機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第12話 グラハム・エーカー

 

西暦2308年――タクラマカン砂漠・中央戦域

アストレアが青白い光を引いて戦場を駆ける。

右前方から二機。

さらに上空。

アーミアが敵の存在を捉えた時には、すでに操縦桿を倒していた。

《オーバーライズ》によって強化されたアストレアが即座に応える。

急旋回。

直後、二本の射線が先ほどまでいた空間を貫いた。

「ロックオンさん、そちらへ一機抜けます!」

『見えてる!』

デュナメスが狙撃。

敵機が回避した先へ、キュリオスが飛び込む。

『こっちは任せて!』

「お願いします!」

四機のガンダムは限界に近い。

十五時間以上も続く戦闘で、機体もパイロットも消耗している。

自分が加わったところで、状況を簡単にひっくり返せるわけではない。

それでも。

一機でも多く引き受ければ。

一分でも休ませられれば。

意味はある。

「次――」

意識を広げる。

戦場を満たす無数の人間の存在。

その中から、自分たちへ向けられる強い意識を拾っていく。

そこで。

一つ。

妙に強いものが飛び込んできた。

迷いがない。

こちらへ一直線に向かっている。

アストレアのセンサーが警告を発したのは、その直後だった。

高速接近。

「来る!」

機体を横へ滑らせる。

ほぼ同時に。

一機のフラッグが凄まじい速度でアストレアの横を通過した。

『かわしたか!』

聞こえた声に。

アーミアの目が僅かに見開かれる。

知っている。

機体も。

声も。

そして。

ガンダムを前にした時の、この勢いも。

「グラハムさん……!」

『私を知っているのか!』

フラッグは止まらない。

大きく旋回し、そのまま再突入してくる。

アーミアも答えている余裕はなかった。

射撃。

グラハムはかわす。

そのまま接近。

アストレアが身を翻す。

二機が交差した。

『その声に覚えはない!』

「でしょうね!」

アーミアはアストレアを反転させる。

グラハムも同時に向きを変えた。

『だが、君は私を知っている!』

「今はそっちに集中してください!」

『無論!』

再びフラッグが迫る。

「そういうところは変わらないんですね!」

『何の話だ!』

「こっちの話です!」

アーミアは苦笑する余裕さえなかった。

未来で知っているグラハム。

だが。

今の彼にとって。

自分は初対面の相手だ。

それでも。

こうして実際に刃を交わせば。

嫌でも実感する。

――本当に、グラハムさんだ。

『その青白い光!』

フラッグがアストレアを追う。

『これまでのガンダムにはなかったものだ!』

「そこまで見てるんですか!」

『君ほどの相手を前にして見落とすものか!』

「褒められてる気がしません!」

急降下。

追ってきたフラッグを振り切ろうとする。

だが。

速い。

そして何より。

上手い。

アーミアが《オーバーライズ》を使っているにもかかわらず、簡単には離れない。

「やっぱり……!」

知っている人物だからといって。

今の戦場では敵だ。

アーミアは意識を切り替えた。

◆

少し離れた位置。

レイナスは。

青白い光が消えたイナクトを動かしていた。

『……今のも違うな』

「先生、まだやってるんですか!」

アーミアが叫ぶ。

『やってるよ。ここまで来て放り出したら、使った時間が全部無駄になる』

「戦闘中です!」

『分かってる。だから敵もちゃんと見てるよ』

言った直後。

イナクトが横へ動く。

ビームが通過。

即座に反撃。

敵機の武器を撃ち抜いた。

『ほらな』

「そういう問題じゃありません!」

『そこは俺も分かってるよ』

軽く返しながらも。

レイナスの目は戦況を追っている。

その視界へ。

アストレアと交戦するフラッグが入った。

『……あれ』

「知ってるんですか?」

『前に会った』

一拍。

『というか、機体を借りた』

「……またですか?」

『今回は返したぞ』

「今回はって言わないでください!」

『言葉の綾だよ』

フラッグがアストレアを追う。

その動きを見て。

レイナスが小さく息を吐いた。

