機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第18話 チーム・トリニティ

 

西暦2308年――ソレスタルビーイング地上施設・格納庫

赤いGN粒子をまとった三機のガンダムが、誘導に従って格納庫へ収まっていく。

ガンダムスローネアイン。

ガンダムスローネツヴァイ。

ガンダムスローネドライ。

アーミアは少し離れた場所から、その三機を見上げていた。

記録では何度も見ている。機体名も、その性能も、これから三人が辿ることになる道も知っている。

けれど、それはあくまで記録だった。

コックピットが開き、三人の人間が降りてくる。

ヨハン・トリニティ。

ミハエル・トリニティ。

そして――ネーナ・トリニティ。

まだ誰も、アーミアの知る結末には辿り着いていない。

その当たり前の事実を、今は以前より素直に受け入れられた。

「いた!」

ネーナが真っ先に声を上げた。

軽い足取りでこちらへ来る途中、刹那を見つけると進路を変える。

「君が刹那・F・セイエイ?」

「……そうだ」

「会いたかった!」

一気に距離を詰めるネーナに、刹那が僅かに身を引いた。

その様子を見ていたレイナスがロックオンへ顔を向ける。

「ずいぶん距離感が近いな」

「俺に聞くなよ」

ネーナは気にした様子もなく、今度はアーミアを見つけた。

「あ、やっぱりいた!」

「初めまして、ネーナさん」

「私のこと知ってるの?」

「名前は聞いています」

嘘ではない。

だから、それ以上は言わなかった。

後ろから追いついたヨハンが軽く頭を下げる。

「ヨハン・トリニティです。先ほどは十分な説明もできず、失礼しました」

「アーミア・リーです」

互いにそれ以上踏み込まない。

ヨハンの隣では、ミハエルが別の人物を見ていた。

「で、あんたがレイナス・レノアークか」

「ああ」

「生身でモビルスーツを壊すって話、本当なのか?」

「誰から聞いたんだ、その話」

「色々だよ」

「便利な言葉だな、色々ってのは」

レイナスは苦笑するだけだった。

ミハエルがさらに何か聞こうとしたところで、ヨハンが制する。

「ミハエル」

「分かってるって、兄貴」

一方、ネーナはすでにレイナスではなくアーミアへ興味を移していた。

「ねえ、タクラマカンで使ってた青白いやつ、何?」

「《オーバーライズ》です」

「私にもできる?」

「すぐには難しいと思います」

「じゃあ教えてよ」

「それはもっと難しいですね」

即答すると、ネーナが頬を膨らませた。

「ケチ」

「そういう問題ではないんですけどね」

アーミアは苦笑した。

記録の中で知っていたネーナより、目の前にいる少女はずっと分かりやすい。

感情がそのまま表に出る。

だからこそ危うい。

だが、危ういことと罪を犯したことは同じではない。

それを混同しないと、もう決めている。

「話は中でしましょう」

スメラギの声で、一同が移動を始める。

その中で一人だけ足を止めている男がいた。

「先生?」

「……ツヴァイ、近くで見ると面白いな」

レイナスの視線は完全にスローネツヴァイへ向いていた。

「行きますよ」

「分かってる。見るだけだよ」

「まだ何も言ってません」

「先に言っとかないと、また疑われそうだからな」

アーミアは小さく笑い、そのまま先へ歩いた。

---

同施設・ブリーフィングルーム

「まず確認させて。あなたたちは本当にソレスタルビーイングの一員なのね?」

席に着くなり、スメラギが本題へ入った。

「はい。我々はチームトリニティ。あなた方と同様、武力による戦争根絶を遂行するガンダムマイスターです」

ヨハンは落ち着いて答える。

当然、それだけでティエリアが納得するはずもない。

「ヴェーダに君たちの情報は存在しない。三機のガンダムについても同様だ」

「あなた方に開示されている情報が、ソレスタルビーイングの全てとは限りません」

「回答になっていない」

「我々には我々の任務系統があります」

空気が硬くなる。

ミハエルが面倒そうに椅子へ深く座り直した。

「助けてやったんだから、もう少し信用してくれてもいいんじゃねえの?」

「ミハエル」

ヨハンが名前を呼ぶだけで、ミハエルはそれ以上続けなかった。

アーミアは黙って三人を見ていた。

ヨハンは話が通じる。

ミハエルは短気だが、少なくとも兄の言葉には従う。

