西暦2308年――ソレスタルビーイング地上施設・ブリーフィングルーム
五十六年先までの歴史を話し終え、アーミアはようやく端末を閉じようとした。
アレハンドロ・コーナーとリボンズ・アルマーク。国連軍へ配備されるGN-X、一度は壊滅するソレスタルビーイング。四年後の再始動とアロウズとの戦い、そして2314年に訪れるELSとの接触。その先、人類とELSが共生しながら外宇宙へ進出した2364年まで。
これだけでも、今後の方針を考えるには十分すぎる情報量だった。
実際、ブリーフィングルームにはまだ重い空気が残っている。スメラギはトリニティの資料を表示したまま考え込み、ティエリアも黙って端末を見ていた。刹那たちも、五十六年先までの自分たちの歴史を簡単には消化できないようだった。
アーミアも、これ以上は必要ないと思っていた。
だが端末を閉じる直前、個人ファイルの中にある一つの動画が目に入る。
少し迷ってから、手を止めた。
「……あと、これは参考になるか分かりませんが」
スメラギが顔を上げる。
「まだ何かあるの?」
「歴史資料ではありません。正確な記録として見るものでもないです」
「じゃあ、何?」
アーミアは答える代わりに、端末の保存領域を切り替えた。
先ほどまで開いていた歴史資料とは別の、完全な個人領域。写真や映像、娯楽作品などが保存されている場所だ。
その中から一本の動画を選び、共有画面へ送る。
表示されたタイトルを見た瞬間、何人かが目を疑った。
劇場版《ソレスタルビーイング》
しばらく沈黙が続いた。
「……映画?」
最初に口を開いたのはクリスティナだった。
「はい」
「ソレスタルビーイングって……私たちの?」
「皆さんを題材にした映画です」
ロックオンが画面を二度見する。
「俺たち、映画になるのか?」
「なります」
「誰がこんなの作ったのよ……」
スメラギが頭を抱えるように額へ手を当てた。
「地球連邦政府です」
「……政府?」
「新政権を宣伝するためのプロパガンダ映画として作られた作品です。2312年のアロウズとの戦いを題材にして、ソレスタルビーイングの活躍をかなり分かりやすく再構成しています」
今のソレスタルビーイングは、世界各地へ武力介入を繰り返す非合法武装組織である。それがわずか六年後には、地球連邦政府によって映画の主人公にされる。
スメラギは何とも言えない顔になった。
「政治って、本当に分からないものね……」
「その頃にはアロウズの行いも明るみに出ていますから。新しい連邦政府にとって、過去の体制との違いを示すには分かりやすい題材だったんだと思います」
「つまり俺たちが、政府公認の正義の味方になるわけか」
ロックオンが苦笑する。
「映画の中では、かなり分かりやすく」
「今は各国から追い回されてるってのにな」
レイナスも画面を見ながら肩をすくめた。
「六年もあれば、テロリストが広告塔になるくらい看板は掛け替わるってことだろ。本人たちに話が通ってるかは別としてな」
「実際、本人たちには何も聞かされてなかったそうです」
「未来でもそこは変わらないか。話が決まってから現場に降りてくるのは、どこも同じらしい」
「政府のプロパガンダと仕事を一緒にしないで」
スメラギに切られ、レイナスは小さく肩をすくめた。
一方、クリスティナは既に別の部分へ興味を移していた。動画の詳細情報を覗き込み、再生時間を見つけたところで動きが止まる。
「……アーミア」
「はい?」
「これ、三時間四十八分って書いてない?」
「書いてあります」
「三時間四十八分!?」
声がブリーフィングルームに響いた。
「途中に十分の休憩があります」
「休憩込みだとほぼ四時間じゃない!」
「長い映画なんです」
ロックオンまで顔をしかめる。
「政府も随分気合い入れて作ったな……」
アレルヤは苦笑しながらアーミアを見る。
「これを今から全部見るの?」
「別に全部見る必要はありません。あくまで参考として――」
「見る!」
クリスティナが即答した。
「クリス……」
「だって未来で私たちが映画になってるのよ? 気になるに決まってるじゃない」
フェルトも画面を見ながら小さく頷く。
「……私も、少し見てみたい」
「フェルトまで……」
アレルヤが困ったように笑う。
ティエリアは腕を組んだ。
「プロパガンダを目的とした娯楽作品なら、先ほどの歴史資料と同列に扱うべきではない」
「もちろんです。史実と違う部分も多いですし、人物もかなり脚色されています」
「どの程度だ?」
「……かなりです」
アーミアが一拍置いて答えると、スメラギが怪訝そうに見る。
「今の間は何?」
「見れば分かります」
