超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
現実世界とデジタルワールドは存在する位相、次元、世界が異なる。
そして二つの世界にはある種の概念的な距離が、“狭間”が存在している。一部のデジモンはその“狭間”に自分の空間、領域を構築するものがいた。
俺たちはそういうのを“フィールド”って呼んでる。
話を戻す。
綾紬が連れていかれたアルケニモンの“フィールド”、それ自体は簡単に見つけられた……というか健のパートナーデジモンが着いてってるのでその反応を追うだけで済む。
住宅街にも程近い、そう規模の大きくない小さな自然公園。その少しだけ奥まった場所にそれはあった。
空間そのものに亀裂が入り、割れたように穴が空いている。
その穴は時たま揺らめき、“ラグ”っていた。
“ゲート”と呼ばれる異なる世界、空間への入口だ。
「俺がゲートの固定と見張り」
「俺が突入と綾紬さんの救出……当たり前だな」
ここから俺たちは別行動となる。
今俺パートナーと一緒じゃねぇから入ってもあんま役に立てないし、仕方ない。
自分のデジヴァイスをポケットから取り出し、側面のボタンを操作入力。
不安定なゲートを一時的に安定化させる。
「二十分以内に綾紬と出てこい。過ぎたら双子に連絡した後、俺も突っこむからな」
「来るな。せめてパートナーを喚んで、合流してから来い。俺もそうならないよう善処する」
そう言って
▼
現在地、鬱蒼とした森である。
暗く見通しの効きづらい夜。のはずだが生い茂る木々に走る機械の回路のような模様がぼんやりと光を放っており、気を付ければなんとか行動出来る程度には明るい。
そして夜の森というシチュエーションには場違いな強い光が時たまチカチカと瞬き、燃えるような音と匂い、そして烈帛のかけ声が響いている。
「『ファイヤーメン』!『ファイヤーメン』!『サンダーコテ』!もういっちょ『ファイヤーメン』!」
「何なにナニ何……!?」
なんで私こんな所に居んの?
家の鍵開けようとしてそれから……待って、そこから全然記憶無い……?いやスマホが鳴ったような……?
夢?夢かなこれ?そうだよね現実なわけないよね。
人間と同サイズくらいの
あ、
背中やグローブにドクロマーク付いてる、わぁカッコいい~……。
「芦花!芦花ぁっ!!しっかりして!これは現実だよ!」
角生えてるし。下半身明らかに人間じゃないし。竹刀から火とか雷出してたし。
近寄ろうしてくる蜘蛛を追い払ったり吐き出される糸を切り払ったりと守ってくれてるのは分かるけど、非現実な存在に現実と主張されても困る。
配信者やってるけどこんな突拍子もない展開は対応しきれない。
どうしろと?
「芦花!──うわっ」
「え、きゃうっ!?」
困惑に固まる私に気を取られたのか、
咄嗟に体で受け止めるが、耐えられず揃って倒れてしまう。
受け止めた衝撃。確かな重量感に生物特有の暖かさ。
夢や幻ではない。
実在し、存在し、生きている。手のひらからしかと伝わる生命感。
そう感じれるからこそ現実的な、物理的な、物質的な脅威が自分の身に迫ってきているという恐怖が体を苛む。
そして
「───よし、逃げよう」
───我ながら素早い頭の切り替えだと思う。
「きみ!…ええと、防具の!」
「いたた……ん?ボクはコテモンだよ?」
「コテモン!」
私は急いで立ち上がり、コテモンも立たせる。
「蜘蛛の数多すぎ!逃げるよ!」
「わ、わかった!出口は……あっち!」
コテモンが手に持つ竹刀で方向を指し示す。当てずっぽうじゃないでしょうね?
てかうっわ、蜘蛛集団のど真ん中じゃん……真っ直ぐ出口にGOは無理そうなんだけど!?
