キャライメージ:橘ありす
名前の由来:イチゴ属の学術名「Fragaria」より。イチゴの花言葉は「先見の明」「尊重と愛情」「幸福な家庭」「あなたは私を喜ばせる」
「つまりは帰って来ない親に会いに飛び出したら遭難したってわけ?」
「はい……」
何も味付けされず焼かれたウサギ肉はやや獣臭かったが、十分食べられた。雪を焚火で溶かし沸かした湯は不味かったが飲めはする。
紫の竜の仮面がガリアを見る。表情が無いそれだというのに睨んでいるようで、少し目を逸らしてしまう。
子供である自分が飛び出したところで何も変わらないなんて分かっているではないか。なのに飛び出してしまったことに関してガリアはかなり自己嫌悪をしていた。
「………まぁ、気持ちは分かるよ」
「え――」
だから紫の彼女がそんなことを言ってガリアは驚いたような声で尋ねてしまった。仮面で隠された彼女の表情は分からないが、洞窟の入り口に薄く積もっている雪を眺める彼女は過去に耽っている様子である。
「……会いたい人が、いるんですか?」
「うん……親――ではないけど、私を助けてくれた人」
そう言いながら彼女は懐から何かを取り出した。
大きな紫色の宝石を用いたブローチ。おそらくかなりの高級品だ。霊的な加護もあるだろうが、子供目でも感じるほどの眩い輝きを彼女は優しく撫でた。
「怪物の私を拾ってくれた、優しい人がいてね……」
そうつぶやくと彼女はしばらく考え込み、どのような結論に至ったのかガリアにそのブローチを渡そうとした。
「あげる」
「え……! それ、あなたにとっての――思い出のものなのでは………?」
焦ったのはガリアのほうだ。本来はただの行きずりの小娘に渡していい物品ではない。金銭的価値もそうだが、彼女の短い言葉にどれほどの思いが詰まっているのかなど聡く愚かなガリアでなくても分かることだ。
しかし――竜の彼女は首をゆっくり横に振ってガリアの手にブローチを握らせた。
「これはお守り。あんたのような迷子が家に帰れるように――だから、あんたの方が優先。それに――」
「………?」
「あの人なら、こうするよ」
*
朝日が目に眩しい。
意識は太陽光のせいで朦朧としているが、全身を覆う竜人の張りぼてのおかげで致命傷には至っていない。
(我らを導く陽光――ねぇ)
一番背の高い木に登って見る光景に思わずため息をついた。綺麗だから、ではなく雪の照り返しで頭が痛いのだ。
ガリアの言葉を信じるのなら、そしてただの子供の体力的に彼女の住んでいた村はここから一番近い村のはずだ。明順応を待ちながら目を細めて遠くを見ると、太陽のある方向――つまり東に村が見えた。
そこまで離れていない。ここが山であることも加味しても、1時間ほど歩けばの距離だ。
手を放し自由落下。地面に大きな音を立てて着地をする。
「ガリア、日の出の方向に村が見えた。あんたの住んでいる村はそこで合ってる?」
「お、おそらく……」
はっきりとしない肯定の言葉だが、普通は自分の住んでいる場所を上からあまり見ないよなと思った。それに昨晩も雪が降っていた。特徴的な色の屋根があっても、気づかないだろう。
「じゃあ行こう。もし違っていても、文句は言わないで。人間じゃない私は村には近づけないから、そのつもりで」
「は、はい………」
ウサギ1匹と雪を溶かした水。足りたとは思えないが、ガリアが倒れたなら引きずってでも運ばなくてはいけないだろう。
自分が吸血鬼だから食料が不要な事を痛感した。騎士団にいた時はクロシェが携帯食を用意してくれていたことも思い出す。まともな食料が無いことを除けば、吸血鬼であるというのも楽な生い立ちなのかもしれない。
さくさくと雪を踏みながら山を下る。しばらく歩いて、後ろを振り返るとガリアが焦るように、リーラとはぐれないように必死に歩いているのが見えた。
「わ、わ……! とととっ――」
「………」
小さくため息。王都で子供の対応を大体フィロに任せていたせいか、子供にどうやって関わればいいのか分からないが故の自己嫌悪。
少し悩み、そしてガリアのもとに引き返す。
「す、すみません――遅れてしまって……」
「……いいから。ほら」
手を差し伸べる。手をつなげば置いていくことも逸れることもないだろう、そう思っての行動だった。
ガリアは少し驚いたようにリーラの手を見た後、握ろうとした。
「――っ!」
しかしその行動を中止させたのはリーラの行動が故だった。
視界の端で人影が見えて、一瞬でガリアを背に隠すように立ちふさがった。
「誰――?」
抜剣。本調子ではないし、雪の積もった山の斜面であるが優先すべきものぐらいは判断できる。
