超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
「『マッハジャブ』!」
人型のでかいサボテン、トゲモンがボクシンググローブを嵌めた拳を素早く突き出す。
「ぬぅ!」
相対しているのは赤鎧を纏った異形の落武者、ムシャモン。
迫る拳を手にした妖刀・白鳥丸の柄で受け止めた。
「今!『ココナッツアッパー』!」
トゲモンの更なる大きな踏み込み。勝負を決めにきた大振りの、それこそ跳び上がるような右アッパーはしかし空を切った。
すり足による滑るような歩法。脇を通り抜けるように回避したムシャモンは躊躇なく妖刀を振るう。
「───『切り捨て御免』」
繰り出された鋭い斬撃が、トゲモンの胴を切り裂いた。
▼
深夜、人気の無い河川敷。
デジヴァイスの機能の一つである疑似空間の展開、それを解除した俺は帰路についていた。
ムシャモンから
「……どう思う?」
「うん、増えてるね」
話すのは先程のトゲモンに関すること。
正確にはここ最近現実世界に来てしまうデジモンの数が明らかに増えたことについてだ。
「デジタルワールドで何かあったのかもしれないな」
「向こうにはアグモンも居るから滅多なことにはなってないと思うけど……」
「それでもだ。夏休みに立花も連れて、行こう。アイツもアグモンに会いたいだろうしな」
アグモン。アイツの、白雪立花のパートナー。
コテモンたちが現実世界に来ている今、デジタルワールドを手薄にするわけにはいかないとあちらに留まっている、俺たちの仲間。
無論、
しかし俺が、俺たちが
こちらに来てしまうデジモンの増加はたしかに重大な問題だ。
しかし立花とアグモンを一年ぶりに会わせてやりたいという思いも相応に強い。
比重が五分五分になる程度には。
「優しいよね、タケルは」
「普通だ。去年の原潜のときのアイツら、遊んだりせずに直ぐに別れたらしいからな」
「お互い相手のやりたいことを尊重してるだけなのは分かるけど、結構ドライだよね」
「『まだ立派になる途中』、だったか?」
「言ってたねー、そんなこと」
「今でも十分に立派だろうに」
アイツ。白雪立花。
バイトで家賃や生活費を工面して。成績優秀とは言えないまでも最近は平均点の少し下くらいにはなってきている。
立派だ。十分過ぎるほど、立派だ。
「近くに酒寄さんがいるからな」
「リツカのお隣さんだっけ?」
「正確には違うが、まぁ、そうだな」
酒寄さん。酒寄彩葉さん。
品行方正、成績優秀、文武両道の優等生。生活費はおろか学費すらバイトで賄っているらしい。流石に奨学金は貰っていると思いたいが。
立派だ。十分過ぎるほど、立派だ。
同時に心配だ。
こんな表現は二人と、そのご家族に申し訳ないが、二人とも恵まれない環境にその身を置いている。
それも自ら、進んで。
そして、どちらも
そんな二人が一緒にいれば、どうなるか。
弱音を吐かず、疲労を圧し殺して、心の傷や消耗を見て見ぬふりをするようになる。なってしまう。
何故か?当たり前だろう。
そんなふうに思い至ってしまうのだ。立派で、真面目な人達は。
心配だ。アイツも、酒寄さんも。
「せめて……」
「せめて?」
「お互いがお互いを追い詰めることなく、支え合い、高め合える関係なら良いな」
言って上を見上げると流れ星が一条、夜空を駆けていった。
足を止めて目を閉じる。
どうか、と星に祈った。
▼
「く、ぉぉ、ぉおおおぉ………!!」
「ふ、ん、ぎぎぎィ………!!」
電柱である。
それも世にも珍しい七色に光り輝くゲーミング電柱であった。
金曜日のバイト帰り。偶々、珍しくバイトの上り時間が被った俺と酒寄は一緒に帰っていた。
道中、お互いに疲れていたので口数は少なく、イヤホンでヤチヨの曲を聞く酒寄とそれに並んで歩く俺。
途中流れ星が見えたので、
『おーい酒寄ー、願い事は?』
『か、金……!』
『それでいいのか花の女子高生』
なんてやり取りを挟みつつ、アパートに辿り着いた。
そしたらあったのだ。ゲーミング電柱。
いや電柱自体は元々あった。ゲーミング電柱に換わってたのだ。
誰だ変な改造したやつ。公共物だし犯罪だぞ、たぶん。
酒寄があやしがりて寄りて見るに、ゲーミング電柱は変形。
なんか大量のスモークを吐き出し奇妙なBGMを響かせながらドアのようなモノを展開してさらにはそのドアを開こうとした。
ノータイムでドアを閉める酒寄。呼ばれ、強制的に参加させられる俺。
ドアを開こうとするゲーミング電柱と酒寄+俺の仁義なき戦いの幕が切って落とされたのである。
そんで今。
「くぅおぉおお……力強っ……!?」
「頑張ってよ男の子でしょ……!?」
「時代は男女平等だろ、くっ……!」
ゲーミング電柱は強く、また、諦めが悪かった。
二対一なのに力が一切弱まらない。こっちは疲れてきたぞ。
ていうか何で俺は
冷静になり始めた俺に気づいたのか、酒寄が発破をかけてくる。
「力緩めないでよ……!頑張ったらイイコトしたげるから……!」
「イイコトぉっ!?……例えば!!??」
「露骨にテンション上げんなっ!……明日お昼ご飯作ったげる」
「そもそも当番お前だろうがっ!!」
あ、ヤバい今のツッコミで完全に気ぃ抜けた。
気が抜ければ力だって抜ける。
二対一だから取れてた均衡は一瞬にして崩れた。
二人揃ってばいーんと弾かれる。ゲーミング電柱のドアが開いた。
中に居たのは、かわいらしい赤ん坊だった。
………………………………………………………………………………。
「「ん??????」」
▼
日本の治安は悪化する一方なのですー、とかいう街頭インタビューか何かを見た記憶がある。
流石に見なかったことにして放置はマズいのでは???
