超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
夏である。
そして高校生待望の夏休みであった。
とにかく夏休みの1日。仕事の帰り道であった。
そう、仕事。
綾紬芦花。
私の名前。
そして美容系インフルエンサーROKA。
私のこと。
ファッション誌の撮影とインタビューを受けたその帰り道。
といっても扱いは大きくない。
若いインフルエンサーを数人纏めて特集を組みより多くの注目を集めよう。
そんな企画だった。
「ふ~……」
家の最寄駅から電車にしばし揺られ、降りたらそこからは徒歩。
スタジオに着いてメイクやらスタイリングやら。
それが済んだら撮影が開始。途中、照明や他のインフルエンサーとの立ち位置等のバランス調整が何回か挟まる。
その後、掲載する簡単なインタビューに企画担当の方と軽く挨拶をさせて貰って……今。
昼過ぎに始まった仕事が終わり帰路についたのは夕方を優に越えて、すっかり夜の帳が落ちた後だった。
昼の殺人的な暑さと凶器的な鋭さの日射しも落ち着いた……うそ、普通に暑い。熱帯夜だ。
参加した人数の割に早く終わったほうだ、と思う。
どれぐらいが普通、平均なのかはは分からない。
なにぶん案件などの動画撮影の類いはともかく雑誌(それも自分以外の人もいる)の取材は初めてだった。
形式の異なる案件が来るのも人気が出てきた証だな、と思う。ありがたい、とも。
でもそれで家族や友達との時間が減るのは少しだけ残念なのだった。
さて、夜の帰り道である。電車で運ばれ、駅から出て家に向かう途中。
私は有名になってきた弊害というものを感じていた。
(……あ~、まただ)
背後、数十メートル。近すぎず離れすぎない微妙な距離を維持して私の後をつける何者か。たぶんストーカー。
最初、自意識過剰かと思った。
露出が増えたことでエゴサで批判的な意見を目にすることも多い。
中にはいわゆる下ネタ的な、冗談だとわかる形ではあるが私の……その、貞操というか、そういったものを揶揄するものも含まれている。
自分では気にしていないつもりだったがそういった要因が重なって変な被害妄想というか……ある種、過敏に成りすぎているだけなのだろう、と。
しかし違った。
直接その姿を見たわけではない。足音を聞いたとかでもない。
だけど分かる。視線というか存在感というか、表現が難しいがそういうものを感じるのだ。
「……っ」
怖い。
純粋にそう思う。
家族や友人あるいは警察に相談することも考えた。
しかし相談するにしても余計な心配はかけたくないし、警察に関しても根拠が自分がそう感じるだけではまともに対応してくれると思えず……対策としてなるべく人通りの少ない道を避ける、夜遅い時間に出歩かないようにするといった自分が出来る範囲のことをやるしかなかった。
駅から家まではそう遠くないからと油断した。少しだけ歩くペースを速める。
早く家に帰りたい、安心したい。その一心だった。
でも気配はついてくる…………もし、このまま家に入ったら完全に身元を特定されるのでは?
ゾッとする。
そんな風にイやな想像をしながら歩いていたからだろう。
「きゃっ」
「うぉっ」
曲がり角、前から来た人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい。急いでて……」
「大丈夫大丈夫、それよか痛いところとか……ん?綾紬?」
なんで私の名前知って……あれ。
「白雪くん……?」
明るい髪色。女装すればギリギリ女性に見えなくもない、少しだけ中性的な顔立ち。三白眼気味の目は驚きに見開かれている。
同級生。私服姿、はじめて見る。
白雪立花がそこにいた。
▼
うわ私服おっしゃれ~……。
よく見たら化粧も学校の時と全然違う。
学校の時はうっすらした化粧(たぶんナチュラルメイク?ってやつ)だったけど今はなんというかバッチリ決まってる化粧な気がする。
背が高くてスタイルが良いのと、それに今の格好や化粧も相俟ってスゴく大人っぽく見える。いや元々美人さんなのは知ってたけども。
「どうしたの綾紬、こんな夜遅い時間に。今帰り?」
「そんなとこ……白雪くんこそどうしたの?バイト?」
「そうそう次のシフトの人、息子さんが熱出しちゃってさ。それで代わりに残ってたらこんな時間に」
インフルだのコロナだの季節を問わない流行り病は多い。息子さん4歳だし心配だったけど、ただの風邪だって聞いて安心したよ。
……つうか綾紬も綾紬で若干顔色悪いな、風邪か?
