機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第32話 覚醒

 

西暦2308年――プトレマイオス周辺宙域

最初に異常を捉えたのはフェルトだった。

「高エネルギー反応、多数!」

ブリッジ中央のモニターへ光点が次々と現れる。

一つや二つではない。

複数方向から接近する反応は、明らかにプトレマイオスを包囲する軌道を取っていた。

スメラギがすぐに席を立つ。

「識別は?」

「GN粒子反応を確認。GN-Xです!」

前回の戦闘から、それほど時間は経っていない。

にもかかわらず。

国連軍は、再びまとまった戦力を投入してきた。

しかも今回は。

フェルトが別のデータを開く。

「通常の部隊編成じゃありません。各機の動きが速い……」

リヒティも接近するGN-X群を確認する。

「前回より明らかに統制されてますよ」

スメラギの表情が引き締まった。

数を揃えただけではない。

中身まで違う。

「全員に第一種戦闘配置。ガンダム全機、出撃準備!」

     ◆

格納庫。

警報が響く中、パイロットたちがそれぞれの機体へ向かう。

アーミアもアストレアへ向かおうとしたところで、腕を引かれた。

「アーミア」

ネーナだった。

先ほどまでとは表情が違う。

「どうしました?」

「……気をつけてね」

アーミアは少しだけ目を瞬いた。

それから、ネーナの頭へ軽く手を置く。

「ネーナもですよ」

「子供扱いしてる?」

「してません」

「今、頭撫でたじゃん」

「気のせいです」

「絶対違う」

そう言いながらも、ネーナは嫌そうではなかった。

アーミアが手を離す。

「ドライの独立システムはまだ調整したばかりです。異常を感じたら無理をしないでください」

「分かった」

「本当に?」

「分かったってば」

その横を通り過ぎようとしたレイナスが、二人を見る。

「出撃前までそれやってるのか」

アーミアが振り返る。

「先生」

「何も言ってないよ」

「顔が言ってます」

「便利だな、俺の顔」

それだけ言って、レイナスは自分のGN-Xへ向かう。

ネーナが小声で言った。

「レイナス、絶対何か思ってるよね」

「後で聞きます」

「私も聞く」

「あなたは戦闘に集中してください」

「アーミアもね」

その言葉には、アーミアも少しだけ笑った。

     ◆

次々と機体が宇宙へ飛び出す。

エクシア。

デュナメス。

キュリオス。

ヴァーチェ。

アストレア。

スローネアイン。

ツヴァイ。

ドライ。

そして。

レイナスのGN-X。

九機。

以前なら考えられなかった戦力が、プトレマイオスの前へ展開する。

それでも。

正面に広がる敵影の方が遥かに多い。

スメラギの通信が入った。

『敵の数は把握し切れていないわ。深入りしないで。まずプトレマイオスへの接近を阻止する』

「了解」

刹那が答える。

その時だった。

キュリオスの中で、アレルヤが突然息を呑んだ。

「……っ!」

頭の奥へ。

刺さるような感覚。

脳量子波。

もう何度も経験している。

だが。

今は意味が違う。

アレルヤはその正体を知っていた。

アーミアから。

未来の歴史を聞いた。

ソーマ・ピーリス。

そして。

その本当の名前を。

「マリー……」

通信回線へ漏れた声に、アーミアが反応する。

『アレルヤ?』

「いる」

アレルヤは前方を見る。

GN-X部隊。

その中の一機。

機体そのものは他と大きく変わらない。

それでも。

分かる。

「マリーがいる」

アーミアはすぐに理解した。

『ピーリスさんですね』

「うん」

アレルヤの声には、迷いがあった。

未来で再会する。

それを既に知っている。

だが。

今のソーマ・ピーリスは。

まだ敵だ。

     ◆

国連軍GN-X部隊。

セルゲイ・スミルノフは、前方に展開するガンダム群を見ていた。

「予想以上に数が増えているな」

『中佐』

ピーリスの声。

『あのオレンジの機体……』

キュリオス。

以前から。

近づくだけで頭へ響く。

不快な脳量子波。

だが今日は。

向こうから。

これまで以上に明確なものが伝わってくる。

自分へ。

向けられている。

「……マリー」

聞こえた。

ピーリスの表情が変わる。

「っ……!」

『少尉?』

「問題ありません!」

