超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
MCの忠犬オタ公がマイクパフォーマンスでライブ会場を暖めるなか、ステージである巨大な鳥居が突き立つ湖の上、月見ヤチヨがその姿を顕した。
熱狂が広がる。
「神々のみんな~、ヤオヨロー!今日も最っ高のステージをお届けするよー!」
「それじゃ、Let's Go on a trip!」
観客の熱気は濁流となって広がり、会場のみならず一帯を呑み込んだ。
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圧巻のライブが終わった。
神秘的な映像演出、微に入り細を穿つパフォーマンス。
そして何よりも圧倒されたのはその透き通るような歌声。
何もかもが互いに打ち消しあうこともなく調和しつつ引き立てあい、それでいて常にあの凄まじい歌声が1本通った芯のように全てを支えていて……ああいや、止めよう。
昔、アニメか何かで「優れたモノを表す言葉はそれが優れていれば優れている程陳腐なものになる」なんて台詞があったのを思い出す。
これはそれだ。
そもそも俺の貧相な語彙ではこの感動と興奮を与えてくれたライブを表現することなど、とても出来やしないのだ。
しかし誰かと分かち合いたい、具体的に言うと一緒に来た友人と。
「スっゲェ……スゴかったな、」
iro!とつづけようとして、止まった。
なんかクネクネしてた。
「ぅぇへへ……ヒヒィ……ヤぁチヨぉ……♡」
「………………………うわぁ…………………」
だらしなく弛んだ表情とか口の端から垂れるヨダレとか両手を組んで女の子なポーズ取ってたりとか。
時たまヤチヨの名前を呼びつつ意味不明かつ意味をなさない奇声をうわ言のように呟き続けていたりだとか。
色々絡み合って何かもう見掛けたら目を合わせたくないし見なかったことにしたい感じの美少女アバターが居た。
いやまぁ友人の酒寄彩葉だ。分かってるのだ、分かってるのだがちょっと待って欲しい。
完全に向こう側イっちゃってない???
え、何、ヤチヨがライブの前に「なんとかTrip!」とか言ってたけどアレってこういうこと!?
「アヘェ………エヘヘ……ジュル……」
「おーい……iroさーん……お~い……?」
名前を呼びつつ顔の前で手を振ってみる。無反応。
ダメだこれ意識というか世界が向こうにイっちゃってるわ……ライブの興奮とか感動感想、すっかり冷めちゃったよ。
百年の恋も冷める、とかってこういう気分のことを言うんだろうか。
ヤチヨのアクスタ囲って神棚作るほどだから、ファンなのは知ってたし今回誘ったのも俺だけどホントに大丈夫かこいつ。
ええい、ほっとくわけにもいかん。仕方ない。
「ほらiroー?iroさーん、起きて~?もどってこーい」
「……ハッ……!」
何度か軽く肩を叩いたり揺すったり。
ようやっと優等生の意識がこちら側にログインしてきた。
「わ、私はいったい何を……パンケーキをア~ンしてくれてたヤチヨは……?」
「ウソだろマジかお前」
お前ヤチヨのライブ見るとトリップして変な妄想引き起こすの???
ライブ見るの止めた方がいいよ。いやガチ。真剣に。
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暗い場所だった。
室内なのか外なのか。
空は、天地は、何がどうなっているのか。
何も分からない。そういう場所だった。
けれど一つだけ、明るい場所があった。
“窓”。あるいはテレビやPCの液晶画面。
物理的なものではない。だってそこには液晶も機材も何もない。
ただそれらに投影されるはずの映像のみが宙に浮かびあがり、周囲を照らしている。
そこに一人の人間がいた。
薄汚れた上着のフードを目深にかぶり、その顔も年齢も性別も伺い知れない。
傍らには大きな卵があり、大事そうに手が添えられていた。
ソイツは食い入るように映像を見詰めている。
ツクヨミ。それも月見ヤチヨのライブ映像だった。
音はない。それでも会場の熱気が伝わってくるような映像だった。
やがて、ライブが大盛況に終わるとソイツは口の端をいびつに歪めた。