機動戦士ガンダムOOA   作:ミスト12523

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第37話 対峙

 

西暦2308年――廃棄資源採掘基地周辺宙域

プトレマイオスは、リボンズから指定された座標の手前で速度を落とした。

前方に浮かぶのは、巨大な岩塊と一体化した旧資源採掘基地。かつては採掘船や輸送船が頻繁に出入りしていたらしいが、今では誘導灯すらほとんど残っていない。

フェルトが周辺を走査する。

「基地内部にGN粒子反応を一つ確認。周辺宙域には……今のところ大きな反応はありません」

スメラギはモニターから目を離さない。

「今のところ、ね」

隠れている可能性を誰も否定しなかった。

リボンズがわざわざ自分の居場所を明かし、刹那をここまで呼び出した。何も用意していないと考える方が不自然だった。

格納庫では、すでに各機の出撃準備が終わっている。

エクシア、デュナメス、キュリオス、ヴァーチェ、アストレア。三機のスローネと、レイナスのGN-X。

刹那はエクシアのコックピットから採掘基地を見つめていた。

「いる」

アーミアから通信が入る。

『リボンズですか?』

「ああ」

覚醒してから何度か触れた脳量子波。

今は隠すつもりもないらしい。

スメラギから全機へ指示が飛ぶ。

『予定通り。刹那は指定された搬入口から基地内部へ。残りは外周へ展開して、別働隊と伏兵を警戒する。何も見つからなくても配置は崩さないで』

各機が順番にカタパルトから射出されていく。

エクシアだけが採掘基地正面へ向かい、残る八機は距離を取りながら周囲へ散った。

ネーナのドライはアストレアの近くへ配置されている。

『アーミア』

「何です?」

『ちゃんと近くにいる?』

「レーダーを見れば分かるでしょう」

『直接聞いた方が早いじゃん』

「配置は変えないでくださいね」

『分かってるって』

ミハエルが割り込む。

『お前、完全に保護者確認じゃねえか』

『うるさい』

『図星かよ』

ヨハンが静かに止める。

『二人とも、任務中だ』

『はいはい』

『分かったよ、兄貴』

アーミアが息を吐くと、レイナスから通信が入った。

『まあ、今はそれくらいでいいだろ。静かになった時の方が面倒だ』

「先生まで甘くないですか?」

『戦闘前に余計な緊張を増やしても得はない。説教なら帰ってからまとめてやればいい』

「私がやる前提なんですね」

『違うのか?』

アーミアは返事をしなかった。

     ◆

エクシアは単独で採掘基地内部へ入った。

大型輸送艇用の搬入口は広く、モビルスーツでも十分に通れる。内部は非常灯だけが生きており、採掘設備や資源搬送用のレールが暗闇の中に残されていた。

刹那は速度を抑えながら進む。

『そのまま来ればいい』

リボンズの意識が届く。

「見えているのか」

『君の存在なら、今はカメラより分かりやすい』

刹那は返さず、奥へ進んだ。

やがて狭い通路が終わり、巨大な採掘空洞へ出る。

中央に、一機のガンダムが立っていた。

赤と白を基調とした機体。

Oガンダムの面影を残しながら、その各部は大きく発展している。特に目を引くのは背部で、片側へ偏るように大型のフィンファング六基が装備されていた。

非対称。

だが、不安定には見えない。

むしろ六基の兵装を含めて一つの機体として完成されている。

刹那が機体を止める。

「リボンズ・アルマーク」

通信が開いた。

『ようこそ、刹那・F・セイエイ』

「その機体は」

『リ・ニューガンダム。Oガンダムを発展させた、僕のためのガンダムだ』

リ・ニューガンダムがゆっくりと前へ出る。

背中の六基のフィンファングはまだ動かない。

『君と直接話すなら、僕もガンダムで来るべきだと思ってね』

「話すだけなら機体はいらない」

『そういうところは変わらないな』

「何を確かめたい」

リボンズの笑みが少し薄くなる。