『相変わらず元気だな』

アーミアは一瞬。

そちらへ意識を向ける。

「先生が借りたって、まさか――」

『あのフラッグ』

「グラハムさんの!?」

『ちゃんと返したって言っただろ』

「そこじゃありません!」

『最近そればっかり言われるな』

その時。

フラッグが急旋回した。

グラハムも。

気づいた。

戦場で。

ガンダム側に立つ一機のイナクト。

そして。

その動きに。

『――まさか!』

「気づいたか」

レイナスが呟く。

次の瞬間。

グラハムの進路が変わった。

アストレアではない。

一直線に。

イナクトへ。

『その動き! 君か!』

『久しぶりだな、グラハム』

『以前は私のフラッグを駆り、今度はAEUのイナクトとは!』

『言いたいことは分かるが、まず戦況を――』

『実に興味深い!』

『聞いちゃいないな』

グラハム機が迫る。

レイナスはイナクトを旋回させた。

攻撃をかわす。

反撃。

フラッグがさらに鋭くかわした。

『腕は鈍っていないようだな!』

『そんなに時間経ってないだろ』

『ならば好都合!』

『何がだよ』

『以前は君が私のフラッグを駆った! ならば今度は、そのイナクトで君自身の腕を見せてもらおう!』

『ずいぶん勝手な話だな』

レイナスはもう一度攻撃をかわす。

機体が軋む。

『まあ、前に機体を貸してもらった手前、無下にもできないか』

『貸した覚えはない!』

『でも返しただろ?』

『そういう問題ではない!』

「先生も言われてるじゃないですか!」

『アーミア、今それ拾うか?』

「私もさっき言いました!」

『……味方がいないな』

それでも。

声には余裕が残っている。

ただし。

状況は楽ではない。

レイナスが今乗っているのは。

つい先ほど奪ったイナクト。

一方。

グラハムは自分の機体を完全に使いこなしている。

接近。

回避。

反撃。

また接近。

二機が激しく位置を入れ替える。

レイナスは凌いでいる。

だが。

押されている。

「先生、援護します!」

アーミアが機体を向ける。

『いらない』

「でも!」

『そっちは四機を支えてくれ』

フラッグの攻撃。

イナクトが機体を沈める。

紙一重。

『十五時間働かされてる連中を先に休ませる。俺はまだ今日の勤務時間じゃ新人みたいなもんだ』

「今それ言います!?」

『優先順位の話だよ』

反撃。

グラハムが回避。

『それに――』

レイナスが。

青白いアストレアを見る。

『こっちはこっちで、ちょうどいい実地試験になりそうだ』

アーミアの表情が変わった。

「先生」

『何だ?』

「やるつもりですね」

『ここまで見せてもらったからな』

「失敗したら?」

『その時は撤退する。借り物を壊してまで意地を張るほど若くないよ』

無茶をする。

だが。

無謀ではない。

その違いを。

アーミアは知っている。

『来ないのか!』

グラハムが迫る。

『せっかちな客だな』

レイナスは操縦桿を握り直した。

『追加料金くらい欲しいところだ』

『何の話だ!』

『こっちの事情だよ』

フラッグが踏み込む。

レイナスは避ける。

一度。

大きく距離を取った。

呼吸を整える。

《アニマ》を。

イナクトへ。

先ほどまでは。

ただ機体へ流そうとしていた。

それでは。

これまでの強化と変わらない。

アーミアがやっているのは。

そうではない。

装甲。

フレーム。

駆動。

推進。

一つずつを強くするのではなく。

機体全体を。

一つとして捉える。

『……強くするんじゃない』

レイナスが呟いた。

アーミアの目が見開かれる。

知っている。

その考え方を。

『今ある状態から――』

《アニマ》が広がる。

『機体ごと、一段上へ持っていく』

「……!」

青白い光が。

イナクトの装甲を走った。

今度は。

消えない。

一部ではない。

機体全体へ。

ゆっくりと。

青白い光が広がっていく。

「本当に……」

アーミアは。

言葉を失った。

未来で。

自分へ教えてくれた人。

その本人が。

今。

自分が使った《オーバーライズ》を見ただけで。

そこへ辿り着こうとしている。

