機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第11話 オーバーライズ

第11話 オーバーライズ

西暦2308年――タクラマカン砂漠・中央戦域

アストレアが戦場へ突入した。

三大国家群による大規模演習を利用した、ソレスタルビーイングへの包囲攻撃。

戦闘開始から、すでに十五時間以上。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

四機のガンダムは、絶え間なく投入される敵部隊によって確実に消耗していた。

そこへ。

五機目の白い機体が割り込んだ。

「こちらアーミア。聞こえますか!」

最初に反応したのはロックオンだった。

『アーミア!? お前、何でそこに――』

言葉が止まる。

『……アストレア!?』

「説明は後で!」

『今日帰れたら、聞きたいことが山ほど増えそうだな!』

デュナメスへ向かっていた敵機をアストレアが牽制する。

射線を向けられた敵機が回避。

その瞬間。

デュナメスが後退した。

『助かった!』

「まだ来ます!」

『分かってる!』

別方向では。

ティエリアもアストレアを確認していた。

『何故、君がアストレアに乗っている』

「スメラギさんの許可はもらいました!」

『そういう問題では――』

『ティエリア』

スメラギが割って入る。

『許可したのは私よ。今はアーミアを味方戦力として扱って』

『しかし――』

『話は帰ってから』

短い沈黙。

『……了解』

不満が消えたわけではない。

それでも。

ティエリアはヴァーチェを敵へ向け直した。

『アーミア』

「はい?」

刹那だった。

『戦えるのか』

短い問い。

アーミアは迷わなかった。

「戦えます」

『分かった』

それだけで。

刹那はエクシアを反転させた。

アレルヤからも通信が入る。

『無理はしないで。ここは想像しているより厳しい』

声に疲労が滲んでいる。

「アレルヤさんたちに言われたくありません」

『……それもそうだね』

少しだけ笑う声。

アーミアも僅かに口元を緩めた。

「少しでも引き受けます。態勢を立て直してください」

『頼むよ』

アストレアが加速した。

◆

敵機が三機。

正面から来る。

アーミアは一機へ射撃。

回避させる。

すぐに照準を切り替えた。

二機目。

こちらも回避。

撃墜する必要はない。

自分へ注意を向けさせればいい。

四機のガンダムから。

少しでも敵を引き離す。

「……次」

右。

上。

さらに後方。

敵が多い。

だが。

身体は問題ない。

十五時間戦い続けてきた四人とは違う。

アーミアは戦場へ出たばかりだ。

まして。

長年《アニマ》を扱ってきた。

身体能力も。

持久力も。

若い頃の自分とは比較にならない。

問題は別にある。

「……遅い」

アストレア。

この機体そのものだった。

決して性能が低いわけではない。

だが。

アーミアが反応する。

操作する。

そこから機体が動くまで。

ほんの僅かな遅れがある。

普段なら問題にならない程度。

しかし。

今のアーミアには。

その僅かな差が大きい。

そして。

もう一つ。

「……来る」

まだレーダーに反応はない。

それでも。

分かる。

戦場を満たす無数の意識。

恐怖。

緊張。

焦り。

興奮。

それらすべてが言葉として聞こえるわけではない。

考えていることを読めるわけでもない。

ただ。

脳量子波を通じて。

人の存在が。

その方向が。

時折、波のように触れてくる。

五十年以上。

イノベイターとして生きてきた。

今では。

意識して拾うことも。

逆に遮ることもできる。

アーミアは無数の感覚から。

自分へ強く向けられたものを拾った。

「右後方」

アストレアを降下させる。

直後。

砂塵の向こうから敵機。

ビームが頭上を通過した。

『……アーミア?』

アレルヤだった。

「はい?」

『今……』

言葉が続かない。

アーミアには分かった。

感じたのだろう。

彼もまた。

脳量子波に関わる存在なのだから。

『いや……何でもない』

「そうですか」