完全に意見の一致した俺たちはゲーミング電柱から出てきた赤ちゃんを保護することにした。
なおゲーミング電柱は赤ちゃんを抱き上げた途端消え失せた、というか普通の電柱に戻ってしまった。クーリングオフは利かないらしい。
取り敢えず、酒寄の家へ。
「やっばいどうしようどうしようどうしよう……!?」
赤ちゃんを抱いたまま部屋の中を行ったり来たりウロウロしている酒寄。ヤバいテンパってるヤツ見るのって楽しいな。
思わず現実逃避する俺だが赤ちゃんはこちらの事情なんて知ったこっちゃない。
「ふぇえええええええええ!」
「ああああ、ごめんごめん泣き止んでよもうっ!ほら!ベロベロベロ、ばぁっ!」
「ええええええええええええん!」
「ほら酒寄、貸せっ」
「お願いっ」
酒寄から赤ちゃんを慎重に受け取る。
横抱きで揺らしながらスクワットの要領でウロウロと歩き回る、真昼(姪)に使った必殺ならぬ必寝のコンボ。
「すぅ……すぅ……」
「おお……泣き止んだし、寝た……」
「よーしよしよし、良い子だねー……」
必寝コンボは体力を大きく消耗させる諸刃の剣。15分くらいやり続けた俺はヘトヘトだった。
そっと(酒寄の)布団に赤ちゃんを降ろして持つこと三十秒。起きないこと確認してようやく一息つく。
赤ちゃんは背中にスイッチがついてるからな、油断出来ねぇぜ。
「「ふ~……………」」
「いや、ありがとう。ホント助かりましたよ立花さん」
「いやいや大変なのはこれからですよ酒寄さん」
スッ、と俺は立ち上がる。
「ん?どこ行くの?」
「ドンキ。ミルクとか、オムツとか?諸々買ってくるわ」
「……え?要る?すぐ警察に通報じゃないの?」
「お前な……」
ちょっと考えれば分かるだろ?疲れてるのか?
……疲れてるわ。そりゃそうだ。
「
「うん」
先ず自分を指差し、
「
「うん」
次に酒寄を指差し、
「赤ちゃんがいる」
「うん」
三番目に赤ちゃんを指差し、
「通報する」
「うん」
最後にスマホを指差した。
「どう思われる?」
「私たちの子だと思われます……」
「だろう?」
取り敢えず通報は無しだ。しばらく様子見しよう様子見。
………実は全部幻覚で明日の朝起きたら何か、こう、解決したりしてねぇかな………。
▼
ドンキから粉ミルクだのオムツだの哺乳瓶だのを買い込んだ俺が帰ると地獄絵図だった。
「うぇえええええええええん!」
「うぉぉぉ話しと違う話しと違うっ全然泣き止まないし寝ないじゃんコレぇっ」
必寝コンボであやす酒寄、泣き止まない赤ちゃん、何度も行われているであろう壁ドン。
「ただいま酒寄っ!代わる代わるっ」
「おおおおお、頼んだっ」
直ぐに必寝コンボを交代すると泣き止んではくれたが、何故か寝ようとはしない赤ちゃん。
「え、どうしよう。俺
「ええ、何だろう。……子守唄、とか?」
「それだっ。………子守唄って、どんなの?記憶にない」
「悲しいこと言わないでよ………って私もないや………」
「………あ、アレは?『Remember』」
「ヤチヨの?………まぁでもそれぐらいか。え、私が歌うの?」
「俺が歌えるわけないだろ」
「………ああもう、仕方ないっ。笑わないでよ?」
そう注文をつけて酒寄は歌い出した。
「大切なメロディは──流れてるよ──あなたのハートに──」
「─────────」
聞き惚れる、とはこのことか。
伴奏も何もないアカペラ。口ずさむような抑えられた声量。子守唄とするため即興で調整された抑揚。
もともと酒寄の声はとても綺麗だと思っていた。
でも歌として出力されたそれは───これを言うと酒寄は怒るだろうが───ヤチヨのそれよりも綺麗だとすら思う。
もっと、ずっと聞いていたい、そう思って、
「………立花?どうしたの?」
「あ?……あ、いや、なんでも?……なんでもない、ホント」
気遣わしげに俺を見つめる酒寄に気づいて、気恥ずかしさから、慌てて誤魔化すのだった。
最後の描写について
念のためですが、声優さんを比較してどうこうという話ではありません。
主人公にとっては、という話です。
歌声の好みは人それぞれ、ということです。