騎士道のレプリカ   作:勉強サボ浪

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ロゼ
キャライメージ;白雪千夜
名前の由来:「Lose(失う)」より

フィーネ
キャライメージ:黒埼ちとせ
名前の由来:「Fine(英:元気)(伊:終わり)」より



劇中劇「ディスティールの英雄譚 エピローグBeat of the Night(下)」

 古傷が痛む。珍しいな、とフィーネはベッドの上で目を覚ました。痛みが強すぎて起きてしまうのは初めてだ。

 ベッドの上で半身を起こす。窓の外は星と月が見える。無意識に左の鎖骨の下あたりを撫でた。

 むかし助けた子供に刺されたフィーネはその後、数年前から自分を刺したロゼと共に生活をしていた。

 正直に言えば、その助けを拒否したかった。ロゼの刺突は吸血鬼でさえも後遺症を患うほどに深かったからだ。自分が長くないことを察して、彼女の助けを拒否したかった。

 しかしロゼは彼女の介護に必死だった。自分を助けた人を、自分は仇で返すことになると聞き入れなかった。

 

 ごめんなさい……ごめんなさい……

 

 何度聞いただろうか。かつての恩人だからと言って、自分に後遺症を負わせたことへの懺悔を。

 何度聞いただろうか。あの夜助けた子供が、泣きながら瀉血をして自分に血液を与えるときの苦痛の声を。

 誰かの懺悔が聞きたくて、あの夜に子供のころのあなたを救ったわけじゃない。

 誰かの血液を飲みたくて、致命傷を負いながらもあなたを別の吸血鬼から庇ったわけじゃない。

 自分の存在が、彼女の障害になっていることにフィーネは気づいていた。しかし立って歩くことすらもままならないこの体では、黙ってこの館から出ることも自殺をすることも出来ない。

 だからフィーネは毎日、この部屋から月夜を見ることしかできない。頻繁に力の抜ける、役立たずの吸血鬼の体ではあの子を解放することだって出来やしないのだから。

 何とか半身を起こす。先ほど眠ってからそれほど時間は経っていないだろう。月の傾きから3時間は経ったぐらいか。

 部屋を出るのはやめておこう。寝る前にここまで迷い込んだ騎士1人がやって来たということをロゼから聞いていた。騎士にだって様々いるが、吸血鬼に敵対感情を持っているのは絶対だろう。

 そう思っていた時だった。吸血鬼の聴覚が、誰かが廊下を歩いてこちらに向かってくる音を拾った。ロゼかとも思ったが、足音がかなり重い。おそらく体重はかなり違う。

 どうしようか、と逡巡する間もなく部屋のドアが開かれた。黒い長髪で、背の高い騎士だ。

 

「……どなたかしら?」

 

 精一杯、気丈に微笑んで見せる。ロゼも城内に吸血鬼がいるだなんて正直に答えていないはずと思いながら相手の反応を窺った。

 

「うちはクロシェ。……すいません、こんな夜だとはいえ――主に挨拶に伺わないのは……って思いまして」

 

 中途半端に口語と敬語が混ざり合った言葉。いつだったか、政府は貴族に権利を渡したくないがゆえに孤児ばかりを徴用しているという話を思い出した。

 聞き覚えの無い名前を頭の中で反芻しながらフィーネは答えた。

 

「ふぅん……あぁ、ごめんなさいね。私、体が弱くてベッドの上から動けないの」

 

 その謝罪にクロシェと名乗った騎士は「いえ」と短く頷いた。

 無遠慮に部屋に入ってベッドの脇に近づいて跪く騎士に少しだけ眉をひそめた。深夜だ。ふつう下がらないか、とよぎったが黙る。

 跪いた騎士はフィーネに敬意を示しているようだったが、視線は隠せていない。こちらの正体を探るような、疑いの視線。

 

「あなたは――吸血鬼ですか?」

 

 まっすぐな疑問の言葉に少しだけ呆れた。

 ベッドの上から動けない吸血鬼だなんて、彼女は見た事があるのだろうか。それさえも嘘だと疑うのならば、こんな質問をしても相手を警戒させるだけだろう。

 

