機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第28話 TRANS-AM

 

西暦2308年――プトレマイオス周辺宙域

戦闘は終わらない。

一度交戦したGN-X部隊が距離を取り、その空いた場所へ別の部隊が入ってくる。

前方。

側面。

後方。

一度に全戦力をぶつけるのではなく、こちらへ休む時間を与えないように部隊を入れ替えている。

「また来るぞ!」

ロックオンの声と同時に、デュナメスのライフルが火を噴いた。

先頭のGN-Xが回避。

その左右から二機が距離を詰める。

キュリオスが加速し、その間へ割り込んだ。

『こっちは僕が引きつける!』

「深追いするなよ!」

『分かってる!』

さらに後方。

ヴァーチェがGNバズーカを構える。

「射線を開けろ!」

砲撃。

GN-Xの隊列が散る。

だが。

そこへまた別の赤いGN粒子が現れる。

ミハエルが舌打ちした。

『いったい何機いるんだよ!』

ヨハンが答える。

『数を気にするな。プトレマイオスへ近づけさせなければいい』

ネーナのドライも、今は勝手に突出しない。

キュリオスの死角へ入ろうとした一機を射撃で追い払う。

『アレルヤ、右!』

『見えてる! ありがとう!』

共同戦闘を始めたばかりとはいえ。

少なくとも。

互いの邪魔をする段階は、もう過ぎていた。

     ◆

エクシアがGN-X二機の間を抜ける。

刹那は《オーバーライズ》を長く使わない。

必要な瞬間。

機体全体へ《アニマ》を巡らせる。

青白い光。

加速。

一機の武器を断ち、もう一機を退かせる。

そのまま距離を取り、《オーバーライズ》を解除する。

アーミアがその動きを確認する。

「前より切り替えが早くなってる……」

まだアーミアやレイナスには遠い。

それでも。

刹那は確実に、自分の力として扱い始めている。

一方。

アストレアは《オーバーライズ》を使わない。

イアンから禁止されているだけではない。

換装した擬似太陽炉。

制御系。

まだ確認するべき部分が多い。

アーミアは《アニマ》を機体全体へ流すのではなく、脚部や腕部へ必要な量だけ通してGN-Xを捌いていた。

『相変わらず器用に使うな』

通信。

レイナスだった。

「壊したくないので」

『それは俺も同じなんだけどな。イアンから念を押されてる』

レイナスのGN-Xが敵機の横を抜ける。

一機。

ライフルを破壊。

二機目。

腕部。

三機目。

背部へ一撃。

どれもコックピットは狙わない。

アーミアが見る。

「先生の場合、細かく考える前に全部できてるじゃないですか」

短い間。

『まあ、付き合いの長さが違う。そこは勘弁してくれ』

「何との付き合いです?」

『《アニマ》と無茶な状況の両方だよ』

アーミアは少しだけ笑った。

     ◆

プトレマイオス・ブリッジ

「敵部隊、また後退します」

フェルトが報告する。

スメラギはモニターを見たまま答えた。

「追わせないで。次が来る」

予想通り。

別方向から新しいGN粒子反応。

クリスが息を吐く。

「本当に交代制だ……」

「こちらを削るつもりね」

その時。

別の警告が表示された。

フェルトが振り向く。

「ヴェーダとの通信に異常」

スメラギの表情が変わる。

「ティエリア」

     ◆

ヴァーチェ・コックピット

ティエリアはすでに気づいていた。

戦闘情報とは別の領域。

ヴェーダ。

以前から調べていた深部へのアクセス状況が、急激に変化している。

「……始まった」

何者かが。

自分より上位の権限で、ヴェーダ内部を書き換えている。

ティエリアがアクセスを試みる。

拒否。

別経路。

拒否。

さらに深い領域。

拒否。

《ACCESS DENIED》

「僕の権限を……」

アーミアから聞いていた歴史。

ヴェーダの掌握。

そして。

その後に起きる。

ガンダムとのリンク切断。

『スメラギ!』

     ◆

「聞こえてる!」

スメラギが返す。

『ヴェーダ内部で上位権限による大規模な処理が進行している。このままでは接続を維持できない!』

「イアン!」

すぐに回線を切り替える。

格納庫。

イアンが端末へ走る。

『こっちも確認した!』

「独立システムの準備!」

