超かぐや姫×デジモン 作:ビクトリーグレイモンはカッコいいよね
正しくは白雪立花です。
おかしい。
『誰が』と聞かれたら
『いつから』なら、たぶん夏休み?海の家でのバイトに行った後くらいから。
『何がどう』には答えに困る。
強いて言うなら様子、というか雰囲気?
こう、無理して明るく振る舞っているような……そうだ。
なんというか
しかもそれがひと月以上続いているのだからただ事ではない。
「というわけなんだけど、何か気付いた事ある?」
夏休みも今は昔、残暑も過ぎ去りすっかり涼しくなった10月の中旬。
中間テストの答案返却も終わった放課後、バイトのシフトが無かった私は親友二人とウィンドウショッピングに繰り出していた。
その途中、雑談というか相談というか……そんな感じで話してみたのだ。
「え~、どうだろ」
「特に……無い、かなぁ?」
そっか。私の気のせい、なのかな?
「そんなに気になるなら聞いてみれば?」
「聞くって、本人に?直接?」
「それが一番手っ取り早いんじゃない?」
「今日の夜、テストの報告会するんでしょ?その時に聞くのは?」
「うっ………」
テストの返却が行われた後は報告会というか反省会を開く。それは立花から言い出した事だ。
曰く『教わってる身としてそれがどう結果に繋がったか報告するのは当然』なのだとか。
それ以外にも『出来るだけ良い報告が出来るように気合いを入れる』意味もあるらしい。
でも……、
「何て言うかその、踏み込み過ぎじゃないかな、って」
そうだ。私たちの関係は同級生で、クラスメイトで、友達。
あまり無遠慮に踏み込み過ぎるのも如何なものか。
「「でも気になるんでしょ?」」
ハモんないでよ。その通りなんだけど。
……でも悩んでても仕方ないか。聞くだけ聞いてみよう。
話してくれなかったらその時は、うん、忘れよう。
「……うん、そうだね。今夜、立花に聞いてみるよ」
「「待って待って待って」」
腹を括って話す私に待ったが掛かる。な、何?どうしたの?
「立花?え、立花って言った今?」
「名前呼び?しかも呼び捨て?あの彩葉が?男子を?」
しまった……!!
こうなるから二人の前では名字呼びを意識してたのに!
「ち、違うからね?付き合ってるとか、そういうアレじゃないからね?」
「なら何でちょっと動揺してんの?」
私にもわかんないよ真実。
「何何何?何切っ掛け?」
よくぞ聞いてくれた芦花。
「いやもうホントに違くて……その、立花が」
夏休みの前くらいに、
▼
『あのさぁ』
『何?』
『一つお願いがありまして』
『……何?』
『おいやめろ肩をかき抱くな身を引くなエロとかそういう系じゃないから』
『……まぁ最初からそっち系のお願いだとは思ってなかったけど』
『チョケただけだよな?実は俺はそこら辺全然信頼されて無いとかじゃないよな???』
『ごめんごめん。で、お願いって?』
『いやその、酒寄さ、俺の事、名字プラスくん付けで呼んでるじゃん?』
『?うん、そうだね?』
『それさ、止めてくれない?出来れば名前プラス呼び捨てで呼んで欲し───オイ待て何でまた肩かき抱いてんの!?』
『───え、何?彼氏ヅラ?ちょっとキモいよ』
『傷付く!いや、違くて!いや違わないのか……?───ええい、そうじゃなくて!……そのさ、白雪って名字というか響きがっていうかさ』
『うん』
『………………
『うん。…………え、それだけ?』
『それだけ、とは何だよ。16年来モノゴコロついてからの悩みだぞ』
『いや悩みちっさ』
『笑うなよ。コンプレックスなんてそんなもんじゃん!本人にとってはデカいけど他人から見たら小さい、みたいなさ!』
『……まぁ、名前で呼ぶのは別にいいけど。呼び捨てはなんで?』
『他の友達連中だいたい呼び捨てだからくん付けされると違和感あるってか、こそばゆい』
『…………それだけ?』
『うん、それだけ』
『………………』
『………………』
『……………立花。はい、これでいい?』
『…………おう、ありがとう』
『…………なんで頼んできた側がちょっと照れてるの?』
▼
「───ってことがありまして」
回想終了!
