西暦2308年――プトレマイオス・ブリッジ
「反応、増えてます!」
リヒティの声が飛ぶ。
訓練区画から戻ったスメラギが、すぐにメインモニターを見る。
赤い反応。
一つの部隊ではない。
複数方向から。
プトレマイオスを中心に、距離を詰めている。
「数は?」
「まだ全部拾いきれてません。ただ、前方だけじゃないです。左右と後方にもいます」
スメラギの表情が変わる。
「囲むつもりね」
フェルトが席へ戻り、センサー情報を引き継ぐ。
「GN粒子反応、すべて擬似太陽炉型と推定」
クリスもコンソールへ座る。
「通信妨害も来てます」
ラッセが操艦席へ入った。
「さっきまで手を光らせてたと思ったら、今度は本物が来たか」
「今日覚えた《アニマ》は忘れて」
スメラギが即座に言う。
「今、戦闘で使えるのは刹那だけ。全員いつも通りに動いて」
「了解」
スメラギが通信回線を開く。
「各マイスター、出撃準備!」
◆
プトレマイオス・格納庫
イアンが複数の端末を行き来していた。
「刹那!」
「いる」
エクシアのコックピットへ刹那が乗り込む。
「《オーバーライズ》は必要な時だけだ。前みたいに最初から使うなよ」
「分かっている」
「ならいい。今は維持時間より、必要な時に安定して出せることを優先しろ」
その隣。
デュナメス。
キュリオス。
ヴァーチェ。
各マイスターが機体へ乗り込んでいく。
ロックオンが通信を開いた。
『俺たちは今日覚えたやつ使わなくていいんだよな?』
「手のひらに光を出せるようになっただけで実戦投入する気か?」
『確認しただけだよ』
アレルヤも苦笑する。
『僕もまだ機体へ通すなんて無理だよ』
ティエリアは冷静だった。
『現状では戦力として計上するべきではない』
『そこまできっぱり言われると夢がねえな』
『事実だ』
少し離れた区画。
赤いGN粒子。
擬似太陽炉を搭載したアストレア。
アーミアが乗り込む。
「アーミア!」
「はい」
「お前も《オーバーライズ》は禁止だ!」
「分かってます」
「擬似太陽炉はまだ試験段階なんだ。今日は普通に動かすだけにしろ」
「了解です」
「本当に頼むぞ」
「そんなに信用ないですか?」
「信用してるから先に言ってる!」
その横。
鹵獲したGN-X。
レイナスがコックピットへ収まる。
「イアン」
「何だ?」
「こっちは前回から何か制限増えたか?」
「増えてない。ただし壊すな」
「そっちか」
「せっかく直したばかりなんだぞ」
レイナスは機体状態を確認する。
「了解。できるだけ綺麗に返すよ」
「できるだけじゃなくて綺麗に返せ!」
「注文が厳しいな」
◆
同時刻――スローネ格納区画
ヨハンが通信を受けていた。
『GN-X多数。プトレマイオスを包囲しつつある』
スメラギの声。
「こちらも出ます」
ミハエルがツヴァイへ乗り込む。
「ようやく共同戦闘ってやつか」
ヨハンがすぐに返す。
「突出するな」
「分かってるって」
「先日のことがある。今回は特にだ」
「はいはい」
ネーナもドライへ乗る。
「アーミアも出る?」
『出るわ』
スメラギが答える。
「じゃあ、私も行く!」
「遊びじゃないぞ、ネーナ」
「分かってるよ、ヨハン兄」
三機のスローネが起動する。
◆
宇宙空間――プトレマイオス周辺
最初に出たのはキュリオス。
続いてデュナメス。
ヴァーチェ。
エクシア。
アストレア。
レイナスのGN-X。
さらに。
三機のスローネ。
これまでとは比較にならない戦力。
だが。
敵側も。
以前とは違っていた。
「来る!」
フェルトの声。
前方から。
赤いGN粒子。
多数。
GN-X部隊。
デュナメスが先に撃つ。
一機。
肩を抜く。
二機目。
回避。
その横から別の機体。
「多いな」
ロックオンが呟く。
『後ろにもいる!』
