※今回は劇中劇です。(Ⅱ)世界を前提としています。
※シンデレラガールズの「黒埼ちとせ」「白雪千夜」を参考にしたオリキャラを登場させています。
夜の森は相変わらずの暗さで、月の光が届かなくても吸血鬼の日常には変わりはない。
だというのに今夜はやけに明るいではないか。夜に飛ぶ蛾のようにその光を辿ると村があった。
燃える村。たまに見る光景だった。しかし普段と違うところは、その炎は既に燃え尽きかけている部分である。覗いてみると人間の死体と銀の鎧。そして衣服が刺さった銀の剣。
「……ふぅん」
状況はなんとなく理解できた。吸血鬼がこの村に火を点けて人を襲ったが、用心棒に相討ちとなった。村の住人は全員死んだが、吸血鬼も名無しの英雄によって討伐された。
落ちていた鞘に銀剣を収める。柄には刃も銀もない。吸血鬼でも持てる。
くすぶる炎は未だ消えないが、この分には森に燃え広がることは無いだろう。隣の村か、それとも王都かは知らないが誰かが来るかもしれないから自分はさっさと――
かたん
その音は燃え落ちた家屋が崩れる音だと思うのが道理だろう。
だけど今夜の自分はどうにもおかしかった。月の光に当てられたのか、その音がした方を見る。
小さく声が聞こえる。
「おとうさま、おかあさま――」
あぁ、なるほど。よくある話だ。小さい子供が一人だけ生き残ってしまうなど。
2人の大人にうずくまる黒髪の女の子。人間では大体生まれて10年程度だろう。その子は紫の虹彩と泣き腫らして充血した白目が私を見る。彼女の足元には銀のナイフが転がっていたが、彼女は私が吸血鬼であることを感知できていないのだろう。拾おうともしない。
まぁ関係ないことだ。こちらも飢えている。老若男女などえり好みできる立場に無いのだ。
その子の首に手を伸ばす。
「――たすけて」
その子は私の、あなたを殺すために突き出した手を何と勘違いしたのだろうか、握った。
………私はその温かさに、手を止めてしまった。
*
吸血鬼に故郷を滅ぼされた私はある人に救われた。
金髪で赤い瞳の女性はおとぎ話に出てくるお姫様みたいだった。彼女は私を数週間かけて王都まで連れて行ってくれた。
今考えてみれば、あまりにも怪しい状況だった。彼女が主犯格かもしれないし便乗犯かもしれないし、通りすがりであっても吸血鬼だった可能性だって高い。
だけどその人は幼い私を王都の孤児院まで連れて行ってくれた。近くの村だとそういった保護を積極的にしてくれないかもしれない、とまで言って私を王都まで連れて行ってくれた。
吸血鬼だったのかもしれない。しかし、恩人には変わりないだろう。
あの人は私を孤児院に連れて行った後に別れた。あの日から1度も会っていない。あのまま王都に移住した形跡も無かったし、王都周辺の村々を見て回ったが彼女の姿はどこにもなかった。
(見てて――くれていますかね?)
纏った衣服は国の村々を巡礼しながら吸血鬼狩りを請け負うミレニアム騎士団のものだ。
政府は貴族の血統主義を嫌っているらしい。孤児に教育を行い貴族並みの強い権力を与え重宝するのは、私たちには親がいないから血統と言うものが存在しないからだ。
私のファミリーネームも無くなった。……あまりいい気分ではないが、仕方がない。こうしないと、私は生きられないのだから。
馬に乗って主要道路を進む。腰に佩かれた銀の剣はミレニアム騎士団のものだ。叙任式後の初めての任務は斥候として夜の森を調査するものだった。
「……ロゼ、もう少し明かりを用意した方が」
「良いとは思えません」
同伴する同期の弱虫な言葉を私は切り捨てた。夜なのだ。ランタンがあるだけでも狙われやすくなるというのに、明かりを増やす行為は自殺行為だ。
後ろでついていく先輩騎士が無言で頷く。彼も同意見らしい。
ここらへんで吸血鬼による襲撃が多発しているらしい。直接村に襲撃をかけない、ということはきっと力ではそこまで強くないのだろうし、単独犯なのだろう。だからといって新人2人と教育係で、だなんて無理だ。相手が戦力を過小評価させる作戦を立てているだけかもしれない。今夜はただの周囲の捜索で、討伐は翌日になる。
夜の森は相変わらず暗く、ランタンの光があってもほとんど周囲は見えない。だが気配もないから外敵の心配はとりあえずなさそうだが……。
装甲が擦れる音が3つ。周囲の音を気にしてはいるが、接近する個体は……
ぺきん、と枝を踏み折る音。反射的に剣の柄に手をかける。
「なに――」
教育係の言葉は途中で握りつぶされた。文字通り、喉が襲撃者によって潰される。
べちゃり、と音が響く。
「て、敵襲――!」
私は剣を抜く。教育係の死体ごと貫く勢いで突撃する。相手の姿は暗闇と教育係の死体で見えないが、感触が急所は外れたものの致命傷を与えたことを示していた。
しかし背を向けた同期の悲鳴が上がる。視線をやって、思わずそちらに見入ってしまう。