『とっくに始めてる!』

この時のために。

時間を使ってきた。

アーミアの知る歴史が、そのまま起こるとは限らない。

それでも。

ヴェーダを失った場合に備える意味はある。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

そして。

アストレア。

ヴェーダから切り離されても最低限動けるよう、イアンたちは機体制御システムの独立化を進めていた。

プトレマイオス側も同じだった。

完全ではない。

ヴェーダの補助を失えば性能は落ちる。

だが。

止まったままにはならない。

「全員へ知らせて! 切断に備えて!」

クリスが通信を開く。

「各機、ヴェーダ接続に異常! 独立システムへの切り替えを――」

画面が乱れた。

     ◆

同時刻――ヴェーダ中枢

リボンズ・アルマークは静かに処理を進めていた。

ティエリア・アーデからの干渉。

以前よりも早い。

しかも。

何度も深部へ到達しようとした痕跡が残されている。

「気づいていましたか」

アレハンドロ・コーナーが振り返る。

「問題があるのかね?」

「いいえ」

リボンズは微笑む。

「彼にできることは限られています」

ティエリアのアクセスを遮断する。

さらに。

ソレスタルビーイングの各システムとの接続へ手を伸ばす。

アレハンドロが静かに言った。

「予定通り進めたまえ」

「はい」

リボンズが処理を実行する。

ヴェーダと。

ガンダム。

そして。

プトレマイオス。

その接続が。

一斉に切断された。

     ◆

宇宙空間

最初に異変が起きたのはエクシアだった。

モニターが暗転する。

「……!」

機体制御喪失。

刹那が操縦桿を動かす。

反応しない。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

次々と停止する。

『何だ!?』

ロックオン。

『操作を受け付けない!』

アレルヤ。

ティエリアが答える。

『ヴェーダとのリンクを切られた!』

そして。

「……アストレアも!」

アーミアの機体も停止した。

擬似太陽炉は稼働している。

だが。

機体制御システムがヴェーダとの接続喪失によって機能を停止していた。

操縦桿。

ペダル。

何を操作しても反応しない。

その直後。

ネーナの声。

『ヨハン兄!』

スローネドライ。

停止。

ツヴァイ。

アイン。

三機とも。

動きを失う。

『何だよこれ!』

ミハエルが操作を繰り返す。

『動けよ!』

ヨハンが状況を確認する。

『ヴェーダとの接続が切断された……』

一瞬で。

戦場にいた九機のうち。

八機が動きを失った。

ただ一機。

レイナスの鹵獲GN-Xだけが。

そのまま動いていた。

     ◆

レイナスは周囲を一度見渡した。

停止したガンダム。

アストレア。

スローネ。

そして。

状況を理解して動き始める敵GN-X。

「……参ったな」

派手に慌てるでもなく。

ため息に近い声だった。

「こういう時に限って、動くのが俺だけか」

敵側の通信。

『敵ガンダム停止!』

『今だ!』

複数のGN-Xが一斉に動く。

停止したエクシアへ。

デュナメスへ。

スローネへ。

レイナスは操縦桿を倒した。

「まあいい。止まってる連中に請求書を回すわけにもいかないしな」

青白い光。

GN-X全体を包む。

《オーバーライズ》。

最初の一機。

ライフル。

レイナスは最小限の動きで射線から外れる。

すれ違いざま。

腕部を断つ。

二機目。

ビームサーベル。

受け流す。

脚部を破壊。

そのまま。

エクシアの前へ。

さらに三機。

「イアン」

『分かってる!』

「なら任せる。こっちは、少し時間を買っておく」

『少しで済むか!』

レイナスは敵編隊を見る。

「そこはそっちの頑張り次第だな」

『人に丸投げするな!』

「適材適所だよ。俺にシステム修復をやらせるよりはマシだろ」

返事を待たず。

加速。

青白い軌跡。

敵編隊の内側へ滑り込む。

一機。

二機。

武器だけを破壊。

三機目。

推進器。

四機目。

脚部。

撃破はしない。

今必要なのは。

数を減らすことではなく。

止まっている仲間へ近づけさせないこと。

