西暦2308年――三大国家群・合同軍施設
格納庫を満たしていたのは、赤いGN粒子だった。
整然と並ぶ人型兵器。ユニオン、人類革新連盟、AEUがこれまで運用してきたどのモビルスーツとも異なる機体が、同じ姿で列を作っている。
GN-X。
胸部に搭載された擬似太陽炉が稼働し、機体の周囲へ赤い粒子を漂わせていた。
一機や二機ではない。
格納庫の奥まで同じ輪郭が続いている。しかも、この施設だけではなかった。
別の基地。
別の部隊。
三大国家群の各所で、同型機の受領準備が進められている。
その全容を、現場のパイロットたちは知らされていなかった。
グラハム・エーカーは、目の前のGN-Xを見上げる。
「……ついに、ここまで来たか」
ガンダムとの間にあった最大の差。
GN粒子。
そして太陽炉。
フラッグをどれだけ改修しても、根本から埋めることのできなかった差がある。
だが、今は違う。
「これならば、ようやく同じ土俵に立てる」
口元に僅かな笑みが浮かぶ。
その視線が隣へ移り、さらにその奥へ向かう。
まだある。
グラハムは少しだけ眉を上げた。
「……それにしても、随分と用意したものだ」
誰が。
どこで。
これだけの機体を準備したのか。
疑問は残る。
だが今の彼にとって、最も重要なのは一つだった。
次にガンダムと会った時。
今度は追うだけでは終わらない。
◆
西暦2308年――プトレマイオス・ブリーフィングルーム
中央モニターに、赤い機体が映し出されていた。
「GN-X」
スメラギが機体名を読み上げる。
画像は鮮明ではない。輸送途中に撮影された映像や、遠距離から観測されたGN粒子反応など、断片的な情報を組み合わせたものだ。
それでもアーミアには分かった。
「間違いありません」
ティエリアが視線を向ける。
「君の知る歴史にも存在した機体か」
「はい。擬似太陽炉を搭載したモビルスーツです」
ロックオンが椅子へ背を預けた。
「とうとう向こうにもGN粒子を使う機体が出てきたってわけか」
「性能はガンダムと完全に同じではありません」
アーミアが続ける。
「ただ、今まで三大国家群が使っていた機体とは比較になりません。特に数を揃えられた場合は厄介です」
スメラギが画面を切り替える。
確認された輸送ルート。
配備先と思われる基地。
複数の目撃情報。
まだ不確定なものも多い。
アーミアは無言でそれを見ていた。
やがて、僅かに眉を寄せる。
「……多い」
スメラギが反応した。
「あなたの知っている歴史より?」
「はい。明らかに規模が大きいです」
アレルヤが尋ねる。
「どれくらい違うんだい?」
「そこまでは分かりません」
アーミアは首を横に振った。
「今確認されている機体が、全体のどれくらいなのか把握できていません。ただ、私の知っている数を基準にして考えるのは危険です」
室内が静かになる。
スメラギは腕を組んだ。
「歴史が変わった影響……そう考えるべきね」
「可能性は高いです」
タクラマカン。
《オーバーライズ》。
トリニティ。
そして、自分とレイナス。
すでに本来なら存在しなかった要素が、いくつも入り込んでいる。
壁際にいたレイナスが口を開いた。
「まあ、こっちだけ好き放題やって、向こうには予定通り動けってのも虫がいい話だな」
スメラギが見る。
「随分あっさり受け入れるのね」
「何度も予定外に巻き込まれてると、その辺は慣れる」
「自慢にならないわよ」
「俺もそう思う」
レイナスは再びGN-Xの画像を見る。
その視線に気づき、アーミアが声を掛けた。
「先生」
「何だ?」
「その顔、乗りたいと思ってますね」
レイナスは一拍置く。
「新型だぞ?」
「質問に答えてません」
「敵の機体なら、鹵獲しても誰も困らないだろ」
ロックオンが笑った。
「開き直ったな」
「有効利用って言ってくれ。響きが違う」
スメラギがモニターを見たまま言う。
「実物は欲しいわ」
レイナスが振り向いた。
「解析用か?」
「ええ。特に擬似太陽炉。イアンに直接調べてもらいたい」
「なら一機確保する」
少し考える。
「いや、二機だな」
スメラギがゆっくり振り返った。