ネーナは先ほどから会話への興味を失い、端末を触ったり、刹那を見たり、アーミアを見たりしている。

記録から得た人物像と、大きくは違わない。

だが、それだけで分かったつもりになるのも違う。

人間は記録の数行では収まらない。

「アーミア」

スメラギに呼ばれ、顔を上げる。

「あなたはどう思う?」

以前なら、少し迷ったかもしれない。

今は必要なものだけを選んだ。

「最初から信用する必要はないと思います」

ヨハンがこちらを見る。

「ただ、信用できるか確かめる機会まで捨てる必要もないでしょう」

「我々を信用していない、と?」

「今日会ったばかりですから」

アーミアは穏やかに返した。

「あなたたちも、私たちを信用しているわけではないでしょう?」

短い沈黙の後、ヨハンが小さく笑った。

「その通りです」

「なら、そこから始めればいいと思います」

スメラギも頷いた。

「私も同意見よ。指揮系統まで統一する必要はない。ただ、互いの武力介入が衝突するような事態は避けたいわ」

ヨハンも異論は示さなかった。

介入地域と作戦目標について、可能な範囲で情報を共有する。

緊急時には相互に連絡を取る。

必要なら援護も行う。

完全な合流ではない。

だが、互いの存在を知らないまま別々に動いていた状況からは大きく進んだ。

話がまとまりかけたところで、アーミアが口を開いた。

「もう一つ、お願いがあります」

「何でしょう?」

ヨハンへ向けた言葉だった。

「武力介入とは関係のない民間人を、自分たちの都合で攻撃しないでください」

ヨハンの眉が僅かに動く。

ミハエルもアーミアを見た。

ネーナだけが首を傾げている。

「当然です」

ヨハンは答えた。

「我々の目的は戦争根絶です。無関係な民間人を攻撃する理由はありません」

「分かりました」

それだけでアーミアは引いた。

ネーナが怪訝そうな顔をする。

「何でそんなこと聞くの?」

「確認しておきたかったんです」

「変なの」

「そうかもしれませんね」

理由は説明しない。

今ここで必要なのは、未来の事件を語ってネーナを追い詰めることではない。

ヨハンがチームとして明言した。

それでいい。

もし、その時が来れば――今度は止めればいい。

「ずいぶんあっさり引くんだな」

ミハエルが言った。

「約束していただけましたから」

「破るかもしれねえぞ?」

「その時は、その時に考えます」

アーミアはミハエルを見る。

「まだ破ってもいない約束を疑っても仕方がないでしょう?」

ミハエルが一瞬黙り、やがて鼻を鳴らした。

「変な奴」

「今日だけで二度目です」

「気にすんな。俺なんかこの世界に来てから似たような扱いばっかりだ」

隣からレイナスが口を挟む。

「先生は自分から原因を作っているところがありますから」

「弟子からの評価が厳しいな」

「弟子?」

ネーナが食いついた。

アーミアは一瞬だけレイナスを見る。

「色々ありまして」

「便利だな、その言葉」

先ほど自分が言ったことを返され、レイナスが肩をすくめた。

「使い勝手がいいだろ?」

それ以上は誰も追及しなかった。

やがて会談が終わり、トリニティは再びそれぞれの機体へ戻ることになった。

---

同施設・格納庫

「今度はアストレア見せてね!」

スローネドライへ向かいながら、ネーナが振り返った。

「構いませんよ」

「ほんと?」

「その代わり、ドライも見せてください」

「いいよ!」

あっさり成立した約束に、アーミアは笑った。

その横をミハエルが通り過ぎる。

「レイナス。今度会ったら、あんたの力も見せろよ」

「見世物じゃないんだけどな」

「逃げんなよ」

「高いぞ?」

「金取んのかよ!」

「冗談だよ。半分くらいは」

ミハエルが呆れた顔をする。

少し離れたところではヨハンがスメラギと通信回線について最終確認をしていた。

少なくとも、最初の接触としては悪くない。

敵でも味方でもない。

今はそれで十分だった。

三機のスローネが順番に格納庫を出ていく。

赤いGN粒子が遠ざかるまで、アーミアはその姿を見送った。

「どうだった?」

隣に立ったレイナスが尋ねる。

「何がです?」

「会ってみて」

何を、と聞き返す必要はなかった。

アーミアは少し考える。

「思っていたより、普通でした」

「そりゃそうだろ」

レイナスは飛び去った三機を見る。

「どんな奴だって、最初から記録になるつもりで生きてるわけじゃない」