だが。

胸の奥。

理由の分からないざわつきが消えない。

なぜ。

あの男は。

その名前を知っている。

     ◆

別方向。

一機のGN-Xが先頭へ出る。

『ようやく機会が巡ってきたか!』

グラハム・エーカー。

その視線の先。

ガンダムではない。

GN-X。

レイナスが乗る鹵獲機だった。

「その声……」

レイナスが通信を拾う。

『覚えているだろう、レイナス・レノアーク!』

「グラハムか」

『その通りだ!』

「相変わらず元気そうだな」

『君に言われる筋合いはない!』

グラハムのGN-Xが急加速する。

ビームサーベル。

レイナスも同じく抜く。

刃が衝突した。

「ずいぶん真っ直ぐ来るな」

『君を前にして遠慮する理由があるものか!』

「そういうところは変わらないな」

レイナスは機体を捻り、受け流す。

グラハムもすぐに反転。

二機のGN-Xが高速ですれ違った。

『だが一つ気に入らん!』

「何が?」

『なぜ君がGN-Xに乗っている!』

レイナスは少し間を置いた。

「拾った」

『戦場で拾うものではない!』

「動いたから使ってるだけだよ」

『そういう問題ではない!』

「今それを話し合う余裕あるか?」

次の瞬間。

再び二機が激突した。

     ◆

さらに別の方向から。

『見つけたぞ!』

聞き覚えのある声。

レイナスが一瞬だけ通信表示を見る。

『このイナクト泥棒!』

「……まだ覚えてたのか」

パトリック・コーラサワー。

こちらもGN-X。

グラハムとの戦闘へ割り込もうとしてくる。

だが。

その前へ。

スローネツヴァイが滑り込んだ。

「横から入ってくんじゃねえ!」

ミハエルがビームサーベルを振る。

『何だお前は!?』

「そっちこそ誰だよ!」

『俺はパトリック・コーラサワー! AEUのエースだ!』

「知らねえよ!」

二機が激突する。

レイナスはその様子を横目で見る。

「……助かったけど、あっちはあっちで騒がしいな」

グラハムが迫る。

『余所見とは余裕だな!』

「してるように見えたか?」

レイナスがすぐに応じる。

     ◆

デュナメス。

ロックオンが敵部隊の後方へ狙いを定める。

だが。

その射線へ。

一機のGN-Xが割り込む。

「ちっ!」

狙撃。

避けられる。

続けて二射。

二発とも回避。

「こいつ……」

ただの兵士ではない。

敵機は無駄のない動きで接近してくる。

セルゲイだった。

『長距離射撃型か。ならば距離を潰す』

「簡単に言ってくれる!」

ロックオンはライフルを切り替え、応戦する。

セルゲイは被弾を避けながら部隊へ指示を送り、デュナメス単機へ複数機を集中させない。

こちらの戦力を分断する。

派手さはない。

だが。

確実に戦線を崩そうとしている。

「こっちもベテランかよ……!」

     ◆

アレルヤはピーリスのGN-Xと交戦していた。

本気で撃てない。

だからといって。

撃たなければこちらが落とされる。

『なぜその名を知っている!』

ピーリスから直接通信が入る。

アレルヤの手が止まりかける。

「君は――」

『答えろ!』

ビーム。

キュリオスが回避する。

アレルヤは迷った。

何を話すべきか。

アーミアから聞いた未来を。

この場で。

どこまで伝えていいのか。

「君の名前は……ソーマ・ピーリスじゃない」

『黙れ!』

「マリー・パーファシーだ!」

一瞬。

敵機の動きが止まった。

「……っ!」

ピーリスの頭へ。

強烈な痛み。

断片。

名前。

声。

知らないはずなのに。

何かが。

深い場所で反応している。

『少尉!』

セルゲイの声。

ピーリスは我に返る。

「私は……ソーマ・ピーリスです!」

GN-Xが再び加速した。

アレルヤは歯を食いしばる。

「マリー……!」

今はまだ。

連れて行くことはできない。

未来で起きた再会を。

無理に前倒しすればいいわけでもない。

それでも。

彼女がいる。

生きている。

その事実だけは。

もう疑わなくていい。

     ◆

そして。

刹那の前へ。

一機のGN-Xが現れた。

動きが違う。

無駄がない。

いや。

無駄を無駄のまま武器にしてくる。

射撃。

回避。

突撃。

フェイント。

相手が何を嫌がるかを理解した上で、最も嫌な位置へ入り込んでくる。