「どうして増えたの?」
「一機は解析用。もう一機は俺が使う」
「やっぱりそれが本命じゃない」
「戦力が増えるんだ。悪い話じゃないだろ?」
「鹵獲を優先して無茶をしないならね」
「そこまで機体に目が眩んでないよ」
アーミアが横から言った。
「少しは眩んでるんですね」
「否定すると嘘になる」
その答えに、ロックオンが肩を揺らした。
スメラギは小さく息を吐く。
「状況次第で許可するわ。無理なら諦めて」
「了解」
レイナスの返事だけは妙に早かった。
◆
スメラギが表示を切り替える。
GN-Xの映像が消え、代わりに現れたのはソレスタルビーイングの中枢。
ヴェーダ。
今度は誰も軽口を挟まなかった。
「もう一つ、先に手を打つ」
スメラギが言う。
「アーミアの知る歴史では、ソレスタルビーイングはヴェーダとのリンクを切断された」
ティエリアの表情が硬くなる。
「リボンズ・アルマークによって」
「ええ」
スメラギが続ける。
「今の歴史で、同じ時期に同じ手段を使ってくる保証はない。でも、起こり得ると分かっているなら備えるべきよ」
ティエリアが頷いた。
「ヴェーダとの接続を失っても、戦闘能力を維持できるようにする必要がある」
スメラギが通信を開く。
「イアン、聞こえる?」
『聞こえてる』
「ガンダム各機について、ヴェーダの支援なしでも戦闘を続けられるようにしたい」
『もう確認を始めてる。機体制御、照準補助、戦術データ。依存してる部分を一つずつ洗い出してるところだ』
「プトレマイオスもお願い」
『そっちも同じだ。航法、通信、火器管制。全部を完全に切り離せるかはまだ分からないが、突然使えなくなって機能停止、って事態だけは避けたい』
「助かるわ」
通信が切れた。
その直後、ティエリアが口を開く。
「僕もヴェーダを調べる」
アレルヤが見る。
「アクセス権限を?」
「ああ」
「今まで確認したことはなかったのか?」
「必要がなかった」
ティエリアは短く答えた。
「僕にとってヴェーダは、疑う対象ではなかった」
その言葉には、自分自身への苛立ちも混ざっていた。
「だが、僕より高い権限を持つ者が存在し、その者がヴェーダを掌握する可能性がある。なら、自分がどこまでアクセスできるのか把握しておくべきだ」
ティエリアはアーミアへ視線を向ける。
「君が知っているのは、ヴェーダが掌握されたという結果までか?」
「はい」
アーミアは頷いた。
「リボンズが関与していたことは知っています。でも、ヴェーダ内部でどうやって権限を奪ったのか、どんな手順を使ったのかまでは分かりません」
ティエリアは少し考える。
「なら、その部分は僕が調べる」
モニターへ視線を戻した。
「君の知る結果と、現在のヴェーダ内部の構造を照合する。異常な権限や不自然な領域が見つかれば、対策の糸口になるかもしれない」
「危険は?」
スメラギが尋ねる。
「分からない」
ティエリアは正直に答えた。
「だから、いきなり最深部まで踏み込むつもりはない。まず自分の権限範囲を確認する」
スメラギは数秒考えた。
「異常を感じたらすぐ切断して」
「了解した」
◆
同日――プトレマイオス・ティエリア個室
意識がヴェーダへ接続される。
膨大な情報。
幾重にも重なる階層。
普段使用している領域を越え、ティエリアは慎重にその先へ進んでいく。
認証。
通過。
さらに先へ。
これまで作戦遂行には必要のなかった情報領域。
再び認証。
通過。
「……ここまで入れるのか」
自分が思っていた以上に、権限は広い。
そこで初めて気づく。
今まで、自分がどこまで入れるのかを確かめようとすらしていなかった。
さらに先へ。
次の階層。
認証を要求。
ティエリアが接続を試みる。
拒絶。
表示されたのは簡潔な一文。
アクセス権限不足。
「……」
ティエリアは黙ってそれを見る。
自分より上の権限。
存在していても不自然ではない。
問題は。
誰が持っているのか。
「リボンズ・アルマーク……」
名前を口にする。
だが、それだけで決めつけるつもりはなかった。
証拠がない。
ティエリアはその階層の位置を記録し、別方向へアクセス先を変えた。