今は。

それでいい。

敵機を振り切る。

だが。

次が来る。

さらに次。

自分には分かる。

どこから来るのか。

どちらを狙っているのか。

それなのに。

機体が。

僅かに遅れる。

「これじゃ……」

使い切れない。

自分の感覚を。

イノベイターとして得たものを。

アストレアが受け止め切れていない。

◆

そこへ。

一機のAEUイナクトが飛び込んできた。

アストレアへ向かっていた敵機が横から撃たれる。

「……先生」

『待たせたな』

聞き慣れた声。

アーミアは思わず眉を下げた。

「本当に奪ったんですね」

『人聞きが悪いな。ちょっと長めに借りただけだ』

「本人の許可は?」

僅かな間。

『その辺りの契約は、後で詰める』

「それを強奪って言うんです」

『世の中、全部の契約が円満にまとまるわけじゃない。今回は交渉の時間が足りなかった』

『レイナス!?』

ロックオンが割り込んだ。

『お前、何でイナクトに乗ってんだ!?』

『見たままだよ。こっちも徒歩で戦場に入るほど若くないんでね』

『そうじゃねえ! それ敵の機体だろ!』

『だから借りた』

『誰から!?』

『AEUのパイロット』

『そいつ納得してんのか!?』

『今頃、地上で色々考えてるんじゃないか』

『奪ったんじゃねえか!』

レイナスは小さく息を吐いた。

『その話、今じゃないと駄目か? こっちは無給の残業みたいな戦場に飛び込んできたんだ。せめて仕事を片づけてから事情聴取にしてくれ』

『誰が無給だ!』

『俺だよ』

一拍。

『……ああ、お前か』

『納得するなよ』

アーミアは。

思わず笑っていた。

『アーミア?』

「いえ」

『何だよ』

「先生らしいなって」

『褒め言葉として受け取っておくよ。今はその方が精神衛生にいい』

そのままイナクトが敵部隊へ入っていく。

一機へ攻撃。

撃墜までは狙わない。

進路を変えさせ。

そのまま次。

レイナスは機体性能の差を理解している。

ガンダムと同じ戦い方はしない。

敵の照準を散らし。

隊列を崩し。

自分より強い機体と正面から殴り合うことを避ける。

スメラギもすぐに意図を読んだ。

『レイナス。そのまま敵を散らして! 無理に撃墜しなくていいわ』

『了解。高い成果を求めるなら、それなりの機材を支給してほしいところだけどな』

『今乗ってるのも支給してないわよ!』

『現場判断で調達した』

『それを後で報告書に書いてもらうから』

『……余計な仕事が増えたな』

『自業自得よ』

『違いない』

軽く返し。

レイナスは戦闘へ戻った。

◆

アストレアとイナクト。

二機が増えたことで。

戦況に僅かな余裕が生まれる。

『全機、一度距離を詰めて!』

スメラギの指示。

『無理に敵を追わない。まず態勢を立て直すわ!』

『了解!』

ロックオン。

『了解』

刹那。

『了解!』

アレルヤ。

『了解した』

ティエリア。

四機のガンダムが動く。

アーミアも合流しようとする。

その時だった。

「……!」

来る。

一つ。

二つ。

違う。

もっと。

複数の意識が。

一斉にこちらへ向いた。

「先生!」

『ああ。囲まれるな』

レイナスは脳量子波など使えない。

それでも。

戦場を見れば分かる。

アストレアとイナクトを孤立させるつもりだ。

『二人とも下がって!』

スメラギ。

「了解!」

アストレアを反転。

敵が来る。

右。

回避。

上。

さらに左。

見えている。

いや。

感じている。

どこから来るのか。

誰が狙っているのか。

分かっている。

それなのに。

アストレアが追いつかない。

「……だったら」

アーミアは操縦桿を握る。

この感覚は。

知っている。

自分自身も。

何度も使ってきた。

青白い光が。

右手を包んだ。

《アニマ》。

それを。

アストレアへ。

ゆっくりと流す。

コクピット。

フレーム。

駆動部。

機体全体へ。

ただ力を押し込むのではない。

機体そのものを。

一つの存在として捉える。

そして。

《アニマ》で押し上げる。

青白い光が装甲を走った。

やがて。

アストレア全体を包み込む。