刹那はGNソードで攻撃を受け止める。

その瞬間。

通信回線へ笑い声が流れた。

『久しぶりだなあ、クルジスのガキ』

刹那の目が見開かれる。

「アリー・アル・サーシェス……!」

『覚えててくれたか。嬉しいねえ!』

GN-Xが蹴りを入れる。

エクシアが弾かれる。

刹那はすぐに姿勢を戻し、GNソードを振るう。

サーシェスは紙一重で避けた。

『いい顔になったじゃねえか!』

「黙れ!」

エクシアが踏み込む。

サーシェスも前へ出る。

刃。

刃。

銃撃。

至近距離。

通常のGN-Xとは思えない。

機体性能ではない。

操っている人間が異常だった。

『ガンダムに乗って世界を変えるか? 立派になったもんだ!』

刹那の表情が険しくなる。

「お前は……!」

『俺が何だ?』

刹那は答えない。

《アニマ》。

全身から。

エクシアへ。

操縦桿。

シート。

フレーム。

四肢。

機体全体へ。

流す。

自分と。

エクシアを。

分けない。

「……行くぞ、エクシア」

青白い光が機体を包んだ。

《オーバーライズ》。

エクシアが一気に加速する。

『っ!?』

サーシェスが初めて反応を遅らせた。

GNソード。

GN-Xの装甲を掠める。

『こいつは……!』

刹那は止まらない。

エクシアの腕。

脚。

推進器。

全てが。

自分の身体と同じように繋がっている。

だが。

サーシェスも。

それだけでは崩れなかった。

無理やり機体を捻り。

射撃。

刹那が避ける。

その先へ。

別のGN-X。

さらに。

もう一機。

サーシェス一人ではない。

GN-X部隊そのものが、刹那を押さえ込むように動いている。

『一人で強くなった気になってんじゃねえぞ!』

三方向から攻撃。

エクシアが回避する。

さらに四機目。

刹那の進路が潰される。

アーミアが遠方から状況を見る。

「刹那……!」

援護へ向かおうとした。

だが。

目の前へGN-Xが入る。

こちらも。

簡単には抜かせてくれない。

刹那は。

一人で突破しなければならない。

     ◆

エクシアのコックピット。

警告表示。

複数。

刹那は呼吸を整える。

《オーバーライズ》は維持できている。

以前より。

遥かに。

安定している。

だが。

足りない。

相手は一機ではない。

サーシェス。

そして。

精鋭を含むGN-X部隊。

その時。

視界の端。

《TRANS-AM》

表示。

刹那の目が止まる。

これまで。

使った。

TRANS-AM。

単独で。

《オーバーライズ》も使った。

だが。

同時には。

使っていない。

アーミアも。

それを勧めてはいなかった。

何が起きるか。

分からないから。

刹那は。

一瞬だけ考える。

そして。

決める。

『刹那!』

スメラギの声。

だが。

刹那は既に操作していた。

「TRANS-AM」

エクシアが赤く染まる。

同時に。

青白い《アニマ》が。

機体全体へ流れたまま。

消えない。

赤いGN粒子。

青白い《アニマ》。

二つが。

同時に。

エクシアを包む。

アーミアが息を呑んだ。

「……まさか」

レイナスも戦闘中に反応する。

『刹那、重ねたのか?』

次の瞬間。

エクシアが消えた。

少なくとも。

サーシェスにはそう見えた。

『なっ――』

GN-Xの腕が飛ぶ。

一機。

続いて。

二機目。

武器だけが断たれる。

三機目は推進器。

エクシアは。

一度も止まらない。

TRANS-AMによって増大した機体性能。

それを。

《オーバーライズ》によって。

刹那自身の身体として扱う。

速い。

ではない。

機体の反応を。

考えて追う必要すらない。

動こうとする。

その時には。

エクシアも動いている。

刹那とエクシアの境界が。

薄れていく。

そして。

大量のGN粒子が。

コックピットを包む。

「……!」

頭の奥で。

何かが。

弾けた。

音ではない。

光でもない。

それでも。

今まで閉じていた何かが。

開く。

     ◆

アレルヤが突然、顔を上げた。

「何だ……これ……」

これまで感じた刹那の脳量子波とは。

違う。

弱い揺らぎではない。

明確な。

意思。

ピーリスも。

同時に。

動きを止めかける。

「この脳量子波……!?」

