機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第22話 兆し

第22話 兆し

西暦2308年――プトレマイオス・訓練区画

刹那・F・セイエイは、開いた自分の手を見つめていた。

劇場版《レイヴン》を見た翌日から、訓練そのものは変わっていない。

映画の青白い光を再現するのではない。

アーミアから受けた《アニマ》の感覚を思い出し、自分の中に似たものがないか探す。

あの温かさ。

外から与えられた力ではなく、それを手掛かりに自分の中を探す。

「……」

刹那が目を閉じる。

正面に座るアーミアは何も言わない。

数分。

変化はない。

さらに少し経ってから、刹那が目を開けた。

「出ない」

「出そうとしすぎてます」

「違うのか」

「少なくとも、私は違いました」

アーミアは自分の左手を開く。

淡い青白い光が灯った。

「何かを作るんじゃなくて、最初から自分の中にあるものを探したんです」

刹那は光を見る。

昨日までは《アニマ》そのものを見ていた。

今は。

その感覚を見る。

温かい。

初めてアーミアから僅かに触れさせてもらった時。

確かに感じたもの。

呼吸。

鼓動。

身体の熱。

それらとは違う。

もっと曖昧で。

それでも、自分の中にある。

刹那の指先が僅かに震えた。

アーミアの目が細くなる。

「そのまま」

刹那は動かない。

手のひら。

一瞬だけ。

青白い光が灯った。

すぐに消える。

刹那が目を開いた。

「……今のは」

「私にも見えました」

刹那はもう一度、自分の手を見る。

「《アニマ》か?」

「可能性は高いです。でも、もう一度やってみましょう」

「分かった」

二度目。

出ない。

三度目。

指先だけ。

四度目。

今度は手のひら全体へ、薄い青白い光が広がった。

数秒。

消える。

アーミアが小さく息を吐いた。

「今のは間違いないと思います」

「《アニマ》」

刹那が呟く。

「先生にも見てもらいましょう」

「呼ばれたか?」

入り口から声がした。

レイナスが立っている。

「いつからいたんですか?」

「今来たところだよ。GN-Xの調整が一段落したんでね」

刹那が再び集中する。

今度は少し早い。

青白い光が手を包んだ。

弱い。

不安定。

それでも、確かにそこにある。

レイナスが目を細めた。

「間違いない。《アニマ》だ」

刹那は光を見つめる。

「次は《オーバーライズ》を覚える」

アーミアが苦笑した。

「もう次ですか?」

「ああ」

レイナスが腕を組む。

「歩けるようになった直後に全力疾走するのは、あまり勧めないけどな」

「時間がない」

「そいつも分かる」

レイナスは刹那を見る。

「だから止めはしない。ただ、順番は飛ばすな。自分で扱えない力を機体へ流して壊したら、笑い話にもならない」

刹那が頷く。

アーミアが立ち上がった。

「まずは出した《アニマ》を維持するところからです。その次に身体全体へ回す。それができたら、エクシアへ移ります」

「分かった」

少し間を置いて。

アーミアがレイナスを見る。

「先生は横から感覚だけで説明しないでくださいね」

「まだ何も言ってないだろ」

「先に止めました」

レイナスは小さく息を吐いた。

「未来の俺、よほど教えるの下手だったらしいな」

「はい」

「即答か」

     ◆

数日後――プトレマイオス・格納庫

ガンダムエクシアが整備台に立っていた。

コックピットには刹那。

周囲にはイアンたち整備班。

少し離れた場所にアーミア。

さらにその向こうでは、修復を終えたGN-Xの最終調整が進んでいる。

レイナスはそのコックピットに座っていた。

『もう一度確認する』

イアンの声が通信へ入る。

『異常が出たら即停止。出力が跳ねても続けるな』

「了解」

『アーミアも見ててくれ』

「はい」

刹那は操縦桿から手を離した。

目を閉じる。

自分の中。

もう場所は分かる。

青白い光。

《アニマ》。

それを呼び出す。

コックピット内部へ、僅かな光が広がった。

「そのままエクシアへ」

アーミアが言う。

「無理に押し込まないでください。まず機体全体を意識して」

刹那が眉を寄せる。

「全体?」

「右腕、左腕、脚、スラスター……一つずつ考えないでください」

「……」

「エクシアという一機を、そのまま一つとして捉えるんです」

刹那が意識を向ける。

右腕。

左腕。

脚部。

胸部。

GNドライヴ。

《アニマ》が一部へ流れる。