「――《オーバーライズ》」

◆

『アストレアの挙動が変わった!?』

クリスティナが叫ぶ。

後方でデータを見ていたスメラギも、すぐに異常へ気づいた。

「故障?」

『違います! 各部正常! でも反応速度も運動性能も上がってます!』

「そんな……」

モニターの中。

青白い光を纏ったアストレアが加速する。

◆

「これなら」

アーミアが敵を感じる。

右。

そう思った瞬間。

アストレアが動く。

今度は。

遅れない。

砲撃が通過。

その前に射線を外れている。

上。

敵機。

振り向くより早く。

アストレアを上昇させる。

敵が姿を現した時には。

すでに銃口を向けていた。

射撃。

敵機が回避する。

追わない。

次。

『……何だ、あの動き』

ロックオンが呟く。

『撃たれる前から動いてやがる』

ティエリアもデータを確認していた。

『アストレアに敵機の行動を予測する機能はない』

『機体じゃない』

アレルヤだった。

『アーミアだ』

『何?』

『さっきから……感じるんだ』

アレルヤ自身。

まだ。

それが何なのか理解できない。

だが。

アーミアから。

確かに何かを感じる。

遠く。

それでいて。

すぐ近くにいるような。

不思議な感覚。

『アーミア……君は』

「アレルヤさん」

アーミアは前を見る。

「左から来ます」

『左?』

まだ何もない。

それでも。

アレルヤは信じた。

キュリオスを動かす。

数秒後。

砂塵の向こうから敵機が現れた。

『……本当に来た』

「お願いします」

『任せて!』

キュリオスが迎撃する。

次。

「ロックオンさん。上方」

『まだ見えねえぞ!』

「来ます」

『……信じる!』

デュナメスがライフルを上へ向けた。

敵機が現れる。

その瞬間。

狙撃。

『当たり!』

「次、ティエリアさん。正面の部隊が動きます」

『根拠は』

「説明は後で」

『……またそれか』

「すみません」

短い沈黙。

『分かった。今は君を信じる』

ヴァーチェが砲口を向ける。

敵部隊が動き始めた瞬間。

砲撃。

隊列が崩れる。

そして。

刹那。

「刹那さん」

『聞いている』

「右後方。三機」

『了解』

疑わない。

エクシアが先に動いた。

まだ見えない敵へ向かって。

敵が現れる。

一機。

二機。

三機。

その時には。

エクシアが間合いへ入っていた。

GNソードが振り下ろされる。

『……』

刹那は。

敵ではなく。

一瞬だけアストレアを見た。

青白い光。

そして。

その中にいるアーミア。

何なのか。

まだ分からない。

だが。

何かが。

胸の奥へ触れている。

そんな感覚だけが残った。

◆

そして。

もう一人。

アストレアを見続けている男がいた。

『……なるほど』

「先生?」

『いや』

レイナスはイナクトを動かしながら。

青白いアストレアを目で追う。

『少し面白いものを見せてもらったと思ってな』

その言葉で。

アーミアは嫌な予感がした。

「先生」

『何だ?』

「何を考えてます?」

『こういう質問をされる時って、大抵ろくな答えを期待されてないんだよな』

「いいから答えてください」

少し間があった。

『俺にもできないかと思ってる』

やっぱり。

アーミアは目を閉じたくなった。

「……やめません?」

『そう言われると余計に試したくなる』

「子供ですか」

『新しい技術を前にした男なんて、大体そんなもんだよ』

「少なくとも先生はそうですね」

『否定はしないけどな』

レイナスは敵の射撃をかわす。

そのまま反撃。

一機を後退させる。

それでも。

視線は時折。

アストレアへ向いていた。

『《アニマ》を機体に流すところまでは、俺もやってる』

アーミアの表情が変わる。

『でも、今のお前のやり方は違うな』

「……」

『装甲を硬くする。フレームを補強する。駆動を押し上げる。そういう足し算じゃない』

レイナスの声から。

軽さが消えていく。

考えている。

本気で。

『機体全体を一つに見てるのか』

アーミアは。

答えなかった。

答える必要も。

なかった。

もう。