アーミアは動画の詳細画面から、宣伝用のメインビジュアルを表示した。
色鮮やかな五人の戦士。その背後には、現実のものとはかなり意匠の異なるガンダムたちが並んでいる。
中央に立っているのは、顔に大きな傷を持つ青年だった。
刹那が画面を見つめる。
「これは誰だ」
「マイケル・チャンです」
「知らない」
「刹那さんをモデルにした主人公です」
「……俺?」
刹那はしばらくマイケル・チャンを見た。
顔の傷。自信に満ちた表情。いかにも英雄らしく強調された立ち姿。
「俺ではない」
「モデルですから」
「似ていない」
ロックオンが笑う。
「まあ、お前だって分かる奴はいねえだろうな」
次にアーミアが示したのは、眼鏡を掛けた狙撃手だった。
「ウォーレン。ロックオンさんがモデルです」
「俺は眼鏡になったのか」
「狙撃手なのは残っています」
「そこだけかよ」
「まだ原型がある方です」
「まだ?」
その一言でアレルヤが警戒した。
アーミアが次に示したのは、鮮やかなピンク色の髪をした少女だった。
「ジェニファー」
アレルヤは何も言わない。
クリスティナがアーミアと画面を交互に見る。
「……誰?」
「アレルヤさんです」
一瞬の静寂。
「僕!?」
クリスティナが吹き出した。
「ちょっと、可愛いじゃない!」
「どうして女の子になってるの!?」
「私に聞かれても……」
最後は、筋骨隆々の中年男性だった。
全員の視線がティエリアへ向く。
「何故、僕を見る」
「オルソンです」
アーミアが言った。
ティエリアが画面を見る。
「誰がモデルだ」
「ティエリアさんです」
「共通点がない」
「ガンダムに乗っています」
「それだけか?」
「……だいたい」
ティエリアは数秒黙った後、断言した。
「資料的価値はない」
「だから映画です」
そんなやり取りの中、刹那が四人とは少し離れた位置に描かれた最後の人物へ視線を移した。
黒いロングコートを纏った男。
他の登場人物とは違い、その顔立ちには明らかな見覚えがある。
「レイナス」
「何だ?」
「これはお前だ」
全員が画面を見る。
そしてレイナスを見る。
もう一度、画面を見る。
レイナス自身も黙った。
他の四人はモデルになった人物の原型をほとんど留めていない。それなのに、この男だけは顔立ちも髪型も明らかにレイナス・レノアークを意識している。
その下には、大きく名前が記されていた。
レイヴン
さらに、その横には宣伝文句。
《戦場に舞い降りた孤高の超戦士――レイヴン》
レイナスはしばらく画面を眺めた後、アーミアを見る。
「……説明を頼む」
「レイヴンです」
「そこは読めば分かる」
「先生がモデルです」
「それも見れば分かる。俺が聞きたいのは、何で俺だけここまで似てるのかって話だよ」
「先生は当時から顔と名前がかなり知られていましたから」
ガンダムマイスターたちの素顔は長く世間から隠されていた。一方で、レイナスは早い段階から表舞台に姿を見せており、報道関係者にも顔と名前を知られている。
「だからって、ここまで寄せるか?」
ロックオンが宣伝文句を読み上げる。
「『戦場に舞い降りた孤高の超戦士』」
「読むな」
クリスティナも続ける。
「こっちには『神すら恐れる最強の男』って」
「だから読むなって」
「すごいじゃない。六年後には最強よ」
「今から予約されても困るんだよ」
レイナスは額を押さえた。
「それに孤高って何だ。今の時点でこれだけ人が周りにいるだろ」
「映画だからじゃない?」
「便利な言葉だな、それ」
そんな中、アーミアは画面のレイヴンを見ていた。
黒いロングコート。
鋭い眼差し。
実際のレイナスとは似ているようで、まったく違う。
十七歳だった頃、この映画を観た自分は、あの男を本気で格好いいと思っていた。
「……まあ、格好いいですけど」
無意識に漏れた声で、部屋が静かになった。
アーミアはすぐに失言へ気づいた。
クリスティナがゆっくり振り向く。
「……アーミア?」
「何ですか」
「今、格好いいって言った?」
「言ってません」
「言ったわよ」
「聞き間違いです」
フェルトが小さく口を開く。
「私も聞いた」
「フェルト!?」
レイナスは画面のレイヴンとアーミアを交互に見る。
「お前、これ好きだったのか?」
「映画は普通です」
「映画は?」
クリスティナがすぐに反応した。
「もしかして、レイヴンのファンだった?」
アーミアはしばらく黙っていた。
六十七歳。外宇宙航行艦《スメラギ》艦長。五十年以上《アニマ》を扱い、ELSと共生し、イノベイターとして外宇宙を飛んできた。
そんな経歴は、十七歳の頃の話を掘り返された今、何の役にも立たない。
