異世界に凡人が転生で神様 作:ぶれぶれ
投稿の仕様が分からず苦戦中です
◆◇◇◇
気づいたら知らないところに寝ていた。
最初に目に入ったのは見慣れたアパートの白い天井でなく、木目の天井。
ベッドも慣れ親しんだマットレスじゃなく、あまり寝心地の良くない布団にリネンのような布がかかっている。
……マジでどこだ?
身じろぎした自分に対し、頭の上の方から起きたかと声をかけられ思わずビクッとする。
目を向けるとなんかやたら雰囲気のある白髪ロン毛のおじ様がいらっしゃる。
だ、だれぇ…?
「……あの、失礼ですがどちら様でしょうか?」
とりあえずコミュニケーションをとってみる。
ここがどこかも分からんし下手に出ていこう。
すると自分の返答に対しておじ様がぎょっとしている…なんだ?
「カイル……儂がわからんのか……」
知らん名前で呼ばれたんだけど……こわ。
あれからおじ様……いや、アイザックさんとやり取りした結果、どうやら自分はカイル君という10歳の男の子の身体で目覚めたことがわかった。
なんだろ、転生というやつだろうか……あれ?前世の自分は死んだのか?
アイザックさんの話によると、夕方になっても戻らないカイル少年を探しに村を訪ね回ったそうな。
すると、カイル少年のお友達のリッド君も戻ってない、森の方に行った子供をを見たぞという証言、まさかと思い森の方に向かうと血相を変えたリッド君が森から出てくるところに遭遇したらしい。
「あの時、森から飛び出してきたリッドからお前が森の祭壇に向かう途中に崖から落ちたという話を聞いたとき……、そして慌てて森に入り祭壇手前の崖下に倒れているお前を見つけたときは背筋が凍る思いをした。しかし息もあり、目立った怪我もなかったのでまずは大事には至らなかったと思っていたのだがな……。」
それからカイル少年は意識が戻らず一週間ほど経ったらしい。
村にいる薬師からも診てもらったが原因は不明。昏々と眠り続けたようだ。
そしてこうして目覚めたわけだけども……。
「やはり何も覚えてはおらぬか……」
そう、カイル少年は記憶喪失ということになってしまったのだ。
消沈するアイザックさん。自分が言うのも憚られるが心中お察しする事案だわ。
「……すみません、何も」
「いや、こうして目を覚ましたことは喜ぶべきことだ。まだ目を覚ましたばかり……、記憶が戻らないと決まったわけでもあるまい。今日はとりあえず休みなさい。」
そんなやり取りをして改めて床に就く自分。
頑張って思い出そうとすればカイル少年の記憶が浮かび上がったりするだろうかとか思ったけど駄目。
というか前世の自分ことすらもすでに朧気だ。
名前すら出てこんわ……これはもう駄目かもわからんね……。
そんなわけで自分はカイル少年として第二の人生を歩むこととなったのである。
その後、自分が目を覚ましたと聞いて、森に一緒に入ってしまったというお友達のリッド君が駆けつけてくれたけど、一言二言言葉を交わすと物凄くショックを受けたといった表情で出ていってしまった。
ホントごめんね。
◆◆◇◇
数日安静にして何ともないと薬師の方からお墨付きを頂いた後、アイザックさんとともに村を回ることとなった。
そう、謝罪行脚である。
結構な人たちに迷惑かけたからね。仕方ないね。
元のカイル少年とは様変わりしてしまったことや記憶喪失になってしまったことには大層驚かれたり、すんごい怪訝な表情で見られたりしたが、概ねまずは怪我とか大事が無くて良かったねと喜んでくれる人がほとんどだった。
悪魔が乗り移ったんだ!吊るせ!!とかいう展開にならなくてホント良かった。
ただ問題はこのお宅である。
「今回は息子のリッドが森に連れて行ったせいでこのようなことになってしまい……大変申し訳ない」
そう、リッド君のお宅である。
やめて!ここだけお通夜みたいな空気なんですけど?!
記憶が無くてですねぇと意識して明るめに伝え、改めてリッド君一家にご紹介いただいたわけだけれども……。
うん、リッド君パパは沈痛なお面持ちだし、リッド君ママははらはらと泣いているし、リッド君も下を向いたままずっと無言だし。
なんだ……ここが地獄か?
ここは自分の謝罪力だけが頼りだ。
「いえ、こちらこそご心配とご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。着いていった私にも非がありますし、記憶も戻らないと決まったわけではありません……身体はもうなんともありませんのであまり気になさらないでください。」
そんな言葉を返すとさらに空気が重くなった。
失言したつもりはないけどもリッドパパはクッ!みたいな顔するし、リッドママは手で顔を覆って泣き始めるし。
リッド君なんかは顔を上げたと思ったら呆然とした表情でこっちをみてくる。
そんな取り返しのつかないことをしてしまったみたいな顔でこっちを見ないでくれ。
おいどうすんだよ。お前のせいだぞカイル少年。
「……お互いまずは大事なかったことは喜ぶことと思う。またどうか孫と仲良くしてやってほしい」
「アイザック殿……」
アイザックさんナイス。
この地獄のような状況をとりあえず終わらせてくれた。よし!