気づき始めている。

「先生」

『ん?』

「《オーバーライズ》は――」

言いかけて。

止めた。

これは。

未来で。

先生から教わったものだ。

レイナス自身が。

自分で編み出した技。

アーミアは。

それを知っている。

だからこそ。

分かってしまう。

完成したものを目の前で見せられたら。

この人は。

「……いえ」

『何だよ、途中で止めるなよ』

「言っても止めないでしょうから」

『まあ、その可能性は高いな』

「やっぱり」

『ただし、無茶はしないよ』

レイナスはイナクトの状態を確認する。

『ただでさえ借り物だ。壊して弁償なんて話になったら、割に合わない』

「もう十分揉めると思いますけど」

『だからこれ以上、負債を増やしたくないんだよ』

「だったら何もしないでください」

『それとこれは別勘定だ』

アーミアは小さく息を吐いた。

未来でも。

こうだった。

新しいものを見つければ。

試す。

考える。

自分で答えへ辿り着く。

《オーバーライズ》も。

そうしてレイナス自身が生み出した。

なら。

「……先生」

『今度は何だ?』

「壊さないでくださいね」

『止めないのか?』

「止めてやめる人なら、苦労しません」

レイナスが小さく笑った。

『そこまで信用されると、期待に応えないわけにもいかないな』

「そういう意味じゃありません」

『分かってるよ』

声は軽い。

だが。

手は慎重だった。

すぐに《アニマ》を流さない。

アストレアを見る。

動きを見る。

青白い光を見る。

自分がこれまで行ってきた機体強化と。

何が違うのか。

一つずつ。

頭の中で切り分けている。

やがて。

『……そうか』

レイナスが呟いた。

『強くするんじゃない』

アーミアの目が見開かれる。

『今ある機体を、そのまま一段上へ持っていく』

それは。

アーミアが知っている言葉だった。

未来のレイナスが。

《オーバーライズ》を説明した時の考え方。

「……先生」

『まだ正解かどうかは分からないけどな』

レイナスは操縦桿を握り直した。

『まあ、外れならやり直せばいい。幸い、試す元手はまだ残ってる』

《アニマ》が動く。

身体から。

コクピットへ。

そして。

イナクトへ。

「待って――」

青白い光が。

僅かに。

イナクトの装甲を走った。

まだ弱い。

アストレアとは比べものにならない。

それでも。

確かに。

機体へ《アニマ》が巡っている。

『……違うな』

一度。

レイナスは止めた。

「え?」

『流し方が雑だ。これじゃ今までと変わらない』

すぐに修正する。

二度目。

青白い光。

先ほどより。

長く残った。

『……こっちか』

アーミアは。

その光を見つめていた。

本来なら。

もっと後だった。

TRANS-AMを見て。

考えて。

試して。

失敗して。

そうして。

レイナス自身が辿り着くはずだった。

《オーバーライズ》。

その完成形を。

自分が。

先に見せてしまった。

発明したのは。

レイナスだ。

それは変わらない。

けれど。

そこへ至る道筋は。

もう。

自分が知っているものとは違う。

『アーミア』

「……はい?」

『悪い。もう一回、そっちの動きを見せてくれ』

アーミアは数秒黙った。

そして。

小さく笑った。

「授業料、高いですよ」

通信の向こうで。

一瞬の沈黙。

それから。

レイナスも笑った。

『そいつは困るな。今の俺に一番効く条件だ』

「先生から教わったんですから、今回は無料にしておきます」

『……俺から?』

しまった。

アーミアの表情が固まった。

『なるほど』

レイナスの声が。

少しだけ変わる。

何かを察した。

だが。

追及はしなかった。

『だったら、なおさらちゃんと見ておかないとな』

「……はい」

『未来の俺に、出来が悪いって笑われるのも癪だ』

アーミアは答えず。

前を向いた。

アストレアを包む。

青白い光が強くなる。

その横で。

イナクトにも。

同じ色の光が灯り始めていた。

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