念能力を奪い、与える念能力者 作:才ル
――ヨークシンシティ。十老頭を頂点とするマフィアン・コミュニティーが、裏社会で絶大な影響力を誇っていた頃。
世界各地からマフィアが集まるこの都市には、彼らの庇護を受ける者もいればその縄張りで勝手に商売をする者もいた。
そして、後者の中には複数のマフィアから賞金を懸けられるほど好き放題に暴れ回る連中も存在していたのだった。
(【
そんないち場所にて、男は能力を発動させ今まさに対峙している青年の
狙い通り青年の視線はこちらに向けられ、その状況を使い仲間が死角から攻撃を仕掛けようとした。
しかし、それをものともせずに青年は男に向けて微笑みながらそのまま応戦を続ける。
視線を縛られてなお、戦える青年に翻弄されていく。
「……俺達が何者か、分かってやってんだろうな?」
やがて数分後、男はそう脅迫めいた悪態を吐きながら一歩、また一歩と後ずさる。
そして、少し離れたところにはつい数分前まで一緒に行動していた仲間たちが四人倒れ伏せていた。
いずれも念能力者であり、並のハンター程度なら返り討ちにできるだけの実力を持っていた。それがたった一人の青年を相手にこの有様でもあった。
「いやぁ、思っていたより面白い能力を持っているじゃないか」
青年はそう言いながら、倒れている一人の仲間から手を離した。その表情には、仲間を次々と打ち倒した者とは思えないほどに屈託のない笑みが浮かんでいる。
(何なんだ、この男はッ)
最初の一人が倒された時は、ただの強化系だと思っていた。この青年は特別な技を使うこともなく、拳による打撃だけで相手を圧倒していたのだから。
それだけを見れば凄まじい身体能力ではあったが、それ自体は念能力者同士の戦闘で珍しい話でもない。しかし、青年が倒れ伏せた仲間に手を触れて様子がおかしくなった。
手を触れられた仲間は、絶叫といえるような苦痛にまみれた叫びを上げたのだ。一瞬の動揺がこの場に広がるとともに、そのまま地に伏せていった。
(何の能力だ。強化……いや、先ほどを見るに操作もあり得るか?)
冷や汗が頬を伝る感覚がするとともに、迅速に思考を巡らせる。
先ほどの戦闘を見て不審に思ったのは、実際に戦った際に青年は仲間が能力を使うまで、わざと
放たれた攻撃を観察するように眺め、時には自ら受け止めさえした。その直後、間合いを詰めて相手の身体に手を触れていく。
残りの仲間もそうだった。さらに奇妙なことに、倒れた仲間の一人が反撃しようとした際驚愕めいた表情を浮かべていた事。
その仲間は『何で使えねぇんだよ!?』と声を荒らげていた事から、それにかかわることだろう。
しかし、反撃しようとした仲間の身体には依然としてオーラが纏わりついていた。念そのものを封じられたわけではないらしい。
(操作、能力だけを使えなくする能力なら他にも考えられる……)
青年が接触した直後に異変が起きたことを考えれば、触れることが発動条件である可能性は高い。だが、それならなぜ、わざわざ相手に能力を使わせてから接触する?