敵GN-Xのパイロットが叫ぶ。

『一機だけだ! 押し切れ!』

レイナスはその通信を聞きながら、次の射線から外れた。

「一機だけ、か」

少し間を置く。

「そう見えるうちに引いた方が、たぶん得だと思うけどな」

五機目。

六機目。

さらに来る。

レイナスは機体を旋回させる。

「……まあ、聞く気はないか」

     ◆

アーミアは動かないアストレアの中で、その光景を見ていた。

青白いGN-X。

たった一機で。

停止した八機の前を行き来している。

「先生……」

ネーナの声が入る。

『アーミア!』

「ネーナ?」

『こっちも全然動かない!』

アーミアが息を呑む。

自分たちは。

こうなる可能性を知っていた。

だから。

準備した。

だが。

トリニティには。

伝えていない。

「ネーナ。そのまま待っててください」

『待つしかないんだけど!』

「……そうでした」

こんな状況でも。

そこだけはネーナらしい。

アーミアはすぐに気持ちを切り替える。

「イアンさん!」

     ◆

プトレマイオス・格納庫

「今やってる!」

イアンが怒鳴る。

ヴェーダへ依存していた処理を切り離す。

ローカル側へ移す。

機体制御。

姿勢制御。

火器。

センサー。

すべてを以前と同じ性能では動かせない。

それでも。

戦える。

「エクシア、ローカルシステム起動!」

     ◆

刹那のモニターへ。

光。

システム再起動。

「……戻った」

『刹那! 動かせ!』

「了解」

エクシアが動く。

停止していた身体へ。

再び力が通る。

続いて。

デュナメス。

『よし!』

キュリオス。

『復帰した!』

ヴァーチェ。

ティエリアが画面を見る。

『ヴェーダなしで……』

イアンの声。

『そのために準備したんだ! 動くなら文句言うな!』

そして。

アストレア。

「……!」

アーミアのモニターへ光が戻る。

操縦桿。

反応。

「アストレア、再起動しました!」

レイナスの声が入った。

『助かった。さすがに俺一人で全部面倒を見るのは割に合わない』

アーミアが即座に返す。

「先生ならやれそうですけど」

『できるかどうかと、やりたいかどうかは別の話だよ』

「それは先生らしいですね」

『褒め言葉として受け取っておく』

だが。

三機。

スローネだけは。

動かない。

アイン。

ツヴァイ。

ドライ。

ヨハンが状況を確認する。

『こちらは復帰しない』

スメラギが答える。

『あなたたちの機体には独立システムが入っていない』

ミハエルが叫ぶ。

『じゃあどうすんだよ!』

スメラギは即座に決断する。

「こちらで守る。全機、スローネ三機をプトレマイオスまで後退させて!」

     ◆

エクシアがドライの前へ出る。

GN-X。

一機。

GNソード。

武器を断つ。

ネーナが通信を開く。

『刹那!』

「そこにいろ」

『だから動けないって!』

刹那が一瞬黙る。

「……分かっている」

「今のは刹那が悪いですね」

アーミアが通信へ入った。

『アーミアまで言うな』

アストレアがアインへ接近する。

「ヨハンさん、機体を固定します」

『頼む』

一方。

ツヴァイへ近づいたレイナスが、GN-Xの腕を伸ばした。

ミハエルが通信を開く。

『おい、これどうすんだよ』

「見れば分かるだろ。運ぶ」

『このままかよ!?』

「他に動く方法があるなら、そっちを採用してもいいぞ」

『ねえよ!』

「なら話が早い」

GN-Xがツヴァイを固定する。

ミハエルが不満そうに唸る。

『もっとマシな運び方ないのかよ』

少し間。

『注文が多いな。無料サービスにそこまで期待されても困る』

『誰が頼んだんだよ!』

『動けるようになってから文句を聞くよ』

     ◆

同時刻――ヴェーダ最深部

その頃。

アレハンドロ・コーナーは。

ヴェーダのさらに奥へ進んでいた。

長い間。

誰にも知られることなく存在していた場所。

中央。

冷凍睡眠装置。

その中。

老人が眠っている。

イオリア・シュヘンベルグ。

二百年以上前。

ソレスタルビーイングを作り上げた人物。

アレハンドロは。

その姿を見つめる。

「イオリア・シュヘンベルグ」

リボンズは少し離れたところから見ていた。

