西暦2308年――ソレスタルビーイング地上施設・ブリーフィングルーム
休憩を挟み、ブリーフィングルームへ戻ってきた時には、先ほどまでの空気はほとんど残っていなかった。
未来の自分たちを題材にした映画を三時間以上見せられた直後である。クリスティナやロックオンはまだ劇中の話をしていたし、刹那に至ってはライザーソードを投げる戦法についてイアンへ質問していた。
だが、正面モニターの表示が切り替わると、会話は自然に止まった。
三機のガンダム。
ガンダムスローネアイン。
ガンダムスローネツヴァイ。
ガンダムスローネドライ。
そして、そのパイロットたち。
ヨハン・トリニティ。
ミハエル・トリニティ。
ネーナ・トリニティ。
アーミアは三人の顔を見つめた。
未来の歴史を全て話すと決めた時から、避けては通れないと分かっていた。
特に。
赤い髪の少女。
ネーナ・トリニティ。
「さて」
スメラギが全員を見回す。
「ここからは、今後について決めましょう」
その声はもう、映画を見ていた時のものではない。
ソレスタルビーイングの戦術予報士。
スメラギ・李・ノリエガとしての声だった。
「まず前提を確認するわ。アーミアが話した未来は、私たちにとって非常に重要な情報よ。端末に残された記録や、彼女自身について確認できた事実を考えれば、無視できるものではない」
ティエリアが頷く。
「しかし、未来の出来事がこの世界でも同様に発生する保証はない」
「ええ」
スメラギはアーミアを見る。
「既に違いが生まれているものね」
「はい」
アーミアも頷いた。
タクラマカン。
本来なら、あそこで自分が戦うことはなかった。
未来から来た自分がガンダムアストレアへ乗り、《オーバーライズ》を使うことも。
それを見たこの時代のレイナスが、本来より遥かに早く《オーバーライズ》へ到達することも。
自分が知る歴史にはない。
もう完全な再現などできない。
それでも。
知っている。
この先に。
何が起きたのか。
スメラギがネーナの画像を拡大する。
「その上で、最優先で考えたいのがこれ」
誰も。
名前を聞き返さなかった。
先ほど。
アーミアが説明している。
「ネーナ・トリニティ」
スメラギが言う。
「あなたが知る歴史では、この後、民間の結婚式場を攻撃する」
「はい」
「その場に軍事目標は?」
「ありません」
「ソレスタルビーイングの武力介入対象になるような組織や人物は?」
「私が調べた範囲では、ありませんでした」
スメラギの表情が僅かに険しくなる。
「純粋な民間人への攻撃ということね」
「はい」
アーミアは短く答えた。
この事件について。
自分が最初に知ったのは、歴史資料ではない。
まだ子供だった頃。
普通の生活をしていた頃。
ニュースで知った。
結婚式場がガンダムタイプのモビルスーツから攻撃された。
当時のアーミアに分かったのは、それだけだった。
「確認させて」
スメラギが続ける。
「当時のあなたは、犯人を知っていたの?」
「いいえ」
アーミアは首を横に振る。
「子供だった私がニュースで知ったのは、民間の結婚式場がガンダムタイプの機体に攻撃されたということだけです。スローネドライという名前も、ネーナ・トリニティという名前も知りませんでした」
「じゃあ、その二つを結びつけたのは?」
「後からです」
アーミアは答える。
「大人になってから当時の記録を調べました。それで、攻撃したのがスローネドライで、パイロットがネーナ・トリニティだったと知りました」
ティエリアが問う。
「攻撃理由は?」
「分かりません」
迷わず答えた。
「記録から確認できたのは、誰が、どの機体で、何をしたかです。ネーナ本人が何を考えて攻撃したのかまでは、私は知りません」
推測はできるかもしれない。
だが。
それを事実として話すつもりはない。
アーミア自身が知らないものは。
知らない。
「結果として」
