新世紀エヴァンゲリオン 碇ミレイ 作:最高司祭アドミニストレータ
人類補完計画って草生えr…な、なんですか貴方たちは!? ちゃ、やめt
漆黒の虚無。
その静寂の中、円環状に立ち並ぶ巨大な長方形の石板──モノリスの群れが、不気味な威圧感を放ちながら空間を取り囲んでいた。
それぞれの中央に赤く灯る文字は『SOUND ONLY』。
人類の歴史を裏から操り、世界の命運を握る秘密結社、ゼーレの長老たちの仮初めの姿である。
静寂を破り、老人の声が響き渡った。空間の正面に位置する、識別番号『01』と刻まれたモノリスからの発信である。
『十五年ぶりの使徒の襲来。そして、エヴァンゲリオン初号機の起動と目標の殲滅。一連の事象は、概ね我らのシナリオ通りに進んでいる』
キール・ローレンツの声に呼応するように、別の番号を刻んだモノリスたちが、次々と無機質なノイズと共に電子音の混じる声を重ねていく。
『第三新東京市における第4の使徒の排除。初戦としては、評価に値する結果と言えよう』
『うむ。死海文書の記述通り、時間は動き出した』
『だが、初号機が受けた損傷は決して軽微ではない。右眼球の損壊、左腕の損壊。最終的には暴走という予測困難なファクターによって使徒のコアを粉砕し、自爆に巻き込まれたと聞く』
『暴走、か。神の肉体と人の知恵の結晶たるエヴァが、制御を離れて野蛮に振る舞う姿は、あまり感心できるものではないな』
『しかし、機体とコアの回収は完了している。シナリオの進行には何ら致命的な影響は無い』
『多少の誤差ならば修正の範囲内だ。問題はなかろう』
飛び交う老人たちの議論の渦の中心。
薄暗い照明が落ちる円卓に腰掛け、両肘を突き、組んだ指先で口元を覆う特有のポーズ──いわゆるゲンドウポーズを崩さない男がいた。
特務機関NERV最高司令官、碇ゲンドウである。
オレンジ色の色付き眼鏡の奥の眼光は鋭く、一切の感情を読み取らせない冷徹な石像のように、彼は老人たちの言葉を正面から受け止めている。
……ように見える。
『それにしても、碇。一つ説明を願いたい点がある』
別のモノリスが、咎めるような低いトーンで口を開いた。
『初号機のサードチルドレンとして、君の実の娘を迎え入れたことだ』
『左様。予備の検体として登録されていたとはいえ、直前まで実戦訓練すら受けておらぬ少女を、突如として実戦に投入した。これはいかなる判断か』
『あの初号機に宿る魂と彼女の適合性…それらを考慮したとしても、あまりに独断が過ぎるのではないか、碇』
『もし機体の起動に失敗していれば、使徒のセントラルドグマ侵入を許し、予定外のインパクトを引き起こしていたやもしれんのだぞ』
厳しく追及するゼーレの老人たち。
本来であれば、冷や汗を流しながら緻密な論理武装で言い訳を講じるべき極限の尋問空間であった。
だが、碇ゲンドウの思考回路は、ゼーレの言葉など何一つ処理していなかった。
(ミレイ…)
オレンジ色のレンズの奥で、ゲンドウの網膜に焼き付いているのは、先ほど病室で見た愛娘の姿だけであった。
自分を殴り飛ばすためにアキレス腱を伸ばし、真剣な顔で拳にふーっと息を吹きかけていたあの姿。
「覚悟しろ、碇ゲンドウ」と告げた時の、冷ややかでありながら亡き妻ユイを彷彿とさせる凛とした佇まい。
そして何より、自分のみぞおちに突き刺さった、あの華奢な拳の鋭くも心地よい衝撃──。
(素晴らしい踏み込みだった。あれほどの重心移動を、生身の状態で、しかも予備動作なしで完結させるとは…天賦の才だな。ユイの面影を完璧に宿しながら、私を物理的に制裁するためにその才能を行使する…ああ、我が娘ながら、なんという愛らしさだろうか…)
モノリスの追及など、ゲンドウの耳には「遠くで鳴いているセミの声」程度のノイズとしてしか認識されていなかった。
彼は組んだ指先の下で、誰にも悟られぬよう、微かに口元を緩めかけていた。
危ないところだった。もう少しで「フヒッ」と笑い声が漏れ出るところであった。持ち前の鋼のポーカーフェイスで何とか引き締め、無表情を維持する。
ゼーレの追及に対するゲンドウの反応は、極めてシンプルであった。
「…問題ありません」
低く、抑揚のない声。