アレハンドロが続ける。

「世界はもう、あなたの計画通りには動かない」

その手に。

武器。

「これからの世界を導くのは、あなたではない」

銃口。

眠るイオリアへ向ける。

発砲。

冷凍睡眠装置が破壊される。

静寂。

アレハンドロが武器を下ろした。

「これで――」

リボンズの表情が変わる。

ヴェーダ内部。

これまで認識されていなかった領域が。

突然。

起動した。

「……?」

アレハンドロが振り返る。

「どうした?」

リボンズは情報を追う。

自分が起動したものではない。

ヴェーダ掌握によるものでもない。

条件。

イオリア・シュヘンベルグの生命反応消失。

その時。

自動的に実行される。

プログラム。

「これは……」

情報が。

ヴェーダから離れていく。

行き先。

四基。

オリジナルGNドライヴ。

リボンズが初めて。

僅かに表情を変えた。

「仕掛けられていた……」

     ◆

宇宙空間

刹那が異変に気づく。

「……?」

エクシアのGNドライヴ。

これまでとは違う。

何かが。

内部で動いている。

ロックオンの声。

『おい、何だこれ』

アレルヤ。

『キュリオスにも来てる』

ティエリアが表示を確認する。

『GNドライヴ内部の未使用領域が解放されている……?』

アーミアが止まった。

知っている。

記録で。

何度も見た。

ソレスタルビーイングの歴史。

イオリア・シュヘンベルグが。

ガンダムへ残した力。

「……TRANS-AM」

レイナスが聞く。

『トランザム?』

「はい」

少し間。

『まだ隠し玉があったのか』

レイナスはエクシアを見る。

『二百年以上前の人間が、ずいぶん念入りに仕込んだもんだな』

アーミアが答える。

「計画が歪められた時のためのシステムです」

『なるほど。死んだ後まで仕事を残してたわけか』

レイナスは少し息を吐く。

『俺には真似したくない働き方だな』

刹那も。

自分のモニターを見る。

新しい表示。

《TRANS-AM》

同じ表示が。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

四機へ現れる。

アストレアには。

ない。

擬似太陽炉。

レイナスのGN-Xにもない。

そして。

停止したスローネ三機にも。

当然。

現れない。

ロックオンが聞く。

『何なんだ、このシステム』

アーミアが答える。

「オリジナルGNドライヴに蓄積された高濃度GN粒子を、一時的に大量解放するシステムです」

ティエリアが表示されるデータを確認する。

『一時的に機体性能を大幅に上昇させる……』

「はい。ただし、使い続けられるものではありません。大量に粒子を消費します」

レイナスが割り込む。

『要するに、ここぞって時に使う切り札か』

「そう考えてください」

『分かりやすくて助かる』

スメラギがすぐに判断する。

『使用タイミングはこちらで決める』

「お願いします」

刹那がモニターを見る。

《TRANS-AM》

今。

自分には。

もう一つの力がある。

《オーバーライズ》。

だが。

刹那は何も言わない。

まず。

目の前。

動けないスローネ。

迫るGN-X。

守るべきプトレマイオス。

スメラギが戦況を見る。

四機のガンダム。

新たに解放されたシステム。

敵は。

まだ来る。

「刹那、ロックオン、アレルヤ、ティエリア」

四人が応える。

『了解』

『聞いてる』

『いつでも』

『指示を』

スメラギが息を吸う。

「TRANS-AMの使用を許可する」

レイナスが四機を見る。

『さて。こっちは今まで通りだ』

少しだけ。

声に楽しそうな色が混じる。

『新しい玩具をもらった連中に置いていかれないよう、俺も働くか』

アーミアが呆れたように言う。

「先生、こういう時だけ楽しそうですね」

『強くなる機体を目の前にして、興味を持つなって方が無理があるだろ』

「自分は使えないのに?」

『だから見たいんだよ』

刹那の手が。

操作へ伸びる。

赤いGN粒子が飛び交う戦場で。

四基のオリジナルGNドライヴが。

新たな力へ。

目覚めようとしていた。

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