一つの壁に突き当たったなら、他から調べる。
◆
同時刻――某所
リボンズ・アルマークが目を開いた。
「……」
僅かな違和感。
誰かがヴェーダ内部を探っている。
そう断言できるほど明確なものではない。
リボンズは再び接続する。
アクセス履歴。
認証記録。
表面的には異常なし。
「どうかしたのかね?」
アレハンドロが声を掛ける。
リボンズは振り返った。
「いえ。少し確認したいことがありまして」
「ソレスタルビーイングか?」
「現時点では、何とも申し上げられません」
リボンズの表情は穏やかなままだ。
「ですが、最近は予定外の要素が増えています。念のため調べておいた方がよろしいかと」
アレハンドロは僅かに笑う。
「君がそう言うなら任せよう」
「ありがとうございます」
リボンズは再びヴェーダへ意識を向ける。
アーミア・リー。
レイナス・レノアーク。
タクラマカンで確認した青白い現象。
そして、先日一瞬だけ感じた脳量子波。
予定に存在しなかったものが増えている。
「GN-Xの配備状況は?」
アレハンドロが尋ねた。
「順調です」
「ソレスタルビーイングに対抗できるかね?」
リボンズは少しだけ間を置く。
「少なくとも、これまでのような圧倒的な機体性能差は縮まります」
「数もある」
「はい」
リボンズは静かに答えた。
それ以上は言わない。
十分かどうか。
今判断するには材料が足りない。
必要になれば、配備をさらに進めればいい。
◆
数日後――某地域上空
赤いGN粒子が空へ広がった。
GN-X。
一機。
二機。
さらに後方にも機影が続く。
「来た!」
クリスの声がプトレマイオスへ響く。
スメラギがモニターを見る。
「予想より多いわね」
アーミアも同じ映像を見ていた。
「やっぱり……」
知っている歴史とは違う。
だが、驚いて止まるほどではない。
もう、その段階は過ぎた。
「各機、出撃!」
◆
戦闘空域
エクシアが先行する。
その後ろにデュナメス、キュリオス、ヴァーチェ、アストレアが続く。
そしてプトレマイオスから、もう一つの青白い光が飛び出した。
モビルスーツではない。
レイナス本人だった。
全身を《アニマ》で包み、空中に生み出した足場を蹴って加速する。
GN-X部隊が一斉に散開した。
「速い」
アレルヤの声。
「今までの機体とは違う」
刹那が答える。
GN-Xが射撃。
エクシアが回避する。
直後、別方向から二機。
「刹那、右!」
アーミアの声に反応し、エクシアがGNソードでビームを弾く。
一機を追おうとするが、さらに別のGN-Xが割り込んできた。
性能だけではない。
数。
それだけで戦況が変わっている。
レイナスも赤い機影を見回した。
「一機ずつならどうにでもなる。問題は、そうさせてくれないってことか」
その姿を、一機のGN-Xが捉える。
コックピットのパイロットが息を呑んだ。
『青白い人影……』
照合表示がモニターへ現れる。
人型。
モビルスーツではない。
軍の対ソレスタルビーイング戦闘資料で、すでに何度も確認されている未確認戦闘員。
『例の奴か……!』
存在は知っている。
生身でモビルスーツと交戦する。
ガンダムとは別に現れる異常戦力。
情報は共有されていた。
だが。
知識として聞くのと。
実際に、モビルスーツの高度まで生身の人間が飛んでくるのを見るのとでは話が違う。
GN-Xがビームライフルを向ける。
発射。
レイナスは射線が定まるより先に高度を落とした。
直後。
空中に《アニマ》の足場を作る。
蹴る。
今度は横。
ビームが青白い残光を貫く。
『速い……!』
再照準。
だが、照準器が追いきれない。
十八メートル級のモビルスーツを相手にすることを前提とした兵器で、人間一人を狙っている。
しかも、その人間がモビルスーツに近い速度で三次元的に動いている。
『報告書と実物じゃ、話が違うぞ……!』
パイロットが舌打ちする。
レイナスはその声を聞きながら笑った。
「知ってても対処できるとは限らないだろ?」
次の射撃。
上へ。
さらに横へ。
空中に足場を作るたび、軌道が大きく変わる。
