異世界に凡人が転生で神様 作:ぶれぶれ
◆◇◇◇
ある日の朝。家の裏庭。
「うむ、今日も気持ちのいい朝だなカイル。では素振りから始めるか」
「……」
どうした?と木剣を手に訝しげな表情を浮かべ訪ねてくるアイザックさん。
マジかよ、どうしたじゃないんだよ。
何か楽しそうだからしばらく言えずにいたが今日は言わせてもらおう。
「……昨日って何しましたっけ?」
「ふむ、一緒に鍛錬をしたな」
したな、朝っぱらから。
一緒にひたすら走って、昼休憩挟んでからはずっと木剣振ったよな?
「……一昨日は、何しましたっけ?」
「……鍛錬をしたな」
そうだよな?朝っぱらから。
ご近所から「おいおい、また今日も元気に走っているわ」って感じで、呆れた表情で見られていたよな?
「その前は――」
「鍛錬だ」
「鍛錬だじゃねぇーんだよ!!!孫とどんだけ鍛錬すんだじいさん!!!!!」
「ぬぅ」
ぬぅじゃねーんだわ!何今気づきましたみたいな顔してんだよ!?
逆にこっちがびっくりし過ぎて口調も吹き飛ぶわ!!
「はぁ……、なんというか記憶が戻るように前の自分の知り合いの方と会ったり、以前送っていた生活をなぞったりするのが良いと思うんですが……」
というか前のカイル少年は鍛錬とかしてなかったですよね?とジロリと見ると、アイザックさんは今までのやり取りは無かったふりをして「うむうむそうだの、そうしようかの」とか言いながらいそいそと家の中に引き返していった。
……コイツ。
◆◆◇◇
――カラン、カラン
「いらっしゃい……あら、カイルじゃない」
「やぁ、おはようエミリーちゃん」
そんなわけで自分は今、宿屋「ひな鳥亭」に来ている。
ひな鳥亭はカイル少年の幼馴染であるエミリーちゃんが、お父さんのオットーさんと二人で切り盛りしている村唯一の宿屋だ。
そしてエプロンドレスを身にまとい三角巾から覗くピンクの髪をなびかせながらあくせく働くこの勤労少女が、宿屋の看板娘のエミリーちゃんである。
「ふーん、身体の方はもう大丈夫そうね。ランチタイムにはまだ早いから待ってもらうけど食べていくの?」
「いや実はね――」
とりあえず最近の自分の近況から順番に説明する。
鍛錬、鍛錬、鍛錬、そして鍛錬だ。
そんな調子では記憶なんか戻る訳ないだろ、いい加減にしろ!ということでひな鳥亭にお手伝いに伺った次第である。
カイル少年はアイザックさんと二人暮らし。片や子供でもう片や片腕のないご年配。加えて男の二人暮らしということで以前からこのひな鳥亭には食事を摂りに来たり、時折残った食べ物を分けていただいたりしていた。
そこで少しでも恩返しとなるよう以前から時折、宿屋の仕事を手伝っているようだった。
「……事情は分かったわ。昨日から団体のお客さんが泊まっていて、正直ヒルニャーの手も借りたいぐらいだったから渡りに舟よ!」
こっちよ!とズンズンと受付に隣接する食堂から奥の厨房へ向かうエミリーちゃん。
ヒルニャーって何?とか聞こうとしていた自分はすでに置き去りだ。
さすが看板娘、判断が早い!