セルゲイが反応する。

『少尉?』

「違う……さっきの男じゃない……別の……!」

アーミアは。

知っていた。

この感覚を。

自分自身も。

かつて。

そこへ至った。

「刹那……」

エクシアのコックピット。

刹那が目を開く。

その瞳は。

完全な金色へ変わっていた。

一瞬だけ色が変わるような。

これまでの兆候ではない。

明確に。

覚醒している。

アーミアの脳量子波へ。

刹那の存在が。

はっきりと触れた。

「……覚醒した」

レイナスの通信が入る。

『イノベイターか?』

「はい」

アーミアは。

迷わず答えた。

「真のイノベイターです」

     ◆

刹那の感覚が変わる。

敵。

味方。

GN粒子。

脳量子波。

全てが。

今までとは違う形で認識されていた。

聞こえる。

いや。

感じる。

アレルヤ。

ピーリス。

アーミア。

そして。

遠く。

何か。

自分を。

見ている。

存在。

刹那は。

そこまで感じた。

だが。

今は。

目の前。

アリー・アル・サーシェス。

腕を失ったGN-Xが。

なおも攻撃を仕掛けてくる。

『面白え! 何だそりゃあ!』

サーシェスが笑う。

刹那は。

静かだった。

怒りが消えたわけではない。

過去を忘れたわけでもない。

ただ。

それに飲まれない。

「俺は……」

エクシアが動く。

一瞬。

サーシェスの背後。

GNソードが。

GN-Xの残った武装を切断した。

『何!?』

続けて。

脚部。

推進器。

機体の戦闘能力だけを奪う。

サーシェスのGN-Xが回転しながら流される。

刹那は追撃しない。

敵部隊の中心へ。

向き直る。

     ◆

月――ヴェーダ周辺施設

リボンズ・アルマークが。

突然。

立ち上がった。

椅子が後ろへ動く。

アレハンドロが振り返る。

「どうした?」

リボンズは答えない。

先ほどまで浮かべていた。

余裕のある笑みが。

消えていた。

感じた。

遠い。

宇宙の向こうから。

強烈な。

脳量子波。

「……あり得ない」

小さく。

声が漏れる。

アレハンドロが眉を寄せた。

「何がだ?」

リボンズは。

画面へ手を伸ばす。

刹那・F・セイエイ。

その情報を。

呼び出す。

「彼だ」

「刹那・F・セイエイ?」

「覚醒した」

アレハンドロには。

意味が分からない。

「何に?」

リボンズが。

ゆっくりと。

画面を見る。

「イノベイターに」

「何?」

「僕たちではない」

リボンズの声から。

いつもの余裕が消えていた。

「人間から生まれた、純粋なイノベイター」

想定外。

それも。

あまりにも早い。

本来。

まだ。

この段階で。

到達するはずがない。

だが。

実際に。

感じた。

間違えるはずがない。

そして。

思い当たるものがある。

以前から続いていた。

刹那の変化。

そして。

その周囲に現れた。

説明できない存在。

「アーミア・リー……」

リボンズが。

その名前を。

初めて。

警戒を込めて口にした。

アレハンドロが見る。

「例の女か?」

「彼女が何者なのかは、まだ分からない」

リボンズは。

刹那の情報から。

アーミアのデータへ。

画面を切り替えた。

「でも」

その瞳が細くなる。

「放置していい存在ではないようだ」

これまで。

興味だった。

未知の存在。

面白い変化。

その程度。

だが。

今は違う。

刹那・F・セイエイが。

真のイノベイターへ覚醒した。

しかも。

明らかに。

早すぎる。

リボンズは初めて。

ソレスタルビーイングの変化そのものを。

脅威として認識した。

     ◆

戦場。

金色の瞳で。

刹那は前を見る。

赤く染まったエクシア。

その機体全体を巡る。

青白い《アニマ》。

《TRANS-AM》。

《オーバーライズ》。

そして。

真のイノベイター。

どれも。

アーミアが知る歴史では。

この時代に。

同時に存在するはずのなかったもの。

アーミアは。

その姿を見つめる。

未来は。

もう。

変わったという段階ではない。

新しい歴史が。

今。

目の前で始まっていた。

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