男子を名前呼びはちょっと気恥ずかしかったとか、名前呼ぶとき声が裏返りそうになったとか、そういうとこは掻い摘まんで話せたぞ!
「なんだ、つまんないの」
私のこと玩具にするつもりだったのか真実。
「……え?うちらも名前プラス呼び捨てにしたほうがいいの?」
……どうだろ?それも後で聞いとくね芦花。
その後、私達は秋冬の服を幾つか買って解散した。
やっべ、テンション上がって結構散財しちゃった……まぁ予算内には収まってるし、オッケーオッケー。
▼
「………で?何かあったの?」
「え、突然どうした?『最近学校はどうだ?』とか答えようのないこと聞いてくるタイプの親?」
相変わらず低迷してるテストの結果に説教をいただいて暫く。
突然、酒寄が変なことを言い出した。
「はぐらかさないで」
「んなこと……」
「私がお母さんと色々あるのぐらい知ってるでしょ。だから立花、普段ならそういう冗談絶対に言わないし」
「…………」
あー…………そっか、気付かれてたか。
うまく隠してたつもりだったんだけどな……。
昼も健にそれっぽいこと言われたし、俺、わかりやすいのかな。
「言いにくい事なら、聞かない。けど話して楽になるなら幾らでも聞くよ?」
「いやその……」
言いにくい、っていうか。
身の上話っていうか。
聞かせたくない、つうか。
「楽しい話じゃねぇよ?ほぼ確、嫌な気分になるぜ?」
「うん、分かってる」
目線を伏せる。真っ直ぐな酒寄を直視できない。
「俺もキツいし支離滅裂になるかも、てか絶対なるよ」
「いいよ、聞かせて……立花の無理のない範囲でね?」
一方、酒寄は目線を反らさない。
見えなくても、それぐらいは分かる。
…………カッコいいな、ちくしょう。
「分かった、話す。酒寄も話聞くのキツくなったら言えよ?」
酒寄の事情も人伝で多少は知っている身だ。
もともと一方的に知っている不公平感はあったのだ、腹を括ろう。
それにこれはたぶん誰かに話して、聞いてもらうだけで、楽になれることな気がする。
深呼吸を一つ。目線を戻して、酒寄のそれと合わせる。
聞かせるのも恥ずかしい、身の上を語るとしよう。
▼
えっと、先ずはそうだな。
俺が一人暮らししてる理由から、だな。
えっとな、小6のときに母親が再婚してな。
で、そのとき言われたんだ。
───────、──────────?ってさ。
………うん、まぁそういう反応になるよな。
アンタほんとに人の親かよ、って、今じゃ俺も思うよ。
要らないとかそう言ってくれたほうがマシ、とか。
提案の形でこっちに選ばせるんじゃねぇ、とか。
……最低限、嫌われる覚悟で来てくれよ、とか。
当時はそんなこと思ったな。
うん、案外平気……いや平気じゃなかったのか。これは後で話すよ。
まあ邪魔だったんだろ。
そんで俺はここに放り込まれて……ああ、金も渡されたよ。
360万。一括。
たぶん中学の三年間、ひと月10万の計算。
手切れ金みたいだと思ったつうかマジ手切れ金だな。
義務教育終わったら後は自分でどうにかしろ、金渡してこれで最低限保護者の役目は果たした、って思ってたんじゃない?
で、当然っつうか。
中2の、冬頃だったかな?
そんな状態なのを親父、ああ実の父親な?
親父に見つかってさ。
引き取るって言ってくれたんだけど、俺、断ったんだよ。
何でって………親父も親父で再婚しててさ。
たしか今中学生ぐらいだったかな、娘さんいるの。
そ、俺からみたら妹だけど、お相手の連れ子でさ。
多感なお年頃だろ?