「……そうです」
「え?」
「ファンでした!」
クリスティナの顔が一気に明るくなる。
「やっぱり!」
「そんなに嬉しそうにしないでください!」
ロックオンまで笑い始める。
「なるほどな。未来じゃ有名人だったのか、レイナス」
「俺じゃない。レイヴンだ」
「モデルはお前だろ」
「モデルと完成品を一緒にするな。あっちは『神すら恐れる最強の男』だぞ。俺にそんな看板を背負わせるな」
クリスティナはまだ終わらない。
「じゃあ、本物のレイナスに初めて会った時は?」
「言いません」
「絶対何かあったでしょ!」
「この話は終わりです!」
「先生って呼ぶようになったのも――」
「それは《アニマ》を教えてもらってからです! そこは関係ありません!」
思わず声が大きくなった。
レイナスは少し離れたところからそのやり取りを眺め、やがて小さく息を吐く。
「まあ、十七の頃に何が好きだったかなんて、五十年後に本人の前で公開される予定までは立ててないだろ。その辺で勘弁してやれ」
アーミアがレイナスを見る。
助かった。
そう思った直後、レイナスは画面のレイヴンを指した。
「それより問題はこっちだ。俺は今から三時間四十八分、こいつを見せられるのか?」
「途中で十分休めます」
「そういう問題じゃない」
結局、見るかどうかという話ではなくなっていた。
クリスティナは当然のように席を整え、フェルトも画面を見る準備をしている。ロックオンは自分をモデルにしたウォーレンがどんな扱いなのか気になるらしく、アレルヤはジェニファーを見るたびに複雑そうな顔をしていた。
ティエリアだけは最後まで「資料的価値の確認だ」と主張している。
そして刹那は、人物ではなくポスターの背後に並ぶガンダムを見ていた。
「アーミア」
「はい?」
「再生してくれ」
「未来のガンダムが見たいの?」
スメラギが尋ねる。
「重要だ」
レイナスが横目で見る。
「三時間四十八分付き合う理由がそれか?」
「そうだ」
「迷いがないな、お前」
アーミアは苦笑して、再生ボタンへ指を伸ばした。
同施設――上映開始
照明が落とされ、ブリーフィングルームが暗くなる。
やがて画面に映し出されたのは、炎に包まれた都市だった。
世界を支配しようとする悪の軍団。逃げ惑う人々。絶望が世界を覆う中、空から四つの光が舞い降りる。
『そこまでだ!』
顔に大きな傷を持つ青年、マイケル・チャンが堂々と前へ出た。
『俺たちはソレスタルビーイング! この世界から戦争を消し去る者だ!』
刹那は数秒、無言で画面を見つめた。
「俺は、こんなことを言ったのか?」
「言ってません」
アーミアが即答する。
「そうか」
「納得早えな」
ロックオンが笑った。
レイナスは椅子へ深く身体を預ける。
「まだ始まって数分だ。ここから三時間以上あるってのが、一番怖いところだな」
映画は猛烈な勢いで進んでいった。
マイケル・チャンは、戦場のど真ん中で堂々と敵へ名乗りを上げる。刹那本人とは似ても似つかない熱血漢で、戦闘中にも仲間や敵へ頻繁に語りかけていた。
その横では、眼鏡を掛けたウォーレンが狙撃型ガンダムで次々と敵を撃ち抜いていく。
『狙った獲物は逃がさない。それが俺の流儀だ』
ロックオンが眉を上げた。
「……俺、こんなこと言ったか?」
「少なくとも私の記録にはありません」
「だよな」
「でも狙撃は上手い」
フェルトが言う。
ロックオンは少しだけ機嫌を直した。
「まあ、そこは評価してやるか」
次に画面いっぱいへジェニファーが映った。
ピンク色の長い髪をなびかせ、華奢な身体で戦場を駆ける美少女。
『みんなの命は、私が守る!』
アレルヤが顔を覆った。
「……どうしてこうなったんだろう」
クリスティナは楽しそうだった。
「いいじゃない、可愛いし」
「よくないよ!」
「でも、アレルヤがモデルなのよね?」
「だから困ってるんだよ!」
さらにオルソンが登場する。
筋骨隆々の身体。歴戦の軍人を思わせる顔。そしてティエリア本人とは似ても似つかない豪快な性格。
敵の大軍を前に、オルソンが腕を組む。
『ここはワシに任せんしゃい!』
部屋が静かになった。
全員が。
ティエリアを見る。
「……見るな」
ティエリアの声が低くなる。
ロックオンが耐えきれず吹き出した。
「いや、無理だろ……!」
「僕ではない」
「モデルだってよ」
「僕ではない」
「刹那と同じこと言ってるぞ」
「事実だ」
画面ではオルソンが豪快に笑いながら敵陣へ突っ込んでいく。
『ガンダムの力、思い知るばい!』
ティエリアは無言で目を閉じた。
クリスティナが肩を震わせる。
「ティエリア……」
