異世界に凡人が転生で神様 作:ぶれぶれ
細かいところあとで直すかもしれません
◆◇◇◇
「お疲れ様!また明日よろしく頼むわ!」
「お疲れ様エミリーちゃん。また明日ね」
手伝いを終え、エミリーちゃんに手を振って宿屋を後にする。
今日も報酬としてオットーさんの料理を頂いてしまった。夕飯で食べるのが楽しみだ。
宿屋の手伝いを初めてあれから。
ここ最近は早朝と午前中にアイザックさんとの鍛錬、軽食を挟み昼前から夕方前までエミリーちゃんの宿屋の手伝いという毎日を送っている。
お陰さまで鍛錬の方は体力づくりや素振り、型の練習だけでなく、立ち合いについても学び始めたところだ。
宿屋の手伝いについてもランチタイムの接客だけでなく、洗濯したシーツなどの取り込みや部屋のベッドメイクなども手伝えるようになった。
宿屋の手伝いが無い日は近所の人の畑を手伝っているし、充実した毎日を送っている。
いやぁ~今日も良く働いたなぁ~はっはっはー……
「じゃねぇーんだよ!!!!!」
帰り道、突然ブチ切れて叫ぶ自分に驚き、鳥がバサバサと飛んでいく。
だがそんなことはもはやお構いなしであった。
「なんだこれ!!これがスローライフか!!?鍛錬だの労働だのばっかりじゃねぇーか!!!!!」
ウガ―!!!!!と声を上げながら頭を抱える。
違うんだよ、想像していたスローライフってこれじゃないんだよ。
朝は小鳥の鳴き声で目を覚まして早朝の庭を散策するとか、店ではカウンターでグラスを拭きながらお得意さんと談笑したりとか、ちょっとした庭の小さな畑で家庭菜園を楽しむとか、求めているのはそんな感じのやつなんだよ!
ひたすら走るだの剣の打ち合いだの、ピークタイムの飲食店並みの接客だのじゃない!!
あと近所の畑!
なんだあのサッカーの試合できるみたいな広さは!!耕すのも植えるのも途方もねぇんだよ!!!!!
……異世界は地獄だった?
「このままじゃどうにかなってしまうという確信がある……こうなったら」
こうなったら早急に元の持ち主にこの身体へ戻ってもらわなくては。
こうして自分はカイル少年に身体を返すという決意を固めたのだ。
◆◆◇◇
自分には確信がある。カイル少年の魂がまだどこかにあるという確信が。
おぼろげだが意識を集中すると、この身体から本来の何かへのつながりを感じるのだ。
つまり、このつながりを辿れば何かしらカイル少年の魂への手がかりがつかめるはず。
(リッド君に話を聞ければ話は早い気がするんだけどなぁ~)
普段は立ち入りを禁じられているという森へ、その祭壇へ何をしにカイル少年と向かったのか、両親が聞いてもリッド君はだんまりらしい。
それに変わり果てたカイル少年――つまり自分に会いたくないのかお宅を伺っても会えずじまいである。
まぁ例え会えたとしても話は聞けないだろう……それに自分は彼のストレスの権化、無理に会っていたいけな少年を精神的に追い詰めるのはさすがに忍びない。
なので聞くとすればこの人だろう。
「カイルがなぜ森に行ったか?」
そう、アイザックさんである。
孫が目を覚ましたと喜んではいるが、本音としては元のカイル少年へ戻ってほしいと今も祈っている1人だろう。
それにこの人は恐らくカイル少年が記憶喪失なんかでなく、そもそも中身が別物になっていると気づいている。
自分を責めたり問いただしたりしないのは、カイル少年の身体を守るとか何かしら打算もあるのだろう……まぁ、鍛錬の時に興が乗っている姿と見ると夢孫ならぬ夢カイル君を楽しんでいるという面も大きいような気もするが。
あと、自分がカイル少年を元に戻せるようなアクションを起こさないと許さんぞという恐ろしい気配を感じることがある。
なんというか、このまま放置しておくとお前だけ斬るぞという意思が……怖いね。
「カイルが何を考え森に入ったかは儂には分からん。未だにリッドのやつも事情を話さんようだしな。……ただ何となく察することはある」
そう言ってアイザックさんはカイル少年の部屋に向かい、すぐに戻ってきた。
これだと言ってテーブルに乗せたのは手作りの……何だ?アクセサリー?
