機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第24話 合流

 

西暦2308年――ソレスタルビーイング地上施設・格納庫

三機のガンダムスローネが、整備区画へ並べられていた。

スローネアインには複数の被弾痕。スローネツヴァイは右肩周辺の損傷が大きく、装甲を外された内部では整備員が慌ただしく作業を続けている。比較的損傷の軽かったスローネドライも、念入りな点検を受けていた。

その少し離れた場所には、もう一機。

赤いGN粒子を発するGN-Xが立っている。

ミハエルはツヴァイの整備を眺めていたが、しばらくすると隣の機体へ視線を移した。

「なあ、レイナス」

GN-Xの足元で端末を見ていたレイナスが顔を上げる。

「ん?」

「それ、マジで敵から取ったんだよな?」

「そう聞くの、これで何人目だろうな」

「いや、普通は取らねえだろ」

「戦場に使える機体が残ってて、持って帰れる状況だった。だったら選択肢には入るさ」

レイナスはGN-Xを見上げた。

「こっちは機体が足りてるわけでもないしな。それに一機はイアンが欲しがってた。なら二機あった方が都合がいい」

「最初から二機取るつもりだったのかよ」

「どうせやるなら一度で済ませたいだろ。二度も同じ仕事をするのは面倒だ」

ミハエルが数秒黙ったあと、吹き出した。

「やっぱ変な奴だな、あんた」

「それくらいなら褒め言葉にしておくよ」

「普通は怒るところじゃねえの?」

「毎回まともに受け取ってたら疲れる」

ミハエルがまた笑う。

そこへ、足音が近づいてきた。

「アーミア!」

ネーナだった。

アストレアの前で整備記録を確認していたアーミアが振り返る。

「ネーナ。ツヴァイの修理、もう始まったみたいですね」

「うん。ミハ兄のは結構かかるって」

ネーナはそう答えてから、一度だけ後ろを振り返った。

それから、少し声を落とす。

「ねえ。この前の戦闘、見てた?」

アーミアはすぐには答えず、ネーナの表情を見る。

聞きたいことは、おそらく一つだった。

「住宅地の近くで射撃を止めたところですか?」

「……見てたんだ」

「はい」

ネーナはどこか気まずそうに視線を逸らした。

「アーミアが前に言ったから。関係ない人は巻き込むなって」

「覚えていてくれたんですね」

「別に……たまたま思い出しただけ」

いつもの軽い調子。

けれど、その場で本当に思い出したからこそ、照準を変えた。

アーミアはそれ以上を求めなかった。

「それで十分だと思います」

ネーナが顔を上げる。

「でも、そのせいでミハ兄を助けるの遅れたし」

「別の角度から援護できたでしょう?」

「まあ……できたけど」

「なら、次はもっと早く別の方法を探せばいいんです。撃たないことと、何もしないことは違いますから」

ネーナはしばらくアーミアを見る。

「……アーミアって、なんか先生みたい」

「先生?」

アーミアの視線が、自然とレイナスへ向いた。

少し離れたところでミハエルと話している。

「それはあまり嬉しくないですね」

「なんで?」

「教え方が下手な先生を知っているので」

遠くからレイナスがこちらを見る。

「その流れで俺を見るのはやめないか?」

「気のせいです」

「そういうことにしておくよ」

ネーナが笑った。

     ◆

同日――ソレスタルビーイング地上施設・ブリーフィングルーム

プトレマイオス側のメンバーと、チーム・トリニティ。

双方の主要メンバーが一つの部屋へ集まっていた。

中央のモニターには、先日の戦闘記録が表示されている。

複数方向から集まり、三機のスローネを包囲したGN-X。

スメラギが映像を一時停止した。

「まず、今回の戦闘を整理しましょう」

ヨハンが頷く。

「こちらの判断ミスです」

「GN-Xの配備規模を読み違えた?」

「はい。事前に確認できていた部隊を基準に作戦を組みました。しかし実際には、さらに複数の部隊が投入された」

ティエリアが別の映像を表示した。

撤退を始めたスローネ三機。

その進路上へ回り込むGN-X。

「増援の位置も不自然だ。偶然そこにいたとは考えにくい」

「こちらの離脱経路まで読まれていたと?」

ヨハンの問いに、ティエリアが頷く。

「可能性は高い」

ミハエルが椅子へ深く座る。

