西暦2308年――プトレマイオス・訓練区画
刹那から始まった《アニマ》の訓練は、その後も続いた。
とはいえ。
全員が刹那と同じように、何日も一から手順を繰り返したわけではない。
一度。
感覚を知ってしまえば。
あとは、自分の中に似たものを探す。
やること自体は単純だった。
最初に変化を見せたのは、アレルヤだった。
「……これかな」
右手の指先。
淡い青白い光。
まだ弱い。
数秒で消える。
それでも。
アーミアは頷いた。
「《アニマ》です」
アレルヤが自分の手を見る。
「本当に出た……」
その隣。
ティエリアはしばらく黙っていたが。
「分析しようとしない方が早いとは……」
掌に、僅かな青白い光。
レイナスが壁際から言う。
「世の中、全部理屈が先に来るわけじゃないからな」
ティエリアが見る。
「君に言われると妙に腹が立つ」
「そこは気にしないでくれ」
ロックオンも。
何度か集中をやり直した末。
「……お」
指先に。
ほんの僅かな光。
刹那が見る。
「出た」
「見りゃ分かる」
ロックオンは少し笑う。
「昨日まで腹減ったことしか分からなかった割には上出来だろ」
「比較対象が低すぎます」
アーミアが言った。
「厳しいねえ」
ラッセは。
最後まで力む癖が抜けなかった。
「だから力を抜いてください」
「抜いてる!」
「肩上がってますよ」
「これ以上抜いたら寝るぞ」
「寝ても出ないと思います」
数分後。
ようやく。
拳の周りに僅かな光。
ラッセが目を見開いた。
「出たぞ!」
「だから力まなくてよかったでしょう?」
「結果が出たなら細かいことはいい」
ロックオンが横から笑う。
「絶対また次も力むぞ、こいつ」
◆
意外だったのは。
フェルトだった。
二度目の訓練。
アーミアから感じた温かさを思い出す。
それだけ。
目を閉じ。
静かに呼吸する。
そして。
「……あ」
アーミアが振り向く。
フェルトの右手。
淡い。
だが。
はっきりとした青白い光。
しかも。
ほとんど揺れていない。
「フェルト?」
クリスが驚く。
フェルト自身も、自分の手を見ていた。
「出た……」
アーミアが近づく。
「そのまま維持してみてください」
「うん」
数秒。
十秒。
まだ続く。
アーミアの表情が少し変わる。
「掴むの早いですね」
刹那も見る。
「安定している」
フェルトが少しだけ嬉しそうにする。
ロックオンが腕を組んだ。
「俺より後から始めたよな?」
「うん」
「……そうか」
クリスが笑う。
「負けたね」
「勝ち負けじゃないだろ」
レイナスもフェルトの光を見る。
「出力は小さいけど、最初から無駄が少ないな」
アーミアが頷く。
「感覚を掴むのが上手いんだと思います」
フェルトが光を消す。
「もう一回やってみる」
「いいですよ」
すぐに。
もう一度。
淡い青白い光。
今度はさらに早かった。
ロックオンが頭を掻く。
「本当に早いな」
フェルトが少しだけ得意そうに見る。
「ロックオンも練習すればいい」
「はいはい」
◆
そして。
昨日まで参加する気のなかった二人。
スメラギとクリスも。
妙に真剣だった。
「……」
スメラギの掌。
何もない。
さらに集中。
それでも。
何もない。
ロックオンが遠くから見る。
「力入りすぎてないか?」
「話しかけないで」
「はい」
隣。
クリスも目を閉じている。
「全盛期……全盛期……」
アーミアが眉を寄せた。
「クリス、それをイメージしても出ませんよ」
「分かってる!」
「絶対分かってないだろ」
ロックオンが言う。
数分後。
クリスの指先に。
小さな光。
「……!」
目を開く。
「出た!」
その声に。
スメラギも目を開ける。
「本当?」
「見て! 見て!」
「消えてるわよ」
「えっ!?」
集中が切れた瞬間。
光も消えていた。
クリスが慌てて目を閉じ直す。
その隣。
スメラギも再び集中する。
しばらくして。
こちらにも。
小さな青白い光。
ロックオンが笑う。
「結局、全員出たな」
スメラギは自分の手を見る。