「───『ファイヤーメン』!」
怯む私を余所にコテモンが竹刀に炎を宿して蜘蛛集団へと躍りかかった。
蜘蛛たちは炎を恐れるように一斉に跳び退り、コテモンから距離を取る。
今日だけで何度も見た光景だ。コテモンは私に近付こうとする蜘蛛をこうやって追い払ってくれていた。
「今のうち!走って!」
「───うん!」
作ってくれた道を木の根に足を取られないように気を付けて走る。
蜘蛛集団も追い掛けてくるが、間にコテモンが入ってくれる。
不思議な夜の森を舞台に、鬼ごっこがはじまった。
▼
なんの舗装もされていない悪路とあまり見通しのよくない夜闇を走るのは想像以上に体力と集中力を奪う。
「っ……ふっ……はぁっ……!!」
「芦花!もう少し!頑張って!」
「うん……!」
息を荒げて走る私を激励してくれるコテモンも、私を守って泥だらけの傷だらけだ。
どれだけの時間を、距離を走ったのかわからない。ほんの数分な気もするし、30分以上な気もする。
ただいつの間にか私たちは木々の少ない開けた広場のような場所に出ていた。
「はっ、ふぅ…ふぅ……アレが?……」
「うん、この空間の出口だ」
私たちが来た方向とちょうど反対側、空間に穴が空いていた。
「早く!追い付かれる前に出よう!」
「わ、わかった」
恐る恐る近付く私をコテモンが急かす。
だけど───
「───見ィつけタ」
声と共に、広場の中央に何かが落ちてきた。
衝撃、立ち上る土煙。
その中から現れたのは蜘蛛集団よりも一回り以上大きな
「逃がさなイよォ、ROKAァ……!」
「なんで私の名前知ってんの……!?」
インフルエンサーだけど!
チャンネル登録者10万人超えのちょっとした有名人だけど!
自覚はあるけど!
怪物にも知られてるのは普通に怖い!
コテモンが庇うように私と異形の間に割って入り、竹刀を構えて叫ぶ。
「アルケニモン!諦めて大人しくデジタルワールドに帰るんだ!」
「帰るわけなイでしョう?……ROKAのことずッと見てたのよ!?」
見てた?私を?……いったい何時から?
「綺麗なROKA !かわイイROKA !毎日お肌や髪の手入れに時間をかけて!毎日化粧の勉強して!組み合わせの研究をして!ファンの期待に応えて!体型の維持や栄養バランスも考えて!努力に努力を重ねてドンドン磨かれていく美貌!身体!……そしてそしてそしてェ!!」
「何を言って……」
「…………」
狂ったように喚きながら距離を詰めてくる異形。
思わず肩をかき抱いて後退る。
「───好きな人に振り向イてもらえなイ、可哀想なROKA 」
「……………………は?」
それを聞いたとき、頭が真っ白になった。
「『その好きとは違う』?『恋愛じゃない』?それとも『
「……………」
「良イわ良イわ、スゴく良イ!想いに気付イて欲しイ!気付かなイで欲しイ!受け入れて欲しイ!拒絶して欲しイ!抱きしめたくて抱きしめられたくてェ……!矛盾!矛盾してる!綺麗に整えられた外面!建前と本音が混ざり合った
「……………めて」
「その唇を重ねたらどんなに心地好いかって───」
「やめて!!」
「───『ファイヤーメン』!」
耐えられない私が叫ぶのとコテモンが飛び出すのは同時だった。
素早い踏み込みと鋭い真っ直ぐな一撃。しかしそれは難なく受け止められてしまう。
「邪ァ魔」
「ぐぁっ」
そのまま振るわれた右腕に弾かれ、コテモンの私よりもずっと小柄な体が宙を舞う。
けれど私は目線すらやれない。
「ああ、ああ、ああ!ホントウに美味しそウ……」
異形がゆっくり近付いてくる。
でも逃げられない動けない、金縛りにあったみたいに。
「もッと熟成を待ちたかッたけど我慢の限界……イただきまァす」
口が大きく開いてズラリと並んだ牙が覗く。
致死の顎が閉じようとして───
「おい」
鋭い声。ジャリ、と地面の砂を踏む足音。
怪物を挟んで奥。私の位置から姿は見えない。
誰かが居る。
何処か聞き覚えのある声だ。
「……チッ」
水を差された怪物が舌打ちを溢し、苛立たしげに体を向ける。
見えた。
細い、というよりも適切に鍛えられ引き絞られた長身痩躯。男子としては長めの黒髪。切長の目に、端正な顔立ち。
有名なスポーツブランドのウェアに身を包んだ少年だ。
知っている。
大和健。
同級生で、学校のちょっとした有名人。
一年生で、イケメンで、剣道部のエースで、彩葉にも劣らないほど成績優秀な文武両道の優等生であるとか。大学生の恋人がいるとか。
他の娘たちが言ってたのを聞いた気がする。
何でここに……?
