騎士道のレプリカ   作:勉強サボ浪

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※今回は書き下ろしです

※今回は劇中劇です。(Ⅰ)世界を前提としています。

※シンデレラガールズの「橘ありす」を参考にしたオリキャラを登場させています。


劇中劇「背信の騎士たち エピローグin fact」(上)

 アンティーカ騎士団が黒髪の吸血鬼を討伐し、リーラが失踪してからもうすぐ1年がたとうとしていた。

 巨大な剣が飾られている大広間でディスティールが溜息をつく。

 

「人員不足だな」

 

 とん、とん。こめかみを指で神経質そうに叩く。

 リーラは失踪。イーリスも脱団。3人だけの騎士団では出来ることがあまりにも少なすぎる。

 黒髪の吸血鬼の襲撃以降、王都への襲撃は激減したから首は回ってはいるが……遠征の任務が出てしまえば手が回らないのも事実。だがそれに文句を言っても仕方がないというのは明白だった。

 ディスティールの手に握られている紙には中央政府のサインが記されている。

 

「紫の竜人の鎧を纏った盗賊がいくつもの村を襲撃して、冬の蓄えを奪っている――というのは数日前から問題になっていたな?」

「うん……」

 

 彼女の確認の言葉にフィロは頷いた。リーラが失踪してからは意気消沈していたが、彼女の正体を唯一知っているフィロは事情を知っていたから探すこともせずにただただ彼女が帰って来るのを待つことにしたのだ。

 渡された依頼書は細々とした被害内容が記されている。北の雪が積もる場所だ。竜人の活動区域ではない。別の亜人かそれとも人間なのかは確かめようもないが、竜人の威を盾に好き放題しているのは分かる。

 

「私とクロシェが王都を離れるわけにはいかない。……フィロ、1人だけで往かせるのは申し訳ないが――討伐任務に向かってもらえないだろうか?」

「うん、わかった」

 

 依頼書に記された人相書きの線画は着色されていない。しかし紫という色に少しばかり感慨深くなってしまうのは、かつてフィロが拾った優しい吸血鬼の髪が紫色だったからだろうか。

 

(リーラはいまどこにいるんだろう? 冬の寒さで震えていなければ良いんだけど……)

 

 その祈りが無意味であると知りつつもフィロは彼女の安寧を願うぐらいしか出来なかった。

 

*

 

 地面の霜が飛び散った人血の温かさに溶けた。刃毀れしてなまくらと化した鉄の剣は相手の殺すよりも先に大量の苦痛を与える。

 

「お、おまえ………」

 

 小さな小屋の周辺にはすでに2つの死体が転がっている。死んでも灰にならないということは騒動の内容とは違って、やはり人間だったなとリーラは無感情に思った。

 残った1人はごぼんと血の泡を破裂させながら言う。

 

「アンティーカ、騎士団――が、なぜ――人間を……!」

「いくつか勘違いしてるけど」

 

 どこから間違いを正したものか、と悩んだが面倒になった。

 自分はフィロではないのだ。なぜ今から殺す相手に説明責任を果たす必要は無い。

 しかし1つだけ訂正してもらおう。そう思いながら盗賊のボロボロの体を持ち上げる。

 

「――私、もう騎士団じゃないんで」

 

 そう言うと相手の悲鳴を――声帯を潰すようにリーラはその首に歯を突き刺した。

 

*

 

 リーラが吸血を解禁したのは騎士団から逃げて以降、吸血欲を我慢できなくなったからだ。

 どうして人間と共生出来ないはずのかいぶつが、アンティーカ騎士団では我慢できていたのか分からない。吸血鬼はただ人間と共に生きたいだけなのか、という甘い幻想さえも抱きそうになる。

 せめてもの抵抗に悪人だけを殺して吸血するのが常となっていた。そうすれば自分がまだ騎士団の1人ではないかと錯覚することができたから。

 どの口が言えた事だろう。人血を大量に啜った口では、アンティーカ騎士団を名乗る資格も一体何が正義か唱える資格も無いのに。

 黒髪の吸血鬼の吸血鬼を倒したあの冬の夜からもうすぐ1年が経とうとしていた。風の噂でイーリスが騎士団を抜けたというのは聞いていたが、会おうとは思わなかった。彼女は自分の正体に勘付いていたかもしれないが、人間であるはずの彼女の生活に介入する気はなかった。

 生ぬるい春も、暑い夏も、乾いた秋も一瞬で過ぎ去った。無味乾燥とした白黒の世界での1年は一瞬だったはずなのに、騎士団での生活がひどく懐かしく思えるのはなぜだろう……。

 寂しさと渇きを埋めるかのように、今日も無関係な誰かの血を啜るのだ。そんなことをしても無意味だというのは分かっているのに。

 

*

 

 紫の竜人の噂は聞いていた。

 そしてそれが人間であることも、察していた。きっと一時的な活動拠点にしていたのであろう小屋の中にはある程度の保存食と粗末な武器、竜の鱗を模った鎧が置かれていた。

 

「――さて」

 