「……もし『そうだ』って言ったら、あなたは私を殺すの?」

 

 答えの分かり切っているフィーネの質問に彼女は意外にも「いえ」と否定の言葉で返した。

 その言葉に少しだけ小首をかしげる。そんな様子に騎士は答えた。

 

「……むかし、騎士団に身分を隠して入団した吸血鬼がいたんです。だけど――正体がばれて、討伐されて……」

「――珍しいこともあるんだね」

 

 人間社会に溶け込もうとする吸血鬼は少ないが、いないわけではない。しかしよりにもよって騎士団に入団するのは前代未聞だった。

 

「……ディスティールなら、殺すだろうけど。でも――そうやって吸血鬼を殺して、仲間だったものも殺して……あの子は毎晩寝る前に泣いているの。このままあの子の言うとおりに討伐を続けるか、それとも止めるか……まだ分からない、んです」

 

 

 騎士の取って付けたような敬語に、フィーネは端的に「そっか」とだけ返した。

 他人の事情だ。自分には関係ない。そう言い切っても良い話だが――それ以前に、懸念が1つだけあった。

 

「ねぇ、質問しても良いかな?」

「なんですか?」

「私は――ロゼちゃんから『ディスティールと名乗る黒髪の騎士1人が泊めてくれと訪ねられた』としか聞いていない」

「………!」

「あなたは、何者?」

 

 フィーネは目の前の騎士に悟られないように拳を握った。黒髪の騎士は――

 

*

 

 あれは私のせいだ。

 幼き私を保護した友人、クロシェを殺したのは。

 

 リーラを殺したあの夜からすでに何回も吸血鬼を貫いた。

 殺すたびにあの夜リーラを殺したときの感触を思い出す。殺した後には必ずいくつもの疑問が私の脳裏をよぎる。

 

 あの時にフィロの嘆きに向き合っていれば?

 あの時にイーリスの悪態に耳を貸していれば?

 あの時にリーラの話を聞いて、許していれば――今でもアンティーカ騎士団は存続して民を守る剣であるとともに、永遠の友誼を結べていたのではないか?

 

 幾度もなく投げかける自問自答。眠れない夜を過ごし始めた私を見てクロシェは何を思っていたのだろうか。

 ただ彼女は、私のそばで私を肯定も否定もせずに慰めてくれた。その隠された真意を拾えるほど、私は聡明ではなかった。

 

 ある夜のことだった。吸血痕の残る野生動物の死体の調査をしていた私たちは、その犯人を簡単に見つけることができた。もちろん、吸血鬼だった。

 吸血鬼は言った。「どうか、少しだけでもいいから血を恵んで欲しい」と。

 何度も聞いたことのある言葉に対して剣を向けたが、クロシェが立ちふさがった。

 

「クロシェ――何をしている」

「もう、やめようよ。ディスティール」

「お前も、吸血鬼を庇うのか! フィロや他にもいた異端者のように!」

「違うっ!」

「何が――」

「うちは、もうあなたがボロボロになるのを見たくない! 吸血鬼を討伐するたびにあなたは泣いている……あの夜にリーラを殺したことを悔やんで!」

「……!」

 

 クロシェの言葉の真意は、あの時の私には理解できていたのだろうか。

 

「――吸血鬼は、皆殺しだ。お父さんとお母さんを殺した奴らを、一匹も生かすことは許せない。たとえそれが――家族同然の仲間だったとしても。でないと私は、あの夜に殺された両親にどんな顔で顔向けすればいい」

「ディスティール、あなたは――」

「邪魔をするなぁっ!」

 

 もしかしたら、今でも理解できていないのだろう。

 激情に駆られた私は、クロシェの胸元をそのまま貫いた。

 人間の血に塗れた私を、飢えていた吸血鬼はどう捉えたのだろうか。その凶行に吸血鬼は夜の森の奥に逃げ込んでしまった。

 残されたのは、私のことを一番大切に思ってくれていたにんげんと、そんな恩人を仇で返した血塗れのかいぶつ。

 

