機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第23話 俺がガンダムだ

 

西暦2308年――プトレマイオス・格納庫

出撃準備が一気に進んでいた。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

そして、擬似太陽炉を搭載したアストレア。

少し離れた場所には、鹵獲したGN-X。

そのコックピットへレイナスが乗り込む。

「先生」

アーミアが通信を開いた。

『何だ?』

「その機体、まだまともに実戦試験してませんよ」

『アストレアも似たようなもんだろ』

「私は《オーバーライズ》禁止です」

『俺は言われてないな』

「そういう問題ですか?」

レイナスは少し間を置いた。

『使わずに済むなら使わないよ。機体の状態もまだ全部分かってない』

アーミアは少しだけ安心する。

『ただ、必要になったら話は別だ』

「やっぱり」

『救援に行って、使える戦力を抱えたまま戻ってきましたじゃ笑えないだろ』

無茶をするつもりではない。

だが、必要なら迷わない。

アーミアはアストレアのシステムを確認する。

擬似太陽炉。

出力正常。

粒子供給正常。

各部制御正常。

イアンの声が入った。

『アーミア、もう一度言う。《オーバーライズ》は禁止だ』

「分かってます」

『刹那もだ』

エクシアのコックピット。

刹那が反応する。

「必要なら使う」

『その必要が来ても、最初から全開にするな』

「分かっている」

アーミアが通信を開く。

「刹那」

「何だ」

「今のあなたは、《アニマ》を出せるようになったばかりです」

刹那は黙って聞く。

「出力はあります。でも、制御はまだ粗い。エクシア全体へ均一に通すことも、長時間維持することもできません」

「分かっている」

「必要な瞬間だけ使ってください」

「ああ」

返事は短い。

だが。

理解している。

アーミアは自分の手を見る。

刹那より遥かに長く《アニマ》を使ってきた。

それでも。

先生とは比べものにならない。

出力。

応用。

制御。

どれを取っても。

自分が特に得意なのは制御だった。

少ない力でも必要な場所へ。

必要なだけ。

無駄なく。

だからこそ分かる。

今の刹那は。

まだ、始まったばかりだ。

『各機、発進!』

スメラギの声。

カタパルトが開く。

救援作戦が始まった。

     ◆

三大国家群・軍事施設周辺

赤いGN粒子が空を覆っていた。

「左から来る!」

ネーナの声。

スローネドライが機体を捻る。

直後。

ビームが横を抜ける。

ヨハンのアインが後方から射撃。

GN-Xを一機下がらせる。

だが。

その隙間へ別の機体が入る。

「次が来るぞ!」

ミハエルが叫ぶ。

ツヴァイの右肩は損傷したまま。

GNファングも、すでにいくつか失っている。

数が多い。

落としても。

押し返しても。

次が来る。

「ヨハン兄!」

「分かっている!」

ヨハンはレーダーを見る。

救援要請は送った。

返答もあった。

だが。

到着まで。

まだ少しかかる。

「三機で離れるな!」

「分かってるって!」

ミハエルがツヴァイをドライの前へ出す。

ビームサーベル。

GN-Xと斬り結ぶ。

押し返す。

その横から二機目。

さらにその上。

「多すぎんだろ!」

ミハエルが舌打ちした。

ネーナが照準を合わせる。

撃てる。

だが。

その向こうに地上の居住区。

「……っ」

また。

指が止まった。

撃たない。

機体を移動させる。

角度を変える。

時間がかかる。

その間にGN-Xが近づく。

「ネーナ!」

ヨハンが割り込む。

アインの射撃。

GN-Xが退く。

「ごめん!」

「謝るな。判断は間違っていない」

ネーナが一瞬だけ目を見開いた。

ヨハンはもう別の敵を見ていた。

「次が来るぞ!」

     ◆

上空

プトレマイオスから先行した機影が、戦場へ接近する。

『トリニティ三機を確認! まだ全機健在!』

クリスの声が各機へ届く。

アーミアが息を吐く。

「間に合った……」

刹那が前へ出る。

エクシア。

その横を、一機のGN-Xが追い抜いた。

レイナス。

『先に道を開ける』

「先生、単独で行かないでください」

『単独じゃないだろ。後ろにガンダムが五機もいる』

