超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
学生がもっとも解放感を感じるのはいつか。
放課後?
学期間の長期の休み?
どちらも惜しいが違う。
期末テスト明けである。
「…………」
「…………」
もっとも今の俺に解放感なんて微塵も無い。
現在地、酒寄彩葉宅。時刻、午後5時半。
ちゃぶ台を挟んで俺たちは向かい合っていた。丸型の天板には丸つけを終え返却された答案用紙が並んでいる。俺のだ。
クーラーも点けずカラカラ音がなるクソボロい扇風機が送る生ぬるい風だけが頼りの暑い室内、しかし俺の背中を伝う汗は室温とは全く関係が無かった。
あ、当たり前だけど俺は土下座中だよ。
「…ご期待に沿えず…マジで…」
「……がんばったんですけど」
俺のは蚊の鳴くような声だった。若干裏返り気味。
家主は絞り出すような声だった。ちょっと震えてる。
「いやあの……」
「めちゃがんばって教えたんですけど……?理解しやすいように丁寧に、噛み砕いて、教えたんですけど……っ?なにこれ徒労?ムダな努力ってこと!?」
「ああああぁぁぁあスンマセンスンマセンスンマセン!!!」
「スンマセンじゃないのよなんで赤点ギリなのよ……せめて、せめて一教科ぐらい平均近くにはなりなさいよぉぉおっっっ!!!」
平身低頭するしかねぇ!これ以上出来ねぇけど!
散々っぱら手を煩わせてこの点数!おいは恥ずかしか!!
「特に数学!なんでシンプル計算ミスでちょこちょこ落としてるのよ見直ししなさいよぉ!」
「ゴメンて!ゴメンてぇ!」
……十数分に続く説教と真っ当な怒りの発露の後、ようやく怒れる酒寄大明神の神威は収まった。
肩で息してる。も、もう足崩して良いかな……?
痺れてきたんだけど。
「はぁ、はぁ……お茶!」
「ウッス!」
ダメだ神はまだ荒ぶっておられる!くっそ原因は何だ!
俺だわ!!
すぐに冷蔵庫を開けて常備してるウーロン茶をグラスに注ぐ。そっと手渡そうとしたら引ったくるように取られた。
一息に呷ってる。いい飲みっぷりだぁ……。
「ぐっ、ぐっ、ぷはぁ……」
「もう一杯いる?」
ウーロン茶の容器を揺らすと首を横に振られたので冷蔵庫に戻す。
次いでフローリングを指差される。
ウッス、正座続行っすかぁ。
「……はぁ、次はもうちょっと頑張りましょう。私からは以上です」
「ありがとうございました…」
優しいお言葉をいただき、深々と頭を下げる。酒寄先生ぇ…。
許しを得たので足の痺れを堪えながら立ち上がる。
「んじゃ俺、部屋戻るよ。後でな」
「橋のとこ集合ね、遅れたら社会的に殺すわよ」
「こっわっ!」
チケット当てたの俺なのに!
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酒寄と同じアパートというか真下、一階のワンルームが中学のころから住む我が家だ。
同居人はいない。
酒寄が上に来たとき少しだけ嬉しくなったのを覚えている。
俺だけじゃない、って思ったんだ。
……すぐにスゴいなコイツとヤベェなコイツになったけど。奨学金ありとはいえ学費まで自腹とかどうかしてるだろ。
俺でさえ出して貰ってるのに。
『兄貴の負担になりたくねぇ!』ではじめた生活。
大学までは出るって約束。なんか本末転倒な気もしてる。
自立も勉強もまともに出来ない体たらく。人に頼って負担になって、そんなんばっかでマジ情けない。
……止めよう、思考がどんどん悪い方向に行ってる気がする。
カバンを適当に投げると、部屋の隅に乱雑に畳んだ布団の上にちょうど乗っかった。ナイススロー、と自画自賛。
「……飯食お」
手を洗って、作り置きのおかずチンして、ご飯よそって、食う。
正味食い終わるまで二十分もかからん。やる気があれば何か作るが今日はもう面倒だった。
手を抜く日はとことん手を抜く、それが自炊を続けるコツだと思う。
使った食器を水に浸け、風呂トイレを済ませたら時刻は既に六時半を過ぎ七時目前となっていた。
ちょっとというかだいぶ早いけど行くか。遅れたら社会的にヤられるらしいし。
防音の怪しい薄い壁を背もたれにフローリングに座る。高校の入学祝いの名目で押し付けられたスマコンを取り出して装着。
「よしっ、と」
息を止め───実際に止めていないが───水、それも深海へと潜っていくイメージで目を閉じた。
電子の海へ潜っていく。