たしか、崖から落ちたカイル少年のすぐ横に落ちていたものだったはず。
「あの森の祭壇には、森の神シュラハト様が祀られておる。村では年に一度、見守ってくださった神への感謝とこれからも平穏に暮らせるようにという願いを込め、祭壇へお供え物を捧げるのだ」
カイルが儂に見つからないようこそこそと作っていたこれは、恐らく祭壇へお供えするためのお守りであろうとアイザックさんは語る。
つまりあれか?
カイル少年が森に入ったのは何かしら叶えたい願いがあったからとかそういう?
「わからん。それにそうだとして何の願いがあったのかも儂にはわからん。毎日楽しそうに過ごしていた……何かに悩んでいるようには見えなかったのだがな……」
なんか急にシュンとしたな。
自分でしゃべってダメージを負ってらっしゃる。かわいそう。
「話は終わりだ。明日は村の者と近いうち森に入ることになったので村長達と打ち合わせがある。だから鍛錬は休みとしよう……最近村の周囲も騒がしいようだしな」
もう寝なさいと言ってアイザックさんは自室へと入っていった。
テーブルにはカイル少年が作ったお守りだけが残っていた。
◆◆◆◇
「カイルの願い事?知らないわ!」
翌日、宿屋のお手伝いの合間に幼馴染であるエミリーちゃんに話を聞いてみるが案の定ばっさりと切られた。
そりゃ身内も知らないことを友達が知っているわけないよね。
エミリーちゃんは騒動が起きるまで二人が森に行ったことも知らなかったわけだし。
「でもカイルのドジが治るようにっていう願い事だったのなら叶ってると言えるかもしれないわね」
カイルったらよく転んでお皿や料理をひっくり返してたから大変だったのよとエミリーちゃんはくすくす笑っている。
カイル少年がひっくり返るたびに魔法で浮かせて注意している様子が目に浮かぶようだ。
それにしても今日のランチタイムはあまり客がいないな?
「おーい二人とも、客足も落ち着いたようだしお昼休み入っちゃっていいよぉー」
厨房からのそのそとオットーさんがまかない料理を持って現れる。
料理を受け取りつつ首をかしげる自分の様子に気づいたのかエミリーちゃんが補足してくれる。
「あー、団体のお客さん……まぁ冒険者さん達なんだけど、今日は森の方の調査ってことで朝からみんな出ているのよ」
「なんかここ1月前から村の周囲が騒がしいらしくてねぇー。魔獣が増えたとか、移動している群れとかなんとか。色々調べてくれたらしいんだけど、なんか森に原因があるかもみたいな話だったかなぁ」
怖い話だねぇというオットーさんに、村の外の話なのにビクビクしないでよパパ!と注意するエミリーちゃん。相変わらず仲の良い親子だ。
というかあのお客さん達、冒険者だったのか……まぁ異世界だし、それっぽかったから驚きはしないけども。
それにしても森で異変か……なんだろ。
アイザックさんも昨夜森の件で村長達と相談するとか言っていたし、良くないことは起きていそうだ。
まぁ正直気になるけどもさすがに自分の出る幕でもないか。パス。
そんなことを考えていると、自分が不安を感じて黙っていると思ったのか、オットーさんが大丈夫、何も心配いらないよぉといつもの調子で自分の頭をなでてくる。
相変わらず大きい手だ……正直握りつぶされそうな気がしてこっちのほうが恐怖を覚える。
「でもカイル君は前の件のこともあるからねぇ。森には近づいちゃ駄目だよぉ?」
「ふふっ、そうね。また森で落っこちてこれ以上おかしくなったら大変だし、あんたはせっせとウチで働きなさい?」
ハハハ、こやつめ。
◆◆◆◆
(リッド視点)
(俺のせいだ…)
森に続く道を走る。
すでに夕方に差し掛かった森の中は薄暗く、何度も躓きそうになりながらも走る。
(全部俺のせいだ…!)