「何も言うな」
「まだ何も言ってない」
「笑っている」
「ごめん、無理」
アーミアも十七歳の頃に見たはずなのに、改めて本人たちと一緒に見ると破壊力が違った。
だが、本番はまだ先だった。
映画の中盤。
マイケルたちが敵の大軍に包囲される。
四機のガンダムも損傷し、逃げ道はない。敵の砲撃が集中し、巨大な爆発が画面を覆った。
クリスティナが少し身を乗り出す。
「これ、どうするの?」
アーミアは答えなかった。
知っているからだ。
爆煙が晴れる。
その中から、一人の男がゆっくりと歩いてきた。
黒いロングコート。
鋭い眼差し。
そして。
青白い光。
劇伴が一気に盛り上がる。
画面いっぱいに、レイヴンの顔が映った。
『待たせたな』
全員の視線が、ほぼ同時にレイナスへ向いた。
「……何で俺を見る」
ロックオンが笑う。
「いや、似てるなと思って」
「さっき確認しただろ」
画面では敵兵が叫んでいた。
『何者だ!』
レイヴンは立ち止まり、風にコートを靡かせながらゆっくりと顔を上げる。
『名乗るほどの者じゃない』
レイナスが眉を寄せた。
『――ただ、地獄がお前たちを迎えに来るまでの案内人だ』
沈黙。
レイナスが額を押さえた。
「……開始五秒で帰りたくなってきたな」
クリスティナはもう笑っている。
「格好いいじゃない!」
「俺じゃなければな」
アーミアは何も言わない。
十七歳の自分は、ここで完全に心を掴まれていた。
それを今この場で口にする勇気はない。
敵MSが一斉にレイヴンへ銃口を向ける。
だが、レイヴンは微動だにしない。
『愚かな……俺に銃口を向けた瞬間、お前たちの運命は決まっていた』
「決めてない」
レイナスが即座に否定した。
『死神に祈る時間くらいはくれてやる』
「俺はそこまで親切じゃない」
『もっとも――』
「まだあるのか」
『死神すら、俺を恐れて近寄らないがな』
レイナスは天井を見た。
ロックオンがとうとう声を上げて笑う。
「駄目だ、こいつ面白すぎる!」
「俺の顔でやってるから笑えないんだよ」
刹那だけは真剣に画面を見ていた。
「実際のお前も生身でMSを破壊できる」
「問題はそこじゃない」
「違うのか?」
「俺は一機壊すたびに死神と自分の関係を説明したりしない」
次の瞬間。
レイヴンが跳んだ。
拳が敵MSの胸部装甲へ突き刺さり、そのまま機体が爆発する。
イアンが画面を見ながら呟く。
「そこだけなら、できそうなのが腹立つな」
「イアンまで何を言ってるんだ」
炎を背負いながらレイヴンが振り返る。
『鋼鉄程度で、俺の魂まで止められると思うな』
「思ってないから先に進め」
背後から別のMSが迫る。
レイヴンは振り返りもしない。
『背後を取ったつもりか?』
青白い光が迸った。
『俺にとって前も後ろもない。戦場そのものが――俺の領域だ』
「俺の知らない俺が順調に育ってるな」
スメラギは口元を押さえていた。
「笑うなら普通に笑ってくれ。隣で耐えられる方が気になる」
「ごめん……無理……」
アーミアも口元を押さえる。
レイナスが気づいた。
「お前、これのファンだったんだよな?」
「昔の話です」
「十七の頃のお前は今の台詞で喜んでたのか?」
「上映中です。静かにしてください」
「逃げたな」
映画はさらに進んでいった。
史実らしきものは確かに下敷きになっている。
しかし細部は容赦なく改変され、実際の戦闘を知る者ほど首を傾げる場面が増えていった。
マイケルのガンダムが巨大な実体剣へビームを纏わせる。
刹那が画面へ僅かに身を乗り出した。
「……ライザーソード」
「知ってるの?」
クリスティナが聞く。
「さっき未来の機体として説明を受けた」
画面では、その巨大な剣をマイケルが振りかぶる。
そして。
投げた。
「……投げた」
フェルトが呟く。
刹那の表情が止まる。
「投げるのか」
「実際には投げません」
アーミアが言う。
刹那は少し残念そうに見えた。
レイナスが横目で見る。
「お前、投げたかったのか?」
「有効なら選択肢にはなる」
「真面目に検討するな」
続いてオルソンのガンダムが両腕を前へ突き出す。
『逃がさんばい!』
巨大なエネルギー球体が発生し、複数の敵MSをまとめて拘束した。
ティエリアが眉間を押さえる。
「そんな機能は必要ない」
「未来の機体にはあるかもしれないぞ」
イアンが面白そうに言う。
「不要です」
「即答か」
「そもそも、何故僕だけ訛っている」
その疑問に答えられる者はいなかった。
やがて再びレイヴンの出番が来る。
敵の巨大兵器を前に、レイヴンが静かに目を閉じた。
『どうやら――俺の中に眠る蒼き獣を、解き放つ時が来たようだ』