人間の姿をしていたとしても、それが吸血鬼をはじめとした亜人族の可能性もある。本当に人間であったとしても、山賊などの犯罪者の可能性もある。
だがガリアの叫びがリーラの警戒を解かせた。
「……お父さん? お母さん――っ!」
「え――っ」
自分の背から聞こえる声に、リーラは目を凝らした。
雪によって乱反射する日光に目を細めると3人の人影。男女2人から少し離れて1人の騎士――
「え――」
あぁ、きっとこの2人は遭難した少女の両親であり、だからガリアは叫んだのだと視界と視界の端で安堵する。
だけど、はっきり言ってどうでもいい事だった。
「なん、で」
冷静な思考の部分が今の状況を自動的に判断する。
紫の竜人の討伐命令。いくつもの村を襲撃し、冬の蓄えを強奪した者に対して王都から騎士が派遣される可能性はあるだろう。
そして――彼女なら、訪れた村で起きた子供の失踪事件の解決に手助けをするというのは当然だろう。
「フィ、ロ」
口の中で転がすように、リーラはその名を呼んだ。
1年近く空白だった友誼。怪物のはずの自分に一瞬だけ触れることができた陽光。血液などよりもっと渇望する、リーラに罪科の味を覚えさせた恩人にして――両親の代わり。
その銀の髪は周囲の冷たい白銀の景色などよりももっと美しく、暖かいことを知っていた。
だけど――
「紫の――竜人。あなたには、ここで果ててもらいます」
冷たい言葉。抜かれた銀の剣。そして1年前とは比べ物にならないほどに増えた、体の一部を覆う銀の鎧。
(あぁ――)
なるほど、これが願いが叶ったっていうやつか。
*
ガリアは自分を探して来てくれた父と母の姿を見て安堵しかけた――が、見た事が無い白髪の騎士が自分たち――いや、正確には自分を助けてくれた紫の竜人に剣の切っ先を向けた。
「え――っ」
思わず戸惑いの言葉を挙げたガリアの足先の地面に紫の竜人は鉄の剣を刺した。傷つける意図は無いとはすぐに察せたが、さらに混乱で状況が見えなくなる。
「そこにいて」
「で、でも」
「それが私の望みだから。――あの騎士を恨まないで」
その言葉をどう捉えれば良いのか。その行動を捉えれば良いのか。
少なくとも騎士は竜人の行動をガリアへの攻撃と判断したのだろう。ざしゅり、と雪を踏みしめる音と共に窮迫し銀の剣を振り下ろす。竜人の鉄の剣がそれを防いで、耳障りな金属音があたりに巻き散らされた。
「――っ!」
素人のガリアでも分かるレベルの粗末な剣筋だった。騎士の戦闘経験が浅いのだろうか。流れるように放たれた竜人の回し蹴りが騎士を下がらせる。
「……っ」
竜人がガリアを離れて一歩前へ。その騎士と竜人の攻防に少女は圧倒されると同時に言葉が漏れる。
「なんで――戦うんですか……?」
一瞬見えた竜人の仮面の奥の素顔。明らかに逡巡していた。
ガリアのことなどもう見えていないのだろうというのはすぐに分かった。ただ、目の前の騎士に自分では理解できないほどの、この場に相応しくない別な感情を蓄えていたというのだけは察することができた。
紫の竜人と白銀の騎士が戦う中、両親がガリアのそばに寄る。
「お母さん、これは――」
「ガリア――! ……言いたいことはいっぱいあるけど、とりあえずあの騎士さんが戦ってくれている間に逃げるよ……!」
「いや、だってあの竜人は――」
「あの人は国の村々を襲撃している指名手配犯なのよ……!」
襲撃、手配犯。
その言葉は不器用ながらもガリアを助けて食事を与えて麓の村へ連れて行こうとしていたあのにんげんの印象とは全く違う言葉だった。
「ま、まって」
両親に手を引かれ、剣戟の音から離れていく。自分はあの場所から離れていいのか、もしかしたら両親の静止を振り切ってあの2人を止めなくてはいけないのでは――
そんな疑念がよぎりつつもガリアはその手を振り払えなかった。
*
騎士団支給の銀の剣は王都で最先端の錬金術を用いて精製されるが、それでも鉄の上に銀を鍍金は不可能らしい。銅芯でないと不可能で、吸血鬼は鉄を好むので騎士団は鉄を嫌う。
10回目の剣戟でフィロの持っている銀の剣の刃こぼれが目に見えるものになっていた。
「………」
このまま彼女を制圧するのは容易い。
でもその行動をしてしまえば、騎士であるフィロの立場が悪くなる。そしてアンティーカ騎士団の立場も………。
1年前の密告書の風評被害は未だ消えていないのだ。だから一番は彼女に手柄を――
(いや、違う)
リーラは仮面の中で自分の思考をふ、と鼻で嗤い飛ばした。くだらない理屈で自分の本心を誤魔化そうとしている。