スメラギが言う。
「ルイス・ハレヴィという少女の人生が大きく変わる」
「はい」
「後に彼女はガンダムを憎み、A-LAWSへ入る」
「そうです」
そこまで。
先ほど説明した。
普通の少女だったルイス・ハレヴィ。
結婚式場への攻撃。
その後に続く人生。
そして。
数年後。
敵としてガンダムの前に立つことになる未来。
ロックオンが腕を組む。
「だったら、止めるしかねえだろ」
「私もそう思うわ」
スメラギは答えた。
「問題は、どう止めるかよ」
ティエリアが口を開く。
「危険性が明確ならば、ネーナ・トリニティを拘束する選択肢もある」
その言葉に。
アーミアは反射的にティエリアを見た。
「反対です」
思っていたより。
強い声が出た。
ティエリアがこちらを見る。
「何故だ?」
「まだ、何もしていないからです」
「未来では行う」
「私が知っている未来では、です」
アーミアは言葉を切らない。
ここだけは。
曖昧にしたくなかった。
「今ここにいるネーナ・トリニティは、結婚式場を攻撃していません。誰も殺していません」
「しかし――」
「それに」
アーミアは画面を見る。
ネーナだけではない。
ヨハン。
ミハエル。
三人全員。
「私が知る歴史では、トリニティ三兄妹は全員死にます」
静かになった。
「全員?」
アレルヤが確認する。
「はい」
アーミアは頷く。
「ヨハン・トリニティも。ミハエル・トリニティも。ネーナ・トリニティも」
未来の記録で。
知っている。
三人の結末を。
だからこそ。
思う。
「もし未来の記録だけで今の人を決めつけていいなら」
アーミアは続ける。
「私は三人を、これから死ぬ人として扱うことになります」
誰も答えない。
「ネーナさんは民間人を攻撃する。三人は死ぬ。記録にはそう残っています。でも、それはまだ起きていない」
画面の中の三人は。
生きている。
今。
この2308年に。
確かに。
「だったら」
アーミアは言った。
「変えられるかもしれません」
その言葉を口にして。
自分自身が一番強く感じていた。
歴史を。
変える。
タクラマカンでは。
目の前の状況に耐えられず。
結果として介入した。
だが。
今回は違う。
これから起きることを知った上で。
自分から変えようとしている。
「アーミア」
スメラギが静かに呼ぶ。
「あなたは、トリニティを助けたいの?」
すぐには。
答えられなかった。
助けたい。
そう言ってしまえば簡単だ。
だが。
自分は。
三人を知らない。
未来の記録で知っているだけ。
ネーナについても。
事件の加害者として。
後から調べた。
それ以上ではない。
「……分かりません」
だから。
正直に答えた。
「私は三人のことを、記録でしか知りません」
ネーナを見る。
「ネーナさんが何を考えていたのかも」
ヨハンを見る。
「ヨハンさんが、どこまで事情を知っていたのかも」
ミハエルを見る。
「ミハエルさんが、本当はどんな人だったのかも」
アーミアは。
知らない。
「だから、今の三人を見たいです」
未来の死者としてではない。
歴史資料の中の人物としてでもない。
今。
生きている人間として。
「その上で、止められることは止めたいです」
ティエリアはしばらく黙っていた。
やがて。
「未来の情報のみを根拠とした拘束は行わない」
そう言った。
アーミアが見る。
「ティエリアさん」
「ただし、危険性を把握していながら監視を怠ることにも賛成できない」
「はい」
「そこは私も同じです」
スメラギが引き取る。
「未来の罪で裁かない。でも、未来の情報を無視もしない」
その線引き。
アーミアが。
望んでいたものだった。
「俺はそれでいいと思うけどな」
レイナスが口を開いた。
壁際。
椅子へ浅く腰掛けている。
「まだ何もやってない奴を捕まえるのは違うだろ。だからって、何か起きるかもしれないって情報まで捨てる必要もない」
