異世界に凡人が転生で神様 作:ぶれぶれ
ひとまず序章らしきものはこれでおしまい。
◆◇◇◇
(リッド視点)
「村へ逃げろ!!」
震えている俺に向けてそう言って、カイルの姿をした何かが走り去っていく。
……助かった?
「ふっ……うぅ……」
助かったっていう気持ちと一緒に情けなさで涙がこぼれていく。
なんで安心してんだ俺……。
カイルを元に戻すんじゃ……助けるんじゃないのかよ……。
祭壇まで辿り着いた時、御神木の大樹の中から現れたあの魔獣。
持っていたもの全部放り投げて方向も分からず逃げた自分。
そして震えていた自分を助けるために囮になったカイルの姿した何か。
(……!)
だせぇ……一番だせぇのは俺だ。
なにが一流の冒険者になるだ。
なにがカイルを元に戻すだ……。
「うぅ……」
自分のふがいなさに涙が止まらない。
俺はこのままここでうずくまるしかないのか……
(……ドく……)
?
……声。
あいつの声が聞こえた気がする……どこから?
顔を上げる。
(……リ……ん!)
右手がぼんやりと頼りなく光っている……。
握りしめているのは……俺が作ったお守り?
(リッド君!!)
それは、久しぶりに俺を呼ぶ親友の声だった。
◆◆◇◇
(アイザック視点)
(……固い)
剣をふるう…しかし固い外殻に阻まれる。
仲間の矢も、打撃も、魔術すらも気にした素振りはない。
そしてなによりこちらに目もくれぬ。
「ハァアアアア!!!!!」
渾身。
しかし、奴の足を鈍らせるにも至らない。
奴はひたすら孫を追う。
なんだこれは、ふざけるな!!
「オォオオオ!!!!!」
片腕を失った老いぼれの剣など無意味だと、足止めにすらならぬと言うつもりか!
……自分はまた失うのか、妻も、子も、そして血のつながらない孫すらも。
「オォオオオ!!!!!!!!!!」
いい加減にしろ、アイザック・アインシュナイダー!!
そのまま受け入れる気か!
片腕ないから!老いたから!血が繋がらないから!!
……冗談ではない!!!!!
こっちを見ろ!!このくそったれが!!!!!
「オオオオォオオオ!!!!!」
渾身の流し切り。
幾らか足を落とすが止めるには至らない……くそったれが。
「アイザックさん!ありがとうございました!」
何もできない自分に孫がお礼を言って走っていく。
無理をした反動か身体が動かない。
……何て、何て無力なのだ。
◆◆◆◇
アイザックさんのお陰で九死に一生を得た自分。
時に曲がり、時に戻り、ひたすら直感に従って逃げ回り、さいごに辿り着いたのは騒動の種となったと思しき祭壇であった。
ここから先は何も進むべき光の標は見えない……つまりここが終着点。
息も絶え絶えとなり祭壇の前に座り込む自分。
後ろから魔獣の雄叫びが聞こえてくる……虫が叫ぶな。
ふぅ……残念ながら逃げきれなかったな。
……折角助力してくれたアイザックさんにも申し訳ない。
どうやら自分の第二の人生も終わりのようだ。
カイル少年の身体を返すことは叶わなかったが、まぁリッド君は助けたのだ。
そこは大目に見ていただこう。
「カイルー!!!!!」
そのとき、叫び声とともに光る何かが飛んできて思わずキャッチする。
(神様っ!!!!!)
リッド君とカイル少年だ。
そしてお守りを手にした瞬間、疑問を感じる間もなく自分の意識は白く染まった。
「……神様!神様!」
誰かが自分に呼びかける声で目を覚ます。
「良かった!目を覚ました!」
こちらをみて安堵の表情を浮かべるショタ……いや良くないな。
美少年がいる……まぁ、恐らくカイル少年だろう。
そして何かは知らないけど白い空間に自分達はいた。
そこに知らない女性が1人。
白いドレスに緑の髪の美しい小柄な女性。
人にしては美しすぎるどこか浮世絵離れした人が立っていた。
「お初お目にかかります救世の神様……私はこのラハールの森の女神、シュトラハと申します」
はぇーとか息をもらすカイル少年(暫定)を横に白目を向く自分なのであった。
「あなた様のお陰でこの祭壇に巫女でカイル君とラハールの祈りを導くことができました。改め御礼申し上げます。」
覚えのない御礼を言われる自分。
あまり専門用語で話さないでほしい。
新しい情報が多すぎるんだよ……ファ○シのルシがなんだって?