同期の心臓は既に穴が穿たれていた。口から滴る血液を血塗れの手で拭いながら、同期を殺した吸血鬼は私に向かって歩み寄る。
致命傷を与えたほうに背を向け、今まさにこちらを狩ろうとする吸血鬼に向けて剣の切っ先を向けた。黒に金メッシュの髪の吸血鬼は不敵に笑いながら、前傾姿勢をとって走り出し――
「――え」
衝撃。しかし予想していたものではない。
後ろから突き飛ばされた。致命傷を与えた吸血鬼の仕業だというのは認識できたが、その行動はまるで自分を守るための行動のように思えた、
そしてその後ろ姿――。ぼんやりとランタンの光が、ロゼが致命傷を与え、しかしロゼを救おうとした吸血鬼の髪の色を照らす。
金髪の――長髪。
「フィーネ、さん――?」
かつての恩人の顔は苦痛に塗れながらも、笑っていた。
*
王国の王都内に黒髪の吸血鬼と呼ばれる吸血鬼集団のリーダーが襲撃をかけ、そして王都内で討伐された冬からすでに3年の時が経っていた。
黒髪の吸血鬼を討伐した功労者であるアンティーカ騎士団は、その功績に反して解体された。
なんせ騎士のうちの1人、第4席のリーラが吸血鬼だということが判明。リーラはその場で騎士団長によって処刑されたが、騎士団の信用は既に地に落ちていた。
リーラを保護してしまった第3席のフィロと、着任早々騎士団内部の騒動に巻き込まれた第5席のイーリスは騎士団を脱団。結果、2人だけの騎士団では王都政府も認めることができず、アンティーカ騎士団は政府公認の組織から外れることとなる。
しかし残ったディスティールはそのまま国内の村々を転々としながら吸血鬼の討伐をしていく。皮肉にも騎士として認められなくなった彼女が、それでも吸血鬼を殺していく騎行を無知蒙昧な民衆は歓迎した。
彼女がとうに狂っていることにも気づかずに、その行いを肯定することになる。
民衆は彼女をこう称えた。英雄ディスティール、と。
*
本来は騎兵用である大槍を鈍器のごとく振るって、吸血鬼の顔面を殴り飛ばした。いかに強固な筋肉があろうと、脳震盪には耐えられない。
ふらつく吸血鬼の腹に私は膝蹴りを放った。全身を覆う鈍色の鎧とは対照的に右膝の装甲は鋭く尖り、銀で出来ている。
とぷんと吸血鬼の腹から人血が流れた。穴の開いた死体は間もなく霧となって消える。
「――っ、――っ。………ふぅ」
膝をつく。肉体はとうに限界を迎えていた。しかっし今から一番近い村までは1時間ほどかかる。戻るほうが危険だろう。
《大丈夫、ディスティール?》
「――あぁ、大丈夫だ」
脳に響くクロシェの言葉に半ば自動的に返答する。薄っぺらい盾を握りなおし、大槍を杖の代わりにして立ち上がった。剣や槍はなんとかの心とか聞いたことがあるが、知ったことではない。
落とした松明を拾い上げて周囲を見渡す。ここらの吸血鬼は一掃したはずだが、怪物は吸血鬼だけではない。どこか体を休める場所があれば――
《ねぇ、あそこはどこかな?》
「ん――どこだ?」
《ほら――》
クロシェの指さす方向に視線を向ける。城壁……のようなもの。そういえばこの近くに王政が廃止されたときに廃城があったと聞く。
「……妙だな」
《何が?》
「あの廃城は吸血鬼の棲み処になる。だが処理した吸血鬼たちは棲み処があるには衣服が汚れすぎている」
《そもそも吸血鬼なんて集団で活動する習性じゃないでしょ? 別の群体なだけかもしれないよ?》
「……そうかもな」
吸血鬼だって人語を話すし、例は少ないが集団を作ることもあるし人間社会に馴染むことは出来る。敵対組織が生まれることは吸血鬼でもあり得るだろう。
数少ない例を目の前で見たディスティールとしては自身の判断を肯定することにした。
「とりあえず、行ってみよう。吸血鬼や他の何かなら殲滅する」
ディスティールはそうつぶやくと槍の先を引きずるようにして歩き始めた。
*
廃城には灯りがあった。ただ数は外から見たらひとつのみ。
吸血鬼がいるのであれば灯りは必要ないし、人間の集団がいるのならば灯りはもっと必要だ。
建物の入り口らしきドアノッカーを叩いてみる。
「――すみません。誰かいないだろうか?」
そう言いながらも、ディスティールの盾は左腕に構えたまま。家主が一体何なのかも分からないのだ。疑いすぎにはならないだろう。
そもそも家主は出てくるだろうか、と思ったが、予想に反して扉越しに声が聞こえた。
「――どなたでしょうか」
「……!」
多少驚く。
すぐに襲ってこないということは、こちらへの敵対感情は無い……と考えてもいいだろうか。
そう思ってディスティールは声に返答した。
「――私はアンティーカ騎士団のディスティールだ。吸血鬼討伐のためこの場で戦っていたが夜も更けてしまい村に戻れない。どうか一晩だけ泊めてほしい」
「………少々お待ちを。主に尋ねてみます」
声は少し逡巡し、そしてそんな声を返した。少しだけ足音が聞こえた。
「どう思う?」
《ん~……さすがに罠ってことは無いと思う。だけど、あんまり歓迎されていないね。さすがに断られるんじゃない?》