レイナスの表情が消えた。
「何を言い出した」
全身から青白い光が噴き上がる。
《アニマ》を映像作品なりに再現したものらしい。
『この力は、誰かを倒すためのものじゃない』
レイナスが少しだけ姿勢を戻した。
「……珍しくまともだな」
『俺に逆らった愚か者へ――絶望という名の真実を教えるためにある!』
「今のなしだ」
ロックオンが机を叩いて笑った。
アーミアも耐えきれず顔を逸らす。
レイナスが気づく。
「お前、これ本当に好きだったのか?」
「十七歳だったんです!」
「年齢のせいにするなよ」
「先生だって未来で最後まで見てたでしょう!」
「逃げられなかったってさっき聞いた」
画面のレイヴンは両腕を広げた。
『天よ!』
レイナスが目を閉じる。
「やめろ」
『地よ!』
「まだ続くのか」
『そして、俺の魂よ!』
「勝手に使うな」
青白い光が急激に膨張していく。
アーミアには、それが《アニマブラスト》を派手に脚色したものだと分かった。
そして。
来る。
十七歳の頃に何度も真似した――とは絶対に言えない。
『俺の生き様、その魂に刻め!』
「刻まなくていい」
『世界が俺を拒むなら――』
「拒んでない」
『俺が世界の方を認めてやる!』
「何様だよ」
レイヴンが両手を前へ突き出す。
青白い光が一点へ収束する。
『超絶究極――』
アーミアは思わず目を逸らした。
『レイヴン・バーストォォォォッ!!』
巨大な青白い光線が戦場を薙ぎ払い、敵の大軍がまとめて爆発した。
部屋が静まり返る。
レイナスだけが動かない。
やがて。
「……休憩、まだか?」
クリスティナが吹き出した。
ロックオンも完全に笑っている。
「駄目だ、腹痛え……!」
刹那は相変わらず真剣だった。
「レイヴン・バースト」
「刹那」
「何だ」
「その名前は忘れろ」
「実際には使えないのか?」
「似たようなことはできる」
アーミアが答えた。
レイナスが振り向く。
「おい」
「《アニマブラスト》なら」
「そっちの名前だけ覚えろ、刹那」
「分かった」
「レイヴン・バーストは?」
「忘れろ」
「分かった」
少し間を置いて。
刹那が続けた。
「レイヴン・バースト」
「今覚えてるじゃないか」
珍しく刹那の口元が僅かに緩んだ。
「……お前、わざとだろ」
返事はなかった。
同施設――上映開始から約二時間
画面が暗転し、休憩を知らせる表示が出た。
「休憩です」
アーミアが言った瞬間、レイナスは立ち上がった。
「よし」
「どこ行くの?」
スメラギが尋ねる。
「外」
「十分しかないわよ」
「十分あれば十分だ」
「戻ってくる?」
「善処する」
「戻ってきなさい」
「未来の俺は途中で帰ろうとしたんだろ? 歴史を守るなら、ここは俺も――」
「さっきアーミアに未来に従う必要はないって話をしたばかりでしょう」
レイナスが止まった。
「……そういう時だけ綺麗に使うな、その理屈」
結局、逃げられなかった。
飲み物を取りに行く程度で終わり、十分後には全員が再び席についていた。
クリスティナは前半だけでもかなり満足したようで、アーミアの横へ寄ってくる。
「ねえ」
「何ですか」
「本当にレイヴン好きだったの?」
「その話まだ続けるんですか?」
「だって気になるもの」
アーミアは周囲を確認する。
レイナスは少し離れた場所でロックオンと話している。
「……好きでしたよ」
小声で答えた。
「どのくらい?」
「普通に」
「普通って?」
「映画を何回か見て、関連映像も見て……」
「グッズは?」
アーミアが黙る。
クリスティナの目が輝いた。
「持ってたの!?」
「声が大きいです!」
「何持ってたの?」
「言いません!」
「アーミア、六十七歳なのに可愛いところあるのね」
「その言い方やめてください!」
フェルトが隣から静かに尋ねる。
「本物に会った時、すぐ分かったの?」
その質問には、アーミアも少し考えた。
2314年。
ELSに巻き込まれ。
人生が変わった時。
そこに現れた、本物のレイナス・レノアーク。
「……分かりました」
映画のレイヴンほど大仰ではない。
黒いロングコートで戦場を歩き回るわけでもない。
死神について語ったりもしない。
それでも。
顔を見れば。
分かった。
「でも、全然違いました」
「がっかりした?」
フェルトが聞く。
アーミアは少しだけ笑った。
「いいえ」
むしろ。
映画の人物とは違ったからこそ。
その後、五十年以上も付き合えたのかもしれない。
そこで休憩終了の表示が出た。
「続き始まるよ」
クリスティナが席へ戻る。
アーミアも前を向いた。
後半戦。
レイナスにとっては。
まだ半分近く残っている。