「つまり、最初から囲むつもりだったってことか」

「少なくとも、そう考えて備えた方がいいわね」

スメラギは映像を切り替えた。

各地で確認されているGN-Xの情報が並ぶ。

「問題は、これで全部なのか分からないこと」

ヨハンが画面を見る。

「今回確認した機体以外にも存在する可能性がある、と?」

「ある前提で考えるべきだと思います」

アーミアが口を開いた。

ヨハンがこちらを見る。

アーミアは言葉を選ぶ。

「今回も、最初に見えていた戦力だけを基準にしたことで包囲されました。次からは、確認済みの機体が全戦力だと思わない方が安全です」

「要するに、まだ後ろから出てくるかもしれねえってことか」

ミハエルが言った。

「はい」

「面倒だな」

「ええ。かなり」

それ以上は言わない。

アーミアが何を知っているのか。

どこまで知っているのか。

チーム・トリニティへ話す段階ではない。

スメラギが本題へ戻した。

「だから提案があるの」

ヨハンが姿勢を正す。

「聞きましょう」

「今まで通り、あなたたち三機だけで独立して介入を続けるのは危険だと思う」

ミハエルの眉が動いた。

「俺たちだけじゃ勝てないって?」

「そういう話じゃないわ」

スメラギは淡々と返した。

「相手の数と戦い方が変わったのよ。三機で対応できる状況と、三機しかいないことが弱点になる状況は別でしょう?」

ミハエルは何も言わない。

先日の戦闘が、そのまま答えだった。

ヨハンがモニターへ目を向ける。

「こちらでも同じことを考えていました」

「兄貴?」

「単独行動に固執する理由はない。今回、救援がなければ三機とも帰還できなかった可能性がある」

ミハエルの表情が険しくなる。

だが、反論はしなかった。

ヨハンがスメラギを見る。

「今後は、必要に応じてプトレマイオス側と共同で行動する。それでどうでしょう」

「異論はないわ」

ティエリアが腕を組む。

「ただし、作戦中の指揮系統は明確にする必要がある。戦力が増えても、各自が勝手に動けば意味がない」

「俺たちが勝手だって言いてえのか?」

ミハエルがティエリアを見る。

「先日の戦闘で最初に突出したのは誰だ」

「お前、いちいち言い方が――」

「ミハエル」

ヨハンが止める。

「指摘そのものは正しい」

「兄貴までかよ」

「作戦中に意見があるなら言えばいい。ただし、全体の動きを無視して動くのはやめろ」

ミハエルは不満そうに鼻を鳴らした。

「分かったよ」

ネーナはそのやり取りを聞きながら、別のことを気にしていた。

「じゃあさ」

全員の視線が向く。

「これからアーミアたちと一緒にいること増える?」

スメラギが少し笑った。

「そうなるでしょうね」

「やった」

ミハエルが横を見る。

「お前、そこなのかよ」

「いいじゃん」

ネーナは気にした様子もない。

ヨハンが小さく息を吐く。

「完全な合流というより、当面は共同運用と考えてください。こちらの拠点をすべて放棄するわけではありません」

「それでいいわ」

スメラギが頷く。

「作戦情報を共有して、必要なら同時に出る。緊急時には互いに援護できる状態にしておく」

「了解しました」

こうして。

それまで別々に動いていた二つのソレスタルビーイングは、少しずつ距離を縮めることになった。

     ◆

同日――ソレスタルビーイング地上施設・訓練区画

青白い光が、刹那の右手を包んでいた。

以前より発現までが早い。

意識を集中すれば、《アニマ》そのものを出すことには慣れ始めている。

問題は、その先だった。

「強すぎます」

アーミアが言った。

刹那が目を開く。

「出ている」

「はい。出てます」

「なら問題ない」

「それだと出力を上げる練習にしかなりません」

刹那が自分の手を見る。

青白い光。

まだ強くなる。

自分でも分かる。

「昨日より出せる」

「出せることと、扱えることは別です」

アーミアは自分の手を上げた。

刹那より弱い光。

しかし。

ほとんど揺れない。

「今はこれくらいで十分です」

光の大きさは変えず。

濃度だけを僅かに変える。

指先。

手のひら。

手首。

必要な場所だけへ滑らかに移していく。

刹那が見つめる。

「細かい」

「私は制御の方が得意なので」

「レイナスは?」

少し離れた場所から声がした。