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空想の銀河をブチ抜くような墜落感、あるいは吸い込まれるような重力感の後。
バシャッ、と波しぶきが立ち、大きな鳥居が現れた。
何処までも続く浅い湖に、その水面を浮かび流れる灯籠。空は黄昏れ真っ赤に焼けている。
「───太陽が沈んで、夜がやってきます」
言葉と共に少女が厳かに顕現した。
海洋生物をモチーフに取り入れた、どこか花魁を思わせる和装。流麗な
歌って踊って分身出来てその上8000年を生きるAIにしてこの仮想空間「ツクヨミ」の管理人兼トップライバー、
ただし、このヤチヨは本人ではない。見慣れたシチュエーション、ツクヨミのエントリーであり
なので素通りする……横を通るときにヒラヒラと手を振りながら。自動AIだって分かっててもそこに相手居るのにホントに何もしないと気分が落ちるからな。
鳥居をくぐるとそこは夜だった。
七色に輝きながら空を泳ぐ魚群、レールも無いのに宙を走る蒸気機関車、空へと伸びるレーザーライト、月に代わって世界を照らすミラーボール、そこかしこに見掛ける看板のネオン、そしてそれらが織り成す煌びやかな夜景……ファンタジックであり未来的であり、同時に『和』の要素を取り入れた独特の街並み。
これがツクヨミ。
総ユーザー数1億人以上の仮想空間。
様々なワールドやゲーム等の体験施設、さらにはツクヨミ内で活動するアバター用のスキンや小物に服なんかの多種多様なアイテムの殆どが基本無料で楽しめる貧乏人に易しい親切設計。
それでいて
そりゃユーザー1億人いくわ。人が多すぎてラグい、なんて話も聞いたことが無い。どうなってんの?
時間があるのでユーザー出店の露店を冷やかしながらテクテク歩く。
ちなみに俺のアバターは黒いブーツに暗色のカーゴパンツ、それに白い陣羽織にも似たパーカーといった出で立ち。腕には籠手みたいな手甲と首元にはゴツいゴーグルが引っ掛かっている。
キャラクリの時普通の着物や甚平なんかと迷ったけどまぁ無難な感じになってるのではなかろうか、友達の反応も概ね好評だったし。
あ、今、爆発の模様を自分でデザイン出来る花火売ってたな……ちょっと欲しい。
「あの~……」
くそでかい吹き戻しあるじゃん!買おっかな……。
「ねぇちょっと……」
えー、でもどうしよ。こういうのって買っても結局使わないっていうかそもそも何に使うの?っていうか。
え、何、これ実物も買えんの?……うげぇ微妙に高い……お祭りによくあるくじ引きとかのハズレ枠のくせして……。
「あのっ!ちょっと待ってっ!」
「うぉっ!?」
ビックリした!何だ何だ?
聞こえてきた声と伝わる感触に視線を向けるとバッチリ決まった女性アバターが俺の手を掴んでいた。
服装は青を貴重としたストリート風。和服にパーカー、ベルトにブーツを合わせたカッコ可愛い感じ。狐モチーフなのか耳と尻尾まで付いていた。
えっと誰だろう。
いや待てなんか輪郭とか雰囲気というか、なんか見覚えというか分かる気がする───。
注視しているとシステムが反応した。相手の頭の上にユーザー名が表示される。
iro。……名前から取ってるのか、安直ー。
「えっと……立花、って本名じゃん!?」
どうも、向こうもユーザー名を確認したらしい。
いい名前が思い付かなかったんだから仕方ないだろ。
ちなみに立花だけなので、たちばなって読むヤツが多い。
「それに顔!ほとんど弄ってないし!変わってるの服だけじゃん!身バレ防止は!?」
「バレて困るもん無いし、KASSENやったり人前出るときはゴーグル着けるからヘーキヘーキ」
このゴーグル、スゴいんだぜ?着けると相手に表示される俺のユーザー名が伏せ字になんの。
「そういう問題……?」
「そういう問題」
言ってから時計を確認した。
集合時間まだ先だったよな?え、死?社会的死?友達との待ち合わせに遅刻して、俺、死?
「時間はまだ大丈夫だけど、ほら。見掛けたからさ。どうせ行くとこ同じだし」
待ち合わせじゃなくして一緒に向かいましょう、って話ね。
了解了解。
向かいながらお互いフレンド登録。そしてもう一つ、重要な登録を済ませた。
俺が懸賞で手に入れたペアチケットの同行者登録である。
酒寄は手元に表示した電子チケットを見ながらムフーとニマニマしている。
チケットにはこうある。
────月見ヤチヨライブステージ、と。