同施設――上映再開
映画は最終決戦へ向かって加速した。
世界を裏から操る巨悪に対し、ソレスタルビーイングの戦士たちが最後の戦いを挑む。
史実の要素を使ってはいる。
だが、敵も味方も分かりやすく整理され、複雑な政治状況や人間関係は大幅に単純化されていた。
「プロパガンダ映画って意味が分かってきたわ」
スメラギが呟く。
「誰が正義で誰が悪か、考える余地をほとんど残してない」
「新政権を宣伝する映画ですから」
アーミアが答える。
「アロウズの悪行を強調して、それを倒した側を英雄として描く。その方が分かりやすいんでしょうね」
ティエリアは不満そうだった。
「実際の戦争を単純化しすぎている」
「映画だからな」
レイナスが言う。
「四時間近く使ってるのに?」
「四時間使っても足りない程度には、現実の方が面倒だったってことだろ」
「あなたは随分受け入れたわね」
スメラギが言う。
「二時間見てれば諦めもつく」
その時、再びレイヴンが画面へ現れた。
「……まだ出るのか」
「主要人物ですから」
アーミアが言う。
「誰が主要人物にしてくれと頼んだんだよ」
画面では、傷ついたマイケルの前にレイヴンが立っていた。
『レイヴン!』
『行け、マイケル』
『だが、お前は!』
レイヴンは背中を向ける。
『俺のことは気にするな』
光が、その横顔を照らした。
『英雄ってのはな――最後まで立っていた奴のことじゃない』
レイナスが目を細める。
「また始まったぞ」
『未来へ歩く者の背中を、黙って押せる奴のことを言うのさ』
レイナスは画面を見る。
「黙ってないだろ。今日一番喋ってるぞ」
ロックオンが吹き出す。
画面のマイケルが叫ぶ。
『必ず戻ってこい!』
レイヴンは振り返らない。
『俺には帰る場所なんて必要ない』
「ある」
『戦場こそが、俺の故郷だからな』
「絶対嫌だ」
『俺の人生に安息など必要ない』
「いる。休ませろ」
『この命が尽きるその瞬間まで――俺は戦い続ける!』
「勝手に生涯勤務にするな」
スメラギはもう笑うことを隠していない。
『もし生まれ変わっても、俺はまた戦士としてこの世界へ戻ってくる』
「来世まで働かせる気か、この脚本家」
刹那がレイナスを見る。
「そこが気になるのか?」
「百年以上やってるんだぞ。来世くらい好きにさせろ」
アーミアが思わず笑った。
レイナスが横目で見る。
「未来のお前も笑ってたのか?」
「……覚えてません」
「便利だな、その言葉」
映画のレイヴンは敵の大軍へ向き直った。
黒いコートが大きく翻る。
『覚えておけ!』
レイナスが嫌そうな顔をする。
「まだあるのか」
『俺は光でも闇でもない!』
「知らん」
『正義でも悪でもない!』
「話が長い」
『俺は――レイヴン!』
「名前は知ってる」
『運命すら俺の前では道を開ける!』
「道路工事じゃないんだぞ」
ついにイアンまで声を上げて笑った。
「駄目だ、こいつは本人と一緒に見るもんじゃないな!」
「俺もそう思うよ」
レイヴンは両腕を広げる。
『さあ来い! 俺という伝説を、その魂に焼き付けろ!』
レイナスは座席へ深く沈んだ。
「……こいつ、俺より人生楽しんでるな」
「人気が出た理由、分かる気がする」
クリスティナが言う。
「他人事なら俺もそう思う」
「先生」
アーミアが口を挟む。
「何だ」
「私は好きでしたよ」
「……今それを言うのか?」
「少なくとも、十七歳には刺さりました」
レイナスは画面のレイヴンを見る。
そしてアーミアを見る。
「まあ、若い客一人に夢を売れたなら、プロパガンダ以外の仕事もしたってことか」
予想外に普通の返答だった。
アーミアは少しだけ目を瞬く。
「笑わないんですか?」
「五十年前の趣味を笑ってどうする。俺だって百年以上掘り返されたら、人に見せたくないもんの一つや二つじゃ済まないよ」
「……そうですか」
「ただし」
レイナスは画面を指す。
「レイヴン・バーストだけは勘弁してくれ」
アーミアは笑った。
「それは無理です」
「何でだよ」
「有名なので」
「最悪だ」
映画はさらに進み、やがて最終局面へ入った。
マイケル、ウォーレン、ジェニファー、オルソン。そしてレイヴン。
現実とは大きく異なる五人の英雄が、世界を救うために最後の敵へ挑む。
マイケルは熱血漢らしく叫び、ウォーレンは最後まで冷静に狙撃し、ジェニファーは仲間を守り、オルソンは豪快に敵を蹴散らした。
レイヴンは最後までレイヴンだった。
攻撃するたびに何か言う。
敵が現れるたびに何か言う。
味方を助けても何か言う。
レイナスは途中から反論することすら諦めた。
「先生、静かになりましたね」