アレルヤ。
キュリオスが後方へ回る。
側面。
ヴァーチェ。
ティエリアがGNバズーカを構える。
「射線を開けろ!」
砲撃。
赤い粒子の群れが散る。
だが。
散っただけ。
さらに後ろから。
新しいGN-X。
「次から次へと!」
ミハエルのツヴァイ。
GNファング射出。
ヨハンのアインが援護。
ネーナのドライが後方を守る。
今までのように。
三機だけではない。
プトレマイオス側の動きに合わせる。
「ネーナ、右!」
「分かってる!」
ドライが射撃。
キュリオスへ接近していたGN-Xを牽制する。
アレルヤが機体を翻す。
『助かった!』
「どういたしまして!」
◆
「刹那!」
アーミアの声。
エクシアの前。
四機。
GN-X。
一機が射撃。
二機目が左右へ散る。
残る二機が距離を詰める。
刹那が一機へ斬り込む。
GNソード。
一閃。
二機目。
回避。
三機目のビームサーベル。
受ける。
その横から四機目。
以前なら。
ここで意識が機体の各部へ散っていた。
右腕。
脚。
GNドライヴ。
だが。
今は違う。
刹那は一度だけ呼吸を整える。
エクシア。
機体全体。
一つ。
そこへ。
《アニマ》を通す。
青白い光が立ち上がった。
一瞬。
右腕へ偏る。
刹那はすぐに修正する。
腕ではない。
脚でもない。
エクシアという一機。
自分の身体を動かすように。
意識を一つへまとめる。
光の揺らぎが収まった。
「……行くぞ、エクシア」
加速。
青白い機体が。
包囲の隙間を抜ける。
一機。
武器を断つ。
二機目。
脚部。
三機目。
背後へ。
GNソード。
一閃。
アーミアが見る。
「前より早い……」
発動そのものが。
以前より自然になっている。
まだ。
長時間維持できるわけではない。
出力調整も粗い。
だが。
もう。
一度だけ偶然成功した技ではない。
「刹那、長引かせないでください!」
『分かっている』
必要な加速。
必要な攻撃。
そこだけ。
エクシアがもう一度踏み込む。
GN-Xを退かせる。
直後。
刹那は《オーバーライズ》を解除した。
青白い光が消える。
アーミアが少し安心する。
「自分で切れるようになってきましたね」
通信へレイナスの声。
『その評価、訓練を始めたばかりとは思えないな』
「本当に始めたばかりですから」
『なら、今は十分か』
刹那が答える。
『まだだ』
レイナスが少し笑う。
『そう言うと思ったよ』
◆
別方向。
レイナスのGN-X。
敵も同型。
性能差はほとんどない。
なら。
差になるのは操縦者。
そして。
《アニマ》。
前方。
五機。
レイナスが小さく息を吐く。
「同じ機体ばかりだと、さすがに見づらいな」
青白い光。
GN-X全体を包む。
立ち上がりから。
一切揺れない。
刹那とは違う。
出力。
安定性。
制御。
最初から完成している。
加速。
一機目。
ビームライフル。
レイナスは最小限の軌道変更で避ける。
すれ違いざま。
腕を断つ。
二機目。
背部。
三機目。
脚部。
必要な箇所だけ。
敵機が次々と戦闘能力を失う。
だが。
コックピットには手を出さない。
『何だ、この動き……!』
『鹵獲されたGN-Xだ!』
『例の奴が乗ってる!』
レイナスが敵通信を拾う。
「ずいぶん有名になったもんだ」
四機目。
五機目。
同時。
左右から挟む。
レイナスは慌てない。
「悪いが、今日は付き合ってる暇がない」
出力が一段上がる。
一瞬。
青白い光が濃くなる。
二機の間を抜ける。
次の瞬間。
両機の武器が弾け飛んだ。
アーミアが遠くから見る。
同じ《オーバーライズ》。
それでも。
やはり違う。
出力が圧倒的。
そして。
その出力を。
何の無理もなく扱っている。
刹那は、ようやく正しい形を再現できるようになり始めた。