一気に距離を詰める。
「スメラギ」
『何?』
「一機目、狙う」
『無理はしないで』
「分かってる。壊したら持って帰れないからな」
『心配するところ、そこなの?』
「鹵獲するなら重要だろ」
距離が詰まりすぎた。
GN-Xのライフルでは追えない。
パイロットは武器を捨て、ビームサーベルを抜いた。
巨大な光刃が振り下ろされる。
レイナスはそれを見上げる。
「そっちの方が当てにくいと思うぞ」
対モビルスーツ用の近接兵器。
十八メートル級の敵を斬るための光刃で、人間一人を正確に捉えるのは容易ではない。
レイナスは光刃の軌道から逃げるのではなく、振り始めたGN-Xの懐へ潜り込んだ。
巨大な腕が邪魔になり、逆にサーベルを振り回せない。
「さて……あんまり壊すと後でイアンに怒られそうだな」
右腕へ《アニマ》が集まる。
最初の一撃。
サーベルを握った手首の駆動部。
装甲が砕け、武器が落ちる。
次に頭部。
メインセンサーそのものは完全に潰さず、その周辺へ衝撃を叩き込む。
視界が乱れる。
『くっ……!』
GN-Xが後退しようとした。
レイナスは離れない。
肩。
背部。
脚部。
推進と姿勢制御に関わる部分だけを狙い、必要最低限の破壊を重ねる。
『姿勢制御が……!』
GN-Xが大きく傾く。
高度を維持できない。
赤い粒子を撒き散らしながら落下を始めた。
警告音がコックピットへ響く。
パイロットは数秒だけ粘った。
だが、操縦系の異常表示は消えない。
目の前では、生身の人間がまだ機体へ張り付いている。
『……冗談じゃない』
戦闘続行を諦めた。
パイロットはコックピットハッチを開放する。
風が一気に吹き込んだ。
拘束具を外し、機体から身を投げ出す。
レイナスがそちらを見る。
落下する人影。
数秒後。
白いパラシュートが大きく開いた。
パイロットは風に流されながら、ゆっくりと地上へ降下していく。
「判断が早くて助かる」
レイナスは落下するGN-Xへ向き直った。
そのまま機体へ取りつき、《アニマ》で落下の勢いを抑えながら開いたコックピットへ身体を滑り込ませる。
座席へ身体を収める。
「さて……」
警告表示だらけ。
それでも擬似太陽炉は動いている。
操縦系にも反応があった。
「初見で乗るには、少し説明書が欲しいところだな」
操作系へ手を伸ばす。
機体が僅かに震える。
姿勢制御が戻る。
「……まあ、動けば何とかなるか」
GN-Xが再び浮上した。
『鹵獲確認!』
クリスの声。
『そのまま帰ってこられる?』
スメラギが聞く。
「帰れる」
レイナスは周囲を見る。
少し離れた場所に、もう一機。
「ただ、もう一機欲しい」
『やっぱり行くのね』
「せっかく足まで手に入ったんだ。一機で帰るのも中途半端だろ?」
『それ、完全に機体が欲しいだけじゃないでしょうね』
「戦力増強って言葉にしてくれ。聞こえがいい」
鹵獲したGN-Xを加速させる。
先ほどまで敵だった機体が、味方識別を残したまま別のGN-Xへ迫る。
『おい、どうした――』
相手の反応が一瞬遅れた。
その隙を、レイナスは逃さない。
「悪いな。二機必要なんだ」
射撃。
狙うのはコックピットではない。
武装。
脚部。
推進器。
今度はこちらもGN-X。
生身で戦うより遥かに手早い。
数度の攻防の末、二機目のGN-Xも姿勢を崩した。
『操縦不能……!』
パイロットは迷わずハッチを開放した。
機体から身を投げ出す。
少し遅れて。
空に二つ目の白いパラシュートが開いた。
レイナスは降下していくパイロットを確認し、無人になったGN-Xの腕を掴む。
「これで二機」
『本当に取った……』
クリスの呆れた声。
「頼まれた仕事はちゃんとやる主義なんだ」
『頼んだの一機よ』
スメラギが即座に返す。
「一機は自主的な追加サービスってことで」
『そのサービス、絶対自分用でしょう』
「細かいことは帰ってから話そう」
二機のGN-Xが、片方にもう片方を支えられながらプトレマイオスへ向かった。
◆
エクシアがGN-Xの一撃を受け流す。
直後、別方向から射撃。
装甲を掠めた。
「くっ……!」
刹那が姿勢を立て直す。