「全部拾ってたら映画より俺の台詞の方が長くなる」
「賢明ね」
スメラギが笑う。
やがて。
最後の敵が倒れる。
戦場を覆っていた炎が消え、雲の隙間から光が差し込んだ。
マイケルたち四人が並ぶ。
その少し後ろ。
レイヴンは一人、背を向けて立っていた。
『レイヴン。どこへ行く?』
マイケルが尋ねる。
レイヴンは振り返らない。
『俺の戦いは終わっちゃいない』
「終われ」
レイナスが即座に言った。
部屋に笑いが起きる。
『この世界に涙を流す者がいる限り、俺は歩き続ける』
「少し休め」
『さらばだ、戦友たちよ』
「連絡先くらい残していけ」
黒いコートを靡かせ。
レイヴンは夕日の向こうへ歩いていく。
壮大な音楽が流れ。
画面に文字が浮かんだ。
CELESTIAL BEING
そして。
エンドロール。
部屋に照明が戻った。
誰も。
すぐには立たなかった。
三時間四十八分。
途中休憩十分。
未来の地球連邦政府が作った、本人たちの人生を大幅に脚色した映画。
最初に口を開いたのはロックオンだった。
「……長かったな」
「それが最初の感想?」
スメラギが笑う。
「いや、他にも色々あるけどよ。とりあえず長かった」
アレルヤは疲れた顔で椅子へ身体を預けていた。
「僕は……ジェニファーについて考えるのをやめたい」
クリスティナが笑う。
「可愛かったのに」
「だから嫌なんだよ!」
ティエリアは真顔だった。
「何故、オルソンは最後まであの口調だった」
「そこが一番気になったの?」
ロックオンが聞く。
「重要だ」
「俺には分からん」
フェルトはウォーレンについて考えていたらしい。
「ロックオンは、まだ近かったと思う」
「そうか?」
「狙撃してたから」
「……基準が低くないか?」
「他の三人と比べれば」
「否定できねえな」
刹那はしばらく黙っていた。
レイナスが尋ねる。
「で、刹那。どうだった?」
「俺ではなかった」
「だろうな」
「だが、ガンダムは興味深かった」
「やっぱりそこか」
「ライザーソードを投げるという発想は――」
「真似するなよ」
「有効性を検討するだけだ」
「映画を技術資料にするな。イアンが困る」
「いや、発想だけなら面白いかもしれんぞ」
「イアンまで乗るな」
刹那は少し考えた後、レイナスを見る。
「それと」
「何だ」
「レイヴンは強かった」
レイナスは目を閉じた。
「本人の前で褒めるな」
「お前がモデルだ」
「だから困ってるんだよ」
クリスティナが楽しそうに割り込む。
「でも、人気出そうじゃない?」
「出たんだろ」
アーミアが頷く。
「かなり」
「やっぱり!」
「特にレイヴン・バーストは――」
「その先は言わなくていい」
「有名です」
「言ったな」
アーミアは少し笑った。
六十七歳の自分が。
十七歳の頃に好きだった映画を。
その映画が作られる六年前の本人たちと一緒に見る。
考えてみれば。
これほど奇妙な経験もない。
「でも」
スメラギが、エンドロールの流れる画面を見ながら呟いた。
「一つだけ、参考にはなったかもしれないわね」
ティエリアが見る。
「何がです?」
「未来の人たちが、私たちをどう見ているか」
今。
世界から見れば。
ソレスタルビーイングは武力によって世界へ介入する存在だ。
憎む者も。
恐れる者もいる。
実際。
自分たちの行動によって人生を変えられた者も少なくない。
それが六年後。
事実を大幅に脚色しているとはいえ。
映画の主人公として描かれる。
「少なくとも、その時代の政府は、私たちの存在を完全に否定してはいない」
「都合よく使っているとも言える」
ティエリアが返す。
「ええ。それも含めてね」
プロパガンダである以上。
純粋な評価ではない。
だが。
それでも。
ソレスタルビーイングという名前を冠した映画を、一般の人々が娯楽として見る時代が来る。
アーミアは知っている。
映画が公開された2314年。
その直後。
人類はELSと遭遇する。
この映画の中では。
世界は分かりやすい悪と戦えばよかった。
現実は違った。
ELSには。
悪意すらなかった。
「私がこの映画を見た頃は」
アーミアが静かに言った。
「まさか、そのすぐ後に自分が本物のソレスタルビーイングと関わるなんて思ってませんでした」
クリスティナが笑う。
「しかも憧れてたレイヴンの本人に会うのよね」
「……そうですね」
もう否定しても仕方がない。
「どうだった?」
「何がですか?」
「本物」
アーミアは少し考えた。
すぐ近くに。
2308年のレイナスがいる。
未来の自分が五十年以上付き合うことになる。
まだ若い頃の彼。
映画のレイヴンとは。