「――クロシェ? あぁ、ごめん私はなんてことを――今すぐに治療をしなくては。私が悪かった、だから……目を覚ましてくれ、クロシェ。クロシェ――なぁ」

 

 もう彼女は聞いていなかった。

 

*

 

 黒髪の騎士が呻きだす。両の手は己の頭に。その目は明らかにこちらを見ずに瞳孔が震えている。

 

「そうだ、クロシェは――私が、殺した。いないんだ――ずっといたけど、いないはずで、」

 

 その言葉に、様子に、だらだらと流れる涙にフィーネはようやく己の失言を自覚した。

 

「あ――え、大丈夫……?」

「私は――ディスティール。私の為なら……吸血鬼にも情けをかけられるクロシェとは、ちがう……!」

 

 合わない焦点が、フィーネのほうに向いた。

 

「私は……ディスティール。吸血鬼の家族を殺し、吸血鬼を助けようとした恩人を殺した――」

 

*

 

 ぱちぱちと何かが爆ぜる音がする。煤の匂いが鼻についてロゼは目を覚ました。

 細身の銀剣を握って部屋を飛び出すと廊下が煌々と燃えている。

 

「これは――っ」

 

 幼少期の、両親が殺された夜を思い出してロゼは思わず口元を抑えた。えずきながらも周囲の脅威を見図る。

 吸血鬼の襲撃の可能性もあるが、やはり最大の懸念は……

 

「いや、それより――フィーネさんは……!」

 

 燃える廊下を走る。目指すは恩人が眠っているはずの部屋。

 崩壊しかかっていた廊下は積極的に炎に空気を供給し、周囲を激しく燃やす。しかしロゼにも空気を供給し、呼吸困難になることも無く走ることができた。

 燃え盛る廊下を走りぬけ、フィーネの部屋に入る。炎の熱風がロゼの髪の先を焼いたが、気にせずに入った。

 ベッドの上には、恩人の姿は無かった。代わりにあったのは、かろうじて残った服の切れ端。

 

「あ、あぁ――」

 

 吸血鬼の死体は残らない。霧となって着ていた衣服を少しだけ濡らして消える。炎の中でも彼女が着ていた服だけが残ったということは、つまり――

 

「なぜ、こんなことを――!」

 

 己の背後に誰かが立っているのが感じ取れた。剣を抜いて鞘を炎の中に投げ捨てた。

 

「私たちが――お前に何をしたって言うんだ。なぁ……ディスティール」

 

 振り返りながら剣を振りかぶるロゼの腹に、ディスティールはフィーネを殺した銀のナイフを突き刺した。

 

*

 

 王歴1418年。

 王国から吸血鬼が一掃された。亡命した吸血鬼たちの流入とそれらを追って攻めてきた王国軍勢への対策のため周辺諸国は亜人族たちとの共生を発令する。

 当時にとっては異例ともいえるほど亜人たちにも配慮した平等な仕組みが構築されたのは、たった1人の人間を脅威と反面教師ととらえた結果である。

 皮肉にも、誰よりも吸血鬼を認めようとしなかった人間が理由で王国以外の人間と怪物の共生は果たされたのである。

 その者が死亡した後も、国家間の緊張は残り続け未だ和平の道は拓かれていない。

 

 その共生を生み出した、人間であるはずなのに誰よりも吸血鬼を殺害し、吸血鬼を助けようとした人間ですらも殺害したかいぶつを人々は恐怖と皮肉をこめて以下のように呼ぶ。

 英雄、ディスティール

 






Devotion
A mass-produced model developed with the support of Fury and the stabilization of its personality as its top priorities. Some aspects of its design were simplified, and maintenance and repairs were made easier. As a result, its versatility in combat was improved.
However, its personality deteriorated in a different way from Fury’s. Its tendency to prioritize Fury’s opinions above all else became comparable to that of the original model.




https://x.com/Fool_study/status/2107492279699353612?s=20
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