お邪魔しました!と言ってお宅を後にする。
後ろは振り返らない……怖いからね。
時間が……そう、きっと時間が何とかしてくれる…!
◆◆◆◇
「――531!――532っ!」
カイル少年として目覚めて1ヶ月。
知らない世界で、他人の身体で戸惑うことも多々あったが、この村での生活にもようやく慣れてきたと思う。
戸惑うこととして一番衝撃だったのが、カイル少年とアイザックさんに血のつながりはないことだった。
どうやら隣国との戦争の際、両親を亡くして身寄りがなかったカイル少年をアイザックさんが引き取ったらしい。
もしあれだったら自分は家を出ていくけどとか言ったら凄い勢いで止められたのは内緒だ。
さすがに自分に人の心が無さ過ぎたと反省……前世に置いてきたのか?
「――547っ!――548っ!」
そんな紆余曲折があり、さらに分からないことだらけであったので色々教えてもらって大変申し訳なかったが、お陰様である程度家事などは手伝えるようになった。
初めは元のカイル少年に近づけようと思ったが、元を知らないし、すぐにボロがでて迷惑をかけると考え諦めた。
「――555っ!――556……!」
アイザックさんの話によると、元のカイル少年は身体を動かすよりは本を読むことが好きで、村の外の世界に憧れている子だったとのこと。
いかにも少年って感じがしていいね。
ただ都会で働くばかりな生活を送っていた……ような気がする自分としては、このほのぼのとした村での生活が気に入っている。
これが憧れのスローライフ――、カイル少年にもアイザックさんにも悪いが自分はゆったりとした村での生活を満喫させていただこう。
ただ、不満な点がひとつ。
「カイル、また剣筋がぶれてきておる。腕でなく体幹を意識しなさい。」
「――っつ、はいっ!」
そう、アイザックさんから剣の指南が習慣となってしまったのである。
人生何が起こるか分からないし身を守る術とか必要ですかねぇとか相談してしまった自分を呪いたい。
なんか琴線に触れたのか嬉々としてアイザックさんが教えてくれるようになったのである。
これだけはスローライフじゃねぇーんだよ!!
村をひたすら走ったり、ひたすら素振りをしたりとか10歳の少年にはスパルタだろうが!?
自分からお願いした手前、言わんけども!!
そんな感じで村での生活を送る新生カイル君なのであった。
◆◆◆◆
(アイザック視点)
「――623っ!――624ぃ!」
カイルの素振りを見守りつつ、かつての……自分に本を見せながらキラキラした目で話すカイルを思い出す。
『おじいちゃん!見て!南の国にはとげとげの果物が生えているんだって!』
騎士として王国との戦争に参加して敗戦。
戦場から落ち延びたものの力尽き、倒れ伏していたところを孤児となっていたカイルに助けられてから3年……。
もはや自分は老兵…家族もすでにおらず、あの戦いで片腕も失った敗残兵。
だからこそ紆余曲折はあったが供に暮らすようになったカイルは唯一の家族、もはや孫のような存在であった。
だから森に入ったと聞いたとき、そして声をかけても目を覚まさない姿を見たときは背筋が凍った。
それだけに目を覚ました時は安堵した気持ちであった。
……まぁそれもすぐに吹き飛んだが。
『アイザックさん……とおっしゃるのですね。私は……えーっと、すみません、名前が出てこなくて』
記憶喪失。
似ても似つかぬ言葉で話すカイルの様子を見て、孫はもはや別人になったと感じた。
目の前が暗く閉ざされるような思いだった。
……だがそれでも、今までカイルと過ごした日々が消えるわけではない。
時間がかかってもいい…。
自分との、そして村での生活があの子が戻るきっかけとなることを今は唯々祈ろう。
そしていつの日か、またおじいちゃんと呼んでほしい。
ただ。
『おじいちゃん……僕、剣が怖い……』
『魔獣ですか……思いのほか身の回りに危険が多いのですねぇ。うーん、ある程度身を守る術なんかを学んだほうがいいのですかね。アイザックさんはそういった心得があると伺ったのですが、よろしければ触りだけでも教えていただけませんか?』
ただ……戦争で両親を失い、剣を、そして戦いを恐れ、夜な夜な泣いていたあの子に、自分が唯一誇れる剣を教えることができる。
つらい記憶を忘れたこと、そして自身の剣を孫に教えられること。
それだけは、今だけは神に感謝したい。
「――636っ!……700!」
「……637だ、たわけめ」