ティエリアがレイナスを見る。
「単純に言うな」
「単純にしてるわけじゃないよ」
レイナスは少しだけ肩をすくめる。
「今の俺たちが持ってる材料じゃ、それ以上の答えを出せないって話だ」
その言い方は。
アーミアが知るレイナスらしかった。
分からないものを。
無理に分かったことにしない。
「未来のネーナが何をしたかは聞いた。でも、今のネーナが何をするかはまだ誰も知らない」
レイナスが画面を見る。
「だったら本人を見てから判断すればいい」
「もし、未来と同じ行動を取ろうとしたら?」
ティエリアが問う。
「止める」
即答だった。
「それでもやるなら?」
「その時は、その時点でやったことに対して対処する」
レイナスの声は。
軽くも。
重くもない。
当然のことを。
当然のように言っている。
「未来の犯罪まで今の勘定に入れ始めたら、誰も身動きできなくなる。そんな請求書、俺なら受け取らないね」
ロックオンが笑う。
「お前らしいな」
「褒めてるなら受け取っとくよ」
スメラギが画面を切り替えた。
三機のスローネ。
今度は。
機体情報が表示される。
「それじゃ、次」
彼女の表情が変わる。
「そもそも私たちは、トリニティについて知らなさすぎる」
その通りだった。
ガンダムを三機保有。
GNドライヴを搭載。
ソレスタルビーイングを名乗る。
タクラマカンで救援に入った。
だが。
それ以上は。
ほとんど分からない。
イアンが機体データを見る。
「太陽炉も、エクシアたちのものとは違う」
「GN粒子の色も違う」
ティエリアが続ける。
「そして、ヴェーダにも存在しないガンダム」
スメラギがアーミアを見る。
「あなたの知る歴史では?」
アーミアは一度。
頭の中で整理した。
ここから先も。
自分が直接見たものではない。
2308年当時。
自分はソレスタルビーイングの一員ではなかった。
後から知った歴史。
「記録では」
そう前置きする。
「トリニティは、プトレマイオスの皆さんとは別系統で活動しています」
「指揮系統は?」
「アレハンドロ・コーナーが関係しています」
空気が。
少し張り詰めた。
その名前も。
既に全員へ話してある。
国連大使。
ソレスタルビーイングの監視者。
そして。
後にヴェーダへ干渉する人物。
ティエリアの表情が険しくなる。
「やはり、アレハンドロ・コーナーか」
「ただし」
アーミアはすぐに続けた。
「三人がどこまで事情を知っていたのかは分かりません」
「アレハンドロの意図まで理解して動いていたかは不明、ということね」
「はい」
そこを。
勝手に埋めてはいけない。
未来を知っている。
だからこそ。
知らない部分を。
知っているように扱ってはいけない。
「なら」
ロックオンが言った。
「結局、会って聞くしかねえな」
スメラギが頷く。
「私もそう思う」
「接触するのですか?」
ティエリアが聞く。
「向こうから姿を現した以上、避け続ける理由はないわ」
スメラギは三人の画像を見る。
「誰の指示で動いているのか。何を目的にしているのか。どこまで計画を知っているのか」
そして。
ネーナ。
「それに、未来の記録だけでは分からないこともある」
アーミアは。
その言葉を聞いていた。
記録だけでは。
分からない。
それは。
今の自分が。
一番知りたいことでもあった。
◇
同日――地上施設・廊下
会議を終えた後。
アーミアは一人で廊下を歩いていた。
トリニティとの接触方法については、スメラギたちが検討を続けている。
アーミア自身も参加を求められれば応じるつもりだった。
だが。
少し。
頭を冷やしたかった。
自分の口から。
初めて言った。
トリニティ三兄妹は。
全員死ぬ。
知っていた。
もちろん。
ずっと知っていた。
それでも。
実際に声に出すと。
記録の一文とは違って聞こえた。
「難しい顔してるな」
後ろから。
聞き慣れた声。
