機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第36話 招待状

 

西暦2308年――プトレマイオス・訓練区画

三人のガンダムマイスターが《オーバーライズ》習得へ向けた訓練を始め、ネーナが初めて自力で《アニマ》を発現してから二日が経った。

刹那も訓練を続けていた。

ただし、今の彼が重点を置いているのは《アニマ》ではない。真のイノベイターとして覚醒したことで得た脳量子波を、自分の意思で広げ、そして必要な時には閉じるための訓練だった。

以前のように不用意に遠くの意識へ触れないよう、アーミアからも範囲を限定するよう言われている。

その日も刹那は訓練区画の中央で目を閉じ、自分の周囲だけへ意識を広げていた。

アーミア。

ティエリア。

少し離れた場所にいるアレルヤ。

さらに向こうではネーナも《アニマ》を再現しようとしている。

そこまで確認して、刹那は意識を戻そうとした。

その時だった。

『刹那・F・セイエイ』

目を開く。

金色の瞳。

アーミアがすぐに気づいた。

「刹那?」

刹那は答えず、意識の向こうへ集中した。

以前、自分から触れた相手。

今回は違う。

向こうから来ている。

「……リボンズ」

その名前を聞いた瞬間、ティエリアの表情が変わった。ネーナも訓練を止め、アレルヤがこちらへ歩いてくる。

アーミアは刹那の正面へ立った。

「向こうからですか?」

「ああ」

意識の向こうから、リボンズの声が届く。

『少し話をしないか』

刹那はすぐに返した。

「今話している」

僅かな間があった。

『相変わらずだね。そういう意味ではないよ』

刹那の眉が僅かに動く。

以前の接触以来、リボンズの感情は前より分かりやすくなっていた。

表面上は落ち着いている。

だが、その奥に何かを抑えている。

「何の用だ」

『君に会いたい』

「俺に?」

『真のイノベイターになった君と、直接話がしたい。それだけだ』

刹那は黙った。

当然、それだけで済むとは思っていない。

リボンズから新たな情報が送られてくる。

座標。

地球圏から離れた宇宙空間。

現在は航路からも外れ、長い間使われていない施設だった。

『ここで待っている』

「何がある」

『昔使われていた資源採掘基地だよ。採掘対象を掘り尽くした後は放棄され、今では管理要員もいない』

座標と共に簡単な施設データが届く。

巨大な岩塊へ直接建造された採掘施設。

外部には輸送船の接続設備が残り、内部には資源搬出用の広い空洞と複数の作業区画が存在している。

操業停止から長い時間が経ち、現在は軍事施設としても民間施設としても利用されていない。

人のいない場所。

戦うことになっても。

周囲を巻き込まない場所。

刹那はそこまで見てから尋ねた。

「一人で来いということか」

『できればね』

「断る」

今度は明確に沈黙した。

アーミアが刹那を見る。

何を話しているのか全ては分からないが、刹那の返答だけで大体の流れは察したらしい。

『即答するとは思わなかったな』

「仲間に隠して行く理由がない」

『以前より随分と変わったね』

「そうか」

『褒めているつもりなんだけど』

「そうは感じない」

リボンズの脳量子波が僅かに揺れた。

刹那はそれ以上踏み込まなかった。

前回アーミアに注意されたことは覚えている。

感じた感情を片端から本人へ言えばいいわけではない。

だが。

一つだけ。

確認しておく。

「リボンズ」

『何だい?』

「お前はそこにいるんだな」

『いる』

「分かった」

『来るのか?』

刹那は短く答えた。

「行く」

リボンズから返事が来るまでに、一瞬だけ間が空いた。

『待っているよ、刹那・F・セイエイ』

脳量子波の接続が切れた。

刹那の瞳が元の色へ戻る。

アーミアがすぐに尋ねた。

「何を言われました?」

「呼び出された」

「どこへ?」

刹那は受け取った座標を端末へ転送した。

「使われていない宇宙の資源採掘基地だ」

     ◆

数十分後――プトレマイオス・ブリーフィングルーム

中央のモニターに、リボンズから送られてきた施設データが表示されていた。

スメラギは座標、周辺宙域、施設構造を一通り確認してから腕を組んだ。

「分かりやすいくらい怪しいわね」

「同感だ」

ロックオンが椅子へ深く座りながら答える。

「敵の中心人物が、人気のない廃棄施設へ一人で来い。これで罠じゃありませんって方が無理がある」

「一人で来いとは言われたが、断った」

刹那が言う。

ロックオンが横を見る。

「そこは偉い」

「褒めるところなのか?」

「前のお前なら黙ってエクシアで出ていってても不思議じゃなかったからな」

刹那は否定しなかった。

ティエリアは施設データを拡大する。

「リボンズが自分から所在を明かしたことの方が重要だ。これまでこちらは奴の位置を掴めていなかった」

「誘い出すつもりで、自分も餌にしたってことね」

スメラギの視線が細くなる。

アーミアも画面を見ていた。

自分が知る歴史では、このような形でリボンズが刹那を呼び出した記録はない。

だから、今回も未来の知識は役に立たない。

「少なくとも、私が知っている出来事ではありません」

「でしょうね」

スメラギはすぐに受け入れた。

今となっては、その方が自然なくらいだった。

「先生はどう思います?」

アーミアが尋ねる。

少し離れた席で施設図を眺めていたレイナスが視線を上げる。

「罠だろうな。ただ、罠だから行かないって決めるには、向こうが出してきた餌が大きすぎる」

ロックオンが頷く。

「リボンズ本人か」

「ああ。こっちはずっと居場所を探してた。それが向こうから座標付きで名乗り出てきたんだ。胡散臭さは満点だが、無視するには惜しい」

スメラギがレイナスを見る。

「行くべきだと思う?」

「俺なら行く。ただし、刹那一人を送り込む形にはしない」

レイナスはモニターに表示された採掘基地を指した。

「向こうが一対一をやりたいなら、刹那が中へ入るのは構わない。ただ、その条件にこっち全員まで付き合う必要はないだろ。外は外で固める。別働隊がいる前提で索敵する。撤退経路も先に決める。そのくらいやってからだな」