「そこで俺を見るのか」

レイナスが入ってくる。

刹那はまっすぐ答えた。

「お前の方が強い」

「まあ、今のところはな」

アーミアが振り返る。

「今のところ?」

「そのくらい言っておけば、若いのが伸びる理由にはなるだろ」

「先生に追いつくの、だいぶ無茶だと思いますけど」

「目標は高い方がいいさ。届くかどうかは別として」

刹那が《アニマ》をさらに強くする。

レイナスがすぐに気づいた。

「いや、だからそこで張り合うな」

「もっと出せる」

「出せるのは分かった」

レイナスは壁へ寄りかかる。

「今のお前が俺と出力比べて、勝った負けたをやっても仕方ないだろ」

刹那が見る。

「じゃあ何をする」

「まず、自分で出した力を全部自分で使え」

刹那が黙る。

「十出して三しか扱えない奴より、五出して五を使える奴の方が戦場じゃ信用できる」

アーミアがレイナスを見る。

「珍しく教え方が分かりやすいですね」

「毎回それ言うのやめないか?」

「経験者としての感想です」

「未来の俺に何を教わったか、一度聞いてみたいもんだな」

アーミアは少し笑う。

「たぶん、聞いたら納得しますよ」

「嫌な予感しかしないな」

刹那は二人の会話を聞きながら。

右手を見る。

出力を落とす。

青白い光が小さくなる。

消える寸前。

そこで止める。

揺れる。

また強くなりそうになる。

抑える。

今度は消えそうになる。

戻す。

アーミアの目が細くなった。

「そうです。そのまま」

刹那は集中する。

光は弱い。

昨日の戦場で見せた《オーバーライズ》とは比べものにならない。

だが。

少しずつ。

揺れが小さくなる。

レイナスが腕を組む。

「そっちの方がずっと難しいだろ?」

「ああ」

「なら、今はそれを覚えろ。大出力は必要になった時でも出せる」

刹那は光を維持する。

「分かった」

アーミアが僅かに笑った。

「昨日より進んでます」

「まだ足りない」

「それでいいんです」

刹那は何も言わず。

もう一度、光の強さを僅かに落とした。

     ◆

同時刻――某所

リボンズ・アルマークは、一人ヴェーダへ接続していた。

表示されているのは。

刹那・F・セイエイ。

これまでの戦闘記録。

ガンダムエクシア。

タクラマカン。

そして。

最近になって確認された、説明のつかない変化。

先日の戦闘。

あの瞬間。

確かに感じた。

脳量子波。

以前より。

僅かに明瞭だった。

ヴェーダ上に、それを直接示す記録は存在しない。

自分が感じた。

ただそれだけ。

だが。

一度なら偶然で済ませられる。

二度なら。

確認する価値がある。

「何を見ているのかね?」

後ろから声。

アレハンドロ・コーナー。

リボンズが振り返る。

「ガンダムマイスターの一人です」

「刹那・F・セイエイか」

「はい」

アレハンドロもモニターを見る。

「彼がどうかしたのか?」

「現時点では、何とも申し上げられません」

「何か感じたのだろう?」

リボンズは少しだけ間を置く。

「以前とは異なる反応を感じました。ただ、それだけです」

「ヴェーダには?」

「明確な記録はありません」

「ならば気にしすぎではないか?」

リボンズは穏やかな表情を崩さない。

「その可能性もあります」

否定しない。

断定もしない。

アレハンドロは別の資料へ視線を移した。

「それより、GN-Xの損失が増えている。トリニティもプトレマイオス側へ近づき始めているようだ」

「はい」

「こちらの戦力は足りるか?」

「配備は継続した方がよろしいでしょう」

リボンズが答える。

「彼らは想定より多くの戦力を保持し始めています。GN-Xの運用規模も、それに合わせて考える必要があります」

アレハンドロが頷く。

「分かった」

「ありがとうございます」

話は終わった。

だが。

リボンズの視線だけは。

もう一度。

画面の少年へ戻る。

ガンダムエクシア。

そのマイスター。

そして。

あの脳量子波。

「刹那・F・セイエイ……」

小さく名前を口にする。

まだ。

答えを出すには早い。

だからこそ。

もう少し見ておく必要があった。

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