 どうしたものか。

 食料は近くの村に持って行こう。夜の誰も活動していない時に勝手においていけば別に構わないだろう。他の村の物も混ざっているだろうけど、ずっとここに置いておく方が面倒なことになりそうだ。

 問題は竜人の鎧だ。面倒だからここで死体ごと燃やすことも考えたが、今の自分にはまともな防寒具が無い。だけどわざわざ目立つ真似をする意味も――

 

「………」

 

 息をひゅぅと吐く。白い。ここら辺ではまだ雪はまだ積もっていないが、すぐ近くの火山のある場所では雪が積もっているらしい。実際に視界の先にある遠くの山には白い被り物をしているのが見えた。

 

「雪――か」

 

 実際に触ったことは無いが、フィロが子供の時に雪遊びをしたという話をしていたのを思い出した。

 

*

 

 しばらく歩いて思った感想は「やっぱり燃やしてしまえばよかった」だった。

 張りぼての竜人に偽装するための紫の鎧は動きにくいし、竜の仮面を被っているせいで視界も良くない。大体、吸血鬼なのだから防護用には必要ないのだ。

 寒さ対策になっているとも思えない。鎖帷子の冷たさが案外骨身に沁みる。よくもまぁディスティールとクロシェは一部だけとはいえこんなものを脚に着けていたものだ。

 点々と雪を被った山の斜面に足跡を付ける。泥交じりの雪は次第に白いものに変わっていき、景色は白銀のものに変わっていった。

 

「……さむ」

 

 近くに火山も温泉もあるんだよな、と少し疑ってしまうほど寒い。周囲の温度が高くなっているという訳ではないようだ。……まぁ少し考えれば雪が積もるんだからそんなことは無いというのは分かるが。

 真夜中だというのに、周囲は明るい。夜目が利くということも鑑みても明るく感じるのは積もった雪のおかげだろう。

 そこらに座る。岩らしき場所に座ったが、余計寒さが伝わった。

 

「………寒いなぁ……」

 

 みんなはどうしているのだろうか。ディスティールはいつも通りに激しい鍛錬をしているのだろうか。クロシェは冬らしく温かいスープを作っているだろうか。

 そしてフィロは――何をしているだろうか。自分のことなんて忘れて、いつも通り王都の住民を手助けして、優しさを振りまいているのだろうか。

 

「――寂しいよ」

 

 辺りに積もっている雪の色はかつて自分を拾って面倒を見てくれていた優しい彼女の髪色と全く同じ色をしていた。

 しかし掌で掬ってみると冷たく、リーラの手を冷やすばかり。加えて溶けて無くなる。まるで吸血鬼であるリーラを拒否するかのように。

 

「会いたいよ――フィロ」

 

 竜の仮面はリーラの涙を隠し、周囲の雪は彼女のすすり泣く声をかき消した。

 

*

 

 朝の村。家のベッドで起きたただの村娘のガリアは自分の両親がまだ帰ってきていないことに気づいて、冷え切った外に出た。

 ひとり娘であるガリアの両親は商人である。ほぼ毎日、夜遅くに帰って来る。仕事はかなり忙しいらしい。

 寂しくはなかった、と言えばうそになる。日中は学校で過ごし、友人たちの親の仕事を手伝うのは楽しかったが、それでも両親が恋しいのだ。

 ガリアが外に出ると、彼女の姿を見るなり焦ったように隣人が駆け寄ってきた。

 

「ガリアちゃん……! 大変なことが起きて――!」

「……? どうしたんですか?」

「隣の村へ行く道が、雪崩で潰れちゃって……」

 

 その言葉に少女はびくりと体を震わせた。

 昨日、両親は隣の村に行ったはずだ。いつも通りの簡単な仕事で、ほぼ毎週やっていた危険のないものだ。

 だけど――どうして急に雪崩なんかが起きたのだ? 火山によって発生する間欠泉による観光需要として栄えたこの村だが、それゆえにどこに温泉が湧き出たのかと言う情報は徹底して集めているし、整備も怠っていないはず。もちろん雪崩が起こるような場所に道なんて作らない。

 いや、それよりも前に――

 

「――お父さんと、お母さんは……?」

「まだ、帰ってない――のよね。誰も見ていないから、たぶん通せんぼをくらっているか、もしくは――」

 

 その言葉の最後を聞かずにガリアは走った。隣人が止める言葉も聞かずに。

 村を出て道なりに沿って走る。自分が行っても助け出せるとは思っていないし、もしかしたら両親は無事なのかもしれないが――でも。

 

「おとうさーん! おかあさーん!」

 

 雪崩で潰れた道を走った。積もった雪と凍えるような寒さ、そして吹雪く風がガリアの視界を白く染める。

 もとよりこんな状況では大の大人でも難しい状態なのに、ただの子供が親のために飛び出したところで何も役立つことは無い。

 

「おとう……――、ぉかあ……」

 

 寒い。

 ガリアの視界が白くなる。これが遭難だというのをどこかで感じつつも、引き返せない。足跡は既に積もる雪によって消えている。

 体が動かない。何も対策せずに飛び出してしまったのがまずかった。

 馬鹿なことをしてしまった。そんな後悔を抱きながら、何とかこらえていた寒さによる眠気に抗えなくなってガリアは倒れた。

 