単に能力を封じるだけなら、そんな真似をする必要があるのか? だが、真相を確かめるより先に青年がこちらへと視線を向けた。
「さて、残るは君だけだね」
「……一体何をした?」
男の問いかけに青年は答えない。ただ、面白い玩具を見つけた子供のようにこちらをじっと見つめてくる。そして、男が身構えたところで不意に口を開いた。
「確か、視線を誘導されたみたいな感じだったか……具体的にどんな能力なんだい?」
「ッ」
一層、不気味な微笑みを浮かべながらそう口にした青年に背筋が凍った。
だが、最後の抵抗と言わんばかりに男は思わず歯を食いしばる。
「教えると思うか?」
「それもそうだね。念能力者が自分から手の内を明かすなんて、よほどの理由がなければしないものだ」
青年は納得したように、うんうんと頷いた。
「じゃあ、代わりに僕の能力を少しだけ教えてあげようか」
「…………」
予想外の言葉に、男は思わず目を細める。しかし青年は気にした様子もなく、倒れ伏した仲間たちへと視線を向ける。
「僕の
そう言って、青年は楽しそうに笑った。そんな言葉を聞いた男の背筋を冷たいものが伝う。
(……どうりであの不審な動きを)
仮に青年の言う通りならば、辻褄は合う。もっとも最悪なことに己の能力は既に見られてしまっているが。
だが、それ以上に理解できないことが一つあった。なぜそんな重要な情報を自ら明かしているのかという点だ。
「なぜそんなにもペラペラと能力を話しているんだ、って顔をしているね」
それも当然だ。念能力者にとって、自らの能力を明かすことは大きな危険を伴う。ましてや、一度能力を見ないと発動できないという情報を持っていれば対応しようはある。
(そういうことか)
男はようやく理解した。この者は、元から自分を生きて帰すつもりなどないのだと。
次に自分がどうなるかなど考えるまでもない、死人が秘密を漏らすことはないのだから。
「ははは! 実はそういうわけでもないんだよね」
「……何だと?」
男の考えていた事に対して、返事するかのようにけらけらとわざとらしく笑う青年。
「実はね、前から試してみたいことがあったんだ。ただ、条件を満たすのが面倒でね……君の能力なら、ちょうどいいと思ったんだよ」
(……ふざけるな!)
男は歯を食いしばった。どちらにしろ殺されるのであれば、ここで大人しく実験台になってやる義理などない。
青年が楽しげに話している今が好機だ。右腕にオーラを集中させつつ地面を強く蹴り青年の顔面目掛けて拳を振り抜こうとした。
「おっと、【
しかし、拳が届く前にすかさず青年は能力を発動し、瞬く間に男の腹に拳を埋まらせる。
「ごッ、ごほッ、っ!!」
腹部へオーラを回す暇もなく、その場に崩れ落ちる。その際に、皮肉にも青年に向けて頭を垂れるような形になった。
「そうだね、オールマイティ……はそのまま過ぎるか。んーいいや、オルで行こう。僕はオルと名乗ることにするよ」
その場に似合わぬ穏やかな声で、ゆっくりと頭を垂れていた男の頭に手を触れる。
青年、もといオルにとっては手馴れたやり方で男の中からそれを抜き取る。その瞬間、苦悶にまみれた声が男から発された。
「お~これもなかなか面白いね。じゃあ【
激痛が走る中、妙に躍るようなそんな印象を受ける声を出したオルはそのまま実験に入る。
男の髪を掴み上げ、顔をこちらに向かせた。
「【導線】」
そして、先程奪った能力を用いて視線をオルに固定させるように使ってみせる。
(な、んだこの男は……)
激痛に呻きながら己の能力を使われたことに混乱する男。そんな彼をよそに、オルは口を開いた。
「ちょうど制約が面倒なものがいくつかあるんだ。そのための【導線】はいい掘り出し物だったよ、ありがとう」
まるで慈母のように優しい微笑みを浮かべたオルは、そのまま能力行使に移る。
「【白紙】+【後付け】+【盲信】」
手馴れたように三つの発を組み合わせて生まれた技、その名は【
その技がしっかり男にかかったと確認したオルは、そのまま手を離し一歩後ろに下がる。
「――……マフィアの連中は、どこへ行ったッ」
男は足元に倒れた仲間たちを見つめ、目の前にオルがいるにもかかわらず、男はオルが仲間を倒した張本人だとは微塵も疑っていなかった。
その言動からして、まるでマフィアの連中にやられたと言わんばかりに歯を食いしばっている様子が見られる。
それを目にしたオルは満足げに目を細める。
「君から見た僕は単なるチンピラかな? それとも小悪党かい? まあ……」
目の焦点が微妙に合わず、傍から見れば不審な動きを見せた男に向けて、オルはこう口を開く。
「ラスボスだとなおいいんだけどね。これでも精進中さ」