そんな森の女神シュトラハさん曰く、カイル君はシュトラハさんの巫女の血筋で、カイル君が作ったお守りもラハールの祈りという代々継承されている由緒正しき品物なのだそう。
女神様がカイル君を新たな巫女として導こうとしたものの、カイル君転落。
救いを求めた際に自分がカイル少年を助けたとかなんとか……しらんがな。
そんなトラブルのせいで、女神様の力で封印していた魔獣君が復活。
正確には次元甲虫ディスメイビートリアとかいうらしい……虫のくせに大層な名前。
ニードルカナブンとかにしろよ名前。
「あなたがカイル君を放り投げた時はぶち殺そうかと思いました」
「神様……ボクもあの時どうかと思いました。」
女神とショタからすごい目で見られる。
……ごめんて。
それはともかくで申し訳ないけど、救世の神って何?
流石に女神様にまで敬られるのは気が引けるのだけど?
「……?あなたが神になりたいと願った結果と聞いておりますが?」
「?」
何を言っている?俺が神様になりたいなんて……。
『ハハハハハッ!!救いの神なんざいねぇんだよ!!俺が神様なら救ってやれるのになぁ!!!!!』
断片的に前世の自分が記憶に蘇る……。
うん、俺だね。
そんな世迷言を言って死んだのか俺?……神ぃ……?
「あの!神様!」
過去の自分に慄いているとカイル君から声をかけられる。
カイル君の後ろには、いつの間にか大人と男性と女性が静かに佇んでいる……だれぇ?
「神様のお陰でパパとママにボクが大丈夫だって伝えることができました。本当にありがとうございます!」
何のことだか知らんけど、どうやらカイル君パパ君とママ君であったらしい。
というか、息子さんの身体をパクったらしくて本当にごめんなさい。
ご両親とも微笑みながらカイル君を見つめている……死人に口無しということなのか、言葉では伝えることはできないのかもしれない。
でもカイル君にはご両親の思いは伝わっているようであった。
自分に深々とお辞儀するのは辞めてほしい。
自分はそんなたいそうなことをしてはいないのだから。
さて、時間ですねとシュトラハ様が切り出す。
「巫女の血筋であるカイル君が、ラハールの祈りがそろった今、私も本来の力を振るうことができます。……私があの魔獣、ディスメイビートリアを何とかいたしますので神様、救世の神様……」
シュトラハが自分に向かって手を組み、祈りをささげる。
「目を覚ましたらどうか私をお呼びくださいね?」
意味がわからん。
分からないことが多すぎる、だけど今は大事なことは……。
真っ白だった視界が晴れ、目の前にでか虫が映る。
後ろにはカイル少年。
祭壇前に手を組んで祈りを捧げている。
じゃあ自分はどうなっているのか……でも今はそんなことどうでもいい!
「ラハールの森の神、シュトラハ!今こそお前の役目を果たせ!!」
◆◆◆◆
あれから。
まず、リッド君はすんごい怒られた。
2回目だし、色んな人に迷惑をかけたし仕方ないね。
村に戻り両親と対面した際、感動の親子の再会みたいなことになるかと思っていたが、能面みたいな表情で泣きながらリッド君をしばき始める母君をみてヒュッとなった。
初対面の時はすごい優しい感じだったのに、激しい怒りでスーパー母君になったのかもしれない。
しばく母、しばかれるリッド君、おろおろする父。
そんな地獄を見ながらリッド君に向けて合唱するのであった。
なおこの後、内緒で家を出たことで自分もしばかれた。
次にカイル君について。
身体を返すことができた。
「おじいちゃん……ただいま」とか言った時のアイザックさんはそのまま枯れるんじゃないかってぐらいに泣いていたし、リッド君はもちろんのこと、エミリーちゃんもカイル君が戻ってきたことが分かるととても喜んでいた。
今まで偽物が入っていてごめんねぇ……。
因みにエミリーちゃんの「何、戻っちゃったの?折角労働力確保したと思ってたのに……残念だわ」とか言っていたのに寒気を覚えたのは内緒だ。
そして自分についてだが…。
「神様!おはようございます!」
(おはようカイル君。今日はオットーさんところの手伝いかい?)
ピカピカと点滅するラハールの祈り。
そう、自分は今、例のお守りに住んでいる状態である。
いつかのカイル君と逆の立場ですね。
だけど、これが良かったのかもしれない。
アイザックさんもリッド君もエミリーちゃんもみんな幸せそうだしな。
それに、毎日鍛錬だの接客だの耕作だのやってられるか。
(救世の神様……どうか世界を、そして私のほかの姉妹も是非お助けいただきますようお願いいたします)
そんなことをつぶやきながらフェードアウトしていったシュトラハ様は気になるけども。
でもまぁ、今はこの平穏を、この世界にきて初めての休日を謳歌しよう。
これが自分の求めていたスローライフなのだから。