*

 

 ばちん、と水気を持った木の枝が爆ぜる音でガリアは目覚めた。

 自分が洞窟の中で寝かされていたことに気づいて体がびくんと震える。

 

「ここは――⁉」

 

 何とか体を起こそうとしたが、体が動かない。なぜ、とよぎった後に思考がようやく実像を結んで倒れる前の記憶を思い出してきた。

 両親が帰ってこなくって、寂しくなって、何も考えずに村の外に飛び出して遭難した。

 自分の無鉄砲さと浅慮に後悔がよぎる。泣きそうになって未だ霞む視界を何とかしようと目を擦った時にようやく以上に気づいた。

 そういえば誰が自分をここまで運んだ? そして目の前にある焚火は何だ?

 

「あ――起きた……?」

「えっ、あ――」

 

 寝っ転がった自分の頭の上からくぐもった女性の声。それに驚いてガリアは体を無理に起こそうとした反動で、枕にしていた何かから頭が落っこちて盛大に打ち付けてしまった。

 

「つ――っ!」

「だ、大丈夫!?」

 

 頭の痛みによって視界の霞がようやく晴れた。

 心配そうに声を掛け、こちらの顔を窺う主は――

 

「竜人――!?」

 

 紫色の鱗は明らかに人間のそれではなくてガリアはパニックになりかける。吸血鬼を筆頭に亜人族は人間に恐れられる存在だ。しかも彼女は竜人族の姿など初めて見る。

 何とか逃げ出そうとしても、雪山の遭難の影響で体は完全に回復しきっていないようで全く上手く動かない。

 

「あー、こら。暴れるな。体、まったく回復してないんだよ」

「で、でも――!」

「はぁ……」

 

 紫の竜人は呆れたようなため息をした後に、座った状態にもかかわらずガリアを持ち上げて強引に膝の上に乗せた。暴れるガリアをまるでテディベアを抱きしめるかのように強引に拘束する。

 

「動くな。――ね?」

 

 こん、と竜の鼻先がガリアの頭に当たった。硬い。そして吐息が感じ取れない。

 それが仮面であるのに気付いて、おそるおそるその顔を覗き込んだ。目に当たる空洞から紫の人間の瞳が見える。

 

「人間……?」

「分からないよ。――吸血鬼かも」

「吸血鬼は――こんなに子供に優しくしないと思います」

「………そうかもね」

 

 竜人――の格好をなぜかしているその人は憮然とした声を隠そうともしないが、まるでガリアの手を壊れ物として扱うようにしながら優しく握った。

 温かい。焚火のそれとは別の温かさ。

 強張った体から段々力が抜けていく。安心したからだろうか、先ほど体を温めるための気絶するようなものではなく――

 

(見知らぬ人と一緒にいるのに――どうして)

 

 ガリアの思考はだんだんとぼやけていった。

 

*

 

 恐らく近くの村の住人だろう。そう判断してリーラは再び眠った少女を再び自分の膝枕に寝かせた。

 フィロならきっと、もっと優しく声を掛けられただろうし穏便に現在の状況に対応できていただろう。一瞬だけそう思って短くため息。

 少女の前で竜の仮面を外さなかったのは賢明だっただろうか。一応、自分は王都の騎士団に所属していた有名人だったから、と言う理由で仮面は外さなかったが少女に無駄な混乱させただけのように思える。

 だけどこれを外すわけにはいかないのだ。何をしたところで、自分が人を襲う吸血鬼である事実に変わりはない。

 

「……」

 

 一瞬だけ、目の前の少女の首筋に視線をやる。しかし吸血欲はそそられない。自分にも最低限の理性はあったようだ。

 なぜ少女が遭難していたのだろうか。昨夜は吹雪いて思わずこの洞窟内に逃げ込んで、夕方になって周囲を散策すると彼女が倒れていたのだ。だいぶ長い時間気絶していたから意識が戻るかどうかも分からなかったが、体を温めるためにそこら辺の木の枝を折って騒々しい焚火を熾した意味はあったらしい。血抜きをしたシロウサギは――まぁ、不要だとしても自分で食べればいいか。

 

「………はぁ」

 

 なんだか面倒なことに巻き込まれたな。そんなことを思ったが、少女を見捨てるわけにはいかない。

 かつてフィロにされたことをしているだけなのだ。もっともフィロならもっと正しく、手間取らずにすべてを解決していただろうけど。

 今はただ、目の前の少女を保護することを優先させよう。リーラはそう思って、少しだけ張りつめた意識を弛緩させる。吸血鬼だって睡眠はとりたい。

 慣れないことをしたのだ。少しだけ体を休ませても罰は当たらないだろう。

 





Seduction

An experimental model equipped with a custom-built torso designed to resemble the human body, rather than a torso repurposed from previous dolls. For cost reduction and structural rigidity, however, its limbs were reused from existing dolls.
Officially, combat is not considered a priority, and its primary purpose is to rescue people in need. Nevertheless, it is fully capable of engaging in combat. However, the torso itself has low defensive capability.


https://x.com/Fool_study/status/2110394510782202016?s=20
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