肩が僅かに青白く発光した。

腕。

胸部。

だが。

そこで途切れた。

『停止』

イアンの声。

刹那が《アニマ》を切る。

光が消えた。

「失敗か」

「途中までは通ってました」

アーミアがエクシアを見る。

「ただ、腕へ流れた時に腕を意識してました」

「分かるのか」

「私も同じことをやったので」

通信越しに、レイナスが口を開いた。

『刹那』

「何だ」

『人間は目が二つ、腕が二本、脚が二本あっても、自分を部品の集まりだとは思わないだろ』

刹那が黙って聞く。

『機体も同じように見ろ。右腕だ左脚だと分けるから、そこで意識が引っ掛かる』

「エクシアを、一つとして見る」

『そういうことだ』

レイナスが一拍置く。

『つまり――文字通り、お前がガンダムになるんだ』

刹那の目が僅かに見開かれた。

「……俺が、ガンダムに」

『お前にはその説明が一番早そうだ』

アーミアが思わずレイナスを見る。

「今のは分かりやすかったです」

『その言い方だと普段が酷いみたいじゃないか』

「未来の私は経験者なので」

『それを言われると弱いな』

刹那は再び目を閉じた。

自分。

エクシア。

操縦者と機体。

分けて考えるから遠い。

腕を動かす時。

自分は筋肉一本ずつを意識しない。

脚を動かす時。

骨の一つ一つを考えない。

ただ。

自分が動く。

なら。

エクシアも。

「……ガンダム」

青白い光が再び生まれる。

今度は腕へ向かわない。

脚へも。

胸へも。

機体全体。

ガンダムエクシアそのもの。

自分とエクシア。

いや。

今は、その区別すら意識しない。

刹那の中で一つの感覚に重なった。

青白い光が。

一気にエクシア全体へ広がる。

「反応上昇!」

イアンが計器を見る。

肩。

胸部。

腕。

脚。

全身。

エクシアの輪郭が青白く染まっていく。

機体出力。

反応速度。

推進系。

フレーム。

複数の数値が同時に変化した。

それでも。

無理に引き上げられている様子ではない。

機体そのものが、一段上へ持ち上がる。

レイナスが目を細めた。

『……掴んだか』

刹那が目を開く。

青白いエクシア。

「これが」

アーミアが頷いた。

「《オーバーライズ》です」

数秒。

光が揺らぐ。

「刹那、解除してください!」

アーミアの声。

刹那は即座に《アニマ》を切った。

青白い光が消える。

エクシアは何事もなかったように整備台へ立っていた。

イアンがデータを確認する。

「短時間なら問題なし。ただ、まだ安定してるとは言えない」

「次は長くする」

刹那が言った。

「今日は終わりだ」

イアンが即答する。

「まだできる」

レイナスも通信へ入る。

『一回成功した直後が一番危ない。できたから、次も同じようにできると思う』

「……」

『俺もその手の失敗は何度かやった。経験者の忠告くらい聞いておけ』

刹那は少し黙る。

「分かった」

アーミアがレイナスを見る。

「ちゃんと止めるんですね」

『俺をどういう人間だと思ってるんだ?』

「新型を見ると自分で乗って確かめたくなる人です」

『否定はしないけどな。今回はそういう話じゃないよ』

     ◆

同日――チーム・トリニティ活動拠点

「次の目標だ」

ヨハンがモニターを表示した。

三大国家群の軍事施設。

新たにGN-X部隊が集結している拠点。

ミハエルが口元を上げる。

「ちょうどいいじゃん。どの程度か試せる」

「試すために行くんじゃない」

ヨハンは冷静に返した。

「目的は施設機能の停止だ。GN-Xとの交戦は避けられないだろうが、深追いするな」

「分かってるって」

ネーナも施設情報を見る。

「周りに街は?」

ヨハンが一瞬だけ妹を見る。

「近隣に小規模な居住区がある。攻撃方向には注意しろ」

「了解」

以前なら。

そもそも確認しなかったかもしれない。

ヨハンはそれ以上触れなかった。

     ◆

数時間後――三大国家群・軍事施設上空

赤いGN粒子を引きながら。

三機のガンダムスローネが空を裂いた。

「目標確認」

ヨハンのスローネアインが砲撃体勢へ入る。

ミハエルのツヴァイが先行。

ネーナのドライが後方から支援。

『行くぜ!』

ツヴァイが加速した。

施設から迎撃部隊が上がる。

GN-X。

一機。

二機。

さらに後ろから続く。

ヨハンの目が細くなる。

「……多い」

想定以上。

だが。

まだ離脱を決断するほどではない。

「ミハエル、突出するな。ネーナ、後方警戒」

『了解!』

GNファングが射出される。