そんな家庭に血の繋がらない兄でーすこれからヨロシク、なんて言えないって。
その子、ストレスでマッハだろ。
んで、それならって兄貴が、あ、腹違いの兄貴な?
親父、バツニだったから。
兄貴は最初の奥さんとの子。兄貴を生んで、そのまま死んじゃったんだと。
で、そう。それなら兄貴が俺を引き取るって言ってくれて、そっちも断った。
……いや最初は俺もそのつもりだったんだけど。
同じ時期に兄貴の彼女さんの妊娠が分かってさ。兄貴はそっちの責任をとらなきゃだろ。
なら俺は邪魔だろ。だから断った。
………揉めたよ。揉めた。
俺は引かなかったし。親父も兄貴も、な。
で、まぁ中学のときだけ、仕送り貰って生活してて。
高校からはそれも無しにしてもらって、だけどせめて学費だけは出させろ~、って。
そんで学費だしてもらうからには良い学校行かなきゃ~、ってさ。
あ、そうそう、いつも野菜送ってくれてるジジババいるじゃん?そう、お裾分けの。
アレは母方のな。母親、絶縁言い渡されてるらしいけど。
………いやそっちはクソ田舎過ぎて近くに学校とか無いんだと。
車で限界まで飛ばして最低一時間ちょいって言ってたかな?
叔父さんも一緒に住んでるんだけど……そっちも農家で、婚活してて、結婚秒読みだったんだよ。
そんな状態でコブ付きにするわけにゃいかないし。
ま、タイミングが悪かったんだタイミングが。
えーっと、何だっけ。
そう、最近変だった理由だったな。
…………………………。
いや大丈夫。話すよ。
海の家でバイトしただろ?
その最終日に、さ。会ったんだよ。
母親。
▼
「帰りに俺が駅に向かう途中で前から普っ通に歩いてくるんだもん、驚いたよ。
親子三人。仲良さそうに手繋いでてさ。で、俺、一応会ったし何もないのも変かなって話かけたんだよ。久しぶり~、ってさ 」
「……………」
「ビビったよ。
マジで
「…………い」
「すぐに、スイマセン人違いでした、って言って離れたよ。ああでも、もうホント驚いたな。あの人、」
「………いい」
「あんな風に、今最高に幸せですって笑えて、家族みんなで笑いあえる素敵な家庭を作れるような人だったんだなって───」
「もう、いいから……!」
途中から立花の声は震えていた。たぶん本人は気付いてない。
泣いていた。彼は何でもないことのように振る舞いながら、涙一つ流さず泣いていた。
「……ゴメン。嫌な話聞かせたな、忘───」
「立花は!」
咄嗟に遮っていた。
それ以上言わせるともう二度と彼は私に、いやきっと誰にも弱音も吐かず、こころの痛みも傷も全て己の内に抱え込むだけになってしまう気がして。
それがたまらなく嫌で、見ていられなくて、
「立花は……」
「………」
「立花は、何でそんなに、頑張るの……?ううん、頑張れるの?」
口から出たそれは知り合ったときからの、そして身の上を聞いた今より強くなった疑問だった。
状況やタイミングが最悪だった。普通なら不貞腐れるなり投げ遣りになるものではないか?
でも、そんな状態でも彼はくさらずに頑張っている。頑張れている。
頑張れる理由。それが分からない。
「んー……昔、小学生の頃さ。転校した友達っつうか親友、いや相棒がいたんだよね」
「……うん」
「そいつとお別れするときに約束したんだ。お互いに胸を張れる姿に成長していつかまた会おう、って」
「…………」
「単純だろ?俺はそんなガキの頃の約束を支えに、今も生きてるんだよ」
「…………そっか」
私は母に、お母さんに認めてもらいたい、対等な関係になりたい。そのために頑張っている。
彼は対等な存在と対等なままでいたい、対等だと認められる自分でいたい。そのために頑張っている。
少し似ていて、少し違う。
それでもこの思いは、頑張りは間違いじゃないと言われた気がして、
「あのさ───」
だから、というかなんというか。
一方的に彼の話を聞いていたからか。
今度は私の話を聞いて欲しくなったのだ。