「そういう意味じゃ――」

通信が切れる。

アーミアがため息をつく。

「相変わらず……」

ロックオンが笑った。

『まあ、あいつなら大丈夫だろ』

「そういう問題でもないんですが」

前方。

複数のGN-Xがこちらへ向きを変えた。

敵味方識別。

同型。

一瞬。

反応が遅れる。

『味方機……?』

『いや、違う! 鹵獲された機体だ!』

判断した時には遅い。

レイナスのGN-Xが加速。

一機目の懐へ入る。

ビームライフルを弾く。

肩。

脚部。

背部。

無駄がない。

相手を倒すためではない。

進路を開くために必要な場所だけを壊していく。

まだ機体自体には慣れていない。

それでも。

迷いがない。

アーミアがその動きを見る。

《アニマ》を使わなくても強い。

そして。

使えば、さらに別物になる。

「刹那!」

前方。

三機のGN-Xがエクシアを囲む。

「見えている」

エクシアが一機を斬る。

二機目。

回避。

三機目。

追いついてくる。

以前なら。

そのまま性能差で抜けた。

今は違う。

GN-Xは速い。

数もいる。

刹那が操縦桿を握る。

「《オーバーライズ》」

青白い光。

一気にエクシア全体へ広がる。

だが。

均一ではない。

右腕。

胸部。

脚部。

部分ごとに出力が揺れる。

アーミアには分かった。

「刹那、出しすぎ!」

『まだいける』

「出力の話じゃありません! 散ってます!」

《アニマ》は出ている。

むしろ。

習得直後としては出力がある。

問題は、その先。

エクシア全体へ。

同じように。

必要なだけ。

通せていない。

青白い光が不規則に脈動する。

刹那が眉を寄せた。

右腕。

脚。

胸。

GNドライヴ。

また。

一つずつ意識している。

その時。

レイナスの言葉が蘇った。

――人間は目が二つ、腕が二本、脚が二本あっても、自分を部品の集まりだとは思わないだろ。

――機体も同じように見ろ。

そして。

――つまり、文字通り、お前がガンダムになるんだ。

刹那の目が開いた。

「……違う」

腕じゃない。

脚じゃない。

GNドライヴでもない。

エクシア。

ガンダムエクシア。

自分が動かす機体。

自分と共に戦ってきたガンダム。

だが。

それでもまだ違う。

自分がエクシアを動かす。

その意識すら。

今は要らない。

刹那は操縦桿を握る。

「俺が……」

青白い光が揺れる。

次の瞬間。

「ガンダムだ!」

一気に。

光が揃った。

アーミアの目が見開かれる。

「……!」

肩。

腕。

脚。

胸部。

それまで各部でばらついていた《アニマ》が、エクシア全体へ同時に行き渡る。

青白い輪郭が。

一つになる。

「安定した……!」

アーミアが思わず声を上げる。

さっきまでとは明らかに違う。

出力が上がったわけではない。

制御技術が突然アーミアと同等になったわけでもない。

ただ。

意識の迷いが消えた。

エクシアを一つとして捉えられたことで。

一瞬だけ。

《オーバーライズ》が本来の形へ収まった。

刹那が加速する。

エクシアが消えたように見えた。

『何――!?』

三機のGN-X。

一機目。

武器を断つ。

二機目。

間を抜ける。

三機目。

振り向くより先に背後へ回る。

斬撃。

脚部を破壊。

エクシアが包囲を抜けた。

それでも。

長くは続かない。

アーミアには分かる。

今は安定している。

だが、出力調整も持続もまだ未熟。

「刹那、その状態を引っ張らないで!」

『分かっている』

今度は返事にも余裕がある。

必要な一撃。

必要な加速。

それだけ。

エクシアがもう一度踏み込む。

トリニティへ迫っていたGN-Xを斬り払う。

そして。

刹那は《オーバーライズ》を解除した。

青白い光が消える。

「……」

呼吸が少し荒い。

それでも。

先ほどまでとは違った。

自分で。

一度。

正しい形へ入れた。

アーミアが通信を開く。

「今の感覚、忘れないでください」

「ああ」

「でも、まだ先生や私と同じようには使えません」

「分かっている」

刹那は前を見る。

「もう一度、できるようにする」

「はい」

     ◆

「何だ、あれ……」

ミハエルが戦場の向こうを見る。

青白いエクシア。

さらに。

敵側のGN-Xへ突っ込んでくる、別のGN-X。