中身は完全に「上の空」なのだが、ゲンドウが喋ると、それだけで何か底知れぬ深謀遠慮があるかのように聞こえてしまうのが、この男の天性の得な部分であった。
『ふん。自信のほどは結構だがね』
『エヴァ2号機および付属の専属パイロットは、予定通りドイツにて実証評価試験中だ。いずれ極東へ合流させることになる』
『初号機の実戦配備、そして2号機の受け入れ態勢の整備…NERVとエヴァの適切な運用は君の責務だ。失望させぬよう頼むよ?』
老人は釘を刺すように言ったが、碇ゲンドウにはちっとも響いていなかった。
彼の心の中は「自分の子供を愛さないでどうする! ああ、ミレイ愛してる! ちゅ、ちゅちゅちゅ♡」で占められているのだから、響かぬのも無理はない。
「承知しております」
その素っ気ない態度に満足したのか、識別番号01のモノリスが会議の締めくくりとなる本題を切り出した。
『左様。使徒殲滅はリリスとのごく一部の契約に過ぎん』
重苦しい沈黙が、暗黒の空間を満たす。
人類を脅かす巨大な怪物との戦いなど、彼らにとっては壮大なシナリオの序幕、些細な前哨戦に過ぎないのだ。
『人類補完計画。その遂行こそ、我々の究極の願いだ』
魂の融合。不完全な個を捨て、完全なる単一の生命へと回帰する禁断の神殺し。
ゼーレの全存在を懸けた絶対の誓いが、空間を震わせる。
ゲンドウは、組んでいた手を静かに机へと下ろした。
眼鏡の奥に一切の迷いを見せず、ただ組織の忠実なシモベとしての完璧な仮面を貼り付けて、厳かに言い放った。
「分かっております。すべては、ゼーレのシナリオ通りに」
カチッ、と。
電子音が空間に落ちると同時に、円環状に立ち並んでいたすべてのモノリスの光がぷつりと途絶えた。
『SOUND ONLY』の赤い文字が消滅し、世界を支配する老人たちとの極秘回線は完全に遮断された瞬間。
先ほどまでの宇宙の深淵を思わせる暗黒の空間は、一瞬にしてその実態を露わにした。
四方の壁面、床、そして天井に至るまで、視界のすべてを埋め尽くしているのは、鮮烈なまでに目に痛い『緑色』──全面グリーンバックのクロマキー合成用スタジオであった。
壁のあちこちには、立体投影の座標を認識させるための十字型のトラッキングマーカーが無数に貼り付けられている。
先ほどまでの威厳あるゼーレとの儀式的な対話は、すべてこの緑色の密室で行われた、安上がりなバーチャル会議に過ぎなかったのである。
「ふう」
パイプ椅子の背もたれに深く寄りかかり、碇ゲンドウは小さく息を吐いた。
その後ろには、腕を組んだまま直立不動で付き従っていた白髪の副司令、冬月コウゾウが立っている。
冬月は呆れ果てたような声で、目の前の最高司令官の背中に言葉を投げかけた。
「碇。お前、ゼーレの話を半分も聞いていなかったな」
「滅相もない。すべて完璧に把握している」
平然と嘘をつくゲンドウ。その手元はすでに次の行動へと移っていた。
彼は内ポケットへと手を差し入れ、そこから一通の白い封筒を恭しく取り出したのである。
封筒の表面には、無駄に達筆な墨文字で『ミレイへ』と記されていた。
「これを見ろ、冬月」
ゲンドウは、先ほどまでの冷徹な司令官の顔をかなぐり捨て、完全にデレ切った締まりのない笑顔──いわゆるムフフ顔を浮かべながら、その手紙の束を冬月の前に掲げて見せた。
「今度こそ、完璧だ。前回の『来い』の連呼は、いささか言葉足らずであったと反省している。だからこそ今回は、父親としての溢れんばかりの情熱と、ミレイに対する真摯な愛を情熱的に書き綴ったのだ」
冬月は心底嫌そうな顔で眉をひそめ、机の上に並べられた便箋へと目を落とした。
「…また便箋を浪費したわけではあるまいな?」
「失礼な。前回は練習用で百枚だったのが、今回は八十枚に短縮したのだぞ。ふっ、教え子の成長を褒めていただきたいくらいですよ、冬月先生」
「狂気の沙汰だな」
「純愛と言ってください」
呆れ果てた冬月は、ゲンドウが書き殴ったボツ原稿の数々をパラパラとめくり、その内容に戦慄した。
「おい、碇。この最初のやつは何だ。『突然ごめんね。パパのこと覚えてるかな?』だと…? なんだこの絵文字混じりの薄ら寒いおじさん構文は。鳥肌が立つぞ。相手は十四歳の多感な少女だぞ、自分の年齢と立場を少しは弁えたらどうだ」