自分は。
必要な場所へ。
必要な量を。
正確に流すことを得意としている。
先生は。
その両方を。
遥かに高いところで使っている。
「……相変わらずですね」
『聞こえてるぞ』
「独り言です」
『通信開いたままの独り言は、独り言扱いでいいのか?』
「細かいですね」
『そこまで言われるとは思わなかったな』
◆
アストレア。
擬似太陽炉。
赤いGN粒子。
アーミアは《オーバーライズ》を使わない。
まだ。
擬似太陽炉との相性を試す段階ではない。
だが。
《アニマ》そのものは使える。
局所。
右腕。
脚部。
姿勢制御。
必要な場所へ。
必要な瞬間だけ。
少量。
GN-Xの射撃。
回避。
もう一機。
近接。
アストレアの右腕へ《アニマ》。
一瞬。
反応速度が上がる。
受け流す。
反撃。
敵機のライフルを破壊。
次。
背後。
脚部へ。
最小限。
加速。
射線から外れる。
フェルトの声。
『アーミア、下から二機!』
「見えてます!」
一機。
二機。
避ける。
撃つ。
落とす必要はない。
動きを止める。
プトレマイオスへ近づけさせない。
今は。
それでいい。
◆
「スメラギ!」
クリスが声を上げる。
「前方部隊、後退!」
スメラギがモニターを見る。
「後退?」
違う。
動きが整いすぎている。
「全機、追わないで!」
外の各機へ通信。
『追撃禁止!』
ミハエルが反応する。
『逃げてんじゃねえか!』
「だから追わないの!」
ヨハンがすぐ続く。
『ミハエル、止まれ』
『……チッ』
ツヴァイが止まる。
赤いGN-X部隊。
距離を取る。
だが。
完全には離れない。
一定距離。
隊列を組み直す。
スメラギの表情が険しくなる。
「これは……」
フェルトが新たな反応を捉える。
「後方にGN粒子反応」
クリスも見る。
「また増援?」
スメラギは少し考える。
「違う」
前方。
一度戦った部隊。
後方。
新たに接近する別部隊。
入れ替わるような動き。
「最初の部隊は、私たちを足止めしていたのよ」
フェルトが画面を見る。
前。
後ろ。
左右。
一度に全部をぶつけるのではなく。
複数の部隊を入れ替えながら。
戦わせる。
「消耗させるつもり……」
「そうね」
スメラギが答える。
「長期戦へ持ち込む気よ」
◆
宇宙空間
ロックオンも気づいた。
『嫌な並び方してやがるな』
ティエリアが答える。
『こちらの継戦能力を削るつもりだ』
アレルヤが周囲を見る。
『数が分からないのが一番厄介だね』
刹那は前を見る。
新たなGN-X部隊。
レイナスが通信へ入る。
『ここで全部相手にする必要はない』
ロックオンが聞く。
『何か考えがあるのか?』
『後ろにプトレマイオスがある。俺たちは敵を全部倒しに来たわけじゃないだろ』
「その通りよ」
スメラギが通信へ入る。
『防衛線を縮める。全機、プトレマイオス周辺へ戻って』
『了解』
レイナスがGN-Xを反転させる。
『敵の注文通りに消耗戦をやる義理もない。付き合うなら、こっちの都合で付き合おう』
ロックオンが笑う。
『まともなこと言うじゃねえか』
『俺をどういう人間だと思ってるんだ?』
『戦場で敵の機体二機持って帰る奴』
レイナスが一拍置く。
『……そこを出されると弱いな』
ネーナが通信越しに笑った。
張り詰めていた空気が。
ほんの少しだけ緩む。
だが。
その直後。
フェルトの声。
『新たなGN-X部隊を確認!』
遠方。
新しい赤いGN粒子。
さらに。
その後ろにも。
スメラギが息を吐く。
「全機、プトレマイオス周辺へ。陣形を組み直すわ」
『了解』
ガンダム。
スローネ。
アストレア。
鹵獲GN-X。
そして。
《アニマ》。
こちらの戦力も。
以前とは比べものにならない。
それでも。
敵の物量は。
なお。
底が見えなかった。