クロシェの言葉にディスティールは頷いた。
待つこと数分。もう諦めようか、と思った時のことだった。予想に反して扉の鍵が開き、中から1人の女性が出てきた。
身長は160に満たない、黒髪で白いタキシードのような質の良い服を着ている。腰には細身の剣。
「――」
「主の許可が下りました。どうぞ、こちらへ」
その声は冷たい・歓迎していないというよりも、まるで決められた動作をするだけの絡繰り人形のような声であった。
拒否というよりも、変化を望まない声で――その声色にディスティールは聞き覚えがあった。
*
通された部屋は簡素と言うよりも使用を考えていないといった具合だった。
家具はあるが、あまり掃除はされていない。もっともこの廃城はかなり大きく、その上いくつかの部屋の壁は崩壊していた。それに比べればまだ部屋である。
「申し訳ありません。ベッドがあるのはこの部屋しかなく」
「……いや、十分だ」
ベッドだけは一応清掃されているようだ。こんなところに客人は来ないだろうが、ベッドだけは最低限使える程度には整備されている。高価そうなベッドが壊れるのはまずいと考えたのだろうか。
ディスティールは案内してくれた女性に礼をした。
「ありがとう。――どうか、主にも礼を伝えてくれないだろうか?」
「分かりました」
黒髪の女性はそのまま一礼した。ディスティールとの対話を望んでいないと言った様相にディスティールも少したじろいてしまう。しかし女性はそのまま言葉を連ねた。
「あまり館内を歩き回らないようにお願いいたします。一部崩壊している部分もあり、大変危険です」
「わかった」
そうは言っているが、実際は突然来たディスティールを警戒しているのだというのはさしもの彼女でも察していた。自分も同じ立場なら――いや、自分ならそもそも見知らぬ誰かを家に招き入れたりはしないか。
彼女が部屋から出て行った。
ディステールは、彼女が佩いていた細身の剣に見覚えがあった。
「あの剣は――」
《ミレニアム騎士団のもの――だよね?》
「……あぁ」
クロシェの言葉にディスティールは短く返した。
ミレニアム騎士団――国の村々を巡礼しながら吸血鬼を討伐する騎士団。王都の防衛を任されていたアンティーカ騎士団とは真逆の戦術を使っていた。
防御力を高め、圧倒的な数の暴力で相手をねじ伏せる。その性質故に武器は軽量である。なにせ甲冑のまま体当たりをすれば、さしもの吸血鬼も体勢を崩すのだから。剣は儀礼と止めのために使っていたはず。
そういえば自分が騎士団に着任した少し後に新人が死んだという話を聞いた。たしか斥候の誰かが……。
「たしか吸血鬼集団の偵察のために送り出された斥候3人が死亡、2人の死体は見つかったが1人は行方不明。吸血鬼のほうも何人か消えたらしく、その混乱に乗じて作戦は成功したとか聞いたが……あの人が?」
《となると――じゃあ“主”っていうのは》
もしかしたら吸血鬼と人間がこの館で共生出来ているのではないか。
その予想はディステールにもあったが、しかし彼女は部屋を出ようとはしなかった。
「………2人だけではな。私は……連日の戦いで、もう動けない」
連日の戦いは確実によってディステールの肉体はすでに限界を迎えていた。加えてディステールの大槍は室内で振るうことは難しい。
彼女は鎧を床に放り投げなげ、体をそばにあったボロボロの椅子に投げ出した。
「主の正体を調べるにせよ、ここを攻め落とすにせよ……今夜ではない。あの騎士もどきもこちらを警戒しているだろう」
《そっか……。ディスティールも、疲れちゃってるよね》
ごめん、と言うクロシェの言葉をディスティールの意識は聞くことが出来なかった。
Fury
The first AI-doll ever developed. Its body was based on a cavalry automaton for stage performances, with a head modeled after Thistle. The incorporation of a typewriter allowed it to store memories. It could also perform ordinary actions by utilizing big data derived from the unconscious minds of the populace.
The problem was that its personality was unstable due to being modeled after Odium. It also possessed physical strength far beyond what had been anticipated.
https://x.com/Fool_study/status/2106778612011872345?s=20