「む…親しみやすさを演出しようとしたのだが」
「逆効果だ。生理的嫌悪感で即座にシュレッダー行きだな。それに、この二枚目は何だ。『拝啓、盛夏の候、貴殿におかれましては益々ご清栄のこととお慶び申し上げます』…お前はこれから取引先に稟議書でも通すつもりか? 硬すぎるにも程があるだろう」
「誠意と礼節を重んじた結果だ」
「家族への手紙に時候の挨拶など不要だ。…そして極めつけはこれだ。便箋一面を真っ黒に塗りつぶすかの如く『来い来い来い来い』と書き殴ったこの三枚目。もはや手紙ではない、呪殺用の藁人形に打ち込む呪詛文だ! こんなものを送りつけられたら、警察に通報されても文句は言えんぞ!」
冬月は深いため息をつき、こめかみを押さえた。
(…招集の手紙は、初めから私が代筆してやればよかった。ユイ君の娘にこんな怪文書の数々を読ませることになるとは、我が人生最大の痛恨事だ…)
冬月の激しい頭痛と後悔など意にも介さず、ゲンドウは自信満々に立ち上がる。
「ミレイを私の執務室へ呼び出せ。今日こそ、我が娘との新たな生活の第一歩を踏み出す時だ」
大股で廊下へと歩み出していく男の背中を、冬月は哀れむような目で見送るしかなかった。
場面は変わり、ジオフロント内NERV本部の地下第一層に位置する指令公務室。防爆扉が重々しく開き、室内に二つの足音が響き渡った。
碇ゲンドウは机の上で両肘を突き、組んだ指先で口元を覆う不動のポーズを崩さない。
床面と天井には神秘の象徴たる『セフィロトの樹』が刻まれ、荘厳な空間の中央で、ゲンドウはオレンジ色の眼鏡の奥から愛娘──碇ミレイの姿を真っ直ぐに見据えていた。
その隣には案内役として直立し、赤いジャケットの襟を正して敬礼する葛城ミサト一尉の姿がある。
「戦術作戦部作戦局第一課長、葛城一尉。サードチルドレンをお連れいたしました!」
ゲンドウは低く威厳に満ちた声を響かせた。
「…来たか、ミレイ。単刀直入に本題を告げる」
「手短にお願いね、お父様。病み上がりの未成年に無駄なエネルギーを使わせる理由はないでしょ」
返ってきたのは、感情の起伏を綺麗に削ぎ落とした少女の声だった。
先ほど病室で叩き込まれたあの見事な右ストレートの衝撃は、ゲンドウの頬に鈍い余韻を残していたが、彼にとってそれは「娘との愛のスキンシップ」に過ぎない。
ゲンドウは威厳を保ったまま、机の引き出しからずっしりと重みのある白い封筒を取り出し差し出した。
「お前には特務機関NERV最高司令官の自宅にて、私と同居してもらう。これを受け取るがいい」
ミレイは整った眉をわずかに寄せ、差し出された封筒を指先で受け取った。
「これ…何?」
「手紙だ」
ゲンドウは胸の奥で誇らしさを噛み締めながら告げた。
「前回の招集において、『来い』という言葉のみを連呼した私の不手際を反省し、今回は父親としての真摯な誠意を込めた。同居生活におけるお前の安全保障と、私の深い愛情を記した渾身の文書だ。文字の密度も限界まで引き上げてある」
計画は完璧であった。
娘が好む食事の栄養バランス、最新鋭の空調による室温の完全管理、起床と就寝の最適なタイムスケジュール。
それらすべてを便箋八十枚にわたり、余白なくびっしりと書き連ねたのである。不器用な男ができる、最大限の誠意の具現化であった。
ミレイは無言のまま封筒から便箋の束を引き抜き、そこにびっしりと敷き詰められた狂気的な文章の羅列へと視線を落とした。
ゲンドウは眼鏡の奥で、娘の反応を今か今かと待ちわびていた。感動のあまり言葉を失っているに違いない、と。
やがてミレイはスッと便箋を封筒へと戻し、机の上にパチンと置いた。
「…お父様」
「何だ、ミレイ。感動したか」
身を乗り出すゲンドウに対しミレイは小首を傾げ、亡き母ユイを彷彿とさせる柔らかで慈愛に満ちた微笑みを浮かべた。
「率直に言って…『来い』の連呼も大概だったけれど、この手紙もすごくキモいよ」
──ピキッ、と。
ゲンドウの脳内で、理性の要となる何かが決定的な音を立てて断裂した。
キモい。
愛娘の桜色の唇から零れ落ちたその三文字が、音速を超えてゲンドウの鼓膜を震わせ、大脳皮質を直接穿つ。特務機関NERV最高司令官の肉体は、完全に凍結した。