森に誘ったのも、カイルが崖に落ちたのも、カイルが別人になってしまったことも。
森の奥には神様を祀った祭壇がある。
毎年お供えものをして村を災いから守ってくれるようお願いしてるって父ちゃんが言っていた。
あの日、森にある神様を祀った祭壇へ行こうってカイルを誘った。
『願い事を叶えてくれる祭壇?』
『なんだカイル知らねぇのかよ?祭りのあと大人たちが森に入っていくだろ?森の奥、ほらあのでっけぇ御神木の下には神さまを祀った祭壇があって、毎年村を災いから守ってくれるようお願いしてるらしいぜ!』
カイルはいまいちピンと来てないのか、ふーんって顔で俺の話を聞いてた。
『もしホントに願い事が叶うなら俺は一流の冒険者になって王都で活躍できますようにってお願いするぜ!』
『わぁー、リッド君、毎日鍛錬頑張ってるもんね。うーん…エミリーちゃんはやっぱり宿屋を継ぐことかなぁ?』
そんなん聞くまでじゃねーよ、折角あんなすげぇ魔法使えるのに勿体ねぇって返すと、あいつは苦笑いしてた。
そして、カイルはしばらく考えて……
『あ』
『なんだ、思いついたのか?』
てっきり新しい本が読みたいとか、王都や隣国とか行ったことないところに行きたいとか言うと思ってた。
『……パパとママとお話したいなぁ』
『おまえ……』
カイルには親がいない。
戦争に巻き込まれて死んじゃったそうだ。
『ちがうちがう!そうじゃなくて!ほら、ボクこの村に来て結構経つでしょ?住み始めたときは死んじゃったパパやママを思い出してよく泣いてたけど……』
カイルは慌てて訂正してぽつぽつと話した。
『パパとママのことはもうぼんやりとしか覚えてないけど…それはさみしいし、考えると今でも涙がでてくるけど…』
『でも今はおじいちゃんがいるし…リッド君やエミリーちゃんもいるし…村のみんなも優しいし…大丈夫だよ、ぼくは元気だよって伝えたいなぁ…』
それを聞いたとき、寂しそうに話すカイルを見たとき、なんかこういう願い事は叶ってほしいと思ったんだ。
だから、つい言ったんだ。
じゃあ、神様にお前の父ちゃんと母ちゃんに伝えてもらおうぜって。
『すごいリッド君!森の中は怖いけどリッド君が一緒ならぼくがんばるよ!』
願い事をするときは祭壇へお供えものが必要だ。
あいつは母ちゃんからたった一つだけ教えてもらったっていうお守りをお供えしたいとかいうから、材料をそろえるために小遣いを出し合って、あーでもないこーでもないって言って一緒に作って、村の人の目を盗んで森に入って、祭壇前の坂道が崩れてカイルが落ちて、俺ではどうしようもなくて、転びながらも大人を呼びに走って。
(そしてカイルはカイルじゃなくなっていた)
だからお願いするんだ。
俺が持っているお宝も大事にしていた木剣も全部かき集めた。
そしてあの日、代わりのお守りも、なけなしの小遣いで材料を集めて、一緒に作ったやつとは似ても似つかないけどようやく作れた。
これが俺の神様にささげられる精一杯。
足りないなら今度は俺が崖から落ちたっていい。
だから……、だからどうか神様。カイルを元に戻してください。