ネーナが目を輝かせる。

「来た!」

「誰が?」

「アーミアたち!」

ヨハンも確認する。

プトレマイオス側。

ガンダム。

そして。

見覚えのあるアストレア。

「救援が到着した」

その声に。

ミハエルが笑う。

「やっとか!」

「気を抜くな!」

ヨハンの声。

その直後。

アインの前へGN-X。

ビームサーベル。

受ける。

もう一機。

その横。

さらに一機。

「ヨハン兄!」

ネーナが動く。

だが。

間に合わない。

その瞬間。

青白い光が戦場を横切った。

何かがGN-Xへ衝突する。

一機。

吹き飛ぶ。

二機目。

腕が弾ける。

三機目。

機体そのものが大きく姿勢を崩す。

ミハエルが目を見開いた。

「何だ!?」

青白い光。

中心にいるのは。

GN-X。

鹵獲された一機。

だが。

その全身を包む《アニマ》の光は。

先ほどのエクシアとは比べものにならない。

濃い。

強い。

そして。

一切揺れない。

レイナス。

『悪い。少し遅れた』

ヨハンが一瞬黙った。

「……その機体は?」

『現地調達』

「またかよ!」

ミハエルが思わず叫ぶ。

レイナスは気にしない。

GN-Xを旋回させる。

全身を包む青白い光。

《オーバーライズ》。

だが。

同じ技とは思えない。

刹那の《オーバーライズ》が、ようやく正しい形へ一瞬入ったばかりなら。

レイナスのそれは。

最初から完成している。

出力そのものが違う。

それでいて。

機体各部へ流れる力は乱れない。

アーミアが遠くから見ても分かる。

自分とも。

差がある。

圧倒的に。

自分なら。

あれほどの出力は必要ないと判断する。

必要な場所。

必要な瞬間。

必要な量。

それを正確に制御する。

それがアーミアのやり方。

レイナスは違う。

圧倒的な出力を維持しながら。

なお、必要なだけ制御できる。

「先生!」

『聞こえてる』

「やりすぎないでください!」

『まだ加減してるよ』

アーミアが黙った。

「……それで?」

『それで』

刹那も通信を聞いていた。

レイナスのGN-Xを見る。

自分が先ほど出したものと同じ《アニマ》。

同じ《オーバーライズ》。

だが。

今はまだ。

届かない。

アーミアが刹那へ通信を繋ぐ。

「先生を基準にしないでください」

『……』

「私もしてません」

レイナスが通信へ入る。

『それが正解だな。俺を目標にするのは勝手だけど、今すぐ追いつこうとするのはやめとけ』

刹那が答える。

「分かった」

     ◆

戦況が変わる。

デュナメスの狙撃。

キュリオスの高速戦闘。

ヴァーチェの砲撃。

アストレア。

エクシア。

そして。

《オーバーライズ》状態のレイナスのGN-X。

トリニティを包囲していた部隊が、押し広げられていく。

スメラギの声が通信へ入る。

『全機、撃破にこだわらないで! トリニティの離脱路を確保する!』

「了解!」

アーミアが答える。

アストレアが前へ出る。

擬似太陽炉。

赤いGN粒子。

まだ《オーバーライズ》は使えない。

イアンから止められている。

なら。

今あるものだけでやる。

GN-Xが接近。

二機。

アーミアは一機目の射撃を避ける。

二機目。

アストレアの腕を狙う。

必要な瞬間だけ。

必要な箇所へ。

《アニマ》を流す。

右腕。

脚部。

姿勢制御。

ほんの僅か。

それだけで機体の反応が変わる。

《オーバーライズ》ではない。

全体強化でもない。

細かく。

正確に。

GN-Xの攻撃をかわす。

反撃。

武器を断つ。

次。

背後。

脚部へ最低限。

加速。

射線を外れる。

刹那がその動きを見る。

レイナスとは違う。

アーミアも。

自分とは違う。

レイナスは圧倒的な出力。

アーミアは細かい制御。

自分は。

ようやく。

正しい形を一度掴んだところ。

「……もっと」

アーミアが聞く。

「刹那?」

「もっと制御する」

「はい」

「出すだけじゃない」

「そうです」

今は。

そこからだ。

     ◆

「離脱路が開いた!」

ヨハンが叫ぶ。

前方。

プトレマイオス側が作った隙間。

「ミハエル、動けるか!」

『問題ねえ!』

「ネーナ!」

『行ける!』

三機のスローネが進路を変える。

GN-Xが追う。

デュナメスが撃つ。