「……これが《アニマ》」
アーミアが頷く。
「はい。ただ、今は出せるだけです」
クリスが聞く。
「どれくらい使えば若返るの?」
「そこからですか?」
「大事でしょ」
レイナスが少し離れたところから口を挟む。
「俺の時は、そんな短期契約みたいな話じゃなかったよ」
クリスが見る。
「どれくらい?」
「だから覚えてないって。使ってるうちに気づいたら戻ってた」
スメラギが腕を組む。
「効率よく使えば早まる可能性は?」
レイナスが一拍置く。
「そういう研究は俺じゃなくてイアンに頼んでくれ。俺は人体実験の担当じゃない」
アーミアが二人を見る。
「そもそも、スメラギさんもクリスもまだ若いじゃないですか」
二人が同時にアーミアを見る。
「……また言った」
クリスが呟く。
スメラギも続ける。
「六十七歳でその見た目のあなたには分からないわ」
「本当に若いと思うんですけど」
「アーミア」
「はい」
「今は黙ってて」
「……はい」
レイナスは横で黙っていた。
ロックオンが見る。
「何も言わないんだな」
「俺まで入ったら話が長くなるだろ」
「賢明だな」
「こういう時に余計な仕事を増やさないのも大事なんだよ」
◆
数日後。
結果だけを見れば。
訓練に参加した全員が。
程度の差こそあれ。
自力で《アニマ》を発現できるようになっていた。
刹那はすでに《オーバーライズ》へ進んでいる。
アレルヤ。
ティエリア。
ロックオン。
ラッセ。
フェルト。
スメラギ。
クリス。
全員。
まだ。
手のひらや指先へ小さな光を出せる程度。
戦闘へ使える段階ではない。
まして。
機体へ流し込むには程遠い。
それでも。
ゼロではなくなった。
中でも。
フェルトは最初から制御が比較的安定していた。
「……意外でした」
アーミアが言う。
フェルトが見る。
「何が?」
「もっと時間がかかると思ってました」
「私も」
フェルトは自分の手へ、小さな青白い光を灯す。
揺れは少ない。
アーミアが少し笑う。
「制御は向いてるかもしれませんね」
少し離れたところ。
レイナスがその様子を見る。
「これで一通りか」
アーミアが頷く。
「はい。あとはそれぞれ続ければいいと思います」
「なら訓練漬けはここまででいいな」
「私もそう思います」
刹那が二人を見る。
「次は機体へ通す」
アーミアが即座に答える。
「刹那は別です」
「なぜだ」
「もうそこまで進んでるからです」
「なら続ける」
「休みながらですよ」
「分かった」
レイナスが小さく笑う。
「この調子なら放っておいても練習してそうだな」
◆
同時刻――プトレマイオス・ブリッジ
リヒティは一人で監視を続けていた。
スメラギたちは訓練区画。
イアンは格納庫。
普段より静かなブリッジ。
その時。
センサーへ反応。
「ん?」
一つ。
二つ。
さらに。
増える。
GN粒子反応。
識別。
赤。
擬似太陽炉。
リヒティの表情が変わった。
「GN-X……?」
数が増える。
一つの部隊ではない。
複数方向。
リヒティはすぐに艦内回線を開いた。
「スメラギさん!」
◆
訓練区画。
全員が顔を上げる。
『訓練どころじゃないです! GN-Xの反応、多数!』
空気が一瞬で変わった。
スメラギが立ち上がる。
「位置は?」
『現在確認中です。ただ――かなり近いです!』
ロックオンが立つ。
アレルヤ。
ティエリア。
刹那。
全員が続く。
先ほどまで。
掌へ小さな《アニマ》を灯していた面々。
だが。
今、戦場で使えるのは。
まだ刹那だけ。
レイナスが壁から背を離した。
「訓練の成果を試すには、少し早すぎるな」
スメラギが端末を取る。
「試させる気はないわ。現状の戦力で対応する」
「賛成だ」
刹那が出口へ向かう。
「エクシアで出る」
アーミアも続く。
「アストレアも準備します」
訓練は。
ひとまず終わった。
《アニマ》は。
刹那一人だけのものではなくなった。
そして。
ソレスタルビーイングを取り巻く戦況もまた。
次の段階へ進もうとしていた。