「やぁカイル君。宿を手伝ってくれるんだってねぇ。どうかよろしく頼むよぉ」
宿の奥に進み厨房に入ると、ニコニコとした表情とおっとりとした言葉遣いで宿屋の主人オットーさんが出迎えてくれた。
娘さんは小柄でハキハキとした感じなのに父親のこの人は身体が大きくてのんびりとした感じなのでギャップが面白い親子という印象だ。
ただ、仕込み中なのか何なのか、チョッパーナイフを手にしてのそっと出てきたので正直怖い。
ナイフについたその赤いのは……いや、やめておこう。
「パパはこのままランチタイムの料理準備!私とカイルはお昼の開店準備!注文は私が聞くからカイルは配膳と下膳を中心にお願い!」
さぁ、バリバリ働くわよ!というエミリーちゃんの一声に自分とオットーさんは「おー」と返すのであった。
◆◆◆◇
――カラン、カラン
「いらっしゃいませ!3名様ですね、こちらのテーブルにどうぞ!」
お客さんの来店とともにエミリーちゃんの元気な声が響く。
宿泊客はもちろんだけど、そうでない人でも昼食は食べられるためか村の小さな宿屋の食堂にも関わらず思った以上にお客さんが入っている。
カウンターも席が埋まっているし、今のお客さんでテーブル席もほぼ満席だ。
「お待たせしました。丸鶏の香草焼きとベリー盛り合わせです」
「おう、坊主!ありがとな!!」
自分も微力ながら頑張らせてもらっている。
料理を運んで、空いた皿を下げて、客がくればテーブルへ誘導し注文を伺う。
最初は配膳と下膳だけだったけど、今日は想定よりも客が多いのでエミリーちゃんには会計を任せ、なるべく注文とか案内を引き受けることとした。
看板娘でなく自分の案内で申し訳ないね。
「おーい、料理の追加いいかー?」
「はい、ただいま伺います!」
思っていた以上にハードであるが、鍛錬のおかげで体力とかまだ余裕がある。
……脳裏にアイザックさんのドヤ顔が浮かぶが頭を振って消す。
この場面でありがたさを実感したくはなかったわ。
「黒パンと根菜のスープ3人前、用意できたよぉ~」
「カイルお願い!あっちのテーブルの食器は私が下げるわ!」
かしこまり!と返事しつつ、テーブルに向かって指を振るエミリーちゃんを横目で見る。
自分も先ほど見て驚いた光景がそこにはあった。
そう、食器がひとりでに浮かんで厨房の方へ飛んで行くのである!
「ひゅ~!相変わらずエミリーちゃんの魔法はすげぇな!!」
「知り合いの魔術師に聞いたが、ベテランでもあんな繊細な魔力操作は難しいらしいぜ」
ガハハとテーブルの客がそんな話をするのが耳に入る。
やばい、魔法である。
そう、魔法である!
エミリーちゃんは魔法少女看板娘なのである!!……魔法少女看板娘ってなんだ?
◆◆◆◆
「ランチタイム終了!お疲れ様!よくやったわカイル!!」
「今日はお客さんが多かったねぇ。カイル君が接客まで入ってくれてホント助かったよぉ~手伝ってくれてありがとうねぇ」
ニコニコと笑顔でそう話す二人。
記憶にはないが、自分の魂に刻まれた前世の接客スキルが火を噴いたようで良かった。
普段は二人それぞれ調理と接客のワンオペなので、ある程度お客を待たせることも多いそうなのだが、今日は自分が加わったことでほとんど待たせることなくお店を回せたようだ。
……そもそもワンオペで回せることが異常なんだが。
魔法の力ってすげぇ……。
「でも魔法でなんとかしているところなんて、食器を下げたり、身体を浮かせたりするぐらいしか使えないわ。注文の聞き取りや料理の配膳まで魔法でやったら折角来たお客さんに失礼だもの。」
この若さでプロ意識の高さよ。
というか身体浮いてたんだ。
道理でやたらスイーッと移動してたわけだ。
「うんうん、しっかりものの娘を持ってボクは鼻が高いよぉ」
娘の言葉を聞いてオットーさんは満足げにエミリーちゃんの頭をなでる。
やめてパパとか言いつつエミリーちゃんも満更じゃなさそうだ。
なんというかまだ出会ってから数えるほどしか関わったことがないけども、魔法がすごいとか、そつなく仕事をこなしたからとかじゃなくて、働く姿勢を褒めている感じがするのが、そしてそれを誇らしげに喜べるのがこの親子らしいなと思う。
そんなことを考えながら、しばし二人を眺めるのであった。
お手伝いの報酬として、食材とオットーさんの料理をいただいた。
お金とかじゃないんだねとエミリーちゃんに聞くと、「……?お金をもらっても買うのは食材なんでしょ?逆に手間じゃない」と返された。
まぁごもっともである。
「また来なさい!今日の働きぶりなら週5で雇ってもいいわ!」
さすがにそれはご勘弁を。でもまたちょくちょく手伝い来ることを伝える。
あ、そうだ。
「ちなみに自分もエミリーちゃんみたいに魔法って使えたりできるかな?」
「魔法?しらないわ!だって私、宿屋の娘だもの!!」
さようでございますか。
エミリーちゃんは感覚派らしい。
まだほんのり温かい料理を抱えながら、少し残念な気持ちを胸に家へ帰るのであった。