一機を牽制。

キュリオスが割り込む。

ヴァーチェが大出力砲を横へ振る。

進路を塞ぐようにGN-X部隊が散る。

「今!」

アーミアの声。

トリニティ三機が一気に抜ける。

ネーナのドライがアストレアの横を通る。

『アーミア!』

「後で!」

『分かった!』

声だけは元気だった。

アーミアは少し安心する。

ヨハンも通信を開いた。

『救援、感謝する』

スメラギが答える。

『礼は帰ってから。今は離脱して』

『了解』

レイナスが最後尾。

追ってくるGN-Xを見る。

『まだ来るか』

青白い光が僅かに強くなる。

アーミアがすぐ反応した。

「先生、全部落とす必要ありません!」

『分かってる』

レイナスは攻撃しない。

ただ。

進路上へ立つ。

青白いGN-X。

その存在だけで。

先頭の機体が減速した。

軍内部で共有されている。

青白い光。

生身でMSと戦う未確認戦闘員。

今は。

GN-Xに乗っている。

しかも。

機体そのものが異常な青白い光を纏っている。

『……追うな!』

誰かが叫ぶ。

追撃が止まった。

レイナスが振り返る。

『助かるよ。こっちも無駄な残業はしたくない』

《オーバーライズ》を解除する。

そのまま。

味方を追った。

     ◆

プトレマイオス・格納庫

三機のスローネが収容される。

ツヴァイは右肩を損傷。

アインにも複数の被弾。

ドライは比較的軽傷。

コックピットが開く。

ネーナが最初に降りてきた。

「アーミア!」

走ってくる。

アーミアが振り返る。

「怪我は?」

「ない!」

「ミハエルは?」

「俺も無事だよ」

後ろからミハエル。

ヨハンも降りてくる。

「助かった」

スメラギが近づいた。

「かなり危なかったみたいね」

「ああ」

ヨハンは否定しない。

「GN-Xの数を読み違えた」

スメラギがモニターを見る。

「私たちも同じよ。把握できている情報だけで全体を判断するのは危険ね」

ヨハンが頷く。

少し離れた場所。

刹那がエクシアから降りる。

足取りは普段と変わらない。

だが。

アーミアには分かる。

疲れている。

短時間。

一度だけ。

それでも《オーバーライズ》は負担になった。

「刹那」

「何だ」

「今日はもう訓練なしです」

「……分かった」

アーミアが少し驚く。

そこへ。

レイナスのGN-Xが格納庫へ入ってくる。

機体が止まる。

コックピットが開く。

レイナスが降りてきた。

刹那が見る。

「レイナス」

「ん?」

「さっきの《オーバーライズ》」

「どうした」

「俺とは違った」

レイナスは少し考える。

「ああ」

否定しない。

「今のお前は、正しい形を一回掴んだところだ。俺と比べる時期じゃないよ」

刹那は黙る。

「アーミアとも違う」

「そうだな」

レイナスはアーミアを見る。

「こいつは制御が上手い。必要なところへ必要なだけ通す」

アーミアが僅かに目を見開いた。

「先生に褒められると変な感じですね」

「そうか?」

「未来ではもう慣れてますけど」

「じゃあ今の俺には新鮮ってことで受け取っとけ」

刹那が自分の手を見る。

「俺は」

レイナスが答える。

「まだ始めたばかりだ」

少し間を置く。

「ただ、一回掴めたなら次はそこへ戻りやすくなる」

刹那が顔を上げる。

「ガンダムになる」

レイナスの口元が僅かに上がった。

「お前にはそれが一番分かりやすいらしいな」

刹那は小さく頷いた。

     ◆

同時刻――某所

リボンズ・アルマークが、不意に顔を上げた。

「……」

ヴェーダではない。

もっと直接的な感覚。

ほんの一瞬。

遠く離れた場所から。

脳量子波。

以前感じたものより。

僅かに明瞭だった。

だが。

すぐに消える。

リボンズは目を閉じる。

確認する。

もうない。

「……また」

先日と同じ。

いや。

少し違う。

発生源までは特定できない。

だが。

候補は絞られていた。

ソレスタルビーイング。

そして。

その中にいる、一人のガンダムマイスター。

リボンズは静かに目を開いた。

「刹那・F・セイエイ……」

その名を口にする。

表情は穏やかなまま。

ただ。

以前より少しだけ。

興味が深くなっていた。

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