『君自身だよ。真のイノベイターとして覚醒した君が、何を選ぶのか。その力を持ってなお、ただのガンダムマイスターでいるつもりなのか』

「俺は俺だ」

『それだけかい?』

「それで十分だ」

リボンズの脳量子波が僅かに揺れる。

刹那にはそれが分かったが、前のように一つ一つ口にはしなかった。

リボンズも気づく。

『今度は何も言わないんだね』

「言わない方がいいと教わった」

『アーミア・リーに?』

「ああ」

数秒の沈黙。

『随分と素直なんだね、君は』

「必要なことなら聞く」

『そうか』

その返答には、僅かに苛立ちが混じっていた。

刹那はそれも感じた。

だが、今はまだ言わなかった。

     ◆

基地外周。

最初に異変を捉えたのはフェルトだった。

「複数のGN粒子反応!」

モニター上に新たな光点が次々と現れる。

スメラギの表情が変わる。

「数は?」

「まだ増えています!」

岩塊の陰。

停止した資源輸送設備の裏。

さらに少し離れた宙域からも。

それまで姿を隠していたGN-Xが次々と姿を現した。

十機、二十機。

それで止まらない。

正確な総数を確認する前に、複数方向からプトレマイオスを囲むように展開していく。

ロックオンが呟く。

『やっぱり一機で待ってるわけねえか』

レイナスも周囲を見渡す。

『これだけ隠してたなら、呼び出しというより歓迎会だな。ずいぶん物騒な招待だ』

スメラギが即座に指示を出す。

『全機、包囲を崩す。プトレマイオスへ近づけさせないで!』

GN-X部隊が一斉に加速した。

デュナメスが射撃を開始する。

キュリオスが側面から回り込み、ヴァーチェは母艦前方へ出て砲撃態勢を取る。

アストレアとレイナスのGN-Xも別方向へ動いた。

アーミアが正面から来る二機を捉える。

「数が多いですね」

『今さらそこに驚く段階でもないだろ』

レイナスのGN-Xが一機の射線へ割り込み、ビームを躱しながら距離を詰める。

『前にも増えてた。今回も増えた。それだけだ』

「簡単に言いますね」

『数えて減るなら俺も手伝うんだけどな』

ビームサーベルがGN-Xのライフルを切断する。

レイナスはそのまま機体を蹴り飛ばし、次の一機へ向きを変えた。

『まともに全部落とす必要はない。母艦から剥がせば十分だ』

「了解」

アストレアも青白い《アニマ》を纏い、接近してきたGN-Xへ向かった。

     ◆

その直後。

フェルトがさらに大きな反応を捉える。

「高エネルギー反応! 基地反対側から接近!」

GN-Xとは比較にならない。

岩塊の影から、巨大な金色の機体が姿を現す。

アルヴァトーレ。

誰も名前を尋ねなかった。

すでに知っている。

アーミアがその姿を見て短く言う。

「来ましたね」

ロックオンもライフルを構え直す。

『本命のお出ましか』

アルヴァトーレの砲口へ大量のGN粒子が集まり始める。

スメラギが叫ぶ。

『回避!』

極太のビームが放たれた。

各機が一斉に散開する。

ビームはGN-X数機の間を抜け、採掘基地外壁を大きく抉った。

ミハエルがツヴァイを反転させる。

『味方ごと撃ってんじゃねえか!』

ヨハンがアインを前へ出す。

『ミハエル、ネーナ。あれを止める』

『了解!』

『うん!』

スメラギもすぐに決断した。

『トリニティ三機はアルヴァトーレを担当! 他はGN-Xを抑えて。トリニティへ敵機を寄せないで!』

アイン、ツヴァイ、ドライが同時に加速する。

アルヴァトーレからアレハンドロの通信が入った。

『チーム・トリニティか』

ヨハンが応じる。

『アレハンドロ・コーナー』

『君たちには失望したよ。与えられた役割すら果たせず、今ではソレスタルビーイングと行動を共にしている』

ミハエルが鼻で笑う。

『悪かったな。勝手に役割決められて死ぬ趣味はねえんだ』

ネーナも続ける。

『私たち、もうあんたの言うこと聞かないから』