速い。
しかも数がいる。
これまでのように、性能差だけで押し切れない。
一瞬。
数日前の感覚が蘇る。
アーミアから伝わってきた、あの温かさ。
自分の中にある何か。
まだ掴めない。
刹那が意識を内側へ向けようとした瞬間。
「刹那」
アーミアの声。
「今は探さなくていいです」
「……」
「戦闘中に無理にやることじゃありません」
刹那は息を吐く。
「ああ」
目の前へ集中する。
エクシアが再び加速した。
◆
戦闘終了後――プトレマイオス・格納庫
二機のGN-Xが並んでいた。
片方は脚部と武装に損傷。
もう片方もセンサー周辺や推進器に損傷がある。
だが、主要部分は残っている。
イアンが二機を見上げた。
「本当に二機持って帰ってきたのか」
レイナスが鹵獲したGN-Xのコックピットから降りる。
「頼まれたのは一機だったけどな」
「もう一機は自分用か?」
「話が早くて助かる」
「顔を見れば分かる」
レイナスが苦笑する。
「そんなに分かりやすいか、俺」
アーミアが横から答えた。
「MSのことになると割と」
「長い付き合いみたいな言い方するな」
アーミアが僅かに止まる。
数秒。
「……そうですね」
レイナスはその反応に首を傾げたが、深く追及しなかった。
イアンは一機目の胸部を見る。
「問題はこっちだな」
擬似太陽炉。
「実物を触れるなら、解析できることは一気に増える」
アーミアが近づく。
「アストレアにも使えませんか?」
イアンが振り返った。
「擬似太陽炉を?」
レイナスが先に言う。
「今のアストレアには本来のGNドライヴがない。使えるなら悪くないだろ」
イアンはアストレアを見る。
しばらく考える。
「可能性はある」
アーミアの表情が変わった。
「本当ですか?」
「ただし、外して載せれば終わりじゃない。接続系も粒子供給も制御も確認が必要だ」
イアンはGN-Xへ視線を戻す。
「まずはこの機体を分解して、中身を調べる」
レイナスが隣のGN-Xを指す。
「そっちは俺が使うから、できれば動く状態で頼む」
「もう自分のものみたいに言ってるな」
「誰か他に使うのか?」
イアンが周囲を見る。
誰も手を挙げない。
「……まあ、いないな」
「なら決まりだ」
アーミアが呆れたように見る。
「早いですね」
「使える戦力を寝かせておく方がもったいない」
「そういう時だけ妙に合理的ですね」
「いつも合理的なつもりなんだけどな」
「そこは意見が分かれそうです」
レイナスが少しだけ笑った。
◆
同時刻――プトレマイオス・ブリッジ
ティエリアが戻ってきた。
スメラギが振り返る。
「どうだった?」
「僕のアクセス権限は、想定していたより広い」
「奥まで入れたのね」
「ああ。ただし、途中で拒絶された」
スメラギの表情が変わる。
「上位権限?」
「そう考えるのが自然だ」
ティエリアはヴェーダの簡易構造を表示する。
「僕が入れない領域が存在する。誰がアクセスできるのかは分からない」
「リボンズかもしれない」
「可能性はある」
ティエリアは即座に続ける。
「だが、今の段階で断定はしない」
スメラギが頷く。
「調査は続ける?」
「続ける。ただし、同じ場所へ正面から何度もアクセスするつもりはない」
「向こうに気づかれる可能性があるから?」
「ああ」
ティエリアは画面を見た。
「ヴェーダ内部を調べる一方で、ヴェーダそのものを失った場合の準備も進めるべきだ」
「イアンにも同じことを頼んでるわ」
「なら僕は、内部の把握に集中する」
スメラギは席へ戻った。
GN-X。
ヴェーダ。
リボンズ。
そして、未来とは違う規模で動き始めた三大国家群。
「未来を知ってるだけじゃ、追いつかれるわね」
誰に聞かせるでもなく、スメラギが呟く。
ティエリアが答える。
「なら、その前提で動くしかない」
モニターには、鹵獲された二機のGN-Xが映っている。
片方は、これから解析される。
もう片方は、おそらく近いうちにレイナスが乗る。
さらに、擬似太陽炉がアストレアへ搭載できれば、こちらの戦力も変わる。
歴史は、もう記録の通りには進んでいない。
そしてそれは。
敵も同じだった。