アーミアは振り返った。
「先生」
レイナスが歩いてくる。
「また考え込んでたのか?」
「少しだけ」
「少しって顔じゃなかったけどな」
並んで歩く。
しばらく。
どちらも話さなかった。
先に口を開いたのは。
アーミアだった。
「先生」
「ん?」
「未来を変えるって、どういう感じでした?」
レイナスが。
少しだけ眉を上げた。
「随分大きな質問だな」
「先生なら、そういう経験もあるのかなって」
「まあ……似たようなのはある」
異世界を渡ってきた男。
自分が知る未来のレイナスより。
まだ遥かに若い。
それでも。
普通の人間より。
ずっと長い時間を生きている。
「でも」
レイナスは前を向いたまま言う。
「俺とお前じゃ条件が違うよ」
「そうですか?」
「俺は今のお前みたいに、五十六年分の答えを抱えてここに来たわけじゃない」
アーミアは黙った。
「だから、お前が感じてる重さまで分かるとは言えないな」
その言葉が。
少しだけ。
意外だった。
大丈夫だとも。
気にするなとも。
言わない。
分からないものを。
分からないと言う。
「ただ」
レイナスが続ける。
「一つだけ言えるなら、もう変わってるんだろ?」
「……はい」
「だったら、前と同じ歴史に戻すことだけ考えても仕方ない」
タクラマカン。
《オーバーライズ》。
既に。
変化は起きている。
「でも、私が変えたせいで――」
「誰かが死ぬかもしれない?」
アーミアは。
頷いた。
「私が知っている歴史では、先生が関わったことで変わった出来事がたくさんあります」
それは。
良い方向だけではない。
トリニティ三兄妹は。
結局。
死んだ。
けれど。
別の誰かは助かった。
別の出来事は変わった。
その積み重ねで。
自分の知る歴史はできている。
「私が余計なことをして、その流れまで壊したらって……ずっと考えてました」
レイナスは。
しばらく何も言わなかった。
やがて。
「その可能性はあるだろうな」
アーミアが見る。
「否定しないんですね」
「できないだろ」
レイナスは淡々としていた。
「お前が何か変えれば、良くなることも悪くなることもある。俺にはどっちになるか分からない」
「……」
「でも」
レイナスがアーミアを見る。
「何もしなくても結果は出る」
アーミアは。
足を止めかけた。
「知ってて何もしないってのも、一つの選択だからな」
その言葉が。
胸に残った。
何もしなければ。
歴史通り。
ネーナは。
結婚式場を攻撃する。
ルイスの人生は。
大きく変わる。
そして。
トリニティ三兄妹は。
全員死ぬ。
それを。
知っている。
「……そうですね」
「だから」
レイナスは歩き続ける。
「今のお前が後悔しない方を選べばいい。未来の記録じゃなくてな」
アーミアも。
再び歩き始めた。
「先生なら、どうします?」
「会う」
即答だった。
「三人に?」
「ああ」
「怖くないんですか?」
「何が?」
「未来で、そういうことをする人たちですよ」
レイナスは。
少し考えた。
「未来で何をするかより、今会った時に何をするかの方が俺には大事かな」
それから。
少しだけ笑う。
「話してみないと、人間なんて分からないだろ。記録だけで全部分かるなら、面接も商談もずっと楽なんだけどな」
アーミアは。
思わず笑った。
「そこに持っていくんですか」
「俺に聞いたのはお前だろ」
「そうでした」
その時。
廊下の先から。
クリスティナが走ってきた。
「アーミア!」
表情で。
すぐに分かった。
何かあった。
「どうしました?」
「トリニティから通信!」
アーミアの表情が変わる。
「向こうから?」
「うん」
レイナスが壁から身体を離す。
「内容は?」
クリスティナは。
二人を見る。
「直接会いたいって」
アーミアの胸が。
強く鳴った。
記録の中の人物。
未来の死者。
そうやって。
遠くから見ていた三人。
その本人たちと。