スメラギが口元を僅かに上げる。

「私も同じ意見よ」

「なら話は早い」

「ただし、あなたが勝手に敵機を拾って帰るのは禁止」

レイナスが一拍置く。

「まだ何もしてないだろ」

「先に言っておかないとやるでしょう?」

「否定しきれないのが困るな」

ロックオンが笑う。

「自覚はあるんじゃねえか」

「使える機体をそのまま捨てる方がもったいないだろ。そこは戦闘が終わってから考える」

「考えるな」

スメラギが即座に切った。

     ◆

話はすぐに具体的な作戦へ移った。

まず、リボンズから送られた情報そのものを信用しない。

プトレマイオスは基地へ直接接近せず、一定距離を保った地点で待機する。

エクシアはリボンズとの接触役。

デュナメス、キュリオス、ヴァーチェ、アストレア、三機のスローネ、そしてレイナスのGN-Xは周辺宙域へ展開し、伏兵や増援に備える。

「基地内部へ全員で押し込む必要はないわ」

スメラギが作戦図を表示する。

「リボンズが本当に刹那との一対一を望んでいるなら、こちらから崩す理由もない。でも、別戦力を出してきた時点で話は別。そこからは通常の戦闘として対処する」

ミハエルが腕を組む。

「だったら最初から全員で潰せば早くねえか?」

ヨハンが横を見る。

「相手の戦力配置が不明だ。こちらから狭い施設内へ全機を入れる方が危険だろう」

「分かってるって。言ってみただけだ」

ネーナは作戦図より、アーミアの方を見ていた。

「アーミアも行くんだよね?」

「行きます」

「じゃあ私も近くにいる」

「勝手に配置を変えないでください」

「まだ変えてないじゃん」

「今から変えようとしてたでしょう」

ネーナが黙る。

アーミアは小さく息を吐いた。

「決められた位置にいてください。何かあれば私から連絡します」

「……分かった」

以前なら、もう少し食い下がっていただろう。

だが今は。

不満はあっても、最後には聞く。

ヨハンがその様子を見ていたが、何も言わなかった。

     ◆

会議終了後。

刹那は一人で格納庫へ向かった。

エクシアは既に整備へ入っている。

《オーバーライズ》。

TRANS-AM。

そして真のイノベイターへの覚醒。

短い期間で。

多くのものが変わった。

「刹那」

後ろから声をかけたのはレイナスだった。

刹那が振り返る。

「何だ」

「リボンズと話した時、何か感じたか?」

刹那は少し考えた。

「前より静かだった」

「静か?」

「感情を隠していた」

レイナスはエクシアの横へ立つ。

「前回お前に随分いいところを突かれたからな。今度は読まれないようにしてるってところか」

「俺は煽ったつもりはない」

「分かってる。それが一番効いたんだろ」

刹那はまだ納得していない顔をしている。

レイナスはそこを無理に説明しなかった。

代わりに、整備中のエクシアを見る。

「呼び出した理由は、話がしたいからだけじゃないだろうな」

「ああ」

「戦うつもりか?」

「その可能性はある」

「お前は?」

刹那は迷わなかった。

「必要なら戦う」

「そうか」

レイナスは少しだけ間を置いた。

「なら、勝って帰ってこい。相手が何を考えてるにせよ、呼ばれた側が付き合ってやる義理はそこまでだ」

刹那が見る。

「それだけか」

「他に何を言えっていうんだ。戦う前から難しい話を増やしても、手数が減るだけだろ」

「分かった」

「それと」

レイナスは整備中のエクシアへ目を向けた。

「《オーバーライズ》とTRANS-AMを重ねるなら、前回みたいに行き当たりばったりでやるな。今度は自分が何を使ってるか分かってる。だったら、その分だけ雑に扱う理由もない」

刹那が頷く。

「分かっている」

「ならいい」

レイナスはそれ以上何も言わず、格納庫の奥へ歩いていった。

     ◆

同時刻――廃棄資源採掘基地

長い間、人の手が入っていない施設は静まり返っていた。

かつて資源を削り出していた大型採掘機は停止し、搬出用のレールも途中で途切れている。照明の多くは失われ、最低限の非常電源だけが広大な内部空間を薄暗く照らしていた。

その中心部。

かつて採掘した資源を集積していた巨大な空洞に、一機のモビルスーツが立っている。

リボンズはコックピットの中で目を閉じていた。

刹那は来る。

それは分かっていた。

ただし。

一人では来ない。

そこも予想している。

「仲間、か」

以前。

刹那が迷いなく口にした言葉を思い出す。

仲間だから。

隠す理由がない。

自分には。

理解できないわけではない。

理解できるからこそ。

気に入らない。

リボンズは目を開いた。

「君が本当に、人類を導く存在なのか」

それとも。

ただ偶然、変革に到達しただけの人間なのか。

直接。

確かめる。

そして。

必要なら。

自分の手で否定する。

採掘基地の外では。

誰も使っていない航路の向こうから。

まだ見えないプトレマイオスが。

少しずつ。

近づいていた。

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