれど、ミレイの頭の中は驚くほど冴え渡っていた。

 

 

「重心移動の計算、完了。道路の滑りやすさも許容範囲内。機体のバランスも問題なし…よし、動かすよ」

 

 

 両手のインダクションレバーを静かに握り込む。神経接続を介して初号機の右足がゆっくりと持ち上がり、アスファルトを力強く踏みしめた。ズシン、という重低音が周囲の高層ビルを震わせる。

 

 

『動いたわ!』

『初回で、しかも補助なしで歩行に成功するなんて!』

(当然よ。筋肉と骨格の動かし方を、頭の中で正しくイメージして再現すればいいだけのこと)

 

 

 ミレイは確かな手応えを感じながら、次の一歩を踏み出そうと左足へと体重を移動させた。

 

 ──その時である。

 彼女の完璧なコントロールに、背後から物理的かつ致命的なアクシデントが襲いかかった。

 

 

「おおっ! さすが私の娘だ! 素晴らしい踏み込み──おわっ!?」

「きゃっ、お父様…!?」

 

 

 初号機が力強く前進したその瞬間、エヴァ特有の強烈な慣性Gに耐えきれなくなったゲンドウの巨体が、あろうことかミレイの背中へと盛大に倒れ込んできたのだ。

 

 鈍い衝撃と共に大柄なゲンドウの重たい体重が、ミレイの華奢な背中に容赦なくのしかかる。

 その衝撃でミレイの両手が握りしめていたレバーが、あらぬ方向へと無理やり押し込まれてしまった。

 

 完璧だった歩行のバランスが、最高司令官の物理的な妨害によって無残にも崩れ去る。

 

 

「あっ…!」

 

 

 ミレイが間抜けな声を漏らした瞬間、あり得ない操作指示を受け取った初号機の足首が奇妙な角度でねじれ、巨体が前のめりにバランスを崩した。

 

 そのまま受け身一つ取れず、初号機は盛大に顔面からアスファルトへと突っ込んだ。ズドォォォンッ! と凄まじい地響きが轟く。

 

 

「痛っ…! いや、転んだ時の痛みはそこまでじゃないかな。それよりお父様、重いよ! 早く退いて!」

 

 

 見事なまでの自爆劇である。カッコよさのかけらもない。

 

 けれど、敵は親子のドタバタ劇を悠長に待ってくれるほど甘くはなかった。ゲンドウの体重に押し潰されて身動きが取れない初号機の背中に、使徒が凄まじい重量で覆い被さってくる。

 

 怪物の長く不気味な腕が、倒れ伏した初号機の左腕を乱暴に掴み上げた。

 

 

「なっ…!?」

 

 

 メキィィィィッ! 分厚い装甲板と人工の筋肉がねじ切られる、おぞましい破壊音が響いた。

 

 使徒が左腕を関節とは逆方向へへし折り、そのまま力任せに引きちぎろうとしたのだ。

 

 

「──ッ!!?」

 

 

 ミレイの脳天を、今まで生きてきて一度も経験したことのない凄絶な激痛が突き抜けた。機体の損傷がそのまま肉体の苦痛としてダイレクトに跳ね返ってくる、残酷極まりないシステム。

 

 

(痛い痛い痛い痛い痛い痛い…ッ!!)

「あ、あああぁぁぁぁぁッ!!」

『左腕損傷! 神経パルス逆流! パイロットの痛覚回路を遮断できません!』

「こんな激痛があるなんてェェェ!!」

 

 

 蹂躙は終わらない。初号機の頭部を使徒が巨大な手で鷲掴みにした。仮面のような顔の奥で、圧倒的な熱量を持つ光の槍が凝縮されていくのが見える。

 

 狙いは顔面。このままでは右目を直撃される。自分の安全で快適な生活が完全に消し飛ばされる危機を前にして、ミレイの合理主義な頭は、生き残るための『最後の手段』を必死に導き出した。

 

 すなわち、無駄な暴力の連鎖を断ち切るための「対話」である。

 

 ミレイは痛みに激しく震える右手を伸ばしてコンソールを叩き、外部スピーカーを最大音量で開放した。

 

 

「待って! 話し合いで解決しようよ!」

 

 

 夕暮れの第3新東京市に、十四歳の少女の必死な叫びが木霊する。

 

 

「お互いに無駄なエネルギーを使う必要なんてないでしょ!? ここは一旦休戦して、友達にならない!?」

 

 

 ピタリ、と。初号機の頭を掴んでいた第4の使徒の動きが止まった。白と黒の不気味な仮面が、コキッと奇妙な角度で傾く。巨大な怪物が攻撃の手を止め、無言のままじっとこちらを見つめ返してくる。

 

 もしかして、言葉が通じるのか。和解へ一縷の望みを懸けた、次の瞬間──

 

 

 ──使徒はミレイのフレンドリーな提案を完膚なきまでに無視し、至近距離から容赦なく光の槍を撃ち放った。

 

 

「は、話が違う──ガ、アアアァァァァァァァァァァァッ!!!」

 

 

 右目を直接焼き焦がされるような超高熱と激痛。脳みそが沸騰するような痛みの奔流に視界が弾け飛ぶ。

 

 装甲が粉々に砕け散り、紫色の巨人の顔から人工の血液が激しく吹き荒れた。使徒は和解の申し出を一蹴した巨体を乱暴に持ち上げ、背後の高層ビルへと叩きつけた。

 

 凄まじい衝突音。そして、息が止まるような沈黙が訪れた。

 

 

『ミレイさん! ミレイさん、応答して!』

 

 

 ミサトの悲痛な叫び声が、どこか遠くの出来事のようにぼんやりと響く。目の前のモニターは砂嵐となってチカチカと明滅し、赤い警告ランプだけが不気味に回っていた。

 

 右目はまったく見えず、左腕の感覚も消え失せている。ただひたすらに痛い。帰りたい。涼しい部屋のふかふかなベッドに潜り込みたい。

 

 

(最悪だよ…こんなブラックすぎる職場、絶対に辞めてやるんだから…)

 

 

 薄れゆく意識の底で、ミレイは自分の操縦を物理的に邪魔した挙句、こんな理不尽な激痛を味わわせることになった元凶の父親を、心底から恨めしく思った。

 

 

「ミレイ…! ああ、ミレイ…!!」

 

 

 ふいに背後から、泣き叫ぶような、ひどく掠れた声が聞こえてきた。

 

 碇ゲンドウだ。先ほどの自爆転倒とビルへの激突の衝撃で、狭いコックピット内の壁に何度も体を打ち付けられたのだろう。額からは真っ赤な血を流し、トレードマークのサングラスには痛々しいヒビが入っていた。

 

 彼はシートに固定されたままぐったりと動かなくなった愛娘の姿を血走った目で見つめ、絶望に顔をくしゃくしゃに歪ませていた。

 

 そして──まさか自分のドン臭い転倒が、この地獄絵図のすべての引き金になったことなど微塵も気付かないまま、血を吐くような悲痛な叫びを上げたのである。

 

 

「いったい誰が、こんな酷いことを…ッ!」

(いったい誰が、だって?)

 

 

 ミレイの意識の片隅で、最後の思考がピシリと音を立てて繋がった。

 

 体はもう動かない。声も出ない。

 けれどミレイは、激痛で完全に落ちかけている意識の淵から、身も蓋もない特大のツッコミを投げ返した。

 

 

(あなただよ)

 

 

 寸分の狂いもない、完全な事実確認。

 その至極ごもっともな一言を最後に、少女の意識は深い深い闇の底へと完全に沈んでいった。





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いいデザインすぎてちゃっと心がもたnパシャァ!
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