『イナクトまでその光か!』

グラハムが叫ぶ。

『悪いな』

レイナスが。

僅かに笑った。

『こっちも今、初めてなんだ』

『初めてだと!?』

『だから、加減については期待しないでくれ』

『望むところだ!』

『……そう返すと思ったよ』

グラハムが加速する。

同時に。

イナクトも動いた。

「――!」

アーミアが目を見開く。

速い。

先ほどまでとは。

明らかに違う。

フラッグの攻撃。

イナクトが回避。

今度は。

余裕を持って。

そして。

反撃。

グラハムが機体を翻す。

二機が交差。

『素晴らしい!』

『そりゃどう――も!』

『先ほどまでとは別物ではないか!』

『俺も驚いてるよ!』

『ならば、その力! 存分に見せてもらおう!』

『話を聞く限り、俺に得が一つもない!』

『強敵との戦いに、それ以上の報酬が必要か!』

『必要だな!』

即答だった。

『世の中、やりがいだけで働いてたら身が持たない』

『ハハハハハ! やはり面白い男だ!』

『そいつはどうも。ただ、面白さで飯は食えないんでね!』

イナクトが加速する。

青白い軌跡。

グラハムのフラッグと。

真正面から交差した。

◆

「……できちゃった」

アーミアは。

思わず呟いた。

『アーミア』

「はい?」

レイナスから通信。

戦いながら。

声はいつも通りだった。

『一応確認したい』

「何をです?」

『これ』

青白く輝くイナクトが。

グラハムの攻撃をかわす。

『合ってるか?』

一瞬。

アーミアは答えられなかった。

未来では。

逆だった。

自分が。

教えてもらう側だった。

《アニマ》も。

その扱いも。

《オーバーライズ》も。

先生から。

教わった。

なのに。

今は。

その先生が。

自分へ答え合わせを求めている。

「……合ってます」

『そうか』

「悔しいくらいに」

『そこまで言うなら、もう少し喜んでくれてもいいんじゃないか?』

「一回見ただけですよ?」

『見本が良かったんだろ』

「そういうことにしておきます」

『助かるよ』

レイナスは。

それ以上聞かなかった。

だが。

アーミアは。

分かっていた。

本来なら。

もっと先だった。

レイナスが。

自分自身で。

《オーバーライズ》を生み出すのは。

それを。

自分が。

前倒しした。

発明したのは。

レイナスだ。

完成形を見せられたからといって。

普通なら。

見ただけで再現できるものではない。

結局。

答えへ辿り着いたのは。

レイナス自身だった。

ただ。

その切っ掛けを。

未来から持ち込んだのが。

自分になった。

その事実を。

今度は。

目を逸らさずに受け止める。

「……これが、私のいる今なんですね」

誰にも聞こえない声で。

アーミアは呟いた。

そして。

前を見る。

まだ戦闘は終わっていない。

考えるのは。

帰ってからでいい。

「スメラギさん!」

『聞いてるわ!』

「四機を一度下げられますか!」

『あなたとレイナスで前を支えられる?』

アーミアは戦場を見る。

青白いアストレア。

そして。

同じ光を纏い始めたイナクト。

ただし。

そのイナクトには。

今もグラハムが食らいついている。

「先生!」

『何だ?』

「グラハムさん、何とかできます?」

『注文が雑だな』

グラハムの攻撃をかわす。

『まあ――』

反転。

イナクトが一気に加速した。

グラハム機との距離が開く。

『少しくらいなら、時間は作る』

『逃がすと思うか!』

『ほらな。こういう客なんだ』

「知ってます!」

『……知ってるんだったな』

一瞬だけ。

レイナスの声が変わった。

だが。

それ以上は聞かない。

『なら話は早い』

イナクトが反転。

迫るフラッグを迎え撃つ。

『こっちは引き受ける。お前は四機を頼む』

「了解!」

アストレアが加速する。

過去を知っているからではない。

未来を守るためでもない。

今。

ここにいる人たちを。

帰すために。

アーミアは。

再び戦場へ飛び込んだ。

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