GN-Xが散開。

二機がファングを迎撃し、その間に別の機体がツヴァイへ接近する。

『こいつら……!』

ビームサーベル同士がぶつかった。

一機を弾く。

その横から二機目。

さらに上方。

三機目。

『チッ!』

ツヴァイが押される。

「ネーナ!」

『分かってる!』

ドライが射撃。

GN-Xを牽制する。

その時。

レーダーに新たな赤い反応が現れた。

後方。

側面。

さらに別方向。

ネーナの顔から笑みが消える。

「ヨハン兄……」

ヨハンも確認していた。

「増援か」

一方向ではない。

左右。

後方。

さらに高高度。

包囲するようにGN-Xが集まってくる。

ヨハンの判断は早かった。

「撤退する」

『もうかよ!』

「このまま続ければ完全に囲まれる。目標破壊は中止。離脱を優先する」

三機が進路を変える。

その先。

新たなGN粒子反応。

撤退経路にもGN-X。

ネーナが息を呑む。

「待ち伏せ……?」

ヨハンの表情が変わった。

偶然ではない。

侵入方向。

攻撃位置。

離脱先。

ある程度読まれている。

「上へ抜ける。高度を取れ!」

スローネ三機が上昇。

GN-X部隊も追う。

ビーム。

アインの装甲を掠めた。

『ヨハン兄!』

「問題ない!」

ツヴァイが前へ出る。

『邪魔だ!』

一機を押し退ける。

直後。

死角から別のGN-X。

ビームサーベルがツヴァイの肩を斬り裂いた。

『ぐっ!』

火花。

ツヴァイが姿勢を崩す。

「ミハエル!」

ネーナが照準を合わせる。

GN-X。

その向こう。

地上。

住宅地。

照準の先に建物が重なった。

指が止まる。

――戦う理由のない人を、巻き込まないでください。

「……っ!」

射線をずらす。

別角度から撃つ。

命中。

だが致命傷にはならない。

GN-Xがツヴァイから離れる。

『ネーナ! 今のなら落とせただろ!』

「後ろに人がいたの!」

ミハエルが一瞬黙った。

その間にも包囲は狭まる。

ヨハンが通信状況を確認した。

単独突破。

不可能ではない。

だが、ミハエル機が損傷している。

ネーナも民間区域を背負った状態では自由に撃てない。

そして。

相手はまだ増えている。

ヨハンは通信回線を切り替えた。

以前なら使わなかった回線。

プトレマイオスとの連絡用。

「こちらチーム・トリニティ」

     ◆

同時刻――プトレマイオス・ブリッジ

警報。

クリスが通信を拾った。

「スメラギ!」

「どうしたの?」

「トリニティから緊急通信!」

室内の空気が変わる。

「繋いで!」

通信。

激しいノイズ。

戦闘音。

ヨハンの声が届く。

『こちらチーム・トリニティ。現在、GN-X部隊と交戦中。想定を大きく超える戦力に包囲されている』

スメラギが立ち上がる。

「位置を送って!」

『送信する』

フェルトが座標を受信。

クリスが周辺情報を重ねる。

「……反応、多数」

アーミアもモニターを見る。

やはり。

自分が知る規模ではない。

スメラギは数秒で判断した。

「救援に向かうわ」

ブリッジ入口。

刹那が立っていた。

「俺も出る」

アーミアが振り返る。

「刹那」

「《オーバーライズ》を使う」

「さっき初めて成功したばかりです」

「分かっている」

「まだ安定してません」

「ああ」

刹那は迷わない。

「必要な時だけ使う」

アーミアは刹那を見る。

使えるようになったから試したい。

そんな顔ではない。

必要だから使う。

レイナスもブリッジへ入ってきた。

すでにパイロットスーツ姿。

「俺も出るよ」

スメラギが見る。

「GN-Xで?」

「ああ。初陣にしちゃ少し賑やかだが、相手が同型なら性能を見るにはちょうどいい」

アーミアも立ち上がる。

「アストレアも出せます」

通信からイアンの声。

『通常出力までだ。《オーバーライズ》は禁止』

「分かってます」

『本当に頼むぞ』

「信用ないですね」

『今はそのくらいでちょうどいい』

スメラギが全員を見る。

「目的はトリニティの救出。相手の全滅じゃない。離脱路を作って、三機を連れ帰るわ」

刹那が格納庫へ向かう。

その背中を、アーミアが追った。

数時間前。

初めて自分の手に灯した《アニマ》。

そして。

初めてエクシア全体を包んだ《オーバーライズ》。

それを実戦で使う時が。

思っていたよりも早く来た。

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