「綾紬家この辺なの?夜も遅いし、送るよ」
「え、いやいいよ。たいした距離ないし」
「いいからいいから。あ、『家の場所知られたくないわ~』みたいなことだったら止めとくけど……?」
「心配してくれてる人間に、んなこと言わんわ。……じゃあお言葉に甘えさせていただきます」
よっしゃ承った。
二人並んで夜道を歩く。気合い入れてボディーガード役を買って出たが、正味15分もせずにお役御免の声がかかった。
「後2~3分ぐらいだし、ここまでで良いよ」
「ホントに直ぐそこだったな……」
「だから言ったじゃん?でも、ありがと」
「どーいたしまして。それじゃおやすみ、綾紬」
「はい、おやすみ~」
スタスタ歩いて閑静な住宅街へと入っていく同級生を見送る。
余計なお世話だったか……?
でも遅い時間の女子の独り歩きを見過ごせるほど男捨ててないし……まぁ最悪俺がキモがられてるだけだろ。オッケーオッケー。
回り右して俺は来た道を引き返す。すぐそこの曲がり角で止まって、
「で、なんでお前は綾紬のストーカーやってるわけ?」
「………誤解だ」
そこに隠れるように佇む友人に声をかけた。
クセの無いサラサラした黒髪で片目を隠した独特の髪型と端整な顔立ち、痩身を有名なスポーツブランドのジャージで包んでいる。
……相変わらずイケメンだなコイツ。生地が薄いとはいえ長袖長ズボンなのに汗一つかいてやがらねぇ、どうなってる。
「確かに綾紬さんは非常に魅力的な女性だが、俺は、決して、ストーカーでは、ない」
「一語ずつ強調して否定してくるなよ余計怪しく見える」
つうか
何、綾紬のこと好きだからストーカーしてたのお前?
俺これから親友って呼ぶことになんの抵抗も差し支えもないやつ警察に突き出さなきゃいけないの?
生き地獄???
「だから違う。……わかってるだろ」
言って、健はズボンのポケットから一見するとオモチャにしか見えない小さな機械を取り出した。
デジヴァイス。手のひらに収まるほどの大きさながら様々な機能を併せ持つ、デジタルワールドの管理者が選ばれし子どもたちに与えた神器。
そして
「……やっぱり?」
「ああ。今はコテモンが見てくれてるが綾紬さん、狙われてるぞ」
「なんで、ってかいつから?」
「知るか。俺が、というかコテモンが気付いたのは一週間前だ。『知らないデジモンの気配がする』と言われて調べる内に綾紬さんにたどり着いた」
デジタルワールドはネットワーク上の
そしてデジタルワールドに住まう住人たちをデジタルモンスター、略してデジモンと呼んでいた。
通常、デジモンは現実世界に出てこない……というか
電脳世界の住人であるデジモンには基本的に実体というものが存在しないからだ。
例外もある。
ひとつはデジヴァイスのパートナーの実体化機能の使用すること。
もうひとつは偶発的に実体を得て現実世界に来てしまうある種の事故。
「……
「容姿か精神か、あるいはその両方か。それはわからん」
デジモンは電脳生命体、そして生命である以上なにかを食う必要がある。デジタルワールドではデジ肉だとか呼ばれる食糧やあるは他のデジモンであるとかであったが、本質的にはデータだ。
デジモンはデータを取り込むのである。
そして人間は肉体と精神、二つの
一部のデジモンにはごちそうに見える。
だからこそ俺を含めた元選ばれし子どもたちは現実世界に来てしまったデジモンたちが大きな事件を起こす前にデジタルワールドへ送り返すことを今の使命としていた。
そんな風に話しているとデジヴァイスが震えた。
健はすぐに確認して顔をしかめる。
「……くそっ」
「おい、どうした?」
「綾紬さんが連れてかれた。相手は完全体、アルケニモンだ!」