いやそれよりも……───。
固まる私を置いてきぼりにして状況が動く。
「何かと思えば……人間?消エなさい、今なら見逃してあげる」
「そのまま返そう、失せろ。アルケニモン」
「……はァ?」
「分からないか?見逃してやるからと言ったんだ」
「───イイ、気が変わッたわ。男は趣味じゃないけど……貴方から食べてあげる!」
巨体を活かした
予想できる凄惨な光景を見たくなくて、私は強く目をつぶった。
だから───
「綾紬さん、怪我はないか?」
「……へっ?」
───全くの無傷で土や砂に汚れることすらなく近付いてきた彼に、声を掛けられるまで気付けなかった。
「ワタシのROKA に寄るなァッ!」
「───コテモン」
「───『サンダーコテ』!」
はたき潰そうと振り下ろされた腕の軌道を、戻ってきたコテモンの電撃を宿した一撃が反らした。
腕が空を切る。彼には当たらない。
「ちィイッ!」
「二人はやらせないよ!」
コテモンとアルケニモンが睨み合う。
一方、大和くんはアルケニモンに見向きもしていない。完全に背を向けている。
ただただ私を案じた視線を注いでいた。
「綾紬さん?」
「へっ?……あ、怪我、怪我ね?怪我は~……無いです」
「そうか、良かった……さっさと帰ろう」
そう言って視線が切れた。大和くんがアルケニモンに向き直る。
二歩三歩と歩いてコテモンの隣に並ぶ。
いつの間に取り出したのか或いは最初から握っていたのか、
「何だその光は?お前、イやお前
警戒も露に後退るアルケニモン。
「コテモン、いけるな?」
「まっかせて!」
何かを確認する大和くんに応えるコテモン。
そして。
「
「コテモン、超進化───」
言葉と同時、コテモンの体が脈打つように大きく震えた。
次いで
内部から突き破るように、割れた。
「───【オボロモン】!」
青い鬼火を下半身に馬の骨格を左腕にした異形の骸骨武者【オボロモン】が名乗りと共に現れた。
▼
馬の口腔から伸びる刃の切っ先をアルケニモンへと真っ直ぐに向ける。
斬る、と告げるように。
「完全体になろうとォ!たッた1体でェッ!」
アルケニモンが腕を大きく挙げて合図を送った。
隠れ、潜み、いつの間にか囲んでいた
ある1体は毒液を牙から滴らせて飛び掛かり、またある1本糸を吐き出して拘束を狙う。
しかし、
「焼き尽くせ」
「───『羅焼門』」
大和くんの出す短い指示と齟齬無くそれに従う
下半身の鬼火が一際大きく膨らみ、一瞬の後に解放。
炎が奔流となって蜘蛛集団を周囲の森ごと焼き払った。
「……はァ?」
一撃で葬られるなんて想像もしていなかったであろうアルケニモンは呆然と動けない。
だから、
「斬れ」
「───『千万ノ太刀』!」
疾風の踏み込みと共に打ち込まれる迅雷の斬撃。
アルケニモンは自らが斬られた自覚を持つことすら出来ずに真っ二つに裂かれ、やがてポリゴンのように崩れて空間へ解けていった。
▼
その後、私は
彼が呼んだタクシーに乗って家に帰った。
タクシーを待つ間、色々な話を聞いた。
私を襲った怪物、守ってくれたコテモン、即ちデジモンのこと。
大和くんと白雪くん、そしてもう何人かいるという選ばれし子どもたちのこと。
そしてそれらを秘密にしておいて欲しいということ。
もちろん誰にも、それこそ親にだって話すつもりは無かった。
……というか私も今日のことがなかったら信じなかったろうし。
化粧を落として、お風呂に入って、パジャマに着替えて、ベッドに入る。
世界の裏側を知ってしまった、みたいな中学生みたいな興奮はあったけど。
(そうだ。今度キチンとお礼をしないと)
なんて考えている内に、私の意識は眠りへと落ちていく。
こうして私の綾紬芦花の夏休みの中々に大変な1日が終わったのでした。
めでたしめでたし。
+α
「………」
「………」
「…………あのさ」
「…………何?」
「……さっきの、アレ、聞いた?ってか聞こえた?」
「……ごめん、聞こえた」
「……そっか」
「うん」
「………あの、黙っておいて貰ってもいい?そしたら、私、なんでも」
「綾紬さん」
「は、はいっ!」
「俺は男で、君は魅力的な女性だ。簡単に『なんでも』なんて言うものじゃない」
「………」
「それに」
「……?」
「俺はバイセクシャルだ」
「へ?…………へぇっ!?だ、や……ふぇぇえ……!?」
「驚いたか?……俺みたいなのも探せば普通に居るんだ。言って回るものじゃないだろうが、気にしすぎるほどのことじゃない。気楽にするといい」
「それはっ。……そうかも、知れないけど……いやだって、え~……?」
「ただいま~、適当にノンカフェっぽいウーロン茶とかにしたけど……ん?何この空気?」
「秘密だ」
「お前が一週間ぐらい綾紬のストーカーやってたって話?」
「なにそれしらない」
「誤解だ……!」