アーミアは彼を見る。

レイナスはそれ以上続けなかった。

「先生」

「ん?」

「ありがとうございます」

「何が?」

「いえ」

アーミアは首を振った。

「何でもありません」

「そうかい」

深く聞いてこない。

それも昔から変わらない。

アーミアはもう一度、遠ざかる赤い光を見た。

今度は、記録通りに見送るつもりはなかった。

---

同日――某所

薄暗い室内に、タクラマカンで記録された戦闘映像が映し出されていた。

白いモビルスーツ。

その機体を包む青白い光。

アレハンドロ・コーナーは映像を眺めた後、傍らに立つリボンズ・アルマークへ視線を向けた。

「チームトリニティは接触を果たしたようだね」

「はい」

「では、予定通りということか」

「トリニティに関しては」

アレハンドロが僅かに眉を上げる。

リボンズは端末を操作した。

映像が切り替わる。

アストレア。

そして、そのコックピットに乗っていた人物の映像が表示された。

アーミア・リー。

「彼女か」

「はい」

「何か分かったのかね?」

「いえ。むしろ、分からないことが増えました」

リボンズは穏やかな口調のまま答えた。

「タクラマカンで彼女が使用した現象は、GN粒子によるものではありません。少なくとも、ヴェーダに存在する既知の技術体系だけでは説明がつきません」

「レイナス・レノアークと同じものではないのか?」

「似ています。ですが――」

映像が巻き戻される。

アストレアが先に青白い光をまとう。

その後。

奪取されたイナクトが、同じように青白く輝く。

「今回に限って言えば、先に使用したのはアーミア・リーです」

アレハンドロの目が細くなる。

「彼女がレイナスに教えたと?」

「そこまでは判断できません」

「では、レイナスが以前から知っていた可能性は?」

「否定できません」

リボンズは即答しなかった。

「ただ、彼があの場で彼女を観察していたことは確かです。直後に同様の現象を再現している。偶然として処理するには、少々気になります」

アレハンドロは再び映像へ目を向けた。

「アーミア・リー……」

「彼女自身についても調べています」

別の情報が表示される。

しかし、リボンズはそこで僅かに目を細めた。

「どうした?」

「いえ」

「何か問題でも?」

「現時点では、問題と呼べるほどのものではありません」

リボンズは画面を閉じた。

「ですが、計画に存在しなかった人物であることは確かです。もう少し観察を続けた方がよろしいかと」

「危険だと考えているのかね?」

「判断するには材料が足りません」

リボンズは微笑んだ。

「分からないものを、分からないまま排除する必要もないでしょう」

「なるほど」

アレハンドロは椅子へ深く腰を下ろした。

「君がそこまで気にするのも珍しい」

「そうでしょうか」

「レイナス・レノアークの時とは少し違うように見えるがね」

その名前が出ても、リボンズの表情は変わらない。

「彼についても、もちろん興味はあります」

再び映像が表示された。

今度はレイナスだった。

イナクトを青白い光で包み、戦場を駆ける姿。

「ですが、一人なら例外で済ませることもできます」

アレハンドロがリボンズを見る。

「二人になった、と?」

「はい」

短い返事だった。

アレハンドロはしばらく映像を眺め、それから口元に笑みを浮かべた。

「面白いじゃないか」

「ええ」

リボンズも静かに笑う。

「私も、そう思います」

「計画への影響は?」

その問いに、リボンズは一拍置いた。

「現段階で変更する必要はないかと」

「そうか」

「はい。チームトリニティも動き始めています。まずは予定通り進めるべきでしょう」

アレハンドロは満足そうに頷いた。

「では、引き続き任せるよ」

「承知しました」

リボンズは静かに頭を下げる。

アレハンドロの視線が再びモニターへ戻った。

その横で、リボンズも映像を見る。

アーミア・リー。

レイナス・レノアーク。

計画にはなかった二人。

今はまだ、それだけだった。

だからこそ、急ぐ必要はない。

観察すればいい。

何を知っているのか。

何ができるのか。

そして――どこまで計画に影響するのか。

リボンズは何も口にせず、静かに二人の映像を見つめていた。

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