表情筋は石膏のように硬直してピクリとも動かず、組んでいた手袋越しの指先は強張り、半開きになった口の端からは今にも半透明の魂がふわふわと抜け出ていくかのようだ。
かつてゼーレの長老たちを前にしても眉一つ動かさなかった冷徹な男が、ただの一言で致命的な精神的過負荷に陥っていた。
私が何をしたというのだ。硬直した思考の檻の中で、ゲンドウは激しい当惑に苛まれていた。
ほんの少し、世の父親たちと手順が異なっていただけではないか。十年前、知人の元へ預ける際、四歳だったミレイを駅のベンチへ置き去りにしたくらいだぞ。
それだって育児という未知の領域に恐れをなし、どう接してよいか分からぬ男なりの精一杯の配慮だったはずだ。
その後も毎月の仕送りは一日たりとも欠かしたことはない。潤沢な資金を毎月口座へ振り込み続け、金銭面では何不自由ない生活を保障してきた。
不自由どころか、過剰なまでの生活基盤を与えてやったはずなのだ。
ユイは、自分の世界のすべてだった。
彼女のいない世界など、砂を噛むような荒野に等しい。
あの日──エヴァンゲリオン初号機の起動実験の最中、最愛の妻は白い光の彼方へと消え去ってしまった。世界のすべてを失い、絶望の淵に立たされた自分に、残された幼い娘をどう愛せばいいのか分かるはずもなかった。
だからこそ距離を置き、遠くから見守ってきたのだ。
ユイの血を継ぎ、あの聡明な母の面影を色濃く宿す愛しの娘であるならば、その程度の不器用さは気にしないだろうと。
父の孤独と深い苦悩を、きっと言葉にせずとも分かってくれているはずだと──そう信じ込んでいた。
それなのに、なぜだ。
渾身の愛を込めた便箋八十枚の書状を、一瞥しただけで「キモい」と切り捨てるなど、あまりにも無慈悲ではないか。
ゲンドウが魂を抜かれた抜け殻のように呆然と固まる前で、ミレイは冷淡に踵を返していた。
「そういうわけだから、私は葛城一尉のマンションでお世話になることに決めたよ」
「えっ!? あ、あたしのところで!?」
何が起きているのか。なぜ我が家ではなく、あのズボラな部下の住処を選ぶのだ。動かぬ身体の奥底で、ゲンドウの意識が必死に警報を鳴らす。
だが、麻痺した舌根は「待て」の一言すら紡ぎ出せない。
「うん。葛城一尉の部屋が、どれだけ足の踏み場もない極上のゴミ屋敷だったとしてもね。精神的な圧迫感を与えてくる父親と同居するよりは、物理的なゴミの山を片付ける方が、はるかに生活の質を維持しやすいっていう合理的な判断だよ」
「ふぇええええっ!?」
実父の誠心誠意の同居要請が、一介の部下が散らかしたゴミの山以下に格下げされたという動かしがたい現実。
背後からは、冬月の痛烈な嘲笑を孕んだ冷たい視線が無言のまま突き刺さっていた。
娘の気持ちをこれっぽっちも理解できぬ愚か者め、とでも言いたげな副司令の気配が、凍りついたゲンドウのプライドを容赦なく削り取っていく。
薄暗い執務室の中央、床と天井に広がる生命の樹の真ん中で、碇ゲンドウはピクリとも動かぬまま座し続けていた。
かつてない致命的な精神ダメージをその身に刻みつけて。
ミレイ「
【挿絵表示】
(えっ)」
ミレイ「ごめんなさいお父様! 本当はめちゃくちゃ嬉しいよ! 部屋に持ち帰って額縁に飾って、毎晩拝みたいくらいには愛を感じてるよ! 私のために部屋の手配までしてくれるなんて優しすぎるでしょ! でも、ここで甘やかしたら私の精神が崩壊しちゃうんだから…っ(ツンデレ)」
冬月「ザマァみろ、碇。娘の繊細な心情を一ミリも理解できぬ独善の極みだ…しかし、そうなると愛弟子ユイ君の面影を宿す孫娘のようなミレイ君を、こんな男の元に置くわけにはいかんな。人生経験も家事能力も高いこの私が引き取り、保護者として面倒を見るべきではないだろうか…!?(おっと大丈夫か?)」
ミサト「ちょっち汚いだけよ! ゴミ屋敷じゃないんだからね!(本当かどうかは次回で証明される)」
最高司祭「人類補完計画は素晴らしい! 神ががっているわね!(洗脳済み)(ゼーレ仮面装着済み)」
最高司祭「なぁにこれ?(アバターが洗脳されてるし他3人のセリフがカオスなんだけど作者)」