アレハンドロの声が低くなる。

『ならば処分するまでだ』

アルヴァトーレの砲門が再び光る。

ヨハンが即座に指示した。

『散開! ネーナは後方、ミハエルは右から回り込め!』

『了解!』

三機が別方向へ散る。

アルヴァトーレの巨大なビームがその間を通過した。

今度はアインが遠距離から撃ち返す。

ツヴァイは接近。

ドライは二機の間を繋ぐように位置を変えながら、迫るGN-Xへ射撃を浴びせる。

トリニティだけを相手にしているわけではない。

周囲には大量のGN-Xもいる。

その何機かがアルヴァトーレを援護するため、三機へ向かおうとする。

そこへアストレアが割り込んだ。

「そっちは行かせません」

二機のGN-Xを牽制し、進路を塞ぐ。

ネーナが通信を飛ばす。

『アーミア!』

「こっちはいいです。前を見てください!」

『分かった!』

ネーナはすぐにアルヴァトーレへ向き直った。

レイナスのGN-Xも別方向から援護へ回ろうとするGN-Xを止める。

『アレハンドロは三人に任せる。こっちは雑魚を通さなければいい』

ロックオンが返す。

『簡単に言うけど、この数だぞ』

『だから全部相手にするなって話だ。守る場所が決まってるなら、敵より先にそこへいればいい』

『了解。そういう話なら分かりやすい』

デュナメスの狙撃が、一機のGN-Xの武装を正確に撃ち抜いた。

     ◆

同時刻――採掘基地内部

外で大きな戦闘が始まったことは、エクシアのセンサーにも伝わっていた。

大量のGN粒子反応。

複数のGN-X。

さらに巨大な反応。

刹那は一度だけ外部表示を見る。

リボンズが尋ねる。

『気になるかい?』

「ああ」

『なら戻るかい?』

刹那はリ・ニューガンダムへ向き直った。

「戻らない」

『仲間が戦っているのに?』

「だからだ」

リボンズの眉が僅かに動く。

「俺には俺の役目がある。外は仲間がやる」

『信じている、と』

「ああ」

またその言葉だった。

リボンズは静かに息を吐く。

『君は真のイノベイターになっても、結局そこへ戻るんだね』

「何が悪い」

『力を持った者には、それに相応しい立場がある』

刹那はすぐに返す。

「お前はそれを決める側にいたいだけだ」

リボンズの脳量子波が僅かに鋭くなる。

刹那は一拍置いた。

「……また怒ったな」

『君は黙っていることを覚えたんじゃなかったのかい?』

「必要なら言う」

リボンズの笑みが消える。

刹那は続けた。

「やっぱり、お前は普通の人間と変わらない」

『またその話か』

「自分の考えを否定されれば怒る。自分より先に進む奴がいれば気になる。俺を呼んだのも、それを確かめたかったからだ」

リボンズの手が操縦桿を強く握る。

『君は何も分かっていない』

「そうかもしれない」

刹那は否定しなかった。

「でも、お前が平静じゃないことは分かる」

数秒。

沈黙。

その後。

リボンズが低く笑った。

『……もういい』

リ・ニューガンダムの背部ユニットが展開する。

片側に装備された六基の大型フィンファングが一斉に切り離され、機体の周囲へ広がった。

刹那もGNソードを構える。

《アニマ》が自分の身体からエクシアへ流れ込む。

操縦するのではない。

エクシアそのものを自分として捉える。

青白い光が機体全体を包んだ。

《オーバーライズ》。

リボンズがそれを見つめる。

『その力も含めて確かめよう。君が本当に、僕を超えた存在なのか』

「俺はお前を超えるために来たんじゃない」

『なら何のために?』

「お前を止める」

リボンズの瞳が細くなる。

六基のフィンファングが同時に動いた。

次の瞬間。

四方から放たれたビームがエクシアへ殺到する。

刹那は踏み込んだ。

リ・ニューガンダムとエクシア。

二機の戦いが始まった。

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