正面には自分にとって一番大切で一番愛しい人。そんな彼女が私を殺そうとしている。
きっと彼女は目の前の竜人の格好をしている指名手配犯が1年前に騎士団を抜けた吸血鬼だと気づいていないのだろう。でも私は――
「はぁ――っ!」
かいぶつはにんげんによって殺されなければならない。
――ならば、私はあなたに殺されたい。
*
さくり、とぼろぼろの銀の剣が竜人の胸に突き刺さった。
「え」
自分でもびっくりするほどの、あっさりとした一撃だった。正直、致命傷になるとは思えない攻撃が竜人の胸を貫いたのに驚く。
これまでにも討伐依頼を出された者を人間、亜人区別なく何度も戦って自分でも何度かとどめを刺したが――これはまるで竜人が自ら進んで死にに行ったみたいな……。
「ぃ――ぉ」
竜人のうめき声を無視してフィロは銀剣を抜いた。紫の皮鎧の開口部から霧が漏れる。意外にも指名手配犯は本当に亜人族だったらしい。
「……あれ」
この匂いをフィロは知っていた。1年前には何度も匂った、迷い猫に似たあの吸血鬼の匂い。この1年間、何度も会いたいと思った優しいあの子と同じ……。
「吸血鬼の匂い……なのかな」
だとしたら初めての吸血鬼の討伐になる。もっとも吸血鬼固有の匂いなんてものがあるなどフィロも騎士団の資料にも載っていなかったが……。
「リーラ……」
もう会えないであろう優しい吸血鬼の名前を呼んで剣を収めた。
とりあえず今の状況を把握しよう。討伐のために向かった村で、遭難した子供を探しに行ったら討伐対象とその子供が一緒に歩いているのを見た。
ちらりと親子の足跡の先を見る。子供のほうはどうやらきちんと生きているらしい。もちろん後で何があったのか聞き出さなくてはいけないけど――
討伐対象の紫の竜人は倒した。証拠となる仮面も持って帰ろう。
これで国が抱える恐怖感も少しは薄れるはず……。フィロはそう思って、仮面を拾い上げた。
*
ガリアがあの紫の竜人が指名手配犯だと聞かされたのは両親の叱責と涙交じりの抱擁を交わしてからだった。
王都から派遣されたというその騎士が言うには、紫の竜人――もちろんその騎士も竜人と言う偽装をしているという目測は立てていた――はいくつもの村の冬の蓄えを略奪したから討伐依頼が出されたらしい。
だからあの人が自分を利用しようとしていた――と、白髪の騎士は言っていたがガリアは信じなかった。
不器用ながらも、遭難して死にかけた自分を救って世話をした優しい手つきを覚えている。
言葉足らずながらも、自分が恩人に優しくされたから自分もそうするのだと言った自慢気だった思い出を語る口調を覚えている。
周りの大人たちは誰も信じないけど、あの紫の竜人の格好をしていたのは間違いなくにんげんだった。
あの人のその後は分からない。必死で彼女を擁護するガリアを慮ってか、大人たちは自分に隠れて情報共有していたが、終ぞその秘密を得ることは出来なかった。
だからガリアも1つの秘密を隠すことにした。
本棚の上から2番目。カーテンのように棚に張られたヴェールの奥に、紫の竜人がガリアにお守りとして渡した紫のペンダントが隠されている。
いつか会えたら、返そう。
あなたがかつて私に叶えたように、私もあなたの恩人が待つ家にあなたが帰る願いを叶えたいから――
Infidelity
In direct contrast to Temptation, this model was built using a dragonkin doll as its base in order to emphasize that it was not human. By adopting a body shape and structure that deviated slightly from those of humans, it successfully achieved both strength and mobility.
The proposer himself was somewhat evasive when asked whether it was really necessary to make it a dragonkin. However, the development of its tail apparently became the catalyst for a breakthrough.
https://x.com/Fool_study/status/2111834778454704168?s=20