会う。
「……行きます」
アーミアは言った。
迷いはなかった。
◇
同日――地上施設・通信室
大型モニターへ。
通信映像が表示された。
最初に映ったのは。
赤い髪。
『やっほー!』
明るい声。
屈託のない笑顔。
アーミアは。
一瞬。
何も言えなかった。
ネーナ・トリニティ。
知っている。
写真で。
映像で。
記録で。
けれど。
こうして。
自分へ向かって笑う彼女を。
アーミアは知らない。
『ネーナ、近い』
後ろから声。
ヨハン・トリニティ。
『いいじゃん、ヨハ兄』
『兄貴が話すんだから下がれよ』
さらに。
ミハエル・トリニティ。
三人。
全員いる。
当然だ。
今は。
2308年。
三人が死ぬのは。
まだ先。
それでも。
アーミアには。
その当たり前の光景が。
妙に重く見えた。
ヨハンが前へ出る。
『失礼した。改めて名乗らせてもらう』
落ち着いた声。
『我々はチーム・トリニティ』
スメラギが応じる。
「スメラギ・李・ノリエガよ」
『あなたのことは知っている』
ヨハンの視線が。
通信室を見渡す。
刹那。
ロックオン。
アレルヤ。
ティエリア。
そして。
レイナス。
『そちらについては、ある程度情報を持っている』
レイナスが僅かに眉を上げた。
『レイナス・レノアーク』
「俺まで知ってるのか」
『当然だ。あなたは隠れて活動しているとは言い難い』
「否定できないな」
その横から。
ネーナが割り込む。
『ねえねえ!』
『ネーナ』
『ちょっとだけ!』
画面の向こうで。
ネーナの顔が大きくなる。
『あの時の青白いやつ!』
アーミアは。
すぐに分かった。
『あれ何なの!?』
《オーバーライズ》。
「それは――」
アーミアが答えようとした時。
ネーナが続ける。
『そっちの人も使ってたよね?』
レイナスを見る。
「俺?」
『そう! 途中から光ってた人!』
「随分ざっくりした覚え方だな」
『だって急に真似したじゃん!』
「まあ、見て覚えたからな」
『見て!?』
ネーナの目が大きくなる。
『見ただけでできるの!?』
「見ただけってわけでもないけどな。元になるものは前からあった」
『へえー!』
本当に。
楽しそうだった。
アーミアは。
その横顔を見る。
未来。
この少女は。
民間人を攻撃する。
ルイス・ハレヴィの人生を。
変える。
そして。
自分自身も。
死ぬ。
けれど。
今。
画面の向こうにいるのは。
知らない技術を見て。
目を輝かせている少女だった。
ネーナが。
今度は。
アーミアを見る。
『で』
「……?」
『あなた誰?』
一瞬。
返事が遅れた。
『あの白いガンダムに乗ってた人でしょ? 私たち、あなたの情報だけ全然持ってないんだよね』
「……アーミア・リーです」
『アーミア?』
「はい」
ネーナは。
その名前を一度口の中で転がすようにして。
そして。
笑った。
『そっか!』
何も知らない。
未来のことも。
アーミアが自分の死を知っていることも。
『よろしくね、アーミア!』
胸の奥が。
僅かに痛んだ。
記録の中では。
ただの名前だった。
ネーナ・トリニティ。
民間人を攻撃した人物。
後に死亡。
それだけなら。
簡単だった。
でも。
今。
目の前にいる。
笑っている。
話している。
生きている。
アーミアは。
一度だけ。
息を吸った。
「……はい」
そして。
未来の記録ではなく。
今の彼女を見る。
「よろしくお願いします、ネーナさん」
ネーナが。
また笑った。
その瞬間。
アーミアは。
はっきりと思った。
まだ。
何も起きていない。
ネーナによる襲撃も。
ルイスの悲劇も。
トリニティ三兄妹の死も。
何一つ。
今はまだ。
起きていない。
なら。
ここから。
変えればいい。
未来を知っていることは。
未来に従う理由ではない。
まだ起きていないことを。
起こさないために使える。
アーミアは。
初めて。
そう思えた。