全然違う。
孤高でもない。
意味もなく格好をつけない。
戦場を故郷だとも言わない。
むしろ休めるなら休むし。
報酬が出るなら確認する。
無茶はするが。
無茶を美徳にはしない。
「……全然違いました」
レイナスが横から口を挟む。
「それは俺としては喜んでいいんだよな?」
「はい」
「即答されると、それはそれで複雑だな」
「でも」
アーミアは続けた。
「本物の方が良かったですよ」
今度は。
レイナスが黙った。
クリスティナの目が輝く。
ロックオンも面白そうに二人を見る。
アーミアは。
言ってから気づいた。
「……変な意味じゃありません」
「誰もまだ何も言ってないわよ?」
「クリスティナさんが言いそうな顔をしてます」
「してないしてない」
「してます」
レイナスは二人のやり取りを眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。
「まあ、映画の俺より評価が上なら十分だよ。あれに負けたら、今後どう接していいか分からなくなる」
「レイヴン格好いいのに」
「六十七歳になってもまだ言うのか」
「格好いいものは格好いいです」
「そこは変わらないんだな」
「でも先生は先生です」
レイナスは少しだけ眉を上げる。
「それでいいよ。俺もあいつと同一人物扱いされ続けるのは疲れる」
刹那が口を開く。
「レイヴン」
「刹那」
「何だ」
「頼むから今日はもうその名前を呼ぶな」
「分かった」
数秒。
「レイヴン・バースト」
「お前、絶対わざとだろ」
刹那の口元が。
ほんの僅かに緩んだ。
ロックオンが笑う。
「刹那まで遊び始めたぞ」
「六年後の映画を見る前に悪い影響を受けた気がするな」
「誰からだ?」
「さあな。心当たりが多すぎて絞れない」
レイナスは立ち上がり、大きく身体を伸ばした。
「とりあえず、四時間近く未来の俺もどきを見せられたんだ。今日はもう十分だろ」
スメラギが時計を見る。
「そうね。予定よりずいぶん長くなったし」
「映画を見始めた時点で分かってただろ」
「途中で止めたらクリスが怒りそうだったから」
「私!?」
「違うの?」
「……最後まで見たかったけど」
「ほら」
それぞれが席を立ち始める。
だが。
アーミアは端末を閉じる前に、もう一度だけ画面を見た。
エンドロールは終わり。
劇場版《ソレスタルビーイング》のタイトルが表示されている。
十七歳の自分にとって。
これはただの映画だった。
レイヴンは。
スクリーンの中にしかいない英雄だった。
それから。
現実のレイナス・レノアークと出会った。
ELSに襲われ。
右手を失いかけ。
《アニマ》を知り。
自分でも発現させ。
彼から使い方を教わった。
刹那・F・セイエイという、本物のイノベイターの先輩にも出会った。
ソレスタルビーイングの人々とも関わった。
そして。
五十年後には。
自分が《スメラギ》の艦長として外宇宙を飛んでいた。
人生というものは。
映画より。
よほど先が読めない。
「アーミア?」
フェルトの声で。
アーミアは顔を上げた。
「行かないの?」
「あ……はい」
端末を閉じる。
立ち上がろうとしたところで、レイナスがまだ近くにいた。
「先生?」
「一つだけ確認していいか?」
「何ですか?」
レイナスは少し言いにくそうに間を置いた。
「未来で、この映画の続編って作られてないよな?」
アーミアは記憶を探る。
そして。
少しだけ笑った。
「それは――」
レイナスの顔が険しくなる。
「その間は何だ」
「秘密です」
「おい」
「未来の情報を全部教える必要はないでしょう?」
「さっき重要な未来は全部話すって言っただろ」
「映画の続編は重要な未来ではありません」
「こういう時だけ情報管理が完璧だな、お前」
アーミアは端末を抱え、先に出口へ向かった。
背後からレイナスの声が聞こえる。
「待て。せめてレイヴンが続投するかだけ教えろ」
「知りません」
「絶対知ってる言い方だろ、それ」
アーミアは答えなかった。
ブリーフィングルームを出る直前。
クリスティナが楽しそうに声を上げる。
「レイヴン・バースト!」
「クリスまでやめろ!」
笑い声が広がった。
ほんの数時間前まで。
この部屋では。
世界の崩壊と再生。
一万倍のELS。
五十六年先の未来について話していた。
それでも今は。
未来の映画一本を囲んで。
笑っている。
アーミアは足を止めずに、小さく笑った。
自分が知っている歴史とは。
もう違う。
それでいい。
未来は。
記録をなぞるためにあるものではない。
これから。
この